日課のようにティーパーティのテラスに足を運ぶと、いつもと違った光景が広がっていた。
一つのティーセットに、二つのティーカップ。
片方は既に飲み干され、もう片方はとうの昔に冷めきってしまっている。
他にケーキなどのお菓子が並べられていない事、残されたサンクトゥス派の書類と共に並べられた、一枚の計画書。
「……なるほどな」
二つ折りにされた計画書を開き、納得がいく。
これはあの時見た夢の続きで、彼女は来るかも分からない私の為に紅茶を入れてくれていたようだった。
「全く……君に無茶をされるよりも一報入れてくれる方が大切なんだが……それもまあ、言わねば伝わらないものか」
急ぎ、スマホでミカに仕事を片付けてくれた感謝と、一言でも連絡が欲しいと簡潔に伝える。
まどろっこしい性分だ。長々と言葉を伝えるのは対面で行った方がいいだろう。
少なくとも、ミカの反応を見ながら言葉は選ばないといけない。
私たちの言葉と言う名の銃弾は、文字通り人を殺す程の威力を持つのだから。
「……」
昨日のミネの言葉。
彼女は己に罪が有ると思いながら私に心の底に溜まった汚泥を見せてくれた。
そのおかげで、ナギサの死に関する因果について少しばかり分かることが出来た。
病んでいたのだ、心が。
私の偽りの死と、トリニティに潜む裏切者と、ティーパーティの重圧と、己が振るった権力の犠牲者と。
平静を装い続けた彼女の心が罅割れ、砕かれ、欠けていった事実に、誰も気づくことは無かった。
気づこうとも、しなかったのだ。
「……はあ」
駄目だ。ミネの分すら背負うと決めた手前で、こんな思考をしていては。
肝心のミネに関してだが、今の所SOSの連絡は来ていない。
救護騎士団の方からも連絡が無い当たり問題行動を起こしている様子も無いようだ。
ミネにとって私は寄り掛かる事が出来る存在であると、認められては居るのだろう。
そうであると、嬉しいのだが。
コツリコツリと、トリニティを進む。
以前と変わらぬ騒がしさがあり、だがそれを素直に受け入れられない心があり。
そう、思っていたのだが。
(……何だろうか、この空気は)
フィリウス派が固まる教室の空気に、違和感を覚えた。
別に他の派閥や部活動と同じように、息抜きの為に休日の計画を練って騒いでいるだけなのだが。
何処か、違和感があった。
少しだけ騒めく心を感じながらも、聞こえてくる内容に物騒なワードやそれらしい単語は混ざっていなかった。
(――馬鹿だな、私は)
疑心暗鬼に陥りかけて、ふと気づく。簡単な話だ。
単に私たちが隠している事実があると言うのに、その後ろめたさからこんな事を感じているに過ぎなかった。
僅かに重くなった足取りを、必死に奮い立たせサンクトゥスの執務室へと戻る。
フィリウス派の同輩たちから、白んだ目で見られるような感覚を背負いながら。
「しかし、どうするか」
今後の展望ではない。
考えるべきことなのだが、脳が思考を先送りにしたくて堪らないし、何よりも体調が不安定な状態で考えるとろくな結論を出さなさそうで怖かった。
「――し、失礼します!」
ミカが仕事をしてくれたおかげで生まれた時間を如何するべきか、そんな直近の事を悩む前に初々しい来客が扉をノックした。
聞き覚えの無い声、誰だろうか。
疑問が脳裏を掠めながら、入室の許可を出す。
「失礼します! ほ、放課後スイーツ部部長の、栗村アイリです!」
「放課後……? ああ、あの部活か。特にアポイントメントは無いようだが……何か急用かい?」
「え、えっと! この前の親睦会の時にナギサ様のお手伝いをしたのですが……その時に、一回だけ力になってくれると約束して貰ったんです!」
「それはまた……」
わたわたと話す彼女に一切の邪気は無く、よっぽど無理な注文は付けないだろうと思うし、確か一年生で構成されていた部活だ。
色々と礼儀の抜けた部分があるのは仕方がないし、目くじらを立てるつもりもない。
ただ、少しばかり複雑になったのだ。
自分が果たすことの出来ない約束をした、彼女に。
「え、えっと……やっぱり駄目でしょうか?」
「いや、少しばかりナギサの計画性の無さについて心底呆れていただけだ。君は気にしなくてもいいよ」
「は、はあ……」
「そんなことよりも本題に入ろうか。君がティーパーティに願うことは何だい?」
「――とある、新作スイーツの確保です」
真剣な眼差しで、ティーパーティにスイーツの調達を依頼する。
そんな何処か滑稽で、何とも心温まる権力の使い方に思わず頬が綻んだ。
「良いだろう、ティーパーティの威信にかけて、全力で確保しようじゃないか」
「あ、ありがとうございます!」
「それで何て言うスイーツなんだい? ……流石にミラクル5000ともなると数か月は待って欲しいのだが」
「えっと、表通りにあるケーキ屋さんで最近出た新商品なんです」
そう言われ、適当に調べるとすぐに検索に出てきた。
その名前がティーパーティで仕入れている店名にあるか探し、あっさりと見つけ出すことが出来た。
「ふむ……この濃厚ミルクチーズケーキティラミスと言う奴かい? 確か新しいスイーツを仕入れたと言っていたな」
「それじゃあ!」
「うん、此方で既に仕入れてあるかもしれない。少し待ちたまえ、すぐ受け取れるように一筆書こう」
ざっくりとした手形を書きながら、アイリにふと気になった疑問を聞いてみる。
「そういえば、どうしてここまでの事をしようと思ったんだい?」
「えっ?」
「確かにナギサから約束はされていたんだろう。だが、数週間もすれば手に入りそうな品物を態々こんな所にまで来て頼みに来たんだ。何かしらの理由があるんだろう?」
「えっとカズ……部員の一人が、初めて私たちに声をかけてくれた記念日なんです」
思い出に浸りながら語ってくれたアイリの姿は、とても眩しかった。
……直視するのが、少し辛いくらいには。
「当時は同好会だったんですけど、その子が来てくれたおかげで部活動として認められましたし」
「色々と問題もありましたけど……どれも楽しい思い出で」
「そんな感謝の気持ちを伝えたいんです」
「もう一人の部員の提案でサプライズにしようってなったんですけど……」
「……なるほど、仲睦まじいのは良きことだ。君たちのサプライズが、上手くいくことを願っておくよ」
「あ、ありがとうございます!」
粗雑に書かれた手形を恭しく受け取り、丁寧な所作で部屋を後にした。
そんな彼女を見送って、私は窓からトリニティを見下ろした。
何処までも平和で、何事も無い、そんな日常だけが広がっていた。
「はは……」
誰もがこれからも続くと信じている幸せばかりの今日を夢見ている。
それを一瞬で砕くことが出来る情報を握っていることがどれ程の苦痛か、恐怖か。
今改めて思い知らされる。
縋る様に、腰が抜けた様に椅子に座る。
ナギサもきっと、こんな気持ちだったのだろう。
平穏を引き裂いて、平穏を守って。
全体を守る為に心を裂いて、自身が目をかけていた同輩すら疑って。
――ああいや、エデン条約もあったんだっけか。
「何が絶望だと言うんだい……同じ立場に立たねばその気持ちにすら気づかない愚か者の癖して……」
そっと息吐き、重荷を減らす。
ナギサは立ち向かえた。
その事実が何よりも苦しかった。
だからこそ、ナギサは病んでしまった。
その事実が何処までも辛かった。
「折れて堪るものか……ナギサの残した物は幾らでも残っているのだから……」
鼓舞するように、吐き捨てるように、私は一人、呟いた。
未だ、ナギサの残した遺書は開けなかった。
ミネすらも罪悪感と言う名の毒虫に食われたそれを見てしまえば、私は次いつ立ち上がれるか分からなかったからだ。
……今もきっと、衣装箪笥の中で開かれるのを待って居るそれを。
私はそっと、無視をした。
♢ ♦ ♢ ♦ ♢
「……間に合わなかったか」
今日もまた、テラス席に座る者とは出会えなかった。
昨日と変わらず、空のティーカップと冷めた紅茶を並べているのは何の意趣返しなのだろうかと、考えてしまう自分が嫌になる。
遺書を見つけたあの日から、私は予知夢が見れなくなっていた。
正確には何処を見渡しても真っ暗闇に覆われた空間で目覚め、彷徨っている間に目が覚める。
それが理由かは不明だが、どれだけ早く起きようと努力しても夢から覚めることは無い。
折角ミカが早く起きて仕事を熟していると分かったと言うのに、会うことすら叶わない。
「ミカ……」
積み上げられた書類を撫でながら、失った痛みを知る友の名を呼ぶ。
あれからミカからの返信は来ないし、今日だって私を待って居てはくれなかった。
彼女の入れてくれた紅茶を捨てるのが忍びなく、ほんの僅かに口を付けた。
やっぱり、最後まで飲み干すことは出来なかった。
心に積もった心配と言う名の感情を晴らす為、私は校舎から抜け出した。
一般生徒に見えるように制服を着替え、ミカの行きそうな場所を探して自治区内を駆けまわる。
正常だった時のミネに見られれば、すぐさま取り押さえられそうだ、何てことを思っていたのが悪かったのだろうか。
少しばかり珍しい存在に絡まれてしまった。
「おいおいおい、こんな大通りを一人で歩くたぁ肝が据わってるじゃねえか」
「……いや大通りだからこそ一人でも問題無いと思っているのだが」
「喧しい! 恨むんならテメェの日頃の行いを恨みな」
「いやその理屈はおかしいだろう?」
厳ついバイクに跨る不良グループに、気が付けば包囲されていた。
他のトリニティ生が絡まれなくて良かったと安堵するべきか、このままではミカを探しに行けやしないと嘆くべきなのか。
ともかく自然と溜息は漏れた。それが気に食わなかったみたいだが。
何故か持っている誘導灯を此方に差し向けて、彼女は叫んだ。
「おいっ! どーして囲まれてるのに余裕綽々にしてるんだぁ! まさか私たち全員をぶっ倒せるとでも思ってるのかぁ!?」
「リーダーがお前を狙ったのはやけに手入されてる髪や制服の綺麗さ、動きの洗練さを見抜いてなんだぞ! 大人しく捕まって身代金を出してもらうからな!」
「そうだそうだ! リーダーはお前くらいのちんちくりんなら捕まえられるか? って心配になる程の臆病者だけどやる時はやるんだぞ!!」
「大通りで騒ぎとか、すぐに正実の奴らが来そうなのに一度思い込んだら猪突猛進のスタイルがリーダーの魅力なんだぞ!!」
「おいおいおいお前らぁ!? 敬ってんのか貶してんのかどっちなんだよ!! あと猪突猛進で悪かったなぁ!」
「……楽しそうだね、君たち」
「――閃光弾、投擲!!」
囲んでいる不良グループの外側から投げられた数個の異物。
反射的に両腕で目を隠し耳を伏せたが、それでも尚頭を揺らす程の音と光に怯んでしまった。
だが、私を囲んでいた不良たちはそんな咄嗟の対応すら出来ていなかった。
嫌に響く殴打する音が周囲から発せられる。
また一つ生々しい音が響くが、続く様に殴打音が発せられることなく音が止んだ。
恐る恐る視界を戻すと、不良のグループのリーダーの誘導灯に拳が止められた白銀の髪を靡かせた少女が居た。
「ぐうぅ……あ、相変わらず苛烈なこって……」
「そう言う貴方たちこそ、こういった騒ぎは起こさないで欲しいのですが」
「おいおいおい……自ら囲まれに来たにしてはやけに強気だなぁ? こうして足止めしてるだけで、後はお前が蜂の巣になって終わりだって気づかないのかぁ!?」
やけに自信満々に叫ぶリーダー。
周囲に視線を回すと殆どの不良は気絶しており、既に包囲はボロボロなのだが。
意識の有る不良は気絶した不良の乗ったバイクを自身のバイクに繋げて逃げようとしている。
悲しいことにリーダーは完全に囮として扱われており、如何に犠牲を出さないようにして逃げるか。そんな思考にシフトしているようだった。
完全に見捨てられているリーダーは、今も尚白銀の少女と格闘を続けているが、一向に支援射撃が来ないことに漸く気付いたみたいだった。
「はっ……はっ……っておいおいおいぃ!? どうしてお前ら逃げてんだぁ!? なんで私が殿勤めてんだぁ!? 普通こういうのって私を逃がす為に頑張る奴じゃねぇのかよぉ!!」
「仲間想いのリーダーが私たちを逃がす為に必死に戦ってるんだ! 私たちも急いで逃げないとな!」
「ここに居てもリーダーの足を引っ張るみたいだぜ……すまないリーダー!!」
「だぁかぁらぁ! 走る閃光弾に撃てって言ってんだよぉ! あっこら逃げんなぁ!!」
「――戦いの最中によそ見とは、余裕ですね」
結局、捕らえる事が出来たのはリーダーただ一人だった。
「へへっ……だが仲間は確かに逃し切ったぜぇ……つまりこれって私の勝ちって言っても文句ねぇよなぁ?」
「さっき言ってたこととまるで違うんだが」
「こちらもパトロールヘッドホンにそこまでの在庫がありませんでしたから、好都合ですね」
「いや正実に引き渡さないのかい?」
「まあまあまあ、何度か聞いてたおかげでちょっと気に入ってきたんだよなぁその曲。なんつったけ? バストン・バービーのベイベーだったっけかぁ?」
「凄いな、一つも正解が無いぞ」
「……それでは音割れする勢いで聞いていて貰いましょうか。もっと心に刻み込めれるように」
「君もどうして他の手法を取らないんだい? 絶対効果薄いと思うよ」
「てっ……テメェ! 音楽に対する敬意ってもんがねぇのか!?」
「君が言えた義理かい」
電灯に縛られ、ここからでも普通に聞こえるレベルの音漏れを起こしながら音楽を流し込まれているリーダー。
白目を剥きながら痙攣している彼女に少しばかりの憐憫さを感じながらも、白銀の少女に感謝を告げる。
「すまない、助かった。余裕綽々の雰囲気を出してはいたが、どう抜け出すか困っていたんだ」
「いえ、無事でしたら何よりです。それでは、私はこれで――」
「ああいや、待ちたまえよ。少しばかりお礼がしたいんだ。そこのカフェで一杯ご馳走させてくれないかい? 予定があるなら構わないんだが」
「……そうですね、お言葉に甘えさせていただきましょう」
幸いにも、私がティーパーティのホストだという事はバレていないようだった。
走る閃光弾――その名は正実で聞き覚えがある名前だった。
度々正実と衝突することもある、トリニティの自警団。
正実を動かす立場の人間を前に、彼女たちが牙を剥くとは思わないが、それでも気まずくはあるだろう。
ケーキを選ぶ際に聞いたのだが、彼女の名はスズミと言うらしい。
その際に名乗る機会が生まれたので、適当にマナと答えておいた。
彼女はこの店の新作であるミルクチーズケーキティラミスと紅茶を、私はアイリがお勧めしていたスイーツと飲み物を選んだのだが……。
「あの……普段からそれを?」
「……いや、昨日会った知り合いからのおすすめ何だが」
チョコミントアイスケーキとチョコミントミルクセーキ。
頼んだことを僅かばかりに後悔しそうな発色の良さを感じつつも、勇気を持って一口食べる。
「……どうでしょうか」
「やはり独特な風味があるな。私は嫌いではないが苦手な人も居るだろうね……食べてみるかい?」
「あ、いえ……先にこちらから食べようかと。最初にチョコミントの物を食べると少し舌の感覚が鈍くなるので」
「それもそうだ、折角のミルクチーズケーキ何だからね。一口目はそれがいいだろう」
「ええ、そうですね」
美味しそうにケーキを味わう彼女からは、先程までの苛烈な攻撃性は見られない。
心の差異が見出した好奇心から何となく彼女の行動の原理が気になった。
「そういえば、何時もあのような治安維持活動をしているのかい?」
「そうですね……定期的に活動してはいますが毎日している訳では無いですね」
「なるほど、正義実現委員会に任せようとか、其方で活動しようとは思わなかったのかい?」
「……確かに、組織に属せばその分楽に活動できるでしょう。ですが、それでは取り逃される事件を助ける事が出来ない。私はそう言った問題に手を伸ばしたいのです」
「……そうかい、少しばかりデリカシーの無い質問だったね。その上でありがとう。君の活動のおかげで助けられたのだからね」
「少し、こそばゆいですね……」
恥ずかしそうに微笑んだ彼女は、何故か憂いを帯びた視線をトリニティ校舎へと向けた。
「……実は最近、自警団活動の頻度がかなり減っているんです」
「ふむ」
「つまらない愚痴になってしまうかもしれませんが……少しばかり聞いていただけますか?」
校舎に向けていた物とは違う色の混じった眼差しを此方に向ける。
その眼差しの意図は、果たして。
少しばかり溶け出したアイスケーキを見下ろして、私はフォークを置いてスズミの方を見た。
「構わないさ、ただどうしても聞くだけになってしまうがね」
「ありがとうございます」
何処か安心したように、ティラミスにスプーンを入れながら、彼女は語り始めた。
「正義実現委員会の他、ETOがトリニティ内で活動し始めた為、トリニティで問題を起こそうとする不良たちの数も減少傾向にあるんです」
「それは……喜ばしい事だね?」
「ええはい、私も好きで自警団をしている訳でありませんので、そこは良いのですが……」
「セ――マナさんは不良たちが屯する場所の雰囲気はご存じでしょうか?」
……必死に作り上げた空気が今一瞬崩れかけたような気がしたが、突かなければ恙無く進んで行くだろう。
私は清涼感を求めてチョコミントミルクセーキを一吸いして答える。
「いやあ、分からないね。あまりそう言った場所には近寄らないようにしているから」
「そうですよね……簡潔に纏めると、どんよりとした風通しの悪い雰囲気が漂っているんです」
「風通しの……それが一体、どうしたんだい」
「その雰囲気を、ここ最近ティーパーティから感じているのです」
思わずむせ返りそうになったが、幸いにも飲料からは口を話していたおかげでそんな失態を晒さずには済んだ。
だが、彼女のその言葉……。
背筋に嫌な汗が伝う。
感覚で暴かれるなど冗談ではないが、私自身インチキとも呼べる力でこの地位まで上って来たのだ。
盛者必衰の理を――なんて、そうでは無くて。
(風通しか……確かに伝えるべく情報を塞き止めティーパーティに淀みを生んでいるのかもしれない……だが今目の前の彼女にそれを伝えてどうなる? いや、そもそもの話だ)
話の流れを思い返し、組み上げ、経路を生み出す。
着地点を見出し、顎に添えた手を放す。
「……なるほど、ティーパーティで、か。具体的な場所……どの校舎だとかはわかるかい?」
「そう、ですね……東の校舎からかと」
「そうかい、分かった。それなら余り近寄らない方がいいみたいだね。忠告をありがとう」
「ええ、お願いします」
案の定、フィリウス派からだったようだ。
普通に考えれば妥当な話でもある。
トップの人間が不在で、同輩たちの統率が取れていない状態ともとれる。
きっと彼女の伝えたかった所はそこなのだろうと、そうであってほしいと願いつつも再びフォークを手に取った。
だが、冷え固まって居たアイスケーキは既に溶け、皿の上で水色の水溜まりを作り出していた。
手遅れだ。
ほんの僅かでも掬おうとケーキ本体をフォークで割り、スポンジに吸わせようと思ったが、全てが粉々になってしまい、台無しになった。
綺麗に食べ切ることは、出来なかった。
♢ ♦ ♢ ♦ ♢
その後スズミと別れ、再びミカを探したが出会うことは出来なかった。
ミネからのSOSも来ることは無く、ある意味平穏な一日は終わった。
今日も、衣装箪笥に眠る遺書を手に取ることは出来なかった。
このまま一生――なんて、馬鹿な真似はきっとミカが止めてくれるだろう。
だから、そうだ。
早く彼女と話し合わねばなるまい。
手を合わせてトリニティを存続していくことが出来ると証明しなければならない。
ナギサが出来ると思ったのだ、ならば。
僅かに混じった強迫観念に押されながらも、私は静かに眠りについた。
――そして終わりは、唐突に訪れるのだった。