ナギサが自死したその後で   作:飴舐狐

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会者定離なんて、信じない

 ミネの死亡――恐らく、救護騎士団員が気を利かせて此方に情報を流してくれたのだろう。

 ……多分、セリナでは無いだろうか。

 

 このキヴォトスに置いて、死と言うのは酷く縁遠いものだ。

 トリニティのトップであるティーパーティのホストと言う役職柄、紙面上で死亡事件に関して存在していることは知っているが、周囲の人間が亡くなる事など相当稀だ。

 だから、と言うより案の定と言うべきだろう。

 

 ミネの死を易々と受け入れた私に、連絡を寄こした彼女は少しばかり疑いの目を向けられていた。

 ……と言うよりは、ナギサの死も事実なのではと言う疑念だろうか?

 

 全くとんだ置き土産だと内心で溜息を吐き、視線に答える様に質問した。

 

「少し、いいかい……ミネの死は、何かしらの証拠があっての、連絡なのだろうね?」

「……ええ、証拠の写真もございますが……見ます?」

「いや……止めておくよ。第一、走りながらでは、下手すると、戻してしまうかもしれないしね」

 

 重い身体を動かして、必死にミカへと近づいていく。

 如何せん、私の体はまだまだ万全とは言えない。

 時間がかかるのは止む無しと言えるだろう。

 

 それはそうと、ミネの件はやはり証拠付きだという。

 だからこそフィリウス派の世迷いごと(事実ではあるのだが)を信じて、此方を疑っているのだろう。

 

 本当にナギサは死んでいて、それを隠しているのだと。

 殆ど早歩き程度の速度で息を整えながら、誤魔化す為に呟いた。

 

「少しばかり、信じられないんだ……ミネが死んだという事が……先程悪質なデマを聞いたせいかもしれないけれどね」

「そうですか……」

 

 こう言われてしまえば、向こうからは何も言ってこないだろう。

 所詮は疑惑であり、明確な証拠がある訳でもない。

 

 ……ハナコ辺りを連れてこられたら色々と不味いのだが、彼女も態々顔を出す理由が無い。

 

 少しばかり居心地の悪い沈黙が続いたが、静寂を裂く様に遠方から何やら破壊音が響き渡って来た。

 それどころか建物自体が少し揺れていないかい?

 

「これって……」

「全く、ミカを狙うとは中々肝が据わっているとは思うが……些か考え無しが過ぎるんじゃないかな? ああ見えて彼女は結構喧嘩っ早いんだからね」

「ああ見えてって言うか態度そのまんまと言いますか……」

 

 進行方向から轟く戦闘音に思わず悪態を吐いていると、その音が徐々に大きくなっている事に気が付くことが出来た。

 またツルギが校舎を壊しているのかと考えていると、思った通りにツルギが校舎の壁を壊しながら現れた。

 

 だが、様子がおかしい。

 力無く崩れた瓦礫に寄りかかり、すぐに起き上がる気配も無い。

 更に普段は二丁持っている筈のショットガンを一丁しか握っていなかった。

 

 明らかに、誰かにやられている。

 

「えっちょっと……ツルギさん、やられてないです……?」

「――ツルギ!!」

 

 それは反射に近しい行動だった。

 脳裏に焼き付いた血溜まりに沈むツルギの姿が、瓦礫に沈む彼女の姿に重なって見えてしまった。

 

「っ――セイア様!!」

 

 即座に意識を取り戻したツルギからの忠告も遅く、ツルギが飛ばされてきた方向から闇夜を切り裂くマゼンタ色の光が視界を彩る。

 彼女はツルギのもう一丁のショットガンをまるで自分の物と言わんばかりに左手に構え、幽鬼の様にゆらゆらと此方に近づいて来ていた。

 

 脳裏を過るのは予知夢で見た仄暗く輝く鮮やかなマゼンタの光。

 全身が影の様に暗く、瞳と胸部だけが不自然に光り輝く。

 

 人の形をしていたことに驚きを隠せずに居ると

 

 彼女は、此方を見た。

 

「アァ――」

 

 声が聞こえた時には、もう遅かったと言えよう。

 目の前の彼女の姿がブレたかと思うと、次の瞬間には眼前に迫っているように見えた。

 

 言い表せないほどの、命の危機。

 それだけを感じ取ることは出来たが、私に出来る事は反射的に瞼を降ろし僅かに身を守る事だけだった。

 

「――……?」

 

 身を抱く様に体を守った腕に、想定していた衝撃は訪れなかった。

 どういうことなのかと、恐る恐る目を開けると――

 

 彼女は冷や汗を流しながら、笑っていた。

 

「まーったく、間一髪って所だよ? セイアちゃんに喧嘩なんて出来るわけ無いんだからさ、大人しく引っ込んどきなよ」

「――ミカ」

 

 私に向けられていたショットガンを掴んで逸らし、彼女は格好付けながら答えてみせた。

 

 僅かに拮抗した力比べだが見知らぬ彼女の方が優勢だが、ミカは逸らしたショットガンから手を放した。

 自由になったショットガンの銃身でミカを薙ぎ払おうとするが、予測していたのか屈んで躱し、ガラ空きになった胴体目掛けて思いっきりぶっ飛ばした。

 

「……相変わらず、似合わない馬鹿力だね、全く」

「あんなの余裕……って、言えたら良かったんだけどね……セイアちゃん今すぐ逃げて」

 

 一歩か二歩、ミカの方が上回っていると安心したのは束の間、ミカ本人からそんな弱気な言葉が聞こえた。

 

「君の方が優勢に思えるのだが……」

「全然……むしろさっきまで一方的に蹂躙されてたんだから……今のだって衝撃を逃がす為に自分から後ろに跳んでるんだよ? あり得なくない?」

「それは……」

 

 言われて、気が付いた。

 そうだ、ミカがこの場に現れる前にツルギが文字通り吹き飛ばされてきたんだ。

 それなのに余裕などと……視野の狭さに嫌気が差した。

 

「ちょっとトリニティ自治区全体を戦場にする訳にも行かないんだけどさ……最低でも校舎近辺からは皆を退避させてほしいんだよね。周囲の被害とか、考える余裕とか無いから」

「……分かった、そこは任せてくれ」

 

 僅かな後悔に溺れる前に、ミカは私に役割を投げる。

 到底、彼女たちの戦闘に混ざれる気も無い。

 私は私の役割を――そんな風に思った時だった。

 

 校舎全体が、揺れ始めていた。

 

「――ちょ、嘘でしょ!?」

「えっ、えっ! い、一体何が起こってるんですか!?」

「君!!」

 

 ミカは大丈夫だと判断を下し、私の命令で連れてきてしまった同輩の腕を引く。

 ほんの些細な加護で、何も変わらないかもしれないが咄嗟に体がそう動いてしまった。

 

 少しでも校舎の外に近づこうと動くが、あと一歩の所で天井が崩れるのが分かった。

 同輩の少女を守る様に床に引き倒し瓦礫から庇うように覆いかぶさる。

 

「――がッ……!!」

 

 だが、不幸な事に一際大きな瓦礫がまず頭部に直撃し、私の意識を刈り取った。

 大きく目を見開く少女の顔を最後に目の当たりにしながら、情けなくも気絶してしまった。

 

 

 

 

 

 ♢ ♦ ♢ ♦ ♢

 

 

 

 

 

 私が目を覚ました頃には、もう全てが終わっていた。

 だからこれからの話は何処までも又聞きで、伝え聞くお話に過ぎない。

 

 何処かで描写が盛られているかもしれないが……まあ、気にしないで聞いてくれよ。

 

 

 

 

 

 ♢ ♦ ♢ ♦ ♢

 

 

 

 

 

 ほんの些細な油断……仕方ない事だったかも? でも、やっぱり油断。

 すぐさまこっちに攻撃を加えるんじゃなくて、姿を隠していた意味を察するべきだった。

 

「――セイアちゃん!!?」

 

 降り注いできた校舎だった物を撥ね退けて、巻き込まれてしまった友達の名前を叫ぶ。

 その言葉に反応するように少し遠くの瓦礫が動き、セイアちゃんを抱えたサンクトゥス派の子が這い出てきた。

 セイアちゃんの意識が無い姿を見て、ケープを繋ぐリボンを毟り取ってその子に投げ渡す。

 

「セイアちゃんの代わりに、トリニティ校舎内から皆を避難させてくれる? パテル派の子達ならこれで動いてくれるし、セイアちゃんを神輿代わりにすれば他の組織も手を貸してくれるでしょ」

「で、ですが――」

「二度も言ってる時間、無いんだけど? 早く行ってくれない?」

 

 遠方から飛んできた瓦礫の軌道を変えて、セイアちゃんに当たらないようにする。

 投擲方向に向かって射撃はするものの、まるで手応えは無い。

 

 ようやっと事態を理解したのか、青い顔をしながらセイアちゃんを担いでこの場を離れるサンクトゥス派の子。

 零れそうになる溜息を飲み込み、急いで投擲元へと駆け付ける。

 既に激しい銃撃戦が繰り広げられ、ツルギが一人で抑えようとしていた。

 

 今ならば当てられるかと、横から乱射してみる。

 が、どう見えているのか驚くほどに銃弾が当たらない。

 躱されている。そう考えるしか無かった。

 

「セイアちゃんみたいにチビなんだし、そろそろ息切れしても良くない?」

「――余計な希望を抱くのは止めた方がいい」

「……結構重い一撃喰らってたと思うんだけど、大丈夫なの? 急に倒れられたりしたら流石に不味いんだけど」

「凡そは治った……だが」

 

 手榴弾を至近距離で爆破し、土煙が上がっている内にツルギがコチラに引いて来る。

 撃ち尽くしてしまったのかリロードをしているが、その動きからも怪我に因るような淀みは見られない。

 

 奪われていた筈のショットガンも取り返し、再び戦線に復帰してるのは流石正実の委員長だと言わざるを得ないが、その表情は暗い。

 それもその筈、硬くて強い人は幾らでも見てきたが、不要な攻撃には回避するよう動き回る敵はこのキヴォトスでは滅多に見られない。

 

 銃弾の当たる先を見定める空間把握能力、それに対応した動体視力、避けようのない攻撃に対しての反射神経……どれを取っても異常な物だ。

 

 土煙が晴れる寸前、背筋に悪寒が走る。

 ツルギに声をかける余裕などなく、その場から離れるよう咄嗟に横に跳んだ。

 

 次の瞬間、マゼンタ色の光を纏った銃弾が瓦礫を抉りながら先程居た場所を消し飛ばしていた。

 

「……あんなの喰らって良く無事だったね、ツルギ」

「流石に何発も喰らえば戦線復帰が遅くなる……次来るぞ!」

 

 土煙が晴れる頃には銃口を上に掲げ、マゼンタ色の光を収束させていた。

 ロケットランチャーの様に撃ってくるかと思いきや、一瞬にして光が銃口に集まり一点の輝きへと変貌していく。

 

 ――そして、目が合った。

 

「――ッッッ!!」

 

 咄嗟に銃を盾の様に縦に構え、衝撃に備えた。

 レーザーの様に繰り出された攻撃は私の羽を焼き、銃身にもかなりのダメージを与えた。

 

「――あははははっ☆ 危うく丸焦げになる所だったな!!」

「キィヒャハハハハハハハハッ!!」

 

 確かに痛い。思わず膝を折ってしまいそうな程に。

 

 だが、その程度だ。

 

 その程度の強さでトリニティを壊そうなどと、片腹痛いと言うものだ。

 私に攻撃が集中すれば、その分ツルギがフリーになる。

 奇声を上げながら突撃するツルギに、相手も完全に捌くことは出来ていない。

 

(……けど、確かに不味いね)

 

 確かにこれを続けることが出来れば、相手を倒すことも出来るだろう。

 けれど、それは私とツルギ、どちらも倒れないことが大前提としてある。

 

(正直……他の子達じゃあの攻撃、受け止めきれないよね……? 最悪、ヘイローが――命を落とす危険性だってある)

 

 脳裏に過るのは、数日前から依然として頭から離れることの無い、ナギちゃんの姿。

 そんな遺体を量産する可能性は、ナギちゃんはきっと認めない。

 自身が頑張れば全てを救える可能性があるなら、それに賭ける。

 

 ――賭けてしまったからこその、あの姿なのだ。

 

 だから、私は。

 

「――ハスミちゃん、聞こえる?」

 

 全てを賭してでもナギちゃんが守りたかったものを守って見せる。

 だから、ごめんね?

 

「正実全部隊、戦闘態勢でパテル派寮の西側に展開して貰える?」

 

 貴方達の命、ちょっと借りるね?

 私の命も、しっかり賭けるから。

 

 インファイトを仕掛け、再び吹き飛ばされたツルギに追撃しようとする敵の顔面に銃撃をお見舞いする。

 すぐに対応されるが、ツルギへの追撃は失敗しこっちにターゲットが移行した。

 まだ通話中の端末を飛んで行ったツルギの方に適当に投げ、銃を構えなおす。

 

「貴方が、何処の誰だか知らないけどさ――」

 

 足元の瓦礫を一部蹴り飛ばし、その隙間を縫うように銃撃を繰り出す。

 僅かに逡巡した隙に距離を詰め、銃弾瓦礫から避けようとしてガラ空きになった脇腹に向かってミドルキックを叩き込んだ。

 

「あんまりトリニティを、舐めないでよ」

 

 吹き飛んだ先ですぐさま態勢を整える敵から、先程よりも強烈な敵意を感じるようになる。

 

 丑三つ時は過ぎたが、まだ朝焼けには遠い。

 戦いはまだ始まったばかりだった。

 

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