右、左、右、左と。
まるで円舞曲でも踊るかの如く絶え間なく攻撃が続く。
厄介な事に易々と引き金を引くことは無く、銃身を含んだ格闘でこっちの明確な隙を生み出してから止めを刺すつもりなのだろうと容易に想像できた。
こんな持久力任せの戦い方、到底息切れは狙えそうも無かった。
むしろこっちが先に倒れちゃうだろうと、そう考えて。
脇腹を差し出す様に隙を晒した。
「――オグッ!?」
私が放ったミドルキックの焼き直しみたいに、彼女の蹴りが深々と私に突き刺さる。
威力そのままに後方に逃げ、目的地のポイントまで急ぐ。
きっと奴は私を見失うことは無い。
答える様に、表す様に、背後から嫌な破壊音が響き渡るのは出来ればもう少し後が良かったかな……☆
「ハスミちゃん! 準備どう!?」
「ミカさん……!? まだ展開は半分程度しか完了して――」
「ほんとごめん! もう連れてきちゃった!!」
ランデブーポイントである広場を中心に、まだ崩れていない建物や狙撃地点に部隊を配置している途中で目標対象を連れてきてしまった。
少しばかり堪え性が無かったかと、反省する。
――刹那、視界の端にマゼンタ色の光が瞬き全身に悪寒が走った。
「全員斉射!!」
ここ迄かと思った直後、私の背後目掛けて銃弾が飛び交う。
ハスミちゃんの号令のおかげだろうが、少なくとも事前に標的に対して銃口を向けていたのは事実のようだった。
「グゥ――」
「漸く、手応えありって所かな……?」
確実にこっちを仕留めにかかっていたせいか、大きな隙を晒していたのだろう。
少しばかり怯みながら物陰に隠れてしまった。
その間にハスミちゃんが居た方向に向かって走り、急いで合流を果たす。
「あっははは! あのバケモノにちゃんと効いてたよ! 流石正義実現委員会!」
「ミカさん……怪我の方は大丈夫でしょうか?」
「うん、まあ、ちょっと折れてるかもしれないけど……他に前出れるのってツルギくらいでしょ?」
「それは……」
【は、ハスミ先輩!! た、助け――】
そんな僅かな掛け合いの最中、ハスミが持っていた端末から悲鳴と呼べる叫び声が聞こえてきた。
即座に表情を切り替え端末から送信元を確認すると、物陰から姿を晒して其方を見た。
それに習うように私も顔だけ出して周囲を見渡す。
何時の間にか建物内でマゼンタ色の光が瞬き、悲鳴と銃声がほんの少しだけこっち迄届いていた。
「――全隊、建物内から離脱を! 狙撃班は当てなくても構いません、少しでも意識を外に向けさせなさい!!」
すぐに命令を下し、答える様に光に向かって弾丸が突き刺さるが、仄暗く闇を照らすマゼンタは止まることなく皆々を飲み込んでいく。
呆然とする頭に、あの日ナギちゃんの姿が思い起こされた。
『――たかだかミサイル程度の妨害で、私が折れていい筈が無いんですよ』
それは、反省部屋に閉じ込められていた私を呼び出して最初に見たナギちゃんの姿で。
動揺するアリウスの子達を惑わす精一杯の強がりで。
とっても大きな背中だった。
「ごめん、ハスミちゃん」
「えっ?」
ランデブーポイントの予定地に足を運び、今尚駆け回る暗い光に向かって足を曲げる。
「時間、稼ぐから。みんな連れて、逃げて」
「――っ、待っ」
続く言葉を聞き入れず、私の体は弾丸に成って建物に侵入する。
割れた窓ガラスの音に反応し、目の前の正実の子たちから目を離すバケモノ。
狭い廊下だ。
ここで撃たれたら一溜りも無いだろう。
奴もそれを把握しているのか、一切の躊躇なくこっちに向かってショットガンを構えた。
だから、どうした。
「ぐうぅっ、りゃああああっ!!」
「ガアッ!?」
突撃に合わせて連続して発射される散弾を両腕で受け切り、懐に潜り込み全力のアッパーを鳩尾に叩き込む。
天井にめり込んだ奴の姿を見て、すぐに正実の子達に叫ぶ。
「ここは私が食い止めるから!! だから、逃げて!!」
私の作戦ミスで、潰れそうになったのだ。
ならば、私が身を粉にしてカバーする他ないだろう。
わたわたと逃げてくれた子達を横目に、私から距離を取るバケモノ。
やはりそうだ。
奴は不死身ではない。
倒すことは――殺すことは出来るのだ。
「あはっ☆ もうまどろっこしいのは抜きにしてさ――殺し合おうよ、全力で」
「――ウゥ」
唸り声を上げるバケモノに銃弾をばら撒きながら接近する。
全て屈んで躱されるが、その位置ならば蹴りが入ると足を刺すがこっちと入違うように躱され、ついでと言わんばかりに銃身で殴られる。
痛みは僅かだが、少し嫌な予感を感じる。
先程喰らったミドルキック、その位置と逆側を銃身で殴られたが感覚的にシンメトリーに近しい位置を殴られている。
……唸り声しか上げてはいないが、もしやすると下手に理性が残っているのかもしれない。
もしくは本能で動いても常に同じ部位を攻撃するように迄訓練した成果か。
どちらにしても、碌でもない話だ。
(長期戦は無理そうだね……なら!!)
隙を作りだし、一気呵成の猛攻で一息に押し切る。
その為には如何にかして隙を生み出さなければならないし、銃弾も無駄遣いは到底出来やしない。
腕力でも負けているのだ。
マウントを取って殴り殺すというのは余りにも非現実的と言えるだろう。
私は構えを解いた。
無防備な姿で奴に一歩一歩距離を縮めていくが、何処か不気味に映ったのかバケモノは自ら距離を離していく。
やはり理性は残っているのではと勘繰りながらも、歩調を変えずに距離を詰めていく。
「ガアアッ――!!」
間に合うと踏んだのだろう。
ショットガンを空に掲げ、マゼンタ色の輝きを銃口に集めていく。
一度見た攻撃、レーザーの様な一線を描き全てを焼き壊す摩訶不思議な大技。
――私は変わらず、ただ一歩一歩距離を縮めるだけだった。
♢ ♦ ♢ ♦ ♢
一点に収縮した光は直線を描きながら建物ごと破壊していく。
崩れ行く天井をショットガンで吹き飛ばし、建物の崩壊を待つ。
砂塵舞う周囲からは、生き物の気配は感じられない。
――本当にそうだろうか?
あの女ならばまだ息の根がある筈だ。
瓦礫からすぐにでも這い出るはずだ。
そんな思いから奴が居た地面を眺めるが。
「――シッ!!」
「ガッ!?」
空から降って来た天使に気が付くのは、既に一撃入れられた後だった。
♢ ♦ ♢ ♦ ♢
顔面、とりわけ脳天に向かってサッカーボールキックを放つ。
これならば確実に頭は揺れるはずだ。
大の字になって倒れ行く奴の両腕を抑える様に乗り、顔に向かって全弾発射する。
だがすぐに残弾が尽きる。
思わず舌打ちしてしまうが、まごついている暇はない。
的確にリロードを行いながら執拗に右腕を蹴り潰すが、奴がショットガンを手放す気配が無い。
「……――ガアッ!!」
「うわっ!?」
リロードが完了する前に奴が叫ぶ。
呼応するように謎の爆風が起きて、折角得たマウントポジションから剥がされてしまう。
……けれど、ダメージは確かに稼いだ。
これならば――
「うっ……」
先程直撃した攻撃が痛み、呻き声が漏れる。
防御を一切捨て振り上げられたレーザーと爆風をその身で受け、自然と舞い上がった体を同じように飛んできた足場を踏み台にしながら空からの奇襲を仕掛ける。
成果は確かに出た。けれども、これは……。
「……あはははっ。折角の隙だったのに、どうして襲ってこなかったのかなあ?」
「……」
頭の中で叫ぶ生存本能を叩き殺し、煽る様に笑って見せる。
先なんてどうでもいい。
今の私に課せられた使命は――。
目の前の奴を殺す事だけだ。
ほんの僅かに腕が動くのを見て、即座に距離を詰める。
軌道的に銃のリロードだ。
だが目の前の奴は理性の有るバケモノ。
今まで一度も見せていなかった速攻だと言うのに、奴はそれすら対応してきた。
恐らく銃弾を握っていた左手を握りしめ、燃え盛る炎のような光を拳に纏う。
リーチ、体格差、コンマ数秒の差ではあるが、確かに結果に明確な差を生み出す。
本能的に同じように左拳を握り、奴に向かって振りかぶった。
奴の思惑は計り知れないが、私に答えるように奴の左拳は私の左拳目掛けて振られていた。
破壊力を考えれば、私の行いは何処までも愚かな行為だろう。
上等だ。賢しく勝てるなんて、一片たりとも考えちゃいない。
拳が衝突した直後、左側が腕ごと吹き飛んだような錯覚を起こした。
否――千切れてはいない。
私よりも小さな拳が私の拳を推し進め、指が変な方向に曲がって腕の骨や腱がズタズタになっているような気はするが――折れていない。
「――あっはははははははああっ!!!」
奴は全力でこっちにぶつかって来てくれた。
明確に生まれた隙なのだ。
無理に空けた右腕を動かし、フルマガジンの銃口を奴の顔に向ける。
漸く気付いた奴だが、もう遅い。
ぐちゃぐちゃになった左腕で奴の握り拳を掴み、一瞬でもこの場に縛り付ける。
舐めるなバケモノ。貴様は人の手により討ち取られるのがお似合いだ。
全弾叩き込み、奴の左拳の勢いも失せて来る。
溶け合いそうな左手と拳を切り離す様に銃身で奴の左腕を叩き上げる。
当然、両者共崩れ落ちそうになるが、まだ行ける!
左腕を瓦礫に突き刺し、生み出した軸に合わせて足を振るう。
奴の僅かに浮いた足を刈り取り、転倒させる。
更に追撃を――そう息巻く前に奴は俊敏な動きで体制を立て直し警戒するようにこっちを睨む。
その口元にはマゼンタ色に輝く――紅い紅い血が流れていた。
「……っぷ、あはははははっ!! バケモノと言えど、同じ血が流れてるんだね――確信が持てて嬉しいかな☆」
ヤれる。ヤれる。ヤれる!
左腕を支えにしながら、何とかリロードを終えて素直に笑う。
少しばかり、殺せる確信が無かった。
実は超常的な存在なのではと、ほんの少しだけ臆病になりかけた。
だが、違った。
私たちと同じで血を流し、私たちと同じで限界があり、私たちと同じで終わりがある。
その事実だけで何処までも戦えそうだ。
相手とは比較にならない程の出血をしている自覚はある。
けど、負けやしない。
このまま戦えば先に倒れるのがどちらかなぞ明白だ。
けど、負けやしない。
気力、体力、精神力、全て燃え尽きてしまうのは、何方が早いだろうか。
だけど、負けやしないのだ。
【――分隊、突撃!!】
しかし、私の決意は明後日の方向から聞こえてきた声によって挫かれてしまった。
「「「突撃ーーっ!!」」」
「えっ、ちょっと貴方たちって――」
まるで空気が入れ替わる様に、三者三葉のタイミングで奴に突っ込んでいく正実の子達。
その中には先程私が声をかけた子もいた。
案の定、奴に軽くあしらわれ、ついでと言わんばかりにショットガンを喰らったり殴られたりと、再起不能の状態に陥っているが、それを助けようと動く前にもう一人の正実の子に手を引かれていた。
「ご、ご無事でしょうか! ミカ様!!」
「いや私よりもあの子たちを――」
「そんな怪我してるのに後回しになんか出来るわけ無いじゃないですか!? 大人しく引いてください!! ツルギ委員長の命令でもありますから!」
「……ツルギの?」
ちらと後ろを振り返ると、人海戦術で奴の足止めを続けていた。
ならば、これは私を救う為の犠牲なのだ。
……少し不服だけども、助かったことには間違いない。
後ろ髪を引かれる思いをしながら、その場を去る。
もしもここに鏡があれば、ミカは自身のヘイローから急速に光が失われて行くのを目の当たりにすることになっていた。
ナギサがあの時に見せた強く強く光り輝やく瞬きを、失う様を。
ええ、こっから戦闘ばっかです。
私何書いてんだよ……