ナギサが自死したその後で   作:飴舐狐

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力が欲しい

 何故あの敵がトリニティを攻撃しているのかは、未だ不明だった。

 そもそも、一番初めに攻撃された私でさえもよく分からないまま迎撃しているに過ぎない。

 万が一でも私を狙って来ているのであれば、トリニティ市街地で固まる判断は出来なかった。

 

 少しばかりの遠回りの後、正義実現委員会の部屋に辿り着き、応急処置を受けながら目の前に居るツルギと睨み合う。

 ……その視線は私の頭の上と若干往復されているのだが。

 

 部屋に入った時に気づいたのだが、今の私のヘイローは誰の目にも見えているらしい。

 部屋に居た正実の子達に「なにあのヘイロー……」と口々に言われれば嫌でも気が付くものだ。

 

「……味方を犠牲に救出した事は承服しがたいとは思うが、ティーパーティの人間を守ることも我々の役目だ。ましてや、そこまでの負傷をしていてはな」

「だからここに一旦幽閉されてろとでもいうつもり? あははっ! 貴方たちだけでアレをこ――倒すことは出来ないと思うんだけどなぁ?」

 

 突っ込まないんだ……なんて周囲からの軽口が押し黙る程の圧が自然と漏れ出てしまう。

 

 確かに不服だ。

 あのまま戦っていたら負けるのは私だったのは確かだろう。

 けれどもそれで他を犠牲にするのは見当違いだ。

 

 言葉の圧と、有無を言わさぬ視線。

 ツルギは少しばかり渋い顔を作って、赤裸々に答えた。

 

「正直な所……我々のみでアレを止めるのは無理だ。攻撃を当てることや火力の面でアレの能力を越える者が一部に限られるせいでな」

「……なるほど、それが本音って訳。なら、こっちも答えるけどさ。私はもうあんまりアレに有効打は与えられそうに無いかな……左手こんなんなちゃってるし」

「いえ、本命はそちらではありませんよ?」

 

 急に畏まった言い方に直し、ツルギは私の端末を渡してくる。

 拾っといてくれたんだ、何て。頓珍漢な思考をしながら受け取る。

 

「今現在拘留中のフィリウス派の方々に命じて頂きます」

「……そう言う事ね」

 

 手が足りない、火力が足りない。

 ならば増やせばいいのだ。手数も、火力も。

 

 その為にはパテル派元代表の力が必要になってくる。

 ……と言うよりも、連絡可能なトップが私くらいしか今は居ないのだ。

 

 近くに控えていた正実の子が持っていた地図が広げられる。

 既に崩落した建物であるパテル、フィリウス派の寮などにはバツ印が付けられており、トリニティ本校のグラウンドからの距離などが追記されていた。

 事前に決めていた作戦の青写真だろうか。

 これ以上被害を広げない為にも、既に倒壊した建物の上で奴を仕留める算段のようだ。

 

「勿論、前線にも出て貰います。こちらも、既に戦力がカツカツでして」

「あははっ☆ 中々に人使い荒いじゃんね? ……いいよ、上等。それぐらいはしないと、折角助けて貰ったんだからね」

 

 作戦での犠牲。勝利を目指す為の糧。

 ならば納得しよう。

 上辺のみの建前を通す為だけにやった行いでは無くて、やらざるを得なかった事ならば、否定する道理が無いのだから。

 

 端末に電源を入れて、私の知りうるフィリウス派の子に連絡を取る。

 ここからが、反撃だ。

 

 既に話自体は通っていたのか、後はフィリウス派の子達の判断のみが重要だった。

 私が話をするとあっさりと了承して、現場の正実の子たちと一緒に榴弾砲の準備に取り掛かっているらしい。

 彼女たちも熟練の付き人だ。そう時間はかからないだろう。

 

 問題は、奴を抑える現場の方だった。

 

「――それで、向こうは誰が指揮してるの?」

「イチカ……二年の隊長だ。部隊を分隊に分解して一撃離脱の作戦で時間を稼いでいるみたいだが……」

「それは……突破されるのは時間の問題、かな?」

 

 アレは被弾を抑えるように動くし、一塊にならなければ一掃されることも無い。

 四方八方から撃てばその都度足を止めるし、一撃のみに専念すれば分隊が削られるリスクもかなり低くなる。

 合理的に考えられた良い作戦ではあるのだが……殴り合ったり撃ち合った私達なら分かる。

 

 奴が理性無きバケモノでは無いことに。

 

【――ちょっ! 銃撃止め!! 撤退! 撤退するっすよ!!】

「……始まったか」

「急がないとね……って、ツルギ。プロテクターとかつけなくていいの?」

「いらん。動きの邪魔になる」

「……こっちも大概じゃんね」

 

 通信機から流れる叫びに耳を傾けながら、手早く装備を身につけていく。

 左手の指はまだ万全とは程遠い。

 代わりにメリケンサックを付け、殴り合いに備える。

 

「……治りが遅くなるぞ」

「そんな先の事どうでもいいかな? 今できる事全部やっておきたいからさ」

「人の事言えないだろ」

 

 溜息と共に零れる苦言を聞き流しながら、漸く準備が完了する。

 全力で駆け出すが、ちょっと過積載になり過ぎたせいかツルギに置いて行かれる。

 横目で遅れていることを確認したツルギが少し速度を落とし、現場について話し始めた。

 

 ……少しムカつくじゃんね。

 

「恐らくだが、アレは銃弾を喰らって各分隊が何処に潜んでいるのか探り始めたんだろう。凡その位置を知れたから行動に移した」

「もう悲鳴しか聞こえないもんねえ。立ち止まって、一つの分隊に気持ちよく銃を撃たせたんじゃないかな?」

 

 奴は狡猾だ。

 一度は効果があると相手に見せかけてから、全てを踏み潰す。

 相手が見せたほんの僅かな油断に噛みつき、最大限の成果を出す。

 

 ……やけに組織相手の立ち回りに長けている。

 本当に、何者なんだろうか。

 

「だが、最低限の被害で済んだようだ」

「フィリウスの寮全壊しちゃったみたいだけど……まあ、人命には代えられないか」

【負傷者は引きずってでも撤退! 残った分隊は小隊に再編成して同作戦を続行! 撃破されたら連絡を寄こすこと! 付近の小隊と一緒に離脱するっす! ツルギ委員長がもうすぐで到着するんで、それまでの辛抱っすよ! ――ここが最後の防波堤っす。みんな、気合入れて踏ん張るっすよ!!】

 

 崩壊した作戦を建て直し、けれども限界は弁えた指揮だった。

 内心で舌を巻きながら、自身の失態を故に痛感する。

 

「……ごめんね、無駄に突っ走っちゃって」

「構わない、けれども」

 

「自身の限界を超えて戦うのは止めろ」

 

「……あはは、そうだね」

 

 強く強く、釘を刺す様に彼女は睨んだ。

 自覚はあった。けど、次も同じことをしない確証は何処にもなかった。

 

 だから曖昧に笑って、私達は並んで走った。

 目的は、もうすぐそこで。

 

 

 

 通信機越しではなく、前方から悲鳴と銃声が響き渡る。

 崩壊したフィリウス寮が影となりまだ姿は見えないが、この先に戦場が広がっているのだろう。

 

「先に行く」

「あっ、ちょっとぉ!?」

 

 元々私に合わせていた速度から切り替え、平野でも走る様に瓦礫を駆け上っていきその姿を消した。

 直後、奇声が瓦礫越しに聞こえた事からターゲットと会敵したことを悟る。

 

「それじゃあ……私はどうしよっか」

 

 ただ突っ込むだけでは余りにも芸が無いし、かと言って策を弄している時間も無い。

 左手で手榴弾を遊ばせながら最善を探る。

 

「まっ……やるだけやってみよっか」

 

 無難だが、物陰に隠れて様子を見ることにした。

 ツルギとあのバケモノが戦っている隙を突いて……なんて、あのバケモノが易々と隙を晒す筈が無い事を頭の片隅で理解しているのに。

 

 しかし戦線にはまだ正実の子達が戦っている。

 もし仮に、私の強襲を正実の子の破れかぶれの攻撃だと誤解したのなら……。

 そう考えると、少しだけ可能性がある様に思えてきた。

 

「とはいえ……まずは戦況を見ないとね」

 

 そうと決まればすぐ行動。

 倒壊したフィリウス寮の影に隠れながら銃声と奇声が入り混じる戦場へと急ぐ。

 直後にツルギが会敵したこともあり、時間もかからず目的地へと辿り着くことが出来た。

 

「――……剣先ツルギ、何してるの」

 

 だがそこにはバケモノに翻弄されるツルギの姿があった。

 

 

 

「……」

「キィヒャアハハハハハハハッ!!」

 

 威勢よくバケモノに詰め寄るツルギだが、明らかに精彩を欠いた動きをしていた。

 それもその筈、バケモノはツルギではなく周囲に倒れ伏す正義実現委員会の部員を狙って攻撃していた。

 敢えて緩慢に、さりとてバケモノを攻撃しては守れない速度で、只管に周囲の戦闘不能者に追撃していたのだ。

 

「キィイイィ……ヒャアァ……!!」

 

 そんな部員を守る為、庇う為に動けばそれだけに生傷が増えていく。

 気力が、体力が、精神力が削られて行く。

 ツルギの再生力も無限ではない。着々と、ツルギの生命力は底へと誘われていた。

 

(……不味いな)

 

 ツルギが軽く周囲に視線を散らせば、もう殆どの部員は戦闘区域外から離脱出来ていた。

 正確に言えば、ツルギが庇うと同時に放り投げたりしたのだが――同じようなものだ。

 

 だが、全員ではない。

 意図的に追撃をしていない部員が、後数名居る。

 それもマゼンタ色の化け物の背後にだ。

 

(……庇わないと死ぬな、アレ)

 

 本音を言えば、これ以上余計なダメージを負いたくはない。

 しかし目の前の危機が、命の消失と言う現実がツルギの思考を着実に縛っていった。

 

「キィヒヒヒヒヒ……ヌゥハハッハハハハハハハッ!!」

 

 だから、ツルギは笑った。

 まるで捨て鉢になったように化け物に猛追する。

 その瞳に倒れ伏す仲間は映っていないのは明らかだった。

 

 

 

「……ガァ」

 

 今ツルギを無視してしまえば、確実に手痛い一撃を喰らう羽目になるだろう。

 銃口を倒れている部員からツルギに向きなおし、迎撃の耐性を取る。

 

 片や狂気の笑顔と二つの銃口。

 片や異形の相貌と一つの銃口。

 

 双方の銃弾が回避出来ぬ距離まで後一歩に迫った時、ツルギは地面に向かって発砲した。

 巻き上がる粉塵。一瞬だけ視界から消えるツルギ。

 

「……?」

 

 すわ蹴りの一つでも決めるのかと思えば、碌な衝撃が来ない。

 粉塵に紛れ奇襲を仕掛けようとするつもりかと空気の流れを読み――バケモノはマゼンタ色の輝きを銃口に集め始めた。

 

「……チィ」

 

 視界が晴れると同時にバケモノは背後、否。傷ついた囮の居る方向へと目を向けた。

 そこにはボロボロの翼を広げながら、複数の部員を担いだツルギの姿があった。

 

 種を明かすと、粉塵撒き散らした後ツルギは勢いそのまま跳び上がりバケモノの背後に回ったに過ぎない。

 ほんの僅かな隙でも生まれたら成功した策だった。

 そんな一分の隙も存在しなかったのだが。

 

 流石に複数人の生徒を抱えながら、奴の攻撃は捌けない。

 手放すか、一人で受け切るか。

 そんなこと到底出来る訳無い事を知り得ながら、掴んでしまった命の重みがツルギの判断力を完全に奪っていった。

 

「――グレネード、パアーンチ!!」

「グウガァアアアッ!!」

「……っ、すまん!」

 

 ツルギに向かって放たれる筈だったマゼンタ色の光は、背後から叫びながら突撃してきたミカの方へ向けられていた。

 手榴弾と化け物との攻撃の余波で正気を取り戻したツルギはそう一言謝ってその場を離脱した。

 

「ごっほ……けほっ……謝るなら最初からやるなって話じゃない? ……貴方もそう思うよね?」

「……」

「あははっ! 警戒心マックス、って感じかな? まあ確かに退いたのにすぐ戻ってきて……何がしたいのか分からない~ってこと? ……でもそれさあ」

 

 未だ血の滲む左手を握り直し、銃口を向けながらミカは笑った。

 

「こっちのセリフ、なんだよね?」

「ガアアアアアッ!!」

 

 バケモノは吠えながらミカとの距離を詰める。

 僅かに冷や汗を流しつつも、ミカの銃口はバケモノの額から離れない。

 バケモノは銃身を大振りに構え、ミカの横腹目掛けて薙ぎ払った。

 

「ぐうぅっ……!!」

「――!?」

 

 意外にも、防がれる事も避けられる事も無くバケモノの振るった銃身はミカに直撃した。

 

 ほんの微かな硬直を逃さぬよう、ミカの銃撃がバケモノを叩く。

 すぐさま距離を取るバケモノに対し、ミカは不敵な笑みを浮かべていた。

 

(……ヤバイかも。しくじったかな、これ)

 

 否、そうではない。笑うしかない状況なのだ

 

 慣れない過積載で身体が思うように動かせなかった。

 プロテクターを過信したカウンター戦法を咄嗟に思い付きやってみたが、想像以上にダメージが大きかった。

 とはいえ、着てきた装備を脱ぐ隙など無い。

 

 既に何度も観察されているのだ。

 目の前のバケモノはとうの昔に様子見をやめている。

 何発か撃っていたであろうショットガンのリロードを許し、闘気のような鮮やかなマゼンタ色の光がバケモノを覆った。

 

「あっははは……こっから本番、ってこと?」

「グァアッ――」

 

 迸る気配に気圧されながらも、足は決して引かない。

 力でも技量でも、判断力でも経験値でも負けているんだ。

 コレだけは――精神力だけは、負けられない。

 

 コレさえ負けたら、私は――

 

 目すら追いつかない程の速度で、バケモノが跳んでくる。

 必死に残光を追いかけ、襲い来る衝撃を歯を食いしばり耐え、引き金を引いて反撃をする。

 

「ぐぅ……!」

「……」

 

 ダメージレースは明らかにこっちの負けだ。

 何とかカウンターを当てているだけの状況、相手のバケモノはプロテクターの隙間を狙って打撃を当てていると言うのに。

 

(力が……)

 

 バケモノが憎い。

 だがそれ以上にバケモノに翻弄される、無力な私自身が憎たらしい。

 

(力が……欲しい……!!)

 

 今更願った所でどうしようもない事を理解しつつも、ミカは願わずにはいられなかった。

 ――それが致命的な隙に繋がるとも知らずに。

 

「シッ――!」

「やっ――!?」

 

 ミカが目では無く、衝撃でカウンターをし始めた時だった。

 眼の前のバケモノの速度が、上がった。

 

 明らかに膝を狙っていたローキックが、軸足で跳ねた事によりミカの側頭部を狙う攻撃へと変化した。

 キラキラと輝き始めるその右足を防げそうな左腕は、まだ肩の高さすら届いていない。

 

(避けるのは無理、防ぐのも手が間に合わない――!!)

 

 やけにスローモーションになった世界の中で、強くなっていくマゼンタ色の光だけが網膜を刺激していく。

 襲い来る明確な死の気配を感じながらも、ミカに出来ることは何もなかった。

 

 ――突如、バケモノに散弾が当たる。

 

「グウッ――」

「っ――!」

 

 煌々と瞬いていたマゼンタ色の光は失われ、それに伴い遅くなっていた時間も元に戻った。

 想定していたよりは軽い蹴りがミカの側頭部に振り抜かれ、数回バウンドしながら何者かの足元へと転がっていった。

 

「意識はあるか?」

「なっ、なんとかね……カバーありがと、流石に死ぬかと思ったな……」

 

 痛む頭を押さえながら立ち上がると、バケモノに銃を向けているツルギが居た。

 既にボロボロになったプロテクターを脱ぎ捨てながら吐き捨てていると、ツルギが壊れたプロテクターを拾ってバケモノの方に投げた。

 

 ……何かがぶつかる音が響き、プロテクターだった物の破片が背中に当たる。

 

「ひ~! 怖! 何投げてきたの!?」

「投石だ。それより悠長にしてるな、守り切れないからな」

「それはちょっと心外かな……まあ対応できてなかったし文句言うのはお門違いか」

 

 幾つかの装備は外せていない状態だが、さっきよりかは動きやすくなった。

 これならと、バケモノの方に向き直ると。

 

「……わーお」

 

 大部屋の天井程の大きさの瓦礫を持ち上げていた。

 ツルギが舌打ち混じりにバケモノへ発砲し続けているが、瓦礫を持ち上げる手は微動だにしていない。

 

「避けろっ!!」

 

 内心で返事を返しながら、投げられた瓦礫を回避する。

 銃弾程ではないにしても、自動車程度の速度であのサイズの瓦礫投げるとかとんだゴリラじゃんね?

 

 頭の中で悪態を吐きながら体制を立て直し、バケモノに銃口を向ける。

 ……今度は同じサイズの瓦礫を二枚持ち上げながら。

 

「嘘でしょ……」

 

 私とツルギに一枚ずつ、正確にコントロールされて瓦礫が投げられる。

 迫りくる面に対しすぐに躱し切れないと判断を下す。

 

「――なら」

 

 銃を手放し、左拳を握り締める。

 高々迫る壁、こんな物は攻撃と足りえないのだと不敵に笑って見せる。

 

「こうすればいいで――!?」

 

 タイミングを合わせ振りかぶった左腕に反し、目の前の壁が砕ける。

 咄嗟に頭だけは守る様に腕を交差させるが、体には勢いよく礫が突き刺さった。

 

「……いててて、そう来る」

 

 多様な攻撃手段に思わず舌を巻いていると、轟音が少し遠くから聞こえてきた。

 音が響いて来た方向に視線を投げると、ツルギがバケモノに殴り飛ばされていた。

 

「……なるほど、そっちの方が厄介だと判断した訳ね」

 

 こっちに投げ飛ばした瓦礫はショットガンで砕き、本命であるツルギは瓦礫を殴り壊して怯んだ隙に殴った……と言った所だろうか?

 実際、私よりもツルギの方が厄介なのは事実だろう。

 けれど……。

 

「っ、待ちなよ……私置いて先にツルギやれると思ってる訳?」

 

 一瞥もくれる事無くツルギを追撃しに行った。

 まるで私なんて居ても居なくても何も変わらない――変えられないんだと言わんばかりに。

 

 弱気になりそうな心を圧し潰し、落とした銃を拾いバケモノの後を追う。

 奇しくも、その方角はコロッセオへと続いていた。

 

 

 

 

 

 ♢ ♦ ♢ ♦ ♢

 

 

 

 

 

「……行ったっすね」

 

 ツルギから戦闘不能となった部員を受け取ったイチカは、その後の戦闘をただ安全区域から見ている事しか出来なかった。

 無論、既に戦闘続行が不可能な部員たちを指揮して、怪我人は救護騎士団の部室へと向かわせているし、残った部員たちも次の戦闘態勢は取れている。

 

「我ながらダサいっすね~……」

 

 空々しく笑いながら、イチカはしゃがみこんだ。

 敵の強大さ、抑え込めていると思っていた存在は此方に対してはただ手を抜いて相手していることがミカと戦っている姿を見て分かってしまった。

 

 目で追うことすら困難で、イチカが幾ら指揮しようが援護射撃すら真面に出来ないであろうと察することが出来た。

 何よりも、ツルギ委員長が易々殴り飛ばされていた。

 

 飛んできた瓦礫をツルギ先輩がショットガンで打ち砕き、その先に居た敵に怯む事無く銃撃していた。

 だが、敵は……ツルギ先輩の銃撃を喰らいながらも殴り飛ばしていたのだ。

 

「はぁ~……どうするかっと……」

 

 火力が必要だ。手数が必要だ。

 とはいえ、私たちが幾ら集まろうが蹂躙される未来だけが頭に浮かぶ。

 折角腕や足が変な方向に曲がらないで今こうして立てているのに、ただ無意味に嬲られろと命ずるようで、少しだけ気がひける。

 

(あの方角はコロッセオ……住宅街からは遠いっすね……避難誘導の必要は無しっと……戦える子達を今すぐ向かわせなくても他の組織の戦えそうな人を呼んでくるとか……電話でいいっすよね……)

「あのっ、イチカ先輩」

 

 頭を抱えながら今後の方針を考えていると、一人の部員が此方を見下ろしながら声をかけてきた。

 いや、座ってるからだと頭を振ってから立ち上がる。

 変わらず、真っすぐと此方に視線を向けながら声を上げた。

 

「私たちは正義実現委員会です。相手がどれ程強大で、ツルギ委員長でも勝てない位なのは分かってます……でも!」

「例えどれだけ無力でも、私たちは正義実現委員会なんです!」

「トリニティの為に、戦わせて下さい!!」

 

 自分よりも小さな体躯を曲げて、被った帽子を落としながら懇願する。

 ふと、その背後に居る部員たちにも目を向けて見れば、皆が燃えるような瞳をしていた。

 それがどうにもおかしくて、必要のない配慮をした自分を反省した。

 

「顔、上げるっすよ」

「えっ、あっ……ありがとうございます」

 

 汚れてしまった帽子の埃を払い、部員に差し渡す。

 薄っすらと浮かべていた微笑みを消し、息を大きく吸ってイチカは宣言する。

 

「敵はツルギ先輩でも勝てない相手、だから勝てるように全員でサポートをする! 非情な命を幾つか出すっす! 過去一で危険な任務になるっすよ! それでも来るなら銃を取れ!」

 

 イチカはグリップを握り、銃口を天高く掲げる。

 部員たちも皆、淀みなく銃口を天へと向ける。

 開いた瞼を僅かに細め、真剣な表情から好戦的な笑みへと変えながら嬉しそうに言った。

 

「それじゃあみんなで、地獄にいくっすよ……」

 

 可愛らしいが、確かな戦意を滾らせた雄たけびが響き、敵が向かった方角へと足早に駆けていった。

 その数分後……とある四人組がこの場に訪れたのだが、それはまた後のお話。

 

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