ナギサが自死したその後で   作:飴舐狐

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二度とは訪れない奇跡

 一斉射による面制圧は機動力が落ちた化け物にとって無視できない攻撃へと変わっていた。

 正確無比とは言い難く、化け物が移動した残像を追って、もしくは移動先を予測してばら撒かれる弾丸を全て避けることは至難の業だった。

 

 荒れた地面を駆けながら、化け物はシスターを撃ち倒していくが無駄だと言わんばかりに別方向から次々シスターが化け物目掛けて銃弾をばら撒いて来る。

 

 埒が明かない。

 戦闘の経験がこのまま磨り潰される予感を感知し、化け物は観客席に飛び移ろうとして――観客席の椅子を蹴り飛ばして闘技場の舞台へと戻って行った。

 

「……本当に、勘が鋭いんですね」

 

 再び闘技場内で撃たれ続け駆け回る化け物を見下ろしながら、振り下ろした錫杖をヒナタは構えなおす。

 ヒナタだけではない。

 観客席には等間隔に錫杖や三叉槍を持ったシスターが潜んでいる。

 

 化け物が観客席に上がってこれば一瞬でも動きを封じ、至近距離の一斉射でトドメを刺せるようにと。

 万全であれば通用しない作戦だが、連戦に次ぐ連戦をした化け物には十分すぎる策だった。

 

 けれども永遠に化け物が闘技場で踊ることが出来ない事と同じように、シスターたちの弾薬も永久に補給出来る訳では無い。

 

 だが、サクラコは断罪の宣言をした。

 その意図が示されたのは、現状を打開すべく化け物がマゼンタ色の光を纏い雄叫びを上げた時だった。

 

「擲弾、投射!!」

 

 今まで銃撃を加えていたシスターが隠れ、更に一段上に隠れていたグレネードランチャーを構えたシスターたちが顔を出す。

 放たれる光を爆炎で掻き消すように、雄叫びを炸裂音で打ち消すように、化け物を中心として連続した爆発が続く。

 

「そこっ、E、Fチーム方面!」

 

 まるでタクトでも振るうように、サクラコが化け物の逃げ先を指し示す。

 爆心地から駆け出す化け物を先回りするようにシスターたちは銃を撃ちこむ。

 

 自然と制限される逃走経路に嫌な予感を覚えた時には、既に遅く。

 壁際に縫い付けられるかのように、化け物の周囲にグレネードがバラ撒かれていた。

 

 進まなければ当たらない位置。

 だからこそ、化け物は思わずその場に立ち止まってしまった。

 直後爆炎を上げて炸裂するグレネード。

 

 その爆音に紛れ、駆け出していた存在に気付くのは頭上に影が生まれてからだった。

 

「ガッ!」

「サクラコ様!!」

 

 錫杖を槍のように構え、地面と串刺しにする勢いで化け物に突き立てるヒナタ。

 直前で錫杖を防ぐことは出来たが、ヒナタの力も有って化け物も易々と弾き返す事は出来なかった。

 

 これぞシスターフッドに伝わる格上殺しの一つ。

 行動を制限し、仲間の犠牲も厭わぬ、闇に隠されたシスターフッドのもう一つの顔。

 後は自身の弾丸で元凶の息の根を止めれば、それで――。

 

 

【――シスターフッドは変わって行ってるのです、より良い方向に】

「――」

 

 

 引き金を引く直前、何故かナギサの言葉が脳内に響いて来た。

 変革を台無しにするサクラコを責め立てるように。

 

(――違います! ナギサさんは……!)

 

 そんな酷い事は言わない。

 ならば、この声の正体は。

 

 言わずとも分かる。

 未だに迷っているサクラコ自身の嘆きが思い起こさせてしまったのだ。

 

 殺す以外の選択肢もあるのではないかと、シスターフッドを再び忌まわしき過去と同じような目に遭わせても良いのだろうか、と。

 冷たくなったナギサの顔、シスターフッドの健やかな繁栄と栄光を願われた最後の言葉、反するように邪道へと落ちていく私たちの姿。

 

 

 ……殺したくない。

 

 

 そんな一瞬と言うには少しだけ長すぎる葛藤は、絶好の機会を不意にしてしまった。

 

「――サクラコ様ぁ!!」

「っ!?」

 

 ヒナタの痛烈な叫びによって現実へと引き戻される意識。

 と、同時に。目の前に迫ってきていた物体を回避出来たのは奇跡……否、ヒナタの叫びのおかげだろう。

 

 地面に押さえつけられていた化け物は、錫杖の先端を砕きながらヒナタを弾き飛ばし、握っていたEye of Horusをサクラコに投擲したのだ。

 

 サクラコの明確なミスに、周囲のシスターは困惑の瞳をサクラコに集めていた。

 だがその非難の籠った眼差しすら吹き飛ぶほどの衝撃が周囲を襲った。

 

 

「グルゥ――ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 今まで薄れていた筈のマゼンタ色の光が吹き出し、溢れ、化け物を覆う。

 例え二度と元の居場所に帰れなくとも、例え一言も言葉を交わせない可能性があろうとも。

 例えこの身がどうなろうとも――化け物は奇跡を掴みたかった。

 

「な、なんですか……アレは……」

 

 変貌した化け物を前に、マリーは怖気の混じった言葉を漏らす。

 それは周囲も同じ気持ちだった。

 先程まで人型を維持していた筈の生き物が、今は四つ足の畜生に変わって周囲に鋭い眼光を飛ばしている。

 

 頭部は人で、体は獣。

 言い表せぬ嫌悪感が湧いてくるのも当然の話だった。

 誰もが静観せざるを得ない現状に、唯一状況を動かせる獣はその足を僅かに曲げた。

 

「ぃっああああああああっ!?」

「「「!?」」」

 

 突如、獣が消えたかと思えば、観客席の一角から悲鳴が轟いた。

 複数のシスターの両腕がズタズタに裂かれており、夥しい程の出血をしながら銃を手放して痛みに呻いていた。

 

 ――傷口は浅い、けれど。

 

 気絶をしていない、痛みに叫ぶ余裕がある、幾らでも再起可能な怪我であるとサクラコは判断が付いた。

 しかし、残光しか目に映らない程の速度で大勢のシスターたちが傷付けられていく。

 今この瞬間だけで言えば全体の半分を戦闘不能に、もう半分を恐慌状態に陥らせていた。

 

 立て直さねばならない。自身の迷いによって生んでしまった失態なのだ。

 だがどう言葉を投げるのが正しいのかが、分からない。

 

 ――瞼の裏に浮かぶのは、傷だらけになりながらも檄を飛ばし統率を取り戻した苛烈な炎の姿のみで。

 

(わたし、には……ナギサさんのようには――)

 

 今尚行動に移せない自分に絶望する。反して迅速に動いていた光景に目を焦がす。

 今尚悩み続けている自分に失望する。反して苦悩を見せずに事態の対処を熟していた過去に目を焦がす。

 今尚打開策が見当たらない自分に唾棄する。反して――反せず、憎み続けた自身を彼女はどんな対処をした?

 

「ひっ……やっ、ぁあああああああああ!!」

「あ――」

 

 近くに居たシスターたちが悲鳴を上げて、漸く意識が浮上した。

 顔を上げ、眼の前で輝く光に視線が吸い寄せられる。

 

 それは確かに死の化身のようで、それを受け入れる事こそが正しい様に思えてしまって。

 耄碌した心はそんな見当違いの答えを出して、サクラコは呆然と突き立てられる爪を眺める事しか出来なかった。

 

「――シスターサクラコ!!」

「……ヒナタ、さん?」

 

 サクラコの心臓を貫こうとした爪先は、ヒナタの錫杖によって防がれた。

 錫杖が僅かに押し返すと、獣はすぐにその場を飛びのいて闘技場へと離脱した。

 最低限の安全を確認し、横目でサクラコを見てすぐ視線を戻して続けた。

 

「シスターサクラコ、今一度、退いてください……少しばかりなら、足止めだって出来ますから」

 

 その表情を窺い知ることは出来なかった。

 ただ有無を言わせぬヒナタの決断を覆す程の答えも、サクラコは持っていなかった。

 

「――シスターマリー!」

「はっ、はいっ!」

 

 負傷して、とりわけ一人で動けないシスターたちを戦線から離脱させていたマリーは突如その名を呼ばれ驚きながらサクラコに返事を返す。

 

「HQへ、一緒に来て下さい」

「わ、わかりました!」

 

 観客席から姿を消そうとする二人を、獣は見ていなかった訳ではない。

 無防備な背中に傷をつけてやろうと、地を駆け一足飛びに接近する。

 

「――行かせません!」

「グルゥァアア!!」

 

 マリーの背に迫った鋭い爪は、近くの負傷したシスターがその身を呈して妨害する。

 獣の雄叫びが間近に迫り振り返るマリーの足が思わず止まるが、件のシスターは笑ってマリーを見送った。

 

「っ……すみません!」

 

 直後に背後から銃声が鳴り響く。

 マリーが観客席と外を繋ぐ通路を渡り切った後、近くで爆発が起こり天井が崩落した。

 観客席へ続く通路が瓦礫によって塞がり、もう獣が追ってくることは無いと理解する。

 

 表情を固くしながら、マリーはHQ……正義実現委員会の仮拠点へと向かう。

 心配も感謝も、今は不要な感情で。

 必死に繋いで貰った今を生かす為に、マリーは駆けて行った。

 

 ここで立ち止まっている暇など、無いのだから。

 

 

 

 

 

 ♢ ♦ ♢ ♦ ♢

 

 

 

 

 

 声をかけたマリーが襲われて、周囲がそのフォローをして。

 サクラコの胸中には言い知れないドロドロとしたものが溜まって行っているのが分かった。

 

「サクラコ様も、早く」

「ヒナタさん……ご武運をっ……!」

 

 獣に撃ち続けていたマガジンを交換しながら、ヒナタはサクラコを急かした。

 全員を安全圏に――なんて、そんな夢物語な欲が漏れ出る前にサクラコも観客席を後にする。

 

 背後から遠ざかっていく足音に安心しながらも、汗を滲ませながら獣の方を見やる。

 

(とは言いましても――)

「ガアァオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

(アレ相手に、どれだけ持ちこたえられるでしょうか……)

 

 マリーが通った連絡通路付近に居るシスターたちは、皆既に気を失っている。

 今遠吠えを上げている獣が、周辺のシスターたちを蹂躙したのだ。

 まるで恐怖を振り撒く叫びだと、思わず震え出しそうになる体を抑えながら銃をホルスターに仕舞い、先端の欠けた錫杖を両手で握りなおす。

 

(見てから避けられた……ならば誰かが、あの獣を押さえなければなりません!)

「参ります!」

 

 怖気を振り切る様に、ヒナタは駆け出す。

 既に獣は近くに居る別のシスターたちを襲い、悲鳴を轟かせている。

 近くに三叉槍を持つシスターも居るが何度か空振りした所で武器を持てない程に傷つき、その身を縮こませながら痛みに呻いていた。

 

「失礼!」

 

 気絶したシスターの近くに転がっている銃を蹴り上げ、残っている残弾を適当に獣に向かってばら撒く。

 殆どのシスターたちが倒れ伏しているおかげかフレンドリーファイアこそしなかったが、余裕をもって此方を見る獣にも銃弾は当たらない。

 

「えいっ!」

 

 残弾の無くなったアサルトライフルを手放し、獣に向かって蹴りつける。

 が、銃弾よりはるかに遅いその銃に易々当たる獣ではない。

 

 悠々とその身を翻し、僅かに四つ足全てが地面から離れたのが見えた。

 

(――これなら!)

 

 獣に空中機動など出来まい――アサルトライフルを手放した時、ヒナタは自身のマグナムを手早く掴みアサルトライフルを蹴り飛ばした頃には獣の着地点に狙いを定めていた。

 マグナムが火を噴き、致命打には成らずとも確実に負傷させる――筈だった。

 

「なっ……」

 

 地面に着地する直前、獣はモーターのように空中で乱回転した。

 落ちる筈だった肉体は重力に逆らい、僅かに軌道を変えてヒナタの渾身の一撃を紙一重で躱した。

 

 不味い――。

 そう脳が判断を下すと同時にマグナムを乱射するが、獣はヒナタの撃つ弾丸をすり抜けるようにして躱しながら一気に距離を詰める。

 

「ひゃっ!?」

 

 裂かれるような痛みと共に、ヒナタの手の中が軽くなる。

 高速で走るテールランプの様な残光に誘われるように振り向けば、獣がヒナタのマグナムを咥えながら見下ろしていた。

 

「……っ!」

 

 見えなかった。獣が自身の手を裂いた瞬間を。

 見えなかった。獣が自身の銃を盗んだ瞬間を。

 

 すぐさま錫杖を構えるが、動けない。

 此方から追っても、到底追いつけることの出来ないスピードだ。

 

 生唾を飲み込みながら、獣の一挙手一投足を見逃すまいと睨みを利かせる。

 そんなヒナタを気にも留めずに、獣は咥えたマグナムを地面に落とし前足で傷をつけていく。

 

 ヒナタは……それを黙って見ていた。

 酷く腹立たしいし、黒い感情が芽生える自身をハッキリと自覚してはいたが気を取られている余裕が無かった。

 何よりその銃を弄ぶ行為が――ウォームアップの様に見えてしまったから。

 

 そしてヒナタの予想通りに、獣は前足で銃を思い切り踏みつけて――跳んだ。

 

(はやっ――!)

 

 真正面から跳び込んできた獣の姿は確かに捉えていた。

 だが、振り下ろした錫杖には掠りもせずに、残光と共に照らし出される新たな傷だけが獣が通り過ぎた事だけを伝えていた。

 

「……うぅ」

 

 光を追って振り返るが、獣は既に動作を終えて此方を観察し続けている。

 風貌の異形さ、手の届きようもない圧倒的な速度、体の芯まで凍らせるような雄叫び。

 ヒナタは恐怖で動けなくなりそうになる心を奮い立たせ、必死に、そして再び、錫杖を構えなおす。

 

 獣に敵わないと知りながら。

 

 

 

「くぅ……! いったっ! このぉ!」

 

 眼の前を過ぎる残像、残光。

 振り下ろす錫杖の先には虚空しか無く、獣に翻弄され続けながらもヒナタは何とかその場に立ち続けることが出来ていた。

 だが、ツルギの様な治安維持部隊でも無いヒナタには逆転の手立てが思い浮かばない。

 ジリ貧だ。荒い息を吐き出しながらも闘志を燃やし、なんとか獣へと錫杖を構える。

 

(……援軍は、望めそうにありませんね)

 

 正義実現委員会は壊滅状態。救護騎士団は後方支援で手一杯。我々はこのざまで――他は?

 一応、頭数と言うのであればサンクトゥス派の人達が無事だった筈だ。

 けれども、戦闘経験は薄いだろう。

 誰かこの獣を押さえられる人が居れば一山幾らの攻撃部隊でも使い物になるだろう。

 だがそんな人材は――。

 

(ETO機構なら!)

 

 そうだ、居た。

 戦闘経験も問題なく、頼っても問題ない組織が一つだけ。

 ……たった一つの欠点を除けば。

 

「グルルルッ」

「うぅ……!」

 

 唸り声と共に、獣の姿勢が低くなる。

 先程刻みつけられた全身の傷が痛むような気がしながらも、ヒナタは獣に踊らされるしかない。

 

 たった一つの欠点。

 それは、呼んでくるまでの間――誰がこの獣を止めるのか。

 そんな至極当然で、仲間たちが周囲で倒れているヒナタにとって文字通りの死活問題が重く圧し掛かった。

 

(私が最後まで……? む、無理です!!)

 

 歯を食いしばり、錫杖で獣の攻撃を防ぎ続けるが、その全てが防げるわけではない。

 そして、高速で振るわれる爪を予測しながら錫杖で庇う、そんな真似が一切の消耗をせずに行えるわけがなかった。

 精神力が摩耗しながらも、ヒナタは必死に探し続けていた。

 

 この獣を倒す方法を。

 少しでもダメージを当たる方法を。

 

 そして、見た。

 

「――皆さん! 私ごと、発砲を!!」

 

 残光の奥で、手出し出来ぬまま此方を見つめる仲間たちの姿を。

 僅かでも弾丸を当てられればどれ程通用するのかが分かる。

 そうでなくとも、乱射されればそれだけ獣の逃げ道を塞ぐことが出来る。

 

 そう、思っていた。

 

「ガァ!」

「えっ――」

 

 突如、獣はヒナタから距離を取り銃を構えだしたシスターたちに視線を向けた。

 まだ、撃ってすらいない。準備する音も碌に此方に響いていなかったと言うのに。

 なのに、何故。

 

 獣の横顔を呆然と見つめ、マゼンタ色の光を吹き出しながら低くなっていく体制に悪寒が走る。

 そこで靡いた髪の隙間から耳が見えた。

 

「まっ、み、みなさん逃げてぇ!!」

 

 咄嗟に獣に体当りを仕掛けるが、もう遅かった。

 獣は引き絞られた矢のようにヒナタの横を通り過ぎ、一つの光点と成ってシスターたちの間を駆け回り、子供が引いたぐちゃぐちゃの線のような残光だけが瞳に映った。

 

 シスターたちの絶叫が観客席を包みながら、ヒナタは唇を噛みながら獣を睨みつける。

 

(人の頭をしているのならば……私たちの言葉の意味を分かる可能性は、確かにあった……! それを軽んじて――)

 

 ヒナタの後悔など知ったことでは無いと、返す刀で獣はヒナタに襲い掛かる獣。

 精彩を欠いたヒナタの防御など無いも同然と言わんばかりに、腕に、足に、体に生傷を増やされて行く。

 だがヒナタは体以上に、心が痛かった。

 

「たあっ!!」

 

 やけっぱちの様に見える、渾身の振り下ろし。

 事実、ヒナタはこれ以上耐えられる気がしなかった。

 一か八か、破れかぶれの一撃だった。

 

 獣は――あろうことか、回避ではなく迎撃を選んだ。

 振り下ろされる錫杖に合わせ、自身の前足を突き出す。

 

 ヒナタに軍配が上がりそうな衝突は、錫杖が折れた事によって決した。

 

(……あぁ、そう言う事ですか)

 

 不運だの不幸だのと言える決着だったが、ヒナタは見誤らなかった。

 恐らく獣は錫杖で防がれる度、何度も同じ場所を攻撃していたのだ。

 勝てる見込みがあったからこその衝突。

 自分とは自力、経験、何もかもが違っていた。

 

 やけに緩やかに流れる時の最中、ヒナタは歯噛みし――次の瞬間には空高くかち上げられた。

 

「――がっ!!」

 

 空中で動くことすら出来ず、ヒナタは頂点から地面へと叩きつけられた。

 呻き声一つ漏らし、何とか立ち上がろうとするが……もう腕すら動かなかった。

 

(……だ、だれか)

 

 朦朧と、消え入りそうな意識の中、ヒナタは願った。

 自分の為ではなく、仲間のシスターたちの為に。

 

 誰かこの獣を止めてくれと。

 既に意識の落ちたシスターたちの命が悪戯に刈り取られぬのように、誰か……と。

 

 ヒナタの祈りは――誰にも届かなかった。

 一歩一歩、此方に近づく獣に対し力無く睨みつける事しか出来ないヒナタ。

 その前足がヒナタの息の根を止める為に振り下ろされるのだろうと、僅かに潤んだ瞳で見つめて……目を閉じた。

 

 覚悟があろうとも、痛いのは、怖い。

 そうして一秒、十秒と時間が過ぎ――ヒナタはまだ生きていた。

 

 

 

「……ぅぇ」

 

 手放しかけた意識を何とか手繰り寄せ、瞼を開く。

 眼の前に居た獣は此方ではなく、闘技場の方へ視線を向けていた。

 

 一体、何が。

 残った力を振り絞り動かした視線の先には、満点の輝きを放つ光輪を携えた人が居た。

 

 その穏やかな光を浴びて、ヒナタの意識は完全に闇に落ちた。

 

 ヒナタの祈りは誰にも届きはしなかった。

 ただ、バケモノを止める為に動いていた奴は居たのだ。

 




このコメントが残されていると言うことは私は続きを書き終える事が出来なかった訳ですね……
明日は更新されませんのでご留意を
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