着いた。フキヨセジムだ。
飛行機を降りてから機内アナウンスで流れてきた番号に電話すると、今日でよければ話を聞かせてほしいと言ってくれたので、二つ返事でOKしてフキヨセジムに突撃した。
「にしても、閉まってんのかな?」
中を見たわけではないのだが、建物の中から活気を感じられない。ジムってもうちょっと人の集まってる場所のイメージなんだが……。
「失礼します。貴方がシバリさんですか?」
「あっ、はい。俺……じゃない、私がシバリです」
「ふふっ、そんなに固くならなくて良いですよ。就職活動でもないですしね」
「……すみません」
声をかけてきたのはスーツ姿の女性だった。この人もジムトレーナーなんだろうか。
「さて、話は中でしましょうか。裏口から入りますので、ご案内いたします」
「裏口、ですか……?」
「はい。裏口ですが……何か?」
え、それって所謂
「……なんかいいですよね。裏口って」
「……大丈夫かしら、この人」
あれ? もしかして今のでバイト落ちた?
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「さて、では面接はここでやりましょうか」
「へ?」
連れてこられたのはジムにあるバトルフィールドだった。裏口から入ったとはいえ、本来ジムの設備として解放されているフィールドだろう。
「あ、あの。面接って、なんか、どこかの部屋とかで座ってやるものだと思ってたんですけど……」
「? ……なるほど、もしかしてジムトレーナーの応募は初めてでしたか?」
「えと……はい。すみません……」
「いえいえ、謝る必要などありません。ご説明させていただくと、ジムトレーナーの面接は基本このようなフィールドのある場所でやるものなのです。腕前を見る必要があるのに、いちいち場所を移動するのは面倒ですからね」
な、なるほど……? つまりここで色々話をしたあと、すぐに腕前のチェックをされるってことでいいのか……?
「ありがとうございます、理解しました。でもその、ここってチャレンジャーが使うかもしれないフィールドなのでは……?」
「ご心配なさらずとも、本日はチャレンジャーはいらっしゃいませんよ。本日は営業はしてませんから」
「あ、そういうことですか」
なら大丈夫か。道理で外から見たときに活気がなかったはずだ。
「実はとある事情で欠員が出ておりまして、そのせいで人員配置が足りずにジムが営業出来ていないというのが背景になります」
「なるほど。つまり、その人の枠を一時的に埋めたいからこその短期募集ってことですね?」
「その通りです。期間としては長くても1~2カ月程度になるかと」
そんくらい働けばそれなりの資金は稼げるかな。夜は基本ポケモンセンターで寝泊まりすれば良いし、贅沢しなければお金が減ることはないだろう。
「さて。では本題に入りますが、お使いになるポケモンを見せていただけますか?」
「はい。出てこい、ムクホーク」
「ホー!」
ボールから飛び出したムクホークを見て、女性は少し驚いた様子を見せた。
「ムクホーク……。イッシュのポケモンではないですね。確かシンオウの……?」
「そうですね。シンオウ地方です」
捕まえたのは俺の地元なのだが、多分マイナーすぎて『どこそれ』とか言われそうなので、シンオウ地方ということにしておく。
実際生息地としてはシンオウ地方だし、嘘は言ってない。
「あまりない事例ではありますが……話題性にも繋がりそうですし、良いですね」
「ありがとうございます」
おっ? 結構好印象か? 最初の失言巻き返せてる?
「ちなみに、もし得意な技などあれば教えていただけますか?」
「ブレイブバードです!!!」
「ホォ!!!!!!」
あ、やべ。2人してやらかしたかもしれない。
「……ブレイブバード、ですね。なるほど、ムクホークの使用する技の中では確かに威力の高い技です。ロマンもありますし良いですね」
「えっ?」
あれ? なんか大声出しちゃったけど大丈夫そう?
「そ、それじゃあ──」
「──ですが」
えっ、上げて落としに来る感じ?
「例えばブレイブバードを打ちすぎて、反動負けすることが多発するなどしたら困りますね」
ああ、なるほど。そういう懸念ね。
「それなら大丈夫です。無反動なんで」
「なるほど無反動。それなら──はい?」
「え?」
「ホ?」
─────────────────────────
「──不採用です」
「ちょちょちょちょちょ! ままままま、まっ、待ってください! 証明したじゃないですか! ほら、無反動じゃないですか!!」
「そこではありません! 無反動を疑ってしまったのは申し訳ありませんが、そこではありません!!」
「じゃあ、どうして──」
「このムクホークは
「そんな!?」
とんでもない理由で不採用にされてしまった。こんなの抗議せずにはいられない。
「強すぎる!? そんな訳ないじゃないですか! 俺バッジ0個ですよ!?」
「どこの世界にバッジ0個で無反動ブレバすてみタックルをかます無法ムクホークを育てられるトレーナーが居るんですか!! 貴方あれでしょ! 他の地方でチャンピオンとかなってるでしょ!!」
「なれるわけないじゃないすか! そもそも旅に出たのだって2週間ちょい前ですよ!?」
「2週間ちょいでジムバッジ8個集めてチャンピオンになったんですか!?」
「だからジムバッジ集めてないって言ってるじゃないですか!!!」
は……話が通じねぇ! そもそも俺がチャンピオンなら、その俺と良い勝負をしたヒカリもチャンピオンレベルってことになっちまうでしょうが!!
偶然会った人がチャンピオンレベルのトレーナーだなんて話あるわけないだろいい加減にしろ!!
「……もしかして、別の要因ですか?」
「はい……?」
「不採用にするには理由がめちゃくちゃすぎる。そうなると、俺に気を使ってくれてるんじゃ……?」
「し、シバリさん……?」
「もしかしてあれですか!? 裏口から入ることにテンション上がってたことですか!? それともブレバで大声アピールしたことですか!?」
「違います! そうではありません! 貴方は、本当に──」
「──わぁ〜!! 立派なムクホーク!!」
「へ?」
「ちょっ……!」
いつの間に現れたのだろうか、赤髪で水色の飛行服を身に着けた女性が、俺のムクホークに駆け寄ってきていた。
「お〜、お利口だね〜。よしよし〜」
「ムッ、ムクホッ……!?」
ムクホークは最初こそ驚いていたものの、女性の撫でテクが凄かったのか気持ちよさそうにしていた。
「な、なんで来ちゃったんですか! フウロさん!!」
「だって聞き馴染みのない鳥ポケモンの声が聞こえたんだよ!? そんなの行くしかないじゃん!!」
「聞こえたって……貴女、そんな理由で……」
……な、なんか蚊帳の外になっちゃったな。
あのフウロさんという人もジムトレーナーなんだろうか。とりあえずそろそろムクホークを離してもらわないと。
「あの、すみません。それ俺のムクホ──」
「──ひっ!?」
俺の存在に気付いたフウロさんは、急に悲鳴を上げて後ろに下がった。
「……えっと?」
よくわからんが、好ましく思われていないことはわかる。そして何故か、怖がられているような──。
「……急に話しかけてすみません。びっくりさせちゃいましたかね」
とりあえず踏み出そうとした足を戻し、むしろ今の位置から一歩下がった。
「その、怖がらせたりとか、危害を加えたりとか、そういうつもりはないんです。そこに居るの俺のムクホークなんで、その……」
「……あ、ああ、うん。ごっ、ごめんねっ。その、君は何も悪くなくて……」
な、なんだろう……。別に悪いことしたわけでもないのに、めちゃくちゃ心が痛い……。
しかしこの過剰な怖がられ方はなんなんだろうか。少なくともフウロさんと会うのは初めてのはずなんだが──。
「……あ、ところで、その、採用になります?」
「今蒸し返すんですかそれ!? なりませんよ! あんな無反動ブレバのムクホークなんて──」
「────無反動のブレバ!?」
「おわっ!?」
急に接近してきたフウロさんに両肩を掴まれた。え、ちょっ、さっきまでの怖がりどこいった……!? なんでそんなに目を輝かせて──
「なにそれなにそれ!? どういうことなの!? ダメージを受けないってこと!? どんな鍛え方したらそんな──」
「いやあの、一旦離れ──」
「────………ぁ」
急にフウロさんの顔色が悪くなった。あ、これ、やばそうな気が──
「いやぁっ!!」
「どふっ!?」
突然強く押しのけられてしまった。しかし、直前にアイコンタクトしていたムクホークが既に俺の後ろに構えている。
「ホゥッ!!」
「ぐへっ、ナイスキャッチ!」
「シバリさん! お怪我は!?」
「あ、見ての通り大丈夫です。ムクホークが止めてくれたんで」
そんなことよりも、問題はフウロさんの方だ。
彼女は手を震わせながら、弱々しい目線をこちらに向けていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい。全部私が悪いのに、ごめんなさい。ほんとに、ごめんなさい。私が、私が、わたしが──」
「フウロさん! 落ち着いて!」
面接官さんが急いで駆け寄り、過呼吸気味になったフウロを介抱し始めた。
な、なんだ? 何があってこんなことに──?
──────────────────────────
「……PTSD?」
「はい。その通りです」
面接官さんが別室でフウロさんを眠らせたあと、何があったのかを説明してくれた。
「フキヨセジムは大掛かりな機械を使うので、定期的にメンテナンスをしているのですが、そのためにも男手が必要不可欠なのです」
「それは……そうでしょうね」
「はい。ですが、その……彼女、派手な服装をしているでしょう?」
「……まあ、はい」
「それは言動にも現れておりまして、例えば挑戦者に向かって『アタシと楽しいことしましょう?』と言ったりだとか……」
「あ〜……な、なるほど……」
な、なんとなく察しがついてしまった。あまり想像したくはないことだが、つまり──。
「未遂ではありますが、フウロさんと一緒に荷物を運んでいた男性の職員が彼女を襲ってしまう事件が起きました。偶然付近にいたので助けられましたが、その日からフウロさんは、男性を前にするとこんな感じで……」
「……酷い話ですね」
「はい……。ポケモンのことになると、一瞬だけ先ほどのような以前の雰囲気に戻るのですが……」
そんなことがあれば怖がって当然だろう。さっきはもう少し慎重になるべきだったかもな……。
「ん? つまり欠員って──」
「ご察しの通り、その人物が抜けた穴埋めでございます。ですが、どこに何を運ぶのかは基本フウロさんが同行して指示しているので、その穴埋めを男性に任せるわけには参りません」
「それは……そうですよね」
「ならばと、女性のジムトレーナーに任せようと思いましたが、今までと同じ量を運ぶとなると女性1人や2人では利かないので、それなりの人数が荷物運びに取られてしまうのです。ですから今回、ジムトレーナーの募集をかけさせていただきました」
「なるほど……」
確かにそれなら、ジムトレーナーの枠を誰か雇って埋めれば営業できる。でも……。
「あの様子のフウロさんが、男性トレーナーと戦えるんですかね……?」
「……難しいと思います。酷ですが、ジムリーダーの辞職も視野に入れるべきかとも考えております」
「ですよね……。……ん? ジムリーダー?」
「……知らずに応募したんですか?」
「……はい」
すみません。ほんとすみません。早急にお金が欲しかったんです。
……しかし、女性相手にしか戦えないジムリーダーなんて、何を言われるかわかったものではない。
この先イッシュ地方を気持ちよく旅するためにも、どうにかしてあげたいが──。
「……待てよ?」
「シバリさん?」
閃いた。天才的な発想かもしれない。
これなら旅の資金とフウロさんのこと、同時に解決出来るかもしれない。
「面接官さん。俺のこと雇ってくれません?」
「まだ言うんですかそれ!? だから貴方のムクホークではジムトレーナーなんて──」
「違います。荷物運びとしてです」
「……はい?」
「そして荷物運びに回すはずだった人員はジムトレーナーとしての配置に戻していただいて、1人だけ監視役として荷物運び要員に回していただけませんか?」
「シバリさん、貴方まさか──」
「ええ」
教本にも書いてあった。
「俺を、荷物運び兼リハビリ役として雇ってください!」
偶然最初に出会ったトレーナーがチャンピオンだった人が居るらしい