ロケット団が創設されてまだ間もない頃、サカキはとあるくたびれた研究所に訪れていた。
「失礼する。ヨイチという人物に話があって来たのだが……君がそうか?」
「……ヨイチは私です。何かご用でも?」
まるで生気を失ったような表情をしたヨイチに、サカキは不思議そうに問いかける。
「何故そのような顔をしている? 研究者と言えば寝る間も惜しんで研究する者も多いと聞くが、その顔は研究に熱を上げる者のそれではあるまい?」
「ははっ……ボクの研究はもう終わったんですよ」
「終わった……とは?」
「簡単な話ですよ。スポンサーが居なくなって、予算が降りなくなった。それだけです」
「なるほど。……少し、研究資料を見させてもらっても?」
「構いませんよ。どうせもう、日の目を浴びる機会もないでしょうから」
サカキは適当な棚から目を引いたタイトルが記載されたファイルを取ると、中の資料を読み始めた。
「……ひとつ聞きたい」
「何でしょう?」
「資料に度々名前の出てくる"フジ"という人物は一体誰だ? この場には居ないようだが、共同で研究をしていたということか?」
「……"フジ"はボクの友人で、共同研究者です。この遺伝子研究も、元はと言えば彼が始めたものなんですよ」
「そうか。……で、今はどこに?」
「研究中の事故で、もうこの世には……」
「……すまない。悪いことを聞いたな」
「いえ、良いんです」
会話もなくなり、サカキが資料をめくる音だけが静かに聞こえてくる。
数分か、それとも数十分か。いくらか時間が経ったところで、ヨイチはおもむろに話し始めた。
「フジとは大学で出会いました。彼は学生の頃から研究者としての才能に満ち溢れていて、将来は研究者として名を残すんだろうなと、友人としてどこか鼻の高い気持ちでいました」
「大学を卒業後も、彼とは切っても切れない縁があって、結婚式のスピーチまでやらされたんですよ。結婚してすぐに娘さんが誕生して、幸せそうにしていました」
「でも……妻と娘さんを事故で失ってから、フジは変わってしまった。彼は最愛の妻と娘さんを蘇らせるために、遺伝子の研究に踏み出したんです」
話の途中で相槌を打つなどはしなかったが、サカキはヨイチの話に耳を傾けており、ここまで聞いて納得したように頷いた。
「道理で
「……まあ、結果はこの通りです。研究が成就するよりも前に、フジは亡くなってしまいました」
「研究中の事故と言ったな。……掘り返すようで悪いが、何があったのだ?」
「わかりません。ただ、事故当時この研究所は半壊し、
「……君はその場に居なかったのか?」
「居た……
「?」
「ないんです。そのときの記憶だけ」
言いながら、ヨイチは壊れた空の培養容器に視線を向けた。
「あの中に
「やはり、
「……? すみません、今何と?」
「独り言だ。気にしなくても良い」
サカキは何かを確信すると、読んでいた資料を元の場所に戻した。
「ところで、君は何故この研究を続けていたのだ? 遺伝子研究を始めたのはフジという人物が発端で、その目的も彼の家族を蘇らせるというもの。それに加え、友を失う原因となった研究だ。忌み嫌うのであれば理解できるが、君が研究を続ける理由はどこにある?」
「……フジは、本当に優秀な研究者だったんです。あんなことさえなければ、きっと後世に名を残すようなことを成し遂げていた。……だからこそ、彼が無名のまま終わるだなんて、ボクには耐えられなかった」
「……ほう、つまり君は……」
「なんとしてでもフジの名をこの世に残す。彼は無意味に死んだのではなく、偉大な研究の礎になったのだと。彼の研究には確かに意味はあったのだと。それを証明したかったんです」
「友のため……いや、そのエゴとも言える執念が研究を続けた理由か」
「……まあ、もう終わったことですがね。フジが亡くなった事故をきっかけにスポンサーが離れていって、それ以来残った資金でどうにかやりくりをしていましたが、それも底を尽きました。ここらへんが潮時です」
どこか自虐気味に笑うヨイチを見て、サカキは笑みを浮かべながら口を開いた。
「それで良いのかね?」
「……はい?」
「だから、ここで諦めて良いのかと聞いているのだ」
「……気持ちでどうこうなる問題ではないんです。お金がなきゃ、研究は続けられないんですから」
「そんなことを聞いているのではない」
「諦めたいのか、諦めたくないのか。君の気持ちを聞いているのだ」
その言葉に、ヨイチはギリッと歯を鳴らしてサカキを睨みつけた。
「諦めたくないに決まってるだろ!? 続けられるならボクも研究を続けたいさ!! でも、気持ちだけで続けられるほど現実は甘くないんだ!!」
「だからボクはどうにか自分を納得させて、踏ん切りを付けて、それで──!!」
「もう良い。その気持ちを聞ければ十分だ」
「何を……!?」
サカキはヨイチに近づくと、手を差し出した。
「資金は私が出そう。その研究、続けてはみないか?」
「──は?」
「いくらあれば当面の心配は無くなる? 言い値で出そう」
「ちょっ……ま、待っ……!?」
急な提案に、ヨイチは慌ててサカキの言葉を止める。
「ほ、本気ですか?」
「ああ、本気だ。この素晴らしい研究が埋もれてなくなってしまうのは実に惜しい。是非とも君にはこの研究を続けてもらいたい」
「……言っときますけど、
「騙す? ……ふっ、そうだな。そういうことにしても良い」
「え?」
「
「……はぁ」
ヨイチは観念したかのように笑うと、サカキの手を取った。
「どうせ失うものは何もありません。その手、掴ませてもらいますよ」
「そうか。だが、話を受ける前にひとつだけ伝えておくことがある。私は悪の組織ロケット団のボスだ。その援助を受けるということは、君もつまり──」
「どーでも良いです。そもそも貴方カタギの顔してないじゃないですか」
「言うではないか。では、これからは悪の組織の一員として研究してもらうとしよう」
「構いません」
もう一度立ち上がる機会を与えてくれたサカキの顔を見ながら、ヨイチは表情を引き締めた。
(見ていてくれフジ。ボクは必ず君の名前を世に残す)
(それが例え、悪名になったとしても──!)
「おぞましい技術ね。しかも再現だなんて、シバリにでもなったつもり?」
「何とでも言ってくれて構わないよ。ボクがこれからやることに変わりはないからね」
睨みつけてくるラズを気にする様子もなく、ヨイチは
「1号。アレを見せてあげなよ」
「スワッ」*1
「スワ?」*2
変な鳴き声が聞こえて首を傾げたヨイチだったが、ムクホークが光に覆われ始めたのを確認して、一旦気にしないでおくことにした。
そして、その光にはラズも見覚えがあった。
「その光……もしかして、それって──」
「そうさ。君もイッシュの頃より成長しているだろうけど、それは彼のポケモンだって同じことさ。これはその成長のうちのひとつ──」
「ホォォォォォォォォォォッ!!」
「──道具を必要としないメガシンカ。彼は確か、セルフメガシンカと言っていたかな?」
「ッ……!」
「ボクの作り出したコピー体は、本体が一定距離の範囲内に居ると、その遺伝子情報を基に
「そ、そんな……。そんな、ことって──」
「それじゃあ始めようか。すぐに終わらせて──」
「ごめんちょっと待って」
「え」
ラズはヨイチを静止すると、シバリの方に駆け寄った。
「ね、ねぇ……? あれって、シバリのムクホークも出来るの……?」
「へ? そ、そうだけど……」
「……め、メガストーンは?」
「……使わない」
「…………ムクホークナイトは……?」
「………………使わない」
「そ、そうなのね……? そ、そっか。そっかぁ…………」
ラズはカタカタと震えながら、肌身離さず身につけていたメガバングル*3を淀んだ瞳で見つめると、能面のような表情でヨイチの方に振り返った。
「つまりアンタが全部悪いってことね……?」
「いやそうはならないでしょ」
なっとるやろがい。(ラズの中では)
「決めたわ。アンタのことは全力で叩き潰す」
「意味のわからない冤罪が気持ちにこもってる気がするけど、まぁいっか」
「──来なよ、"ふいうち"。君のドドゲザンの専売特許だろ?」
ヨイチの言葉に、ラズは特に驚く様子もなく言葉を返す。
「流石に知ってるのね」
「当然、君のデータもあるんだからね。そのドドゲザンを前にして初手の指示をするのは意味がない。何をするにしてもその"ふいうち"を受けてからだ」
「なら話が早いわね。──ドドゲザン、"ふいうち"」
「ドゲッ!!」
ラズの指示を受け、ドドゲザンの"ふいうち"が1号に襲いかかる。
このドドゲザンのふいうちは、変化技であろうが攻撃技であろうが、必ず先制する特異性を持っている。しかし、
(1号はメガシンカしたことでタイプが変わり、あくタイプを半減させることが出来る。半減で"ふいうち"のダメージを抑えて、返しにインファイトを食らわせてやれば、ドドゲザンは倒せる)
(あとは"はねやすめ"や"とんぼがえり"などでムクホークを温存して、後半のエレキブルやメタモン戦に備えれば良い)
余裕を持って"ふいうち"を耐えきった1号を見て、ヨイチはニヤリと笑った。まずは1体目、そう考えてヨイチは1号に"インファイト"の指示を出そうとして──。
それを見ていたシバリは、
「1号!! インファ「ふいうち」──は?」
1号の攻撃よりも早く、
「な、に……?」
目の前の光景を受け入れるのに時間がかかり、一瞬ヨイチの思考が止まる。
そしてその隙を許してくれるほど、ラズとドドゲザンは甘くない。
「アイアンヘッド」
「──しまっ!? 1号っ! 避け──」
「遅い」
避けようとする1号にドドゲザンのアイアンヘッドが直撃し、あっけなく1号はその場に倒れた。
「そんな、バカな……。あの"ふいうち"を二連続で出せるなんて情報は、どこにも……」
「何驚いてるのよ。データがあるんでしょう?」
「……まさか、イッシュの一件のあと、君も成長して……」
「
呆れたような表情でラズは答える。
「
「じゃあ一体、どういう……?」
「……私とシバリは故郷の村で何年もポケモンバトルをし続けてた。今やったのはその戦いの日々の中で生み出され、そして消えていった
「……没、案?」
「あら、そんなことも知らなかったの? この程度のデータすら無いなんて、底が知れたわね。研究者さん?」
「ぐっ……!」
歯を噛みしめるヨイチを、ラズは改めて睨みつける。
「アンタは勘違いしてるみたいだけど、シバリはデータだけで戦うトレーナーじゃないわ」
「想定外のことが起きても対応する臨機応変さだってしっかり持ってる。現にシバリはこの戦法に
「何より、今までポケモンと培ってきたバトルへの情熱と絆がある。それはデータだけじゃ測れない心の力よ」
「でも、アンタのコピーにはそれがない。トレーナーの想いに応えようという気概がない。共に歩いてきた
「データだけじゃ見えない本当のシバリ達の強さが、アンタ達には圧倒的に不足してるのよ」
『でも』と、ラズは続ける。
「シバリを参考にしておいてそんなことにも気づかなかったどころか、アンタは
「その技術にどれだけ熱を注いだのかは知らないわ。興味もない。けど、私にだって見逃せないものがあるのよ」
ラズの圧がどんどんと増していく。シロガネ山の修行にて削がれていた牙が、ここにきて過去のそれを優に超える鋭さとなって顕現した。
常人ではただ前に立っていることすら出来なくなるようなその圧は、対峙しているヨイチを確実に蝕んでいく。
「さっさと2体目を出しなさい。自分がどれだけ不相応な名を騙ったか、その身にわからせてあげるわ」
「ヒッ……!」
彼女の圧に思わず後ずさったヨイチに対し、ラズは黒い笑みを浮かべて一歩前に出た。
「怖がることないじゃない。だって──」
「──アンタが
フジさん媒体によってフジ博士だったりフジ老人だったり生きてたり死んでたりで分岐多すぎるっピ!
今回は亡くなった世界線です。(そこにオリ要素ぶち込んでる感じ)
・シバリ
ふいうち2連撃を見た時に『うわ出た』って顔してた。
・ラズ
シバリの名を貶めるようなことをされたと感じてブチギレ。シロガネ山の修行により鳴りを潜めていた魔王の側面が飛び出してきた。
・ヨイチ
世間から研究を見捨てられたところにサカキに拾われた。
大恩を感じており、いつか返したいと思っている。
・ラズ(ブチギレ魔王モード)
ここぞというときだけ魔王の側面が出てくるようになったことで、以前よりもさらに圧が増した。
とんでもないプレッシャーが相手トレーナーにかかるので、それを跳ね除けられる精神力を持つトレーナーでないと普通に相手することすら難しくなる。
このプレッシャーを跳ね除けられる精神力が相手トレーナーに無い場合、相手の手持ちポケモンにもそのプレッシャーが襲いかかり、コンディションが大幅に減少する。
具体的には全能力が3段階減少する。
(シバリとレッドのみ無条件で無効化可能)
まだ出てない地方で好きなところ(参考にするかも:パート2)
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ジョウト地方
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カロス地方
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アローラ地方
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パルデア地方