幼馴染にフラれたので旅に出ることにした   作:イグアナ

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最初に言っておく

シバリ君を信じろ


12話

 あの洞窟での一件以降、フウロさんは激変した。

 

 電気ショックを作動させることが一度も無くなっただけではなく、なんなら触れても問題ないようになった。

 

 前にフウロさんから書類を受け取ろうとして、指先がちょっと触れた瞬間に電気ショックを食らったのが懐かしい。

 

 しかも最近は監視役のジムトレーナーも付けていない。フウロさんが不要と言ったときはどうしたもんかと思ったけど、何も起こってないからヨシ!

 

 そして何より──

 

「元気になったみたいで良かったです! フウロさん!」

「あはは……心配かけちゃってごめんね?」

「いえいえ! ジムの営業も再開したことですし、俺達ジムトレーナーも頑張らないと! それでは!」

 

 なんと、俺や女性が同伴していれば普通に男性と話せるようになっていた。

 

 これぞリハビリの成果。リハビリ万々歳である。

 

 ただ──

 

「こ、ここっ、怖かったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ちょお──!?」

「ねぇ大丈夫だった!? 私ちゃんと話せてたかな!? 普通だったかな!!」

「普通でしたし大丈夫ですよ! だから、ちょ、離れて──!」

 

 男性と話し終わる度にくっついてくる癖はどうにかしてもらいたい。

 

──────────────────────

 

「二人とも、最近距離が近すぎるのではないですか?」

 

 流石にセツさんに咎められた。そりゃそうだ。

 

 ぶっちゃけ俺に非はないと思うので、少し責めるような視線をフウロさんに向けた。

 

「ですってよフウロさん」

「うん! 気をつけてねシバリ君!!」

「俺自分から近づいたことないんですけど」

「?」

 

 首を傾げるんじゃない。全部そっちから来てるんでしょうが。

 

「……これからは全部回避するか」

「む、良くないよシバリ君。そういうの良くない。お姉さん、男の子はもっと包容力を持つべきだと思うよ」

「自覚あるじゃないすか」

「ほえ?」

「冗談だろ……?」

 

 ガチで悪気のない顔してる。え、マジで言ってる……?

 

「……シバリさん」

「いやちょっと待ってください俺悪くな──」

「貴方には、感謝しています」

「──へ?」

 

 なんか予想の斜め上の言葉をもらった。あれ? 怒られるわけじゃない……?

 

「貴方が居なければフウロさんはあのままだったかもしれません。なので感謝していますし、フウロさんからくっついているのは理解していますが──

 

──常時袖を掴まれていることへの違和感くらいは持つべきだと思います」

「──お?」

「──え?」

 

 横を見ると、確かにフウロさんに袖を掴まれていた。

 

 そういやいつだか男性との会話をする時に袖掴まれたんだっけ。その日からずっとこんな感じにしてるから違和感無くなってたな。

 

「困りますよ2人とも。そんな状態で歩き回っているせいでお二人が付き合っている疑惑まで出ているのですよ?」

「んなアホな……」

「へぇー……! 恋人、へぇー……!」

「……フウロさん、満更でも無さそうな表情をするのはやめてください。そんなことだから噂が──」

「──あー、でも、多分大丈夫ですよ」

「大丈夫、とは?」

 

 だって人の噂も七十五日って言うし。それなら──

 

「俺そろそろ辞めますし、噂なんてそのうち消えますよ」

「…………はい?」

 

 セツさんが言葉を失ったような表情になった。

 

 ん? 短期だったよな? これ?

 

「……えっと、これ短期ってことでしたよね? てことは長くてもあと──」

「い、いやいやいやいやいやいや! た、確かにそういう話でしたけども!……や、辞める!? はい!? ()()()()()()しておいて!?」

「え? はい」

()()()()しておいて!?」

「こんなってなんですかこんなって!!」

 

 フウロさんめちゃくちゃ改善したじゃん! リハビリの成果出たじゃん! どこに悪いところがあるんだ! 俺は仕事したぞ!!

 

「こ、困りますよシバリさん! 貴方は自分が何をしたのかわかってるんですか!?」

「リハビリしかしてないですよ!?」

「そのリハビリが問題なんですよもぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 こんなに取り乱したセツさん初めて見たかもしれない。え、なんか不手際あったか……?

 

「……ダメだよセツさん。シバリ君に迷惑かけちゃ」

「……! でも、フウロさん……!」

「シバリ君にだって人生はあるんだから、やりたいようにさせてあげなきゃ」

「フウロさん、でも──────

 

 ────シバリさんに強くしがみつきながら言っても説得力がないんですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

─────────────────────────

 

「……ほんとに辞めちゃうの?」

「まあ、近いうちには」

 

 2人で備品室の物を整理している最中、フウロはシバリに問いかけた。

 

「……も、もうちょっとだけ居ない?」

「ダメですよ。そうやってズルズル行くと出て行くのが億劫になっちゃいますし。……あ、この部品もう古いな」

「……そっか」

 

 シバリが居なくなると考えると、フウロは心がきゅっとしてしまう。

 

 なんだが胸にぽっかり穴が空くような、大切なものが無くなってしまうような──。

 

「──あ」

「ちょっ……!」

 

 足元を見ずに歩いていたフウロは、床に転がっていた備品につまずいてしまった。

 

 正面から床に倒れそうになったフウロだったが、シバリがギリギリ床とフウロの間に挟まり、倒れてきたフウロを受け止めた。

 

「大丈夫ですか!? すみません、そこに物置きっぱにしてて……」

「う、ううん! いいの! 重かったでしょ、すぐに退くから!」

 

 と、フウロがシバリの上から立ち上がろうとしたとき、ふと、彼女の視線が何かを捉えた。

 

「……それって」

「へ?」

「ちょっとごめんね」

「あ、ちょっ……」

 

 突然フウロがシバリの首元に手をかける。

 

 『えっ!? 首絞め!? 俺なんかしました!?』と叫ぶシバリを他所に、フウロは首輪へと手をかけた。

 

「ロックナンバーは、『3』、『7』、『9』、『1』」

「え?」

 

 万が一のためにセツから聞いていたロックナンバーを思い出し、フウロはシバリの首輪を外した。そして──。

 

「──やっぱり」

 

 そこにあったのは酷い痣だった。間違いなく、フウロの電気ショックによるものだろう。

 

「……これ、私が──」

「フウロさんは悪くないです。俺が言い出したことですし」

「でも……!」

「セツさんも心配してくれましたけど、見た目ほど痛くないですよ? 別に大したことは──痛っ!?」

 

 フウロが少し強めに痣を撫でると、シバリは苦痛の表情を浮かべた。

 

「……やっぱり嘘だよ。痛くないわけ、ないもん……」

「フウロさん……」

 

 自分を責めるような表情になったフウロを見て、シバリは少し慌て始めた。

 

「あ、あのっ、その、マジで気にしてないので、こんなの別に──」

「で、でも、私の、私のせいで──!」

「や、ほんとに気にしてないんで、なんならこれ、ほら──

 

──か、かっこよくないですか!?」

 

「……へ?」

 

 思ってもない言葉に、フウロの思考が停止した。

 

 シバリもシバリで自分が何を言ってるのかわからなかったが、ヤケクソ気味で言葉を紡ぎ始める。

 

「だ、だってほらっ! これって、フウロさんのために俺が頑張った証じゃないですか! 男の勲章ってやつですよ!」

「く、勲章……?」

「は、はい! だからそのっ、ほんとに気にしなくて良いというか、むしろありがとうございますというか──!」

 

 わたわたと慌てた様子のシバリとは裏腹に、フウロの思考は冷静になっていった。

 

(これが……勲章? シバリ君が、私のために頑張ってくれた、証……?)

 

 フウロの視線が痣に吸い寄せられる。先程まで自分の罪を示すように見えていた痣が、今ではなんだかとても良いもののように見えてきていた。

 

「これが、私の……」

「……あの、フウロさん……?」

 

 ポーッと顔を赤らめながら痣を愛おしそうに軽く撫で始めたフウロに、シバリは少したじろいだ。

 

「あの、フウロさん。何を──ォ!?」

 

 我慢できず、フウロは痣の部分に口づけをした。

 

 いきなりそんなことをされ、シバリの思考が混乱する。

 

「ちょっ、あの、フウロさん、ほんとに、何を──」

「お礼、したいな」

「……はい?」

 

 顔を赤らめたまま、フウロはシバリに語りかける。

 

「だから、お礼。シバリ君にはたくさんお世話になったから、何かお返ししたいなって」

「え、あ、お給料貰ってるので、別に──」

「ダメ。それじゃ私の気が収まらない」

 

 ピシャリと、フウロはシバリの言葉を否定した。

 

「……でもね? 私、男の人がどんなことをしたら嬉しいのかわからないの。だから……教えてほしいな」

「教える、って……?」

「それは……男の人が、シバリ君が喜ぶこと。もし教えてくれるなら、私──」

 

 シバリに身体を密着させ、フウロは耳元で囁く。

 

「──なんだってしてあげる。それが、()()()()()()()()()()()()()()、ね?」

 

 その言葉に、シバリの喉がゴクリと鳴る。

 

「……い、いいんですね? 本当に」

「いいよ。教えて、シバリ君の喜ぶコト」

「なら、俺は────────」

 

 

 

 

 

 ────────────────────────

 

 

 ──30分後、フキヨセシティ上空。

 

イエーーーーーーー!!!!! 大空サイコーーーーーーーー!!!!

 

 そこには自家用の小型ジェット機で大空を飛ぶ2人の姿があった。

 

「流石最新の小型ジェット!! ムクホークよりもっと速い!!!!

 

 はしゃぎ回るシバリの隣で、なんとも言えない顔をしたフウロがジェット機を運転していた。

 

「ほ、ほんとにこれでいいの……? もっとこう、あったんじゃ……」

「何言ってんですかフウロさん! ジェットですよ! 男ならいっぺん乗ってみたいってもんじゃないですか!!」

「お、男の人ってわからない……!」

 

 フウロは一世一代の勝負のつもりだった。しかしこのシバリという男、そんなフウロの気持ちも知らずにジェットで大空を飛ばせてほしいと要求したのだ。

 

(ゆ、勇気出したのに……! 私、頑張ったのに……!)

 

「さあ行きましょうフウロさん! 俺達風になるんです! もっと速く! もっと速く!!」

 

「も、もぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

 ぐんと速度を上げながら、フウロは心いっぱい叫んだ。

 

 

シバリ君のバカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!




これがシバリ君です。
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