「あ、あの、本当に辞めるんですか? その、まだまだ居てくださっても──」
「や、大丈夫ですよ。欠員も埋まったことですし、長居するのは悪いです」
「むしろ居てくれた方が助かるんですが……」
セツさんがめちゃくちゃ惜しんでくれているが、俺はこの退勤を最後に、フキヨセジムから出ていくことにした。
「……行っちゃうの?」
「はい。もうフウロさんも大丈夫ですし」
「……寂しくなるなぁ」
言いながら、フウロさんは俺の電気ショック君を外してくれている。
いつの間に朝と夕の電気ショック君着脱担当がフウロさんに変わっていたのだが、なんでなんだろうか。
「……痣、消えちゃいそうだね」
「え? あ、そうですね」
指で俺の首元を撫でながら、フウロさんはそんな風に語りかけてくる。
なんでちょっと残念そうにしてるんだろ。
「……そうだ。最後にもう一回、ムクホークを見せてもらっても良い?」
「ムクホークですか? どうぞ」
俺はボールを取り出し、フウロさんの前にムクホークを出した。
「ホー?」
「フウロさんがお前のこと見たいんだってさ」
「ホホウ」
「今ナチュラルに返事したなお前な」
そんなくだらないやり取りをしていると、フウロさんはうんうんと頷いた。
「うん。やっぱりそうかも」
「え?」
「ホ?」
「シバリ君とムクホークって、とっても仲良しでしょ? 私もポケモン達の事は大好きだけど、2人ほど仲は深くないや」
「聞いたかムクホーク。俺とお前めちゃくちゃ仲良いんだってよ」
「ホァ〜?」
「ちょっと嫌そうな顔で引くなよ……」
「あははっ、うん! 間違いないよ!」
フウロさんはそう言って笑ったが、俺には気になることがあった。
「……で、どうして今それを?」
「実はね、こんな話があるの。『真にトレーナーとの絆を育んだポケモンは、限界以上のダメージを受けた時に、トレーナーを悲しませまいと持ちこたえることがある』って」
「そりゃまた、トンデモ根性論すね……」
「あはっ、そうかもね」
でも、とフウロは続ける。
「2人の絆はその話に負けないくらい深いと思う。だからね、いつかどうしても負けたくないバトルがあったとき、シバリ君にムクホークを信じる心があれば、ムクホークは限界を超えて君のために戦ってくれると思うんだ」
「……ムクホーク、そうなのか?」
「ホァ……」
何言ってんだか。とでも言うように溜め息をついたムクホークだったが、不思議とこいつなら、たとえそんな場面が来てもやってくれるような気がした。
「だから、これからもムクホークを大事にしてあげてね。──なんて、最後にジムリーダーらしいことを言ってみるお姉さんなのでした」
「はい。ありがとうございます」
なんだか貴重な話が聞けた気がする。よし、じゃあそろそろ──
「じゃあ、はいっ!」
「……んえ?」
突然俺の方に電気ショック君の首輪が一つ突き出された。
「着けて?」
「え?」
「着けて?」
「え!? さっき外したばっかなのに!?」
「ううん、私に」
「フウロさんに!?」
訳がわからない。どうしちゃったんだよフウロさん……。セツさんも口あんぐり開けちゃってるじゃん。
「……その、訳を聞いても?」
「だって、これはシバリ君が私のために頑張ってくれた証だもん。だからこれを着けてたら、シバリ君が近くに居てくれると思って頑張れるかなって」
「……それにしたって、別のやり方が……」
「やだ。これがいい」
「そんな……」
助けを求めてセツさんに視線を向けたが、セツさんはまだ正気を取り戻していなかった。
くっ、セツさんからの助けは期待できないか──!
「で、でもほら! 誰が間違えてボタン押すかわからないんですよ!? それに、不具合で電気が流れる可能性だって──」
「電気が、流れる……? それって……」
突如、フウロさんはインスピレーションが湧いたような表情になると、考え込むように俯いた。
「つまり、シバリ君と同じところに、痣が……?」
フウロさんがブツブツ呟き出した。あ、あの? なんでちょっと顔が赤くなってるんです?
「……え、えっと? フウロさん?」
「──かも」
「え?」
「──悪くない、かも」
あっ……。フウロさんが壊れた。
─────────────────────
「……はい。着けました」
5分後、そこには諦めてフウロさんに首輪を着けている俺の姿があった。
「ありがとう。……えへっ、似合う?」
「……ノーコメントで」
それ着けて嬉しそうにするのフウロさんくらいだと思う。セツさんも正気を取り戻して諦めたような表情してるし。
「セツさんにはロックナンバー教えてあるんで、外したい時はセツさんにお願いしてくださいね」
「ううん。外さない」
え。嘘でしょ? えっ、着けっぱ? 一生?
「ちょ、ちょちょちょちょちょ! 流石にいつか外しますよね!?」
「うーん、どーしよっかなー。ずーっと着けてたいかも?」
「着けてたいって、そんな……」
どうしたものかと思っていると、そんな様子の俺を見て、フウロさんはクスリと笑った。
「──ならさ、シバリ君」
「私、頑張るから。君が居なくても大丈夫だって、胸を張って言えるようになるまで頑張るから。だから──」
「──そのときは、これを外しに来てね」
そう言って微笑んだフウロさんに、俺は諦めたように溜め息をついた。
「……そのときはセツさんにお願いしますよ」
「やーだ。シバリ君にしか触らせないんだから」
「……はぁ、わかりました。じゃあそのときになったら外しに来ますよ」
「やたっ! お姉さんとの約束だよ? 破ったら酷いんだから!」
「……ちなみに破ったらどうなります?」
そう問うと、フウロさんはニコリと笑みを浮かべた。
「籠の中はお好き?」
「俺は約束を守る男です!! ではまた!」
逆らってはならない。そんな圧を感じながら、俺はフキヨセジムを後にした。
……あ、そうだ。
フウロさんとジェット機に乗ったときの写真、今日の話題としてヒカリに送ろうかな。
─────────────────────────
「ぐぅ……!?」
4人目、最後の四天王であるゴウケンは、チャレンジャーを前になす術なく敗北していた。
「……やはり、強いではないか。聞いていた通り、デタラメな強さだ……」
あまりの呆気なさに驚いているのは、チャレンジャーであるラズも同じだった。
「……冗談でしょ? 終わりだっていうの!? 四天王が!! これで!?」
「君のドドゲザンを倒せただけでも、個人的には大金星なのだがな……」
「馬鹿言わないでよ!? あんた格闘タイプ使いでしょ!? ドドゲザンなんて、突破できて当たり前じゃない!!」
「当たり前……?」
馬鹿を言うな。とゴウケンは思った。あのふいうちは、たとえ格闘タイプであっても容易に耐えることはできない。
キルネアから攻略法を教えてもらうのも卑怯と思い、なんとか自分で見破って突破したまでは良かったが──。
(ギャラドスだ。……あのギャラドスに全て壊されてしまった)
きょうあくポケモン、ギャラドス。
その強面から想像出来るように、ギャラドスは"いかく"の特性を持っていて、大多数のトレーナーは"いかく"のギャラドスを採用している。
しかし、ラズのギャラドスは違った。
(
チラリと、全てをなぎ倒したギャラドスに視線を向ける。
ギャラドスはこちらのポケモンを全て突破したため、攻撃が6段階上昇している……
(驚いた……。まさか、
ラズ曰く、『場に出た瞬間に湧かない自信なんて、過剰どころか自信とすら言えない』だそうだが、ゴウケンからすれば知ったことではなかった。
ちなみにシバリはこのギャラドスを突破していたりする。パワーが凄くても当たらなければどうということはない。ブイ(イマジナリーシバリ)
「……あとはチャンピオンを倒すだけだな、チャレンジャー。君の実力なら、間違いないだろう」
「間違いない……? ふざけないで! そんな、そんなこと──!」
「……ストレートに言わぬとわからぬか? なら、伝えよう──」
「──君は間違いなく、史上最高峰のトレーナーだ。
「ッ──!!」
ここまで言われても、ラズは止まれない。
先が、先があるはずなのだ。だってシバリが、彼女に証明したのだから。
自分以外に期待しても良いと、彼が教えてくれたのだから──。
(──認めない)
ギリッと、ラズは歯を噛んだ。
こんなはずがない。これで終わりなはずがない。
『あら、薄々気付いているのではなくて?
(──ッ、うるさい!)
少し前、キルネアに言われたことがラズの脳内を駆け巡る。
いよいよラズは、この言葉を無視できないところまで到達してきていた。
「……待ってなさい、チャンピオン」
……それでも、ラズは進むしかない。
彼女はもう、戻れないところまで来てしまったのだから。
・フウロ
痣を見たいがために、電気ショック君の着脱担当の交代を要求した。毎度痣に口づけしたい欲が湧いていたが、はしたないと思われたくなくて我慢した。
外しに来なかったらどうなるか?
いやぁ、鳥って籠の中で飼うべきだよね。
・ラズ
来るとこまで来た人
・ギャラドス
バ火力ギャラドス。
攻撃6段階上昇の威力は凄まじく、若干『それ範囲技になってね?』みたいなことをしてくるが、シバリはギャラドスの技の射程距離を経験から覚えているので対処可能。
あくまで攻撃しか上がっていないので、比較的倒しやすい方ではある。
・ヒウンアイス
シバリ君、次回やっと食べれるゾ!