「……そんな」
「ムクホークがやられたときはマジで焦ったけど……よく頑張ったなシャンデラ!」
「シャン!」
メイとのバトルはそれはもう死闘だった。
お互いに最後の1体まで使用し、どちらが勝ってもおかしくなかった。
なんだろう。メイの強さはヒカリに近い何かを感じた気がするんだよな。何なのかはわからないけど。
「なんなんですかそのシャンデラ……火力もですが、
「最初は火力上げようとしてたんだけどさ……なんか、結果的にこうなっちゃって……」
「シャンッ!!」
「おわっ! 暖色系!? 出来てんじゃん!!」
「暖色系って何ですか!? ……もぉ、意味わかんないですよぉ……」
そう言って、メイはそのまま力なく崩れ落ちた。
「あはは……終わりです。私はもう、トウコさんと一緒に居られないんです……」
「いや、あの……だからトウコは俺のじゃ……」
「ホントはわかってるんです。きっとトウコさんは、私よりシバリさんと居た方が楽しいんです。トウコさんが幸せなら、私は、私は……」
言いながら、メイはどんどんと俯いていく。
「……うぅ、寂しいですよぉ……トウコさぁん……」
な……なんだこれ……。罪悪感が酷い……。
お、俺何もしてないはずだよな……? ポケモンバトルに勝っただけなんだよな……?
……ていうか、なんでメイはここまで壮大に落ち込んでるんだ?
まるでトウコが自分の全てだったかのような、この様子は──。
「そ、そもそもシバリさんがこんなに強いなんて聞いてないですよぉ……。そりゃあ、私だって大人げないことしようとしましたよ? でもだからって、
「……なぁ、メイ」
「……なんですか?」
涙目になっていじけていたメイが、ゆっくりと顔を上げて返してきた。
傷心中の女の子に聞くようなことではないけど、もしかして、メイは──。
「その……メイって友達居る?」
「居ますけどぉ!?!!!!?」
あ……うん。その、なんとなくわかったわ。
トウコが居なくなったらそこまで落ち込むわけだ。
「何わかったような顔してるんですか!? 居ますから! 友達居ますから!!」
「……じゃあ、直近で友達と話した内容は?」
「……ジョインアベニューの将来の展望──」
「仕事関係の人は友達じゃないぞ」
「いやあああああああああああああ!!!!!」
俺の言葉に、メイは頭を抱えてうずくまった。
「そうですよ! 居ませんよ友達なんて! 仲良くしようと言って近づいてくる人なんて皆お金とか高級品とか芸能人との繋がりとか、私の……とかとかとかとかとか!! そういうのが目的の人ばっかですよ!」
「お、おう……」
「でも、トウコさんは……。トウコさんだけは、違ったんです……」
「……なるほど」
苦労してたんだなぁ……。そりゃ、トウコの存在は毒にもなるか。
友達。友達……ね。
「……これで私はまた1人ぼっちです。1人でポケウッドで女優して、1人でジョインアベニューの経営して、1人でチャンピオ──」
「じゃあさ、俺と友達にならないか?」
「──へ?」
メイは目をぱちくりさせると、ハッとした表情で立ち上がった。
「──なっ、何が目的ですか!? そんなことで、私が──」
「あー……いや、その。嫌だったら別に……」
「嫌とは言ってないじゃないですか嫌とは!」
よくわからんが嫌ではないらしい。じゃあ、良いってことなのか……?
「……コホン。しょ、しょうがないですね。シバリさんがどうしてもと言うのなら、今日からお友達になりましょう」
「……や、そこまで言うなら──」
「
「……わかったよ」
涙目で圧をかけられた。
どうやらこちらから懇願しなければならないらしい。どういうことなんだよ……。
「……メイさんとどうしてもお近付きになりたいので、どうかお友達になってください」
「棒読みでまったく思ってなさそうな顔をしてるところが気になりますが、良いでしょう! 今日から私達は友達です!」
握手です! と言って手を出されたので、その手を握り返すと、メイは嬉しそうにブンブンと振ってきた。あ、そんなに喜んでくれるのね……。
「では連絡先も登録してしまいましょう。どうぞ」
「じゃあこれで──よし。俺の方は登録完了」
「私も登録完了です! それじゃあ早速──」
「──明日からの私のスケジュール。これから全部送りますね!!」
「……ん?」
聞き間違いか? 今スケジュール全部送るって聞こえたんだけど。
スケジュール合わせのためなら休日の情報だけで良くないか……?
「それと、これからは毎晩1時間ほどお電話しましょう! お友達なるもの、毎晩楽しく電話をするものですよね!」
「……え?」
と、友達ってそんなんだったか……? 変な雑誌の影響とか受けてない……?
「あ、そういえばトウコさんから聞きましたけど、シバリさんってポケモンセンターに泊まってるんでしたっけ? むー……窮屈でしょうし、私の別荘を1つあげましょうか?」
「……ごめん。ちょっと待って」
「はい?」
……そうだ、思い出した。そういやトウコもメイのこと話してたっけ。確か──。
『……そういや、メイっていう後輩みたいな感じの子が居てさ』
『おう』
『良い子だし、可愛い子なんだけど、その……』
『その?』
『その、ちょっと
……
────────────────────────
夕方。俯きながら重い足取りで進む、一人の少女の姿があった。
(……何してんだろ、私……)
あのときチャンピオンの間から逃げるように飛び出したラズは、そのまま自らの育った村へと向かっていた。
(わかってたはずなのに。私の求めるものなんて、村の外には無いんだって)
彼女は他人に期待していなかった。だから村の外への興味など、本来持つはずはなかったのだ。しかし──
『ほらねラズちゃん! 僕だってやれば出来るんだよ! まだラズちゃんには及ばないけど、隣に立ってみせるから! 絶対1人にしてあげないからね!!』
1人の少年の努力が、彼女の他人への期待を取り戻した。
ここで終わっていれば、この話はハッピーエンドだったのかもしれない。
しかしそうはならなかった。少年の頑張りを見続けていた彼女は、あるとき思ってしまったのだ。
この小さい村にシバリのような存在が居るなら、
幸せな日々が続いていたはずなのに、ラズの中でどこか強まっていった期待と好奇心。そして気持ちが抑えきれなくなったあの日──彼女はシバリに宣言した。
『決めた! あと1年経ったら私、旅に出る!』
『言ったでしょ? 私はポケモンバトルの強い人がタイプなの! きっとこの世界のどこかには私よりも強い人がいるはず! だからジム巡りがてら強い人を探すことにするわ!』
(……ばかばかしい。私はシバリが居れば幸せだったのに。……シバリしか、居なかったのに……)
そう考えながら、ラズはカバンから一冊の本を取り出す。
それはシバリから借りていた教本だった。返しそびれた……わけではない。
彼女は意図的に、この教本を返さずに旅に出た。
(……今の私にはシバリに合わせる顔がないけど、これがあれば"返す"という名目で会いに行くことが出来る。……とんだ卑怯者よね。自分からシバリを捨てておいて、私は最後までシバリとの繋がりを捨てられなかった)
自己嫌悪しつつも、彼女はゆっくりと進んでいく。
(今の私を見たら、シバリはどう思うのかしら。……怒る? ざまぁ見ろと笑う? )
(……会うのが怖い。シバリが私にどんな目を向けてくるのかわからないのが怖い。……私が悪いのに。私のせいなのに……)
(……でも、それでも会いたい。私にはやっぱり、シバリしか──)
「あらラズちゃん、帰ってきたのね!? ごめんなさい、シバリなら今旅に出ちゃってて……」
「────…………へ?」
彼の自宅を訪ねたラズが聞かされたのは、シバリの不在という事実だった。
『会いたくない』と言われる可能性や、『どの顔で』と言われることも覚悟していたが、そもそも彼が
「た、旅って、どうして……!?」
「自分探しの旅って言ってたわよ? 色々見て回るんですって」
「そん、な……」
たとえ酷い言葉を言われたとしても、今は会えればよかった。会えなくとも、せめて声さえ聞ければよかった。
そう思っていたラズの希望は、あっけなく打ち砕かれた。
(な、なんで……急に、旅なんて……)
ラズの視界が揺れていく、自分の脚でまともに立っていられなくなる。
そして、彼女が限界を迎えようとした、そのとき──。
「そういえばラズちゃん。
「は、い……?」
シバリの母の言葉に、ラズの意識が引き戻される。
「な、なんで、謝るんですか? し、シバリが、何を──?」
「だってラズちゃん──
「──何、を……?」
知らない。彼女はそんなことを認識していない。
むしろ、酷いことを言ったのは自分だと彼女は思っていた。それなのに──。
「あの日、シバリが酷い顔で帰ってきたから訳を聞いたのよ。そしたら、酷い事をたくさん言って、ラズちゃんを怒らせたって」
「なん、ですか、それ……」
「なんとか次の日には謝りに行くようにって説得したんだけど、翌日にはラズちゃん村から出て行っちゃったでしょ? だから、村でも『シバリが酷いこと言って愛想尽かされちゃった』って、話題になってて──」
「…………ぁ」
シバリは村の人達から恋路を応援されていた。
それだというのに、ラズが外からぽっと出の男を連れてくれば、当然面白くないと思う人も出てくるかもしれない。
だからこそ、彼女が連れてきた人が酷いことを言われないように、それで彼女が悲しまないように──
──彼女が旅に出た理由を、シバリは
(──あんな、酷い顔になってたのに……)
傷付いて、自分のことで精一杯だったはずだろう。
しかし彼はその状況にありながら、
「……シバ、リぃ……」
ラズは自分の視界が滲むのを感じた。
(……ごめんなさい、ごめんなさい。貴方は私のことを想ってくれていたのに、私、自分のことしか──)
惨めで、みっともない。彼女は自分をそう思わずにはいられなかった。
「ら、ラズちゃん!? きゅ、急に泣いちゃってどうしたの!?」
「ち、違うんです。なんでも、ないんです……」
ラズは自らの涙を拭いた。今の自分に泣く資格など無いと、そう思ったから。
「……あ、あの。これ……」
「あら? これって──」
教本。シバリと会うための大義名分としてラズが持っていったものだったが、ラズはそれをシバリの母へと差し出した。
「その、返し忘れちゃってて……。帰ってきたら、渡しておいてほしいんです」
彼女は、シバリとの繋がりを手放すことにした。
これがなくとも、シバリに会える人間になるために。
いつかシバリが帰ってきたときに、正直に話せるように。
しかし──
「わざわざありがとね。……でも、もう要らないかもしれないわ」
「え?」
「だってあの子、
「────────ぇ」
──彼女への罰は、まだ終わらない。
「ラズちゃん!?」
シバリの母が止めるのも聞かず、彼女は家へと上がり込んだ。
階段を上がって左の突き当たり。そこが何度も彼女が通った、シバリの部屋だった。
慌ててドアノブに手をかけ、彼女は勢いのまま扉を開く。そして、
「──────……嘘」
彼女の目に映ったのは、まるで最初からそこには誰も居なかったかのような、空っぽの部屋だった。
あるのは空になった本棚と、何も置かれていない机。そのくらいだった。
「嘘、なんで、そんな……こんなのって……」
信じられないような表情で、ラズは本棚に目を向ける。
『……この教本面白そうね。借りていい?』
『やだ』
『ケチ。別にいいじゃない。減るもんじゃあるまいし』
『俺の勝率が減るんだけど』
『男らしくない理由ね……。でも、私はここで貸してくれるような男の人が好きなんだけどなぁ〜?』
『……だーもう! わかったよ! 好きにしてくれ!』
『ふふっ、じゃあ遠慮なく。シバリのそういうところ、結構好きよ?』
『くっそぉ……。思ってもないことを言いおって……!』
ラズが最後に来た時には、もう一冊も入る隙間のないほどギチギチになっていたはずなのだが、今となっては見る影もなかった。
「そ、そんなわけ、ない……。だって、この教本も、確か、この辺りに──」
そう言いながら、ラズは本棚に教本を戻した。
しかしながら、ラズが本から手を離した瞬間、本は当然支えを失ってパタンと横に倒れる。
それがなんだか、今の自分を見ているような気がして──
「ぁ……」
見ていられなくなってラズが視線を逸らすと、彼女の視界に机が入った。
『何? またさっきのバトルのメモしてるの? そんなの頭の中でやれば良くない?』
『天才はこれだから……。あのな、凡人はこうやってインプットとアウトプットを繰り返さないと頭に刻まれないの』
『難儀なもんね……。……ところでそのノート、何冊目なの?』
『231』
『キモ。なんで即答出来るのよ……』
『キモとか言うなよ! 定期的に全部読み返してるから冊数覚えてるだけだって!!』
『……大変じゃない? それって』
『ラズ相手に同じ轍を踏むようじゃ勝てないからな。こんくらいやんないと、勝負の土台にすら立てないよ』
『……そ。ま、せいぜい頑張りなさい』
『余裕そうなのムカつくなぁ……! いつか絶対倒すからな!!』
『ふふ……。
「ぅあ…………」
どこを見ても思い出ばかりで、ラズは立っていられなくなる。
ラズはこの部屋が好きだった。部屋に来る度に増えていく教本やノートが、彼が自分のために時間をかけてくれたのだと実感できたから。
──彼からの愛を、感じることができたから。
しかしこの部屋にはもう、彼女への愛を証明するものはどこにもない。
何故なら彼女は、自らの手で
立つ鳥跡を濁さず。手放した
・シャンデラ
暖色系をついにマスター。やったね!
エンドレスもらいびモードよりは簡単だったらしい。
ほえ〜。
・メイ
友達友達友達友達友達!
・ラズ
この世の終わりみたいな顔してそう