出来らぁっ!!
「シバリさん! ようこそマイハウスへ!」
「お、お邪魔します……」
トウコと話した数日後、俺はメイの自宅に招待されていた。
「そこのソファーに座っててください! お茶淹れてきますので!」
「お、おう……」
俺は鼻歌を歌いながら離れていくメイを見送ると、言われた通りソファーに座り、チラリと部屋を見渡してみる。
めっっっちゃ広い。1人で住むサイズじゃないだろこれ……。テレビもクソでかいし。
「お待たせしました! これお茶とお菓子です!」
「あ、ありがとう……」
絶対高いんだろうなこの茶葉とお菓子。うーん……なんとも落ち着かない。
「ではお隣失礼しますね」
「あ、うん。……うん?」
密着するくらい真隣に座ってきた。え、あの……近くない?
「それで、今日は何します? 発売前のゲームとかもありますけど!」
「それは俺が触っちゃダメなやつでは……?」
メイは広告かなんかの仕事で関わった時にでも贈られたんだろうが、俺がそれを遊ぶのは流石にね……。
「……ところでシバリさん。ひとつ聞いても?」
「ん? いいけど」
「ありがとうございます。……あの、男の人は皆胸が好きだと思ってたんですが、シバリさんは違うんですか?」
「何を聞いてるの?」
マジで何を聞いてるんだこの子は。唐突が過ぎるだろ。
「だってシバリさん、私が腕を組んでも全然そういう目線を向けて来ないじゃないですか」
「……当ててる自覚あったのかよ」
「わざとですから! 友達特権ということで!」
「要らねぇ……!」
注意するかめちゃくちゃ悩んで、結局気まずくなるくらいならと思って黙ってたのに……!
こんなことなら早めに言えばよかった。まさか意図的に当ててるとか思わんやん。
「で、どうなんですか? 興味ないんですか?」
「無いとは言わないけどさ……その」
「その……なんです?」
「……
「はい?」
一瞬メイは固まったが、すぐに正気に戻ってこちらに掴みかかってきた。
「ちょ、ちょちょちょちょちょ!? なんですか慣れてるって!? あれですか!? まさかシバリさん経験豊富なんですか!?」
「んなわけないだろ俺まだ15だぞ!?」
「だったら
「……その」
俺は思い出す。フウロさんをリハビリしていたあの日々を。
「フキヨセジムのフウロさん。知ってるか?」
「そりゃあ知ってますよ。……え、待ってください。なんでそこでフウロさんの名前が出てくるんですか?」
「えっと、だな……」
「……そういえば、最近フウロさんが
そこまで言って、メイはジロリと俺の目を見た。
「まさかシバリさん。まさかとは思いますがシバリさん」
「……はい」
「
「……あー、その。……そうです」
「……なるほど。それなら納得です。あー、なるほどなるほど……」
「そんなのってないですよもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「ちょ!?」
「そもそもなんなんですか!? なんでフウロさんにくっつかれて平気だったんですか!? 手出してないんですか!?」
「出すわけないだろ!? あの人は男の人を怖がってたんだから、万が一……いや、億が一にもそんなことがあっちゃいけなかったんだぞ!?」
「……フウロさん。心中お察しします……」
メイがフキヨセジムの方向に向けて合掌し始めた。なんなんだよ……。
「そりゃあそうですよね。フウロさんのアレを毎日堪能してたのなら、私のを当てられても嬉しいわけがありません」
「堪能とか言うなよ……」
俺だってああしたくてやってたわけじゃないんだからさ……。
「……では、どうしましょうか」
「へ?」
「もう少し先に進めば、シバリさんは喜んでくれますか?」
ずいっと、メイはこちらに距離を詰めてくる。
「私は……その、まだ経験ないですし、恥ずかしいですが──」
アピールするようにメイはソレを俺に押し当て、頬を染めながら言葉を続ける。
「シバリさんが喜んでくれるのなら、私は──」
「……メイ」
それを見て確信する。やはり彼女は──
「……駄目だ。メイ」
「あ……」
彼女の肩を掴み、そのまま俺から引き剥がす。
こんな酷い
「あの……シバリさん?」
「メイ。……こういうの、もうやめないか?」
「えっ……あ、その……。い、嫌、でした……?」
「嫌とかそういうんじゃない。俺はメイに、こんなことは求めてない」
「あ……」
メイの表情が真っ青になっていく。まるで取り返しのつかないことをしてしまったと言わんばかりに。
「ご、ごめんなさい。で、でも、シバリさんがどうしたら喜んでくれるか、わからなくて……。お、お願いです。なんでもしますから、シバリさんの言うこと、なんでも、しますから。だから、だから──」
「──捨てないで、ください。友達のままで、居てください……」
──────────────────────────
いつからだろうか。
メイの周りに人が集まるようになったのは。
(近づいてくる人は皆、私のお金とか、芸能人との繋がりとか、そんなのばっかり)
いつからだろうか。
皆が彼女を肩書きで見るようになったのは。
『あれ、
『キャー!
『あれが
いつからだろうか。
──彼女が自分には価値がないと、思うようになったのは。
(誰も私のことを……メイという女の子なんて求めてない。近づいてくる人に求められてるのは、私が持っている立場とか、お金とか、身体とか、そんなのだけ)
メイは、そんな風に下心を持って近づいてくる人達が苦手だった。
だってそれは自分でなくても良いから。仮に立場を別の人に譲渡すれば、その時点でこの人たちは自分の元へは来なくなるだろう。
そこまで考えて、彼女は思った。
チャンピオン。ポケウッド主演女優。ジョインアベニュー経営者。
これらの立場を抜いた自分には、一体何が残るのだろうと。誰にも求められない人間が、出来るだけなのではないかと。
だからこそ彼女は、お金や物で繋がろうとしてくる人を苦手としながら、皮肉にもそれ以外のやり方で誰かと関係を持つ方法を知らなかった。
これしか自分に価値はないのだと、そう思っていた。
「……あのな、メイ。俺はちょっと怒ってるぞ」
「……ごめんなさい。……そう、ですよね……。でも私、シバリさんが何をしたら喜ぶのかわからな──」
「そういうトコ」
「きゃんっ!?」
急にデコピンされ、メイは額を押さえながらシバリに目を向けた。
「な、なにを……!?」
「あのな。あんまり俺やトウコを馬鹿にするなよ」
「ば、馬鹿になんてしてないです! だって私、私は──!」
「……なら、ちょっとは俺達のこと信じてくれよ」
「──へ?」
シバリの言葉に、メイの言葉が止まった。
「
「で、でも、そうじゃないと、私の、価値なんて……」
「
「そ、そんな……じゃあ、私は、どう、したら……」
「何って、決まってるだろ?」
ニコリと、シバリは笑みを浮かべた。
「──メイが本当にやりたいこと、教えてくれよ」
「え……?」
「んで、それ全部やろう。きっと、凄い楽しいと思う。そんで証明してやる。そうやって楽しいことだけしても、価値なんて出そうとしなくても、俺はメイの前から居なくならないって」
「シバリ……さん」
(価値なんて要らない……? やりたいことだけ、やっていいの……?)
メイはまだどこか迷いながらも、目の前で笑うシバリを信じて、心の奥底に閉じ込めていた本音を引っ張り出した。
「……ほんとは高級フレンチとか、あんまり味がわかりません。お肉とか油っこいものとか、ファストフードとか。そういうのが好きです」
「おっ、健康に悪そうなやつは美味いもんな。わかるよ」
「腕時計とかネックレスとか……正直そんなに興味はないんです。もっと女の子らしいショッピングとかしてみたいです」
「それなら今度トウコも呼ぼう。きっと喜ぶ」
「……トウコさんから遊園地の話を聞いた時、羨ましいと思いました。私も2人みたいに、遊んでみたいです」
「なら今日行くか! ジェットコースターは外せないぞ!」
「…………よ、夜の電話も、ほんとはもっと長くしたいです。朝までとか、寝落ちもちもちとかいうのもしてみたいです」
「それは流石に毎日は厳しいけど……まあいいか! 今日は朝まで付き合うぞ!」
「それから、それから──!」
「……メイ」
シバリが彼女の肩に手を置き、一言告げた。
「やろうぜ、
「〜〜〜〜〜〜っ! はいっ!」
────────────────────────
「イエーーーーーーー!!!!! ジェットコースターサイコーーーーーーーー!!!!」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!(喜)」
「シバリさんシバリさん! 私あの高いとこから一気に落ちるやつやりたいです!!」
「お! 行くか!」
「あとで観覧車も行きましょう!」
「ゔっ……! ……そ、そうだな!」
「なんでそんな覚悟を決めたような顔を!?」
「こちらトリプルチーズマクドバーガーキングです」
「ファ、ファストフード界隈にいつの間にこんな罪深いメニューが……!?」
「名前大丈夫なのそれ?」
「あとモスポテトってやつとロッテリチキンってやつも頼んでみました!」
「だから名前大丈夫なのそれ!?」
「こういう髪留めみたいなワンポイントがあると結構印象変わると思いませんか?」
「そうだな。……俺も久々に着けるか」
「? 着けるって──ヴァッ!? なんですかその眼鏡!?」
「トウコが選んでくれてさ。やっぱこういうのって印象結構変わるよな」
「……シバリさん。それ禁止で」
「え」
「私とトウコさんの前以外では禁止です! ダメですからね!」
「えぇ……」
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日が暮れる頃、メイの提案をほぼほぼやり尽くした2人は帰路についていた。
「楽しかったー! メイはどうだった?」
「……こんなに楽しんだの、久しぶりでした」
「そっか。……次はいつにする?」
「えっ!? そ、そうですねぇ……」
(こんな楽しかったのに……次があるんだ……。また、遊んでいいんだ……)
噛み締めるようにメイがそう思っていると、シバリが足を止めた。
「そうだ。メイ、言っとくことがある」
「なんですか? ……はえ?」
そう言って振り向いたシバリから手を差し出され、メイは疑問の表情を浮かべる。
そんなメイを見て、シバリは笑みを浮かべながら口を開いた。
「お金持ちでもない。有名人でもない。ただ1人の人間として。
──改めて、俺と友達になってください」
シバリの言葉に、メイは少し俯いた。
「……ぁう。それは……ちょっと、ズルいですね……」
「ズルって……。こうでもしないとまーた元に戻るかもしれないだろ? ……で、どうだ?」
「……そんなの、当たり前じゃないですか」
メイは顔を上げると、シバリに差し出された手を強く握った。
「私の方こそ、よろしくお願いします!」
そう言って、メイはそのままシバリの腕に抱き着いた。
「……あの。そういうのやらんでも良いって話をしたんだけど……」
「違うんですシバリさん。これはシバリさんのためじゃないです。私がやりたくてやってるんです」
「……我儘ってことか?」
「そうです。我儘です」
「……なら、今日くらい仕方ないか」
「はい。仕方ないんです」
シバリの腕に抱き着きながら、メイはシバリの顔を見上げる。
(せっかく友達になれたのに。とっても幸せな気分なのに──)
(──友達のままじゃ、嫌だな)
そうして、メイは抱き締める力を少し強めたのだった。
────────────────────────
「……ふう。これであらかた終わったかな」
ラズがチャンピオンにならないための工作を終えたアイゼンは、疲れたように伸びをした。
「なんとか誤魔化せたけど……。やれやれ、もうやりたくないもんだなぁ。──ん?」
アイゼンの携帯に電話が来た。画面には『キルネア』と表示されている。
「……はい、もしもし?」
「ごきげんようアイゼン。工作の調子はどう?」
「もう終わったよ。というか、視えるなら聞く必要はないんじゃないかい?」
「念の為よ。たまに外れることもあるから」
「でも起こった試しはないじゃないか。 ……で、本題は?」
キルネアがアイゼンに連絡をしてきたのは、工作の確認をするためだけではない。
それをアイゼンも察しているからこそ、こうして問いかけている。
「あら、やっぱりわかるのね。実はお願いが2つあるのよ」
「2つもか……。……内容は?」
「まず1つ目。明日からしばらくこの地方を空けるわ。代理のジムリーダーを手配してほしいの」
「明日ぁ!? しかもそれ、本来君がやるべきなんだけど……!? ……まあいいよ。で、2つ目は?」
「
「許可証? 何の許可だい?」
アイゼンの問いに、キルネアはさらりと答えた。
「……なんでまた、そんなところに?」
「ふふ、内緒よ。とりあえずそういうことだから、明日までによろしくお願いするわね?」
「これも明日ぁ!? き、君ね、流石にもう少し余裕を持って──」
ブツリと、電話を切られた音がした。
「……はぁ。今日はもう帰ろうと思ってたけど、まだまだ帰れそうにないなぁ」
それにしても。と、アイゼンは疑問を口にする。
「何の理由があって、
・メイ
堕ちた
・シバリ
堕とした
何してんねん
・アイゼン
シバリが出身した地方のチャンピオン
何やら無茶振りを食らっている
・キルネア
ラズが8個目に挑戦したジムのジムリーダー
何やら無茶振りを浴びせている