ふと、ラズと戦いながらシバリは考える。
(なんで俺、こんなに頑張ってるんだ……?)
もう彼の集中力は限界だ。少しでも気を抜けばすぐに負けてしまうだろう。
それに、今の彼には当時のように『勝たなければならない』という強い想いもない。
であれば、今シバリを動かしているのはなんなのか。
(──ああ、俺、きっと勝ちたいんだ)
(何のしがらみもなく。一人のトレーナーとして)
(今まで勝てたことのないラズに、ただ純粋に勝ちたいんだ)
そう思った瞬間、シバリの心にスッと気持ちが入ってきた。
今自分が勝ちたいということはわかった。で、あれば──
「ムクホーク! まだ行けるよな!?」
「ホー!!!!!」
ムクホークの返事に、シバリはまだまだやれることを確信する。
こんなところで、終われない──!
(見逃すな、ラズは何度もチャンスをくれるほど甘くない。一回一回を大事にしろ。既に1発は当てている。すてみタックルなら、あと2発当てれば──)
瞬間、シバリの視界にエレキブルの隙が映る。ここを逃す手はなかった。
「ムクホーク! すてみタックル!」
「ホォォォォォォォォォォォ!!」
ムクホークがエレキブルに突撃する。これが当たればあと一撃でエレキブルを倒すことができる。
そう思ったところで──エレキブルの口元が、ニヤリと笑みを浮かべた。
「しまっ──!」
ラズはここで
間違いなく、
「やりなさい! エレキブル!」
「ブルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
直撃。間違いなく、ムクホークの正面から"かみなりパンチ"が直撃した。
"こらえる"を挟む隙すら無かった。今のムクホークに、あの"かみなりパンチ"を耐える体力は残っていない。
それはシバリだけでなく、その場の全員が理解していた。
でも──
(──違うよな。ムクホーク)
シバリはフウロの話を思い出す。
『──いつかどうしても負けたくないバトルがあったとき、シバリ君にムクホークを信じる心があれば、ムクホークは限界を超えて君のために戦ってくれると思うんだ』
普通に考えればシバリはもう負けている。今までの経験からして、ムクホークがあの"かみなりパンチ"を耐えないことなど、シバリ自身が一番よくわかっている。
だからこそシバリは──ここで、
(信じてるぞムクホーク。お前は絶対に──
──まだ、負けてない!!)
「ムクホーク!!
「──……は?」
シバリの言葉に、ラズは驚きを隠せない。
何故ならムクホークはもう動けない。今にも倒れる寸前だ。指示をしたところで何の意味もない。
事実として、ムクホークは戦闘不能のようなものだ。
──しかし、ムクホークの耳は、確かにシバリの指示を聞き届けた。
ムクホークは"ギガインパクト"と指示されてしまった。もう体力も残っていないのに、無茶振りも無茶振りだ。
だが、"ギガインパクト"と言われてしまったからには、このムクホークは打つだろう。
何故なら、このムクホークは──
『焦げだかなんだか知らないけど母さんに傷薬貰って治せば特訓出来るよ!』
『ムックァ!?』
『──予定を変更してアローラムクホークを生成します』
『ホァ!?』
『なあムクホーク。ドドゲザンのふいうち耐えてインファイトでワンパンとかできない?』
『ホォ!?』
『なあムクホーク。お前もブレイブバードを無反動で打てたりしないか?』
『ホァ!?』
これまでもシバリの無茶振りに、
「オォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」
鳥とは思えないような雄叫びを上げながら、ムクホークは倒れずに大地を踏みしめ、エレキブルに突撃する。
ギガインパクトは命中に不安のある技だ。少なくとも、素早さが6段階上昇したエレキブルに打てるような技ではない。
だが、エレキブルはムクホークを倒したと思って油断している。何より、この
いくら命中に不安があろうと、
「ブルゥゥゥゥゥゥ!?」
すてみタックルを遥かに超える威力の攻撃が、エレキブルに襲いかかる。
そして──
「……メタァ」
戦闘不能になったメタモンをもって、シバリは初めて、ラズに勝利を飾ったのだった。
・ムクホーク
もうお前メインヒロインでいいよ
・ラズ
初敗北。
勝ったら『一緒に村に戻って』と言うつもりだった。