シバリに促されてテントに入ったユウリは、キャンプ用の布団に入っていた。
(……なんだかいつもより、怖くないかも)
やはり近くに人が居るというのは大きいのか、ユウリは普段よりも落ち着いた様子で横になれていた。
外からは、シバリが話している声が聞こえてくる。
「今? ガラルで広大な自然を楽しんでるとこ。……いや違う違う。イッシュにも自然保護区があるとかそういう話じゃないから。別に自然を求めてるわけじゃないから俺」
どうやらシバリは誰かと電話しているらしい。ユウリに気を使ってか声のボリュームを落としているようで、彼女からすれば耳を澄まさなければ会話の内容は聞こえてこなかった。ただ──
(テントの内から外の様子は見れないけど、この微かに聞こえてくる声が、シバリくんが近くに居てくれてる証拠。……なんだか、安心するなぁ……)
「んえ? ルッコってアイドルが俺の名前を番組で? ……ん〜、確かにルリからチケット貰ってライブと握手会には行ったけど──あ、いや。ルリってのは友達でさ。いや、そうじゃなくて。信じて。ほんと、マジで」
「……ふふっ」
会話の内容はわからなかったが、どこか慌てた様子になったシバリを、ユウリはなんだかおかしく感じてしまった。
(明日聞いてみようかな。お友達と、どんな……電、話……を──)
ユウリの意識が薄れていく。眠気に対してこんなにも素直に溺れられるのは、依頼を受けてからは初めてのことだった。
そのまま深い眠りに落ちた彼女は、1週間ぶりに熟睡をすることになる。
────────────────────────
「──……んぅ?」
翌日、ユウリはゆっくりと目を覚ました。
今までと違う目覚めの良い朝に、ユウリはそれを堪能するかのようにゆっくりと伸びをした。
「ん〜……。……なんだか、とっても気持ち良く眠れた気がする……。いま、何時──」
ユウリが時計を見ると、時刻は12時近くを示していた。
「も、もうすぐお昼ぅ!?」
ドタバタと布団から抜け出し、急いでテントから出ると、シバリがテントの横に座っていた。
「あ、おはよう。……いや、こんにちは……かな?」
「ご、ごごごごごっ、ごめんねっ! 自分でも、こんなに寝ちゃうとは思わなくて……! アラームセットしてたはずなのにぃ……!」
「アラームならゴリゴリに鳴ってたけど」
「ゴリゴリに鳴ってたの!?」
「ほら、ユウリが全然起きなかったからアラーム頑張ってたスマホロトムが拗ねてる」
「あ、あぁっ……!? ごめんねぇっ……!!」
しょぼくれたスマホロトムを慰めるユウリを見て、シバリは安堵したようにホッと一息をついた。
(顔色もよくなってるし、しっかり寝れたようで良かった……。……不審者が見つかるまではしばらくこうしてた方が良さそうだな)
ユウリがスマホロトムを慰めるのもほどほどに、シバリは彼女に声をかけた。
「……で、日中はどうするんだ? このままココに居るわけでもないんだろ?」
「あ、うん。日中はワイルドエリアを散策して、怪しい人が居ないか探してるの」
「なるほど、じゃあ歩き回るか。俺ワイルドエリア全然詳しくないからさ、探しついでに案内してくれないか?」
「うんっ!」
元気に返事をしたユウリだったが、その瞬間、彼女のお腹から空腹を示す音が鳴り響いた。
「──……あ」
「……その前に腹ごしらえするか。もうお昼だし」
「あ、あっ、ああっ……」
「ユウリはなんか食べたいものとかある? またカレーでも良いけど」
「あっ……いやっ、そのっ……今のは、違くてっ……!」
「……肉と野菜はあるから、バーベキューするのもアリか? 」
「ち、ちがうの! ちがうのぉ!!」
「実は俺お腹減っててさ。結構ガッツリ食べたい気分で──」
ユウリの方を見ずに喋り続けるシバリに、彼女はわなわな震えながら叫んだ。
「──聞こえてないフリもそれはそれで辛いよぉ!!」
──────────────────────────
「……ワイルドエリア広すぎないか?」
「広いよ?」
いや、あの。広いのは知ってたけど流石に広すぎる。
こんな広大な場所だと、不審者と出くわす可能性の方が低いんじゃないか……?
かくなる上はアローラシバリとアローラムクホークで『俺自身が不審者になることだ』ってやるしかないんだけど。
「ホォ!?!!!!!?」
「なんでコレに反応できんだよ」
遂に心まで読み始めたんだけどコイツ。このまま指示しなくても思った通りに動いてくれたりしない?
「ホウホウホウ」
「あ、流石に無理?」
「ホウ」
「ならしゃーないな」
「ホー」
「待って今ナチュラルに心読まなかった?」
「フォーーーーーーーーーー!!!」
「誤魔化し方バクオングかよお前」
ならハイパーボイスとかばくおんぱとか使えるようになったりしない? あ、無理? そっか……。
「シバリくん、ムクホークと仲良しなんだね」
「そりゃあ無茶振りしたり無茶をさせたりする仲だからな」
「……それって無茶しかさせてなくない?」
「そんなことないぞ。なっ、ムクホーク?」
「ホァ?」
「しばくぞお前」
めちゃくちゃとぼけた顔されたんだけど。いつの間にそんな煽り芸覚えたんだよコイツ。
「……私もエースバーンとそれくらい仲良くなりたいなぁ」
「バース!?」
エースバーンがめちゃくちゃ驚いてる。いや、そもそも俺とムクホークの関係と、ユウリとエースバーンの関係は別物だしな……。
「……めちゃくちゃ仲良いだろ。仲良しの方向性が違うだけだと思うぞ?」
「そうなのかな?」
ユウリがエースバーンに問いかけると、エースバーンは凄い勢いで首を縦に振った。
「……そっか。えへへ……」
嬉しそうでなにより。
ところでエースバーンさん。『
─────────────────────────
(今日も見つからなかったなぁ……)
夜。布団に入ったユウリは、今日のことを思い返していた。
(見つからなかったのは残念だけど、とっても楽しかった……。仕事中なのに、こんなに楽しんで良いのかな……?)
今のユウリには夜への恐怖など無かった。もし何かあっても、外に居るシバリがどうにかしてくれるという信頼があったからだ。
(……そういえば、今日はシバリくんの声が聞こえないなぁ)
昨日は誰かと電話していたようだが、どうやら今日はしていないらしい。
声が聞こえないのはちょっと寂しいなとユウリが思っていると、テントの外から声が聞こえてきた。
「……っと。寝てたか……。悪い、ムクホーク」
「ホー」
(……寝てた?)
シバリの言葉を聞き、ユウリはとある疑問を抱いた。
(そういえばシバリくん、昨日はいつ寝たんだろ……?)
少なくともユウリが寝るまでは起きていたし、ユウリが起きる頃にはシバリも起きていた。
つまり、シバリが寝たと考えるのなら、ユウリよりも遅く寝て、ユウリよりも早く起きたと考えるのが妥当ではあるが──。
(見張りをしてくれるって言ってたし、もしかして──)
ユウリが答えにたどり着くと同時に、シバリの声が再びテントの中に聞こえてくる。
「一徹くらいで情けない……。ムクホークは眠かったら寝ていいんだからな。無理に付き合ってくれなくても大丈夫だぞ?」
「ホウホウ」
「……そっか、ありがとな。……うし、じゃあ今夜も頑張るか! ユウリが安心して寝れるようにさ」
「ホー!!」
(……やっぱり、寝てないの? 私のために……?)
そう気づくと、ユウリは居てもたってもいられなくなり、テントの外へと出た。
「……あれ? ユウリ?」
「隣、いいかな?」
「え? おう……」
ユウリはたじろぐシバリの横に座ると、からかうように声をかけた。
「……さっき、ちょっと寝てたよね?」
「ゔっ……!」
「なんなら、夜が好きとか言ってたのも嘘でしょ?」
「ぐぬっ……!」
情けなく図星を突かれまくるシバリに、ユウリは面白そうにケラケラ笑った。
「……シバリくんも寝ていいんだよ? 私のために頑張ってくれたのは嬉しいけど、それでシバリくんに何かあったら私が悲しいもん」
「いや、でも……」
「ほら、今度は私が見張りしてるから。シバリくんはおやすみしよ?」
「う……でも……」
「ほ〜ら。シバリくんは眠くな〜る、眠くな〜る……」
「──……ぅ」
眠気に抗うようにしていたシバリだったが、ユウリが優しく頭を撫でながら声をかけたのが効いたのか、彼女の肩に頭を乗せる形でシバリは眠りへと落ちた。
「……ムクホークもいいんだよ?」
「ホーウ」
「……起きててくれるんだ。優しいんだね」
そう言って、ユウリは自分に寄りかかって寝息を立てているシバリに目線を向けた。
「えへ……寝顔可愛いなぁ……」
ユウリが悪戯するように頬をツンツンするも、シバリは特に気にせず寝顔を立て続けている。
「ねえシバリくん。シバリくんのおかげで今、全然怖くないよ」
言いながら、ユウリは夜空を見上げた。
「夜の空ってこんなに綺麗だったんだ……。……シバリくん、明日は一緒に見ようね?」
彼の頭を優しく自分の膝に誘導しながら、ユウリはシバリに声をかける。
返事は返ってこなかったが、ユウリはシバリの頭を撫でて、楽しそうに笑みを浮かべたのだった。
・ユウリ
ま、まだ堕ちてない……。堕ちてないから……。
・エースバーン
ユウリのエース。流石にシバリとムクホークみたいな関係性をユウリと自分が持つのは解釈違いだったらしい。
・シバリ
ソルロックとソルガレオから命を狙われている(非公式設定)
・ムクホーク
思考盗聴やめろ
■ひっそり没案供養
・ポケモン名
エースバーン
・特異性
かえんボールを打つ前に、かえんボールが相手の弱点のタイプに切り替わる(リベロは剣盾仕様)
・没理由
レジェンドでもうアルセウスがやったやんそれ
書くかはわかりませんが、番外編とか閑話があったら嬉しい?
-
いらない:そんなことより本編を書け
-
いる:ルリの閑話とか
-
いる:本編IF(永住ルート)とか
-
いる:ヒスイに飛ばされるようなIFとか