「ほんとなのシバリさん!? 1週間私たちと一緒に居てくれるなんて!?」
翌朝、はしゃいだ様子のヒカリに話しかけられた。……あの状況下でちゃんと今日のこと伝えられたんだな……。
「ああ。予定が無くなったって聞いたし、それならシンオウ地方を案内してもらえたら助かるなと」
「やるやるやる! まっかせといて! シンオウ地方の色んなところ教えてあげる!」
昨日シンオウ地方にはなんもないとか言ってたのは何だったのか。……いや、細かいことを言うのはよそう。
嬉しそうなヒカリを見れてシロナさんもニッコリしている。あ、なんか表情が曇った。
「……ごめんなさい。少し電話してくるわ。二人ともちょっと待っててね」
シロナさんは鳴りだした携帯を手にすると、少し慌てた様子で離れていった。
「……ねぇシバリさん。シロナさんの嘘、下手だと思わない?」
「え?」
「1週間分の予定が急に全部キャンセルになるなんて、そんなの子供の私でも有り得ないことだってわかるよ。……シバリさんもシロナさんとグルなんでしょ?」
「……あー、えっと、その……」
「あはは、今ので大体わかっちゃった。嘘つけないのはシバリさんも一緒なんだね」
「ぐっ……!」
ぐぬ……シロナさん、すみません。秒でバレちゃいました……。
「……その、ごめん」
「ううん。むしろ嬉しいよ、私」
「嬉しい……?」
「だってシロナさん、とっても苦労したと思う。色んな人に怒られたり、頭下げたり、大人としての責任をたくさん取ったと思うの。さっきの電話だって、もしかしたら誰かからお怒りの電話でも来たのかもしれない」
「……かもな」
「そんな大変な思いをしてまで、シロナさんはシバリさんと過ごす時間を私に作ってくれた。近くに私のことを見てくれてる大人の人がいるんだって、とても安心できるの」
「……そっか。良い人だよな、シロナさん」
「うん! 尊敬してる!」
……はは、シロナさんは自分じゃヒカリに真に寄り添えないとか言ってたっけ?
とんでもない、シロナさんはちゃんと寄り添えてる。大事に想ってるってこと、ヒカリにはちゃんと伝わってるはずだ。
「でも昨日シバリさんに詰め寄ってたのは許してないけどね」
急に真顔になるのやめてくれない? さっきまでの穏やかな空気どこ行った?
「……ところでシバリさん」
「ん?」
「その、迷惑だったりしない……? あっ、いやっ、巻き込んじゃってる時点で迷惑してるとは思うんだけど……」
「迷惑?」
「だってほら、シンオウ地方の案内ってシロナさんから持ちかけたことでしょ……?」
「……あぁ、そういう」
確かにこれはシロナさんから持ちかけられた話だし、なんなら俺は昨日逃げようともしてたし、ヒカリからしたらそう思うか。
「まず最初に言っておくと、昨日逃げようとしたのは観光したかったのにそれが出来なくなると思ったからだ」
「ゔっ……ごめんなさい……」
「でもまあ、今回は俺の観光に協力してくれるってことだし、それに……」
互いに想い合う2人の関係性は見ていてとても心地が良い。俺の気持ちはいつも一方的だったから、尚更に。
だからだろうか、2人のことを好ましく思っている俺がいる。ここで別れるのは少し寂しいと感じるくらいには。
「俺、2人ともっと仲良くなりたいと思ったんだ。だから、シンオウ地方のことは勿論だけど、ヒカリやシロナさんのことも色々教えてほしい。迷惑だなんて、そんなことあるもんか」
「──ふぇ」
ヒカリは顔を赤くすると、俺から目線を外して一歩後ずさった。
「あ、あのあのあの。急にそんな風に言われると困るというか、心臓が準備が出来てないっていうか──」
「ん?」
「も、もうっ! もぉー!! シバリさんそんなこと言うキャラじゃなかったでしょ!? なんでそういう嬉しいこと言うの!!」
「えぇ……ただ友達になりたいってだけなのに……」
「わかってるけど、わかってるけどぉー!!」
意味もわからず騒ぎ出したヒカリにあたふたしていると、シロナさんがこちらに近づいてきた。
「ごめんなさい。電話終わったわ──って、何事かしら?」
「いや、なんかヒカリが──」
「シバリさん! シバリさんが悪いのー!!」
「ふふっ、じゃあ歩きながら聞かせて頂戴。私が離れてる間に何があったのか」
「そうですね。じゃあ──」
あと1週間。話す時間はいくらでもある。
それなら旅の始まりくらいは、こんなくだらない話から始まってもいいだろう。
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「……あんたね。ここのジムリーダーは」
ラズが居るのは5個目のジムであるサバリナジム。彼女はこの地方において史上最速のペースでジムバッジの数を増やしつつあった。
この地方ではジムを回る順番はトレーナーの自由とされているが、唯一5個目のジムだけはここサバリナジムにするようにという決まりがあった。
何故ならこのジムは登竜門。この地方ではジムバッジ6個目から急激にジムの難易度が上がるため、それに備えるためにもこのジムが用意されているのだ。
サバリナジムを突破できずに諦めるトレーナーも一定数おり、こういうことをしてるからマイナーな地方のままなのではないかと一部のトレーナーに
「来たな挑戦者。いかにも、私がくさタイプのサバリナジム。ジムリーダーのセンカイだ」
サバリナジムのジムリーダーであるセンカイは、目の前のラズについての情報を持っていた。
曰く、全てドドゲザンの"ふいうち"で倒してきたとのこと。それを見たときに『なるほどな』とセンカイは頷いた。
(この地方のジムでは3個以下のバッジを持つトレーナーに対して、変化技の使用が禁止されている。そしてここ、サバリナジム以降は変化技が解放されるのだ)
つまりこれまでのジムで相手してきたポケモンは全てフルアタ型。ふいうちは気持ちいいくらいに決まったことだろう。
(いつも思うが、何故3個以下では変化技を使用してはならんのだ。この地方のポケモンリーグの指示ではあるが、意図がまったくもってわからん……)
実のところはそこまで深い意味はなく、ポケモンリーグの
「……ほら、構えなさい。さっさと始めるわよ」
「待て、挑戦者。伝えておくことがある」
「?」
センカイはバトルを始めようとするラズを静止すると、ニヤリと笑みを浮かべながら口を開いた。
「実は君のことはこの地方のポケモンリーグでも話題になっていてな。ここで他のトレーナーと同じ条件で戦っても、君の障害にはなり得ないと判断された」
「……だから?」
「
その言葉に、ラズは口元に笑みを浮かべた。
「──いいじゃない。退屈すぎてそろそろ飽き飽きしてたところよ!」
「私もだ。必ず5個目にされる都合上、いつも不完全燃焼だった。……だから感謝しているぞ、君という才能に!」
「──いくぞ!!」
「──いくわよ!」
────────────────
試合開始から5分も経たず、勝敗は決していた。
(ば、かな……。こんな、ことが……)
本気の1軍メンバーだった。それなのに、センカイの手持ちポケモンの6匹は全てあのドドゲザンに倒されてしまった。
「……幻滅した。ジムリーダーの本気って、こんなものなの?」
「ぐっ……」
明らかにがっかりした様子のラズがそう吐き捨てる。それもそうだ。センカイはラズのドドゲザンに対して、一撃も当てられずに敗北したのだから。
(一撃が重いというのは辛うじて理解出来る。あれを耐えられるポケモンは中々居ないだろう。だが──)
センカイにはそれよりも更に理解の出来ないことがあった。それは──。
「何故だ! 何故
センカイの聞いていた通り、ラズのドドゲザンはふいうちしか使わなかった。
通常ふいうちは変化技には反応できずに失敗するはずなのだが、ラズのドドゲザンのふいうちは変化技に対して失敗するどころか、変化技の発動よりも早くセンカイのポケモンを薙ぎ倒した。
何かの間違いだと思った。だが、"まもる"すらも発動させてもらえずに倒されてしまい、センカイには何がなんだかわからなくなってしまった。
しかしそんなセンカイを見ても、ラズは顔色を変えずに言い放った。
「……何故って、当然でしょ? ふいうちなんだから、
「何を、言って──?」
「バッジ、もらっていくわね」
呆然としているセンカイをよそに、ラズはサバリナジムを後にした。
(……あっけなさすぎだわ。シバリはドドゲザンくらい倒せたっていうのに)
無意識に幼馴染の名前が浮かび、ラズは頭を振った。
(……にしても、さっきのがジム8個相当だったってことは、リーグまではあの程度ってこと? ほんと、退屈……)
いつになったら強いトレーナーに出会えるのかと、ラズは意気消沈しながらも次のジムへと向かった。
・ドドゲザン
問答無用でふいうちぶちかますマン。
まずはふいうちに耐えられるポケモンを出すのが最低条件。
・ラズ
雲行きが怪しい人
・センカイ
オリジナルジムリーダーさん。今回以降多分出ない。
久々に本気出せると思ったら意味わからん理屈でボコられた可哀想な人。