無いよ!(キンクリ)
「あっあっあっ……。終わっちゃう……終わっちゃうよぉ……!」
「んな大袈裟な……」
あれからあっという間に1週間経った。
もうすぐ別れの時間になるのだが、ヒカリが後ろからしがみついてきているのでめちゃくちゃ歩きづらい。
「ヒカリちゃん。それだとシバリくんが歩きづらいわよ?」
「私はこうしないと生きづらいです……」
「ごめんなさいシバリくん。手遅れみたい」
「いや、なんか薄々察してました……」
懐かれてるんだろうなってのは感じる。そんなに大したことはしていないはずなのだが、どうしてこうなってしまったのか。
「なんでこんなくっつき虫になっちゃったんだよ。昨日まで普通だったのに」
「昨日は昨日で『明日にはお別れかぁ』って、内心穏やかじゃなかったよぉ……」
「えぇ……」
仲良くなれたのは嬉しいし、別れを惜しんでくれるのは嬉しいんだが……。
「な、なんでこんなことに……」
「……無自覚って罪ね」
「シロナさん?」
「……なら思い出してみなさい。最初に訪れたシンジ湖でヒカリちゃんに何をしたのかを」
「へ?」
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「着きました! ここがシンジ湖ですよシバリさん!」
「おぉ……見たことないくらい大きな湖だな……!」
このような湖を見るのは初めての経験なのか、シバリは目を輝かせていた。
「……なあヒカリヒカリ! あの中央に浮かんでる島ってなんだ?」
「ひゅえっ!?」
はしゃいでいて距離感などを考えられて居ないのか、シバリはヒカリのほぼゼロ距離まで近づいて質問をしていた。
「あ、あそこは空洞になってて、ちょっと前まではエムリットが居たんだけど……」
「……エムリット? どっかで聞いたような……」
「あっ……」
「──ああ、思い出した。シンオウ神話か」
やらかした。と、ヒカリは自らの失言を悟った。
神話に出てくるようなポケモンをまるで実際に見たかのように言ってしまえば、シバリに変な人だと思われてしまっても文句は言えないと思ったからだ。
(せ、折角少しずつ打ち解けられてきたのに、変な子だと思われちゃう……。また距離が離れちゃ──)
「どんなんだった? やっぱり神々しい感じ?」
「えっ? えっと、なんか小さくて、可愛くて、妖精さん? みたいな感じで……え?」
「ん?」
特に気にする様子もなく、むしろ見た感想まで聞いてきたシバリに、ヒカリの思考が一瞬停止した。
「……変だと思わないの?」
「変?」
「だってその……エムリットって言えば神話に出てくるようなポケモンだし、それを見たって言ってるんだよ?」
「あ〜……」
シバリからすれば、シロナがディアルガとパルキアを実際に見たことがあるかのような発言をしていたという点から、多分一緒に居るヒカリも似たような経験をしているんだろうなと推察していた。
そのため、特に違和感無く受け入れていたという背景もあったのだが──。
「ヒカリが見たって言うなら見たんだろうし、それでいいかなって」
「い、いいの……? こんなの、嘘だと思うのが普通なのに……」
「うーん、もし仮に嘘なら、別に嘘でもいいんだよな」
「えっ?」
自分より年下の女の子が毎日多忙な日々を送って頑張っている。であれば、そんな子がたまに嘘をついたとしても、それを黙って受け入れるのがシロナの言う"男の甲斐性"というものなのだろう。
そう思ったからこそ、シバリはヒカリを撫でながら笑顔で口にした。
「ヒカリになら、騙されても良いしさ」
「────ひゅ」
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「……特に何もしてないような?」
「張り倒すわよ?」
「なんで!?」
別に悪いことはしてないはずだ。ヒカリだってあのあと固まっちゃっただけだし。固まっちゃったのかよ。
「……そういやシンジ湖で思い出したけど、地図見たらシンジ湖の近くにヒカリの住んでたっていうフタバタウンがあってびっくりしたんだけど」
「確かにシンジ湖はフタバタウンから近いね。……もしかして、行きたかった?」
「そうだな。ヒカリの育った街を見てみたかったし……」
それに、ヒカリみたいな良い子を育てたご両親もきっと良い人達なんだと思う。だから……。
「……まあ一言くらい、ヒカリのご両親に挨拶しておきたかった気持ちもあるかな」
「ほえ……?」
なんかヒカリが固まってしまった。
「……ヒカリちゃん落ち着きなさい。シバリくんのこれは言葉通りの意味よ。わかるでしょう?」
「……もうゴールしても良いと思うんですよね」
「残念だけどシバリ君はまだスタート地点に居るわよ」
「どうして現実はこうも残酷なんですか……!」
なんかヒカリがガタガタ震えてる。あの、俺まで振動が届くからやめてくれませんかね。
「……シバリさん。次どこの地方行くんだっけ」
「へ? イッシュ地方とかにしようかなと思ってるけど」
ヒウンアイスとか食べたいし。
「……シロナさん、直近でイッシュ地方に行くお仕事とかないですか?」
「残念ながら無いわね。大体シンオウ地方でのお仕事よ」
「ああああああああああ!! シバリさん行っちゃやだぁぁぁぁぁ!!!!」
ヒカリのしがみつく力が強くなった。別に今生の別れでもないだろうに……。
「れ、連絡先だって交換しただろ? それにまたシンオウ地方にも来るから」
「またすぐ来てね」
「あ、ああ……善処はするよ……」
「毎日メールもするから」
「お、おう……」
「……ヒカリちゃん。そろそろ」
「……はい。うぅ……」
ヒカリは名残惜しそうに俺から離れると、シロナさんの隣に経った。
「じゃあシバリ君、ここでお別れね。貴方と会えて本当に良かった」
「こちらこそ、2人と知り合えて良かったです」
「うぅ……シバリさん、やっぱりシンオウ地方に──」
「ヒカリちゃん」
嗜めるようにシロナさんが言うと、ヒカリはビクッと身体を震わせた。
「ゔっ……わかってますけどぉ……」
「惜しいのはわかるけど、シバリ君に迷惑かけちゃいけないわ。……そうだ、シバリ君」
「なんでしょう?」
「職に迷ったらいつでも私の助手に──」
「シ ロ ナ さ ん ?」
「──なんでもないわ。忘れて」
「はい」
秒で頷いた。この話を続けたら命の保証がなさそうだし。
「……じゃあ、これで。1週間ありがとう、めちゃくちゃ楽しかった。またな!」
「じゃあね! い、いつでもシンオウ地方に来てね! 明日でも良いからね!」
「また会いましょう。それと明日は無理があるわよヒカリちゃん」
『なら明後日でも良いからね〜!!』なんていうヒカリの言葉が後ろから聞こえてくる。明後日でも無理があるだろ。
でも、また来たら歓迎してくれるというのはとても伝わってきた。……そうだな、もしこの旅が終わったら──。
──お土産話でも持って、また
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「……私の負けね」
とある街のジムにて、ラズは8人目のジムリーダーを下していた。
「やっぱり最後までこんなもんなのね。大したことなかったわ」
「ふふ……手厳しいこと。でもこれだけの大敗をしてしまったのだから、言い返すこともできないわね」
ここはエスパーのジムであるタロットジム。ドドゲザンのふいうちとは相性の良すぎる場所である、はずなのだが。
「大敗? 確かにそうだけど、他のジムよりマシよ。私のドドゲザンに
「逆に言えば、それしか出来なかったのだけれど」
正直ラズは目の前のジムリーダー、キルネアには期待していなかった。
バッジ8個相当でやってきたセンカイ以降のジムは全てふいうちで終わってしまったし、どうせここもそうなると思っていたからだ。
「予想が当たって安心したわ。確かに貴女のドドゲザンのふいうちはほぼ全ての行動に先行する無法な技──でも、
「……そうね、シバリにはバレなかったのに……」
「シバリ?」
またしても、ラズは意図せずシバリの名を出してしまった。
旅に出てからというもの、何故かシバリとの日々が脳裏を過ぎることがある。
ラズは溜め息をついて、シバリのことを思考から追い出した。
「ごめん忘れて。今アイツは関係なかっ──」
「──幼馴染さんのことかしら?」
「──は?」
クスリと笑うキルネアに、ラズは動揺を隠せなかった。
「……そんなに怖い顔しないで。実は私、ジムリーダーを兼任しながら占いもやってるの」
「占い……?」
「そう。ちょっと私は
「……? ああ、そう。そういうこと」
世の中にはサイキッカーというエスパー使いも居る。キルネアも同じ類いなのであれば、先ほどの言葉もそういうことなのだろうと、ラズは結論付けた。
「……じゃ、私行くから。最強のジムって聞いてここを最後のジムにしたけど、正解だったわ」
「待って」
初めてジムで呼び止められた。面倒臭く感じつつも、ラズは後ろに振り向いた。
「……何?」
「私ね、才能のあるトレーナーが潰れていくのは惜しいと思っているのよ」
「……どういうこと?」
「
「……意味がわからないわ。もっとわかるように言って」
「そうね。なら単刀直入に言うわ──
──
その言葉を聞いたラズは、心臓を掴まれたような気分になった。
「……か、勝手なこと言わないでよ! 私は、このあとポケモンリーグが控えて──!」
「あら、薄々気付いているのではなくて?
「……それはっ」
そんなはずがない。そんなことがあってはならない。
もしそうであるならば──
『今まで諦めなかったことは評価してあげる。でも、私は強い人が好きなの。……だからごめんね、シバリ』
あの日の自分は、かけがえのない存在を自ら引き離したことになってしまう。
「……認めないわ、私は間違ってない。それに、シバリにあんな顔……あんな辛い思いをさせておいて、それが間違いだったなんて、そんなこと、あってたまるもんか」
自分の理想を叶えるため、長年自分を追いかけてくれた幼馴染を振ったのだ。
今更それを覆すなど、あってはならない。
「村には帰らない。私はこのまま、ポケモンリーグを目指す」
「……そう。オススメはしないけれど、そこまで言うなら仕方ないわね。幸運を祈ってるわ」
「ふん……思ってもないくせに」
そう吐き捨ててジムを出ていくラズを見て、キルネアは残念そうに溜め息をついた。
(ドドゲザンをどうにかすれば多少は話を聞いてもらえると思ったのだけれど、彼女の興味を引くにはまだまだ足りなかったかしら。これで彼女の破滅が
ポケモンバトル界の盛り上がりを目指している彼女にとって、ラズのような才能ある若者が落ちぶれていくのは、とても悲しいことだった。
なので幸運を祈るというのは本心からの言葉だったのだが、ラズにはどうやら届かなかったらしい。
(──それにしても、ドドゲザン以外にもクセの強いポケモンがたくさん居たわね)
キルネアが最強のジムリーダーと言われる所以。それは、相対したトレーナーが持つポケモンのことが全てわかってしまうという彼女の体質から来るものだった。
(特に酷いのはエレキブル。無反動のワイルドボルトで素早さ6段階上昇なんて、どんな悪い冗談かしら。それに──)
ラズの手持ちにいたとあるポケモンを思い出し、キルネアは思わず呟いた。
「あのエレキブルを倒してからが本番なんて酷い話だわ。あんなの、
話聞いとけばまだなんとかなったのになぁ