幼馴染にフラれたので旅に出ることにした   作:イグアナ

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こんな馴れ初めですよってことで


イッシュ編
8話


 とある村のブランコに、1人の少女が座っていた。

 

 遊具を使っているとは思えないくらいに、その表情は浮かないものだった。

 

「エレ、エレレッ?」

「ありがとエレキッド。大丈夫だから」

 

 心配してくれたエレキッドを撫でながら、少女は先ほどの出来事を思い返す。

 

『いっけーコラッタ!』

『なんの! ぼくのケムッソの方が強いんだぞ!』

『あら、ポケモンバトル? 私も混ぜてもらえる?』

『……やっぱり止めよっか』

『そうだね……』

『は……? ちょ、なんで──』

『だ、だって──』

 

 

『──ラズちゃん、強すぎてつまんないんだもん』

 

 

 

 

「……『つまらない』って何よ。あんたらが弱いだけじゃない……」

 

 俯きながら、ラズは一人ブツブツと不満を呟く。

 

「じゃあ何よ、手加減しろってこと? それで勝って満足なの? というか、手加減したところであんたらじゃエレキッドに傷一つ付けられないじゃない……」

 

 言えば言うほど、ラズの気分は落ち込んでいく。

 

 最近のラズはずっとこうだった。ポケモンバトルに混ぜてもらおうとするたび、皆は口を揃えて『つまらない』と言い、すぐに仲間外れにされる。

 

 周りの大人達もなんとなく認識はしていたのだが、ボコボコにされるのがわかっていながら『相手をしてあげなさい』とは子供達には言えず、対応に困っていた。

 

(強いのが悪いってこと? 私はただポケモンバトルがしたかっただけなのに。なんで、なんで私だけ──)

「──どうしたの?」

「……え?」

 

 ラズが顔を上げると、ムックルを胸に抱えた少年が目の前に立っていた。

 

「わ、やっぱり泣いてる!? え、えっと、どうしたら──!?」

「う、うるさい! 黙って! 泣いてなんかない!!」

 

 腕で乱暴に涙を拭ったラズは、恥ずかしさを紛らわすかのように少年を睨みつけた。

 

「……で、あんた誰よ」

「僕? シバリ! 最近引っ越して来たんだ!」

「そ。私はラズ。で、何の用なの?」

「え、えーっと……」

 

 シバリは困ったように頬を掻いて、言葉を続けた。

 

「その、ラズちゃんが泣いてるように見えたから、どうしたのかなって」

「だから泣いてないわよ。……別に、何でもないわ」

「で、でもさっき泣いて──」

「うっさい! ……これ以上話をするつもりなら、私とポケモンバトルよ」

「ポケモンバトル? うん! やるやる!」

「え?」

 

 断られるつもりで言ったはずが、目を輝かせた様子でバトルに応じたシバリを見て、ラズは少し驚いたが──。

 

(ああ、そういうこと。知らないのね)

 

 シバリはまだラズの強さを知らない。だからこんなに楽しそうにしているのだろう。

 

(どうせコイツも、すぐに私の前から居なくなる)

 

 さっさと倒して、さっきの話は有耶無耶にする。ラズの頭にはそれしかなかった。

 

 

──────────────────

 

 

「エレキッド、でんきショック」

ムクァァァァァァァァァァァァァァ!?

「ああっ、ムックル!?」

 

 バトルシーンを飛ばすまでもなく瞬殺。初撃の電気ショックすらも避けられずに、シバリのムックルは戦闘不能になった。

 

「……ま、そうなるわよね」

 

 他の子供相手でも同じようになるのだ。それならば、電気が効果抜群のムックルも同じように一撃で倒されてしまうのは当然のことだった。

 

(あのムックル、捕まえたばかりね。多分初めてのバトルだったんでしょうけど、相手が悪かったわね)

「そ、そんな……僕の、ムックルが……」

 

 さて、これで結果は出た。あとはシバリがラズから逃げ出すだけ──

 

「……く、悔しい! せめて何か出来たらかっこよかったのに……! ラズちゃん強いね!」

「は?」

 

 ──とはならなかった。

 

「いや、あんた、その……は?」

 

 今までされたことのない反応に、ラズは困惑した。

 

 ()()()? つまらないじゃなくて?

 

「よしムックル特訓だ! 明日こそあの電気ショックを避けるんだ!」

「コ、コゲ……」

「焦げだかなんだか知らないけど母さんに傷薬貰って治せば特訓出来るよ!」

「ムックァ!?」

「というわけでラズちゃん! 明日また来るから!!」

「は!? ちょ、待ちなさい!」

 

 ラズはムックルを抱えて走り去ろうとしたシバリの肩を慌てて掴んだ。

 

「うわっ!? 何!?」

「『何』じゃないわよ! あんた何? 避けるって、本気?」

「うん! だって特訓したら避けられるようになるでしょ?」

「そんな簡単な話じゃないわよ。……現に、この村に私のエレキッドの電気ショックを避けられるポケモンは居ないし」

 

「……そっか、なら──

 

──僕のムックルが電気ショックを避けた第一号になれるってことだね!」

 

「……はぁ?」

 

 ラズが呆気に取られているうちに、シバリは『頑張るぞー!』などと言いながら走り去っていった。

 

(……バカらしい。どうせすぐに諦めるに決まってる)

 

 そんなことを考えて、再びラズはブランコに座った。

 

──翌日。

 

「電気ショック」

ムホァッ!?」

 

──3日後。

 

「電気ショック」

コゲェ!?」

 

──1週間後。

 

「電気ショック」

バチンウニ!?」

 

 

──2週間後。

 

「電気ショック」

フォーーーーーーーー!!」

 

 

────────────────────

 

「今日も来たよ! ラズちゃん!」

「あんたまた来たの……?」

 

 予想とは裏腹に、シバリはここ一ヶ月毎日ラズに挑戦していた。

 

「毎日毎日懲りないわね。飽きないの?」

「飽きない!」

「どうして?」

 

 ラズからすれば意味がわからなかった。他の人はどんどん離れていったのに、シバリだけは毎日懲りずにやってくる。

 

 だからこそラズはシバリに問うことにした。シバリが挑戦し続ける理由を。

 

「悔しいっていうのは勿論あるんだけど……その、ラズちゃんが寂しそうだったから、かな……」

「……は?」

「初めてあった日、泣いてたでしょ?」

「……泣いてないわよ」

「泣いてたよ。そして、寂しそうだった」

「…………」

 

 わかっているかのように言うシバリに、何故かラズは無性に腹が立った。

 

「……それじゃあ何? お情けで私に関わってやってたってこと?……馬鹿にしないで。そんなの願い下げなんだけど」

「そ、そういうことじゃないよ!」

「違うの? なら私の納得出来るように説明して」

「えっと、その……」

 

 シバリは少し言いづらそうにしていたが、ここで沈黙するわけにはいかないと踏ん切りをつけ、口を開いた。

 

「お、お母さんが言ってたんだ。女の子は笑顔でいさせてあげなさいって。それが一番綺麗だからって……」

 

 たどたどしくも、シバリは続ける。

 

「だからあの日、寂しそうにしてるラズちゃんを見て思ったんだ。笑顔にしてあげたいって。だから──」

「──"だから自分が隣に立って1人にさせないようにする"……ってこと?」

「あ……うん」

「……呆れた。バカらしい」

「えっ……」

 

 シバリが優しい子だというのはラズにも理解できた。だが、優しいだけではどうにもならないことがある。

 

「無理よ。あんたが私の隣に立てるわけがない」

「や、やってみなきゃわかんないよ! 特訓し続ければ、いつか──」

「いつかっていつよ!? 電気ショックも避けられないくせにそんなこと言わないで! ──エレキッド!!!」

「エレッ!!」

 

 エレキッドから電気ショックが放たれた。

 

 この一ヶ月間、シバリのムックルはこの一撃を回避できたことがない。

 

 でも今は。今だけは。彼女に可能性を見せなければならないと、シバリは強く思った。

 

 ここで何もできなければ、きっと彼女は心を閉ざしてしまう。だから──

 

「ムックル!!!!!!」

「ムクッ!!!」

 

 シバリの力強い呼び声に、ムックルは気合を入れる。そして──

 

 ──掠める形ではあるが、ムックルは電気ショックを回避した。

 

「……へ?」

「あっ──!」

 

 驚くラズをよそに、シバリはムックルに駆け寄った。

 

「よくやったぞムックルー!!! ついに初回避だ!!」

「ムクー!!!!!!!!」

「……嘘」

 

 結果だけ見れば電気ショックを一発避けただけ。本来喜ぶようなことではない。

 

 でも今確かに、シバリはラズに可能性を見せつけた。

 

「ほらねラズちゃん! 僕だってやれば出来るんだよ! まだラズちゃんには及ばないけど、隣に立ってみせるから! 絶対1人にしてあげないからね!!」

 

 ほんの数十秒前まで、ラズはシバリとの関係を断ち切るつもりだった。

 

 だがこんなものを見せられてしまっては、ラズも考えを改めざるをえなかった。

 

 "期待"という文字が、ラズの中で生まれてしまった。

 

「……なにそれ、プロポーズ?」

「へぇ!? あ、いや、そういう意味じゃ……」

「そもそも、電気ショック一発避けたくらいで喜びすぎよ。ポケモンバトルはこれだけじゃないのよ?」

「そうは言ってもさ、すごいことだよねこれ! 僕今日寝れないかもしれない!」

「──ふふ」

 

 そのときシバリは初めて、

 

「──あはっ、ばかみたい」

 

 彼女の笑顔を見たのだった。

 

 

───────────────────

 

 

 ……ん? 夢か。

 

 どうやらイッシュ行きの飛行機の中で寝てしまっていたらしい。

 

 懐かしい夢だったな。あの笑顔を見て、ラズのことを気になり始めたんだっけ。

 

 あれから頑張ったけど、結局俺じゃ隣に立てなかったな。でも、自分に並び立てる誰かが居ると彼女に証明できただけよしとしよう。

 

 きっと彼女は旅の中で相応しい人を見つけるだろう。そしてそこに、俺の居場所はない。

 

「いや、結婚式のスピーチくらいはやらされるか……?」

 

 有りうる。だってあいつ友達全然居ないし。今のうちに文章考えとくかぁ……。

 

 でもその前に、今は早急に解決せねばならないことがある。それは──金。

 

 そう、金がないのである。

 

 飛行機や船代くらいは残しているが、娯楽代がすっからかんなのである。

 

 シンオウ地方の観光で散財しすぎた。ヒカリやシロナさんにはお金を出すと言われたけど、見栄張って全部自分で払っちゃったし……。

 

 母さんに言えばお金を送金してもらえるのだろうが、こんな理由で親を頼るのは申し訳なさすぎる。

 

 つまり、自分で金を稼ぐ必要がある。

 

 何か無いか? 日雇いとか、そういうやつでいいから──。

 

『こちら機内アナウンスになります。現在、飛行タイプジム、フキヨセジムにて短期のジムトレーナーを募集しています。興味のある方は──』

 

 飛行タイプ? ジムトレーナー? ほう。

 

 ちょっと詳しく聞こうか。 

 




シバリ君がラズちゃんに証明し続けてしまったせいで、ラズちゃんの脳が焼かれて理想が高くなってしまいました。あーあ。
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