(わたくし……夢でも見ているのかしら)
エリカの目の前には、ラフレシアを膝の上に、クサイハナを頭の上に乗せている
「よーしいい子いい子。このラフレシア特有の触り心地、懐かしいなぁ」
「ラフー」
「撫でると毒花粉が出るのは同じなのかぁ。花粉で身体が痺れるこの感覚も久しぶりだな」
「ラフッ!?」
ラフレシアが一瞬『お前マジかよ』という表情をしていたが、撫でられる気持ちよさの方が上回ったのか、満更でもなさそうにしていた。
(この子達があんなに楽しそうにしているところ、久しぶりに見れたような気がしますわ……。ふふっ、クサイハナも構ってほしいのかあんなにアピールして……)
彼女がにこやかに目の前の光景を見守っていると、クサイハナのヨダレがシバリの手の甲に垂れてしまった。
最早それでシバリが怒るとはエリカも思っていなかったが、汚してしまったのは申し訳ないと、急いで懐からハンカチを取り出した。
「ごめんなさいシバリさん。今こちらで拭き──」
「ペロッ……うん、やっぱ甘いな」
「──ますか……ら?」
ハンカチを取り出したままエリカは固まった。
この
「な、何を……?」
「……あっ」
シバリは自分のやったことに気がつくと、エリカに向かって頭を下げた。
「す、すみません……。ついクセで……」
「クセ!?」
クセとはなんだクセとは。そんな圧を感じるエリカに対し、シバリはぽつりぽつりと語り始める。
「ほ、ほら、クサイハナのヨダレって、実際はヨダレじゃなくて甘い蜜じゃないですか……? だから、その……地元に居たときは、よく森に食パンを持ち込んではクサイハナに蜜をもらったりしてまして……」
「み、蜜を、もらう……?」
寄り添ったとかそんな次元ではなかった。エリカの想像以上に、シバリのクサイハナへの付き合い方は常軌を逸脱していた。
ちなみにクサイハナは目の前の光景が信じられず放心しており、ラフレシアに至ってはエリカの反応で状況を察し、なんかもう諦めたような表情をしていた。
そんな状況が、エリカからするとどこかおかしくって、思わず笑みを浮かべてしまった。
「そ、その、もうしないので……」
「ふふっ……。いえいえ、クサイハナも嫌がっていないですし、わたくしもシバリさんさえ良ければ構いませんので……」
「え、ほんとですか!?」
「
「くすっ……もう、シバリさんたら……」
笑みで歪む口元を手で隠しながら、エリカはふとこう思った。
(……もし。もしもこの方がお見合い相手なら、わたくしは──)
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「どうですかエリカさん。この会心作の出来は」
「え、えーっと……これは生け花ではなく、フラワーアレンジメントの方が近いですわね……」
「……つまり?」
「得点は差し上げられません」
「そんな!?」
エリカさんが生け花の修行をしているということで、俺も体験させてもらったのだが、なんか全然ダメだったらしい。
盛りに盛りまくったんだけど、何がダメだったんだろうか。
「フラワーアレンジメントが足し算の芸術だとするのなら、生け花は引き算の芸術になりますわ。闇雲に花を挿していくのではなく、いかに少ない花や葉で美しく見せられるかがポイントですわね」
「なるほど」
つまり俺は生け花とは真逆の方向に全力疾走していたと。何してんだ俺。
じゃあ出来るだけ少ないボリュームにして、なんかいい感じにバランス取って……。
「ふぅ……これでどうです?」
「ふふ、まだ得点は差し上げられませんわね」
「初心者にはもう少し優しくしてくれても良いのでは!?」
くすくすと笑うエリカさんの横で俺が項垂れていると、後ろで見ていたラフレシアが慰めるようにポンと足を叩いてくれた。
ありがとうラフレシア。お前はあんな初見殺し戦法に目覚めてくれるなよ。
「……あの、シバリさん」
「なんでしょ?」
エリカさんは両手を顔の前で合わせてもじもじしながら、少し恥ずかしそうに視線だけこちらに向け、続きを口にした。
「えっと、なんといいますか、そろそろシバリさんについても知りたいといいますか……その、ご趣味は──────」
「大変申し訳ございませんエリカさぁぁぁぁぁぁん!!!」
「「!?」」
突然ジムの中に誰かが入ってきた。視線を向けてみると、俺と同年代くらいの男の人が慌ててこちらに向かってきていた。
そしてそれを、俺を案内してくれたジムトレーナーさんが追いかけてきている。
「お、お待ちになってください! 今は、まだ────!」
「昨夜は緊張して全然眠ることが出来ず、寝坊してしまいました!! どうか謝らせていただきたい!!」
俺のことが視界に入っていないのか、エリカさんの方だけを見て突撃してくる。
「この度は本当に申し訳クッッッサ!?!」
男の人は白目を剥くと、そのまま後ろに反り返ってぶっ倒れた。
「…………」
「…………」
「…………」
俺とエリカさん、それにジムトレーナーさんは、少しの間何も言えずにその場に立ち尽くしていた。
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「ほんっっっっとうに申し訳ございませんでした!!!」
どうにか状況が落ち着いたところで、ジムトレーナーさんから話を聞くことが出来た。
どうやら今日はエリカさんがお見合いをする日で、先程ぶっ倒れた人が本来のお見合い相手だったらしいのだが……。
「事前に聞いていた特徴とシバリさんが大変似ていらしたので、ご本人様に間違いないと早とちりしてしまって……」
「な、なるほど……」
それで人違いして通してしまったと。そういうことらしい。
「お、俺の方こそすみません。すぐに人違いされてそうなことには気づいてたんですけど、なんというか、言い出すタイミングを逃してしまって……」
「謝らないでくださいシバリさん。元はと言えばこちらの不手際ですもの」
「エリカさん……」
横で話を聞いていたエリカさんは、優しく微笑んで許してくれた。いやもう、ほんと、申し訳ない……。
「それに、シバリさんが本来のお見合い相手でないということは、なんとなく気づいておりましたの」
「え?」
「そもそもお名前が事前に聞いていたものと違いましたもの。それにその服装、お見合いに着てくるというには、少しカジュアルすぎますものね?」
なるほど。それなら納得、だけど──。
「……じゃあ何で、俺なんかとお茶を……?」
「なんとなく、ですわ。特に深い理由はありませんでしたの」
『でも』と、エリカさんは続ける。
「シバリさんと過ごしたひとときは、とても楽しい時間でしたわ。あのとき誤解を解いて帰さなくて良かったと、そう思っております」
「……そうですね。俺も楽しかったです」
「ふふっ。……でもそれはそれとして、人違いで見知らぬ人を通した貴女には後ですこ〜しお話がありますので、覚悟しておいてくださいね?」
「ひぃっ!? な、何故ですか!? 今いい感じの雰囲気だったではないですか!!」
「それとこれとは話が別ですわよ?」
どこか恐ろしい圧を感じる笑みをジムトレーナーさんに向けると、エリカさんは懐からスプレーを取り出した。
「こちら消臭スプレーです。お帰りになる前に、あの子達の臭いを取り除かせていただきますわ」
「あ、助かります」
そういや長い時間あの2匹と居たから、衣服に臭いが染み付いてたのか。
このままジムを出たら大惨事だっただろうし、エリカさんには感謝だな。
「正面は終わりましたので、後ろにもスプレーさせていただきますわね?」
「お願いします」
その場で後ろを向くと、エリカさんが背中に向かってスプレーをかけてくれる。
……しかし、あの臭いがスプレーだけで取り除けるんだろうか。
「終わりましたの。これでもう大丈夫ですわ」
「ありがとうございます。……う〜ん?」
「どうかいたしまして?」
「いや、臭いが消えたか念のためチェックしてたんですけど……。自分の臭いって全然わかんないですね」
「あら、そういうことでしたら……」
ささっとエリカさんが俺に近づいてきて、鼻をすんすんと鳴らした。
「あの……?」
「わたくしが責任を持ってチェックいたしますわ。あの子達の臭いなら、わたくしがよくわかっていますから」
「そ、そういうことなら……お願いします」
「はい、お任せください」
そう言うと、エリカさんは俺の首筋に顔を近づけて鼻を鳴らし始めた。
そうして丁寧に臭いをチェックすると、今度は俺の後ろに回り込み、うなじの辺りで鼻を鳴らし始める。
なんだろう。ふわりと甘い香りがするくらいにはエリカさんの距離が近い。
てかなんで甘い香りすんの? 俺と一緒に居たはずだよね? いつの間に臭いの処理を……?
「エ、エリカおねえさま……その、それくらいチェックしたら、流石に大丈夫なんじゃ……」
「ダ、ダメですわ……。念には念を入れて、も、もう一周くらいは……」
「目が泳いでますわよエリカおねえさまぁ!!」
というかめちゃくちゃ丁寧に確認してくれてる。これも俺が不利益を被らないようにするためか……エリカさんは優しいなぁ。
「ふぅ……安心してくださいシバリさん、臭いに問題はありませんでしたわ」
「良かった。ありがとうございます」
それなら、これ以上邪魔しても悪いし帰るとしますかね。
「じゃ、俺は帰ります。今日は色々すみませんでした」
「あ……」
ジムの出口に向かって振り返った瞬間、エリカさんに手を掴まれた。
「……エリカさん?」
「その、えっと……」
しどろもどろになりながら、エリカさんは口を開く。
「また、来てくださいますか?」
「へ?」
「きょ、今日はとても楽しかったので、その、よかったら──」
「……そうですね」
俺は携帯を取り出して、エリカさんに提案する。
「連絡先交換しませんか? それで、都合の合う日にでもまた会いましょう」
「〜〜〜〜〜〜ッ! はいっ!」
こうして、俺の携帯にまたひとつ連絡先が増えた。
う、うーん……。なんか連絡先の女性比率が酷いことになってきたな……。
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シバリがジムを去った後、エリカがジムトレーナーにお説教し始めようとしたところで、電話がかかってきた。
『大変申し訳ございません! うちの息子が、なんというご無礼を……!』
電話してきたのは今日エリカとお見合いする予定だった相手の母親だった。
今回の事態を知り、急いで謝罪の電話をかけてきたようだ。
『急ぎ謝罪に向かわせていただきますので、どうか別日でのご検討を──!』
「それなら、ご心配には及びませんわ」
「──もう、気になる人が出来てしまいましたので」
呆気に取られたような声が電話口から聞こえた気がしたが、エリカはそのまま電話を切った。
「……シ、シバリさんって、そんなに良い人だったんですか?」
「違いますわ。……いえ、確かに良い人ではあったのですけど……」
エリカは今日シバリと過ごした時間を思い出す。自分のまったく知らないことでも、興味津々で聞いてくれた、彼のことを。
「わたくしのことを知ろうとしてくれた人のことを、わたくしも知りたくなった……ただ、それだけですの」
「エリカおねえさま……」
「ふふっ。連絡先を交換できましたし、これでたくさんお話できますわね」
エリカは満面の笑みで、シバリの連絡先が登録された自分の携帯を見つめる。
「好きな食べ物は何なのかしら……それにご趣味や、年齢は?」
「そ、それすら確認してなかったんですのね……。シバリさん、よっぽど聞き上手で──」
「出身は? 好きなポケモンは? 好きな女性のタイプは? 結婚願望は?」
「……あの、エリカおねえさま?」
「起きる時間と寝る時間は? 身長と体重は? 足のサイズは? 利き手は? ……ふふ、知りたいことがたくさん出てきますわね……」
「え、エリカおねえさまが、壊れた……」
押してはいけないスイッチが押されてしまったのだと、ジムトレーナーは一人察したのだった。
・シバリ
食パンにクサイハナの蜜塗ってパン食べてたイカれ男子
元はと言えば『ジャムとか欲しいなぁ』とか言ってたシバリにクサイハナが蜜を提供してきたのが始まりなので、情状酌量の余地はある
ちなみに手持ち全員クサイハナの蜜を特に抵抗なく食べれる
・エリカ
自分のことを知ろうとしてくれたことが嬉しくて、相手を知ろうとする気持ちがちょっと壊れちゃった人
ストーカーになるようなレベルではないので、そこはご心配なく
・ラフレシア(キマワリフレンズ)
まだバレてないラフね
このまま初見殺しを続けるラフ
ちなみにシバリはちゃんとリベンジ成功してる
まだ出てない地方で好きなところ(参考にするかも:パート2)
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ジョウト地方
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カロス地方
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アローラ地方
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パルデア地方