悪意。
それは、設計図を持たない建築家である。
計算も、計画も、完成予想図すら存在しない。ただ、他者の不幸を願うという、極めて純粋な衝動だけが、その手にある唯一の建材だ。
故に、そこから生まれる建造物は、いつだって歪で、醜悪で、そして設計者の意図を遥かに超えた、巨大で滑稽な怪物と化す。
今、この惑星タルタロスで、一人の男が、人生で最も純粋な悪意を手に、その設計に取り掛かろうとしていた。
もちろん、その男に壮大な建造物を建てるつもりなど毛頭ない。
彼が欲しかったのは、ただ、自分の安眠を保証してくれる、小さな犬小屋程度の代物だったのだが。
――悲しいかな。彼の手にある建材は、神殿を建てるにはあまりにも十分すぎたのである。
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旗艦「ネメシス」司令官室。
その玉座(リクライニングチェア)の上で、カイ・シラヌイは、完全に、そして完璧に、詰んでいた。
「(……ない。どこにも、ない。嘘だろ……?)」
彼の顔面は蒼白を通り越して、若干青みがかった、美しい陶器のような色合いを呈している。美術品としてならばともかく、生物としては完全に終わっている顔色だ。
彼の視線の先、メインコンソールに表示されているのは、不時着時のネメシスの損傷報告書。その膨大なリストの、最も最後、最も重要で、そして最も見たくなかった項目に、彼の瞳は釘付けになっていた。
【最重要事項:Z-ドライブ制御ユニット、不時着時の衝撃により機関室後方隔壁より艦外へ射出、現在位置不明】
「(……俺の、パーツが……。俺様をこの地獄から脱出させてくれる、唯一の希望のパーツが……ないッ!)」
彼の内心で、ガラス細工の未来予想図が、木っ端微塵に砕け散る音がした。
穏やかな後方勤務。窓から見える青い惑星。三食昼寝付きの生活。その全てが、今、この「位置不明」という、たった四文字によって、宇宙の塵と化したのだ。
『あーあ。こりゃ、本格的にサバイバル生活の始まりだね。よかったじゃない、英雄殿。君の物語に、新たな苦難という名のスパイスが加わって』
脳内で、シロが心底から楽しそうな声で言った。このAI、主人の絶望を蜜のように啜って生きているに違いない。
「(黙れこのポンコツがァ! サバイバルだと!? ふざけるな! 俺はインドア派だ! 太陽の光を浴びるのは、ベランダに洗濯物を干す時だけで十分なんだよ! それがなんだ、この水晶と濃霧と怪物のクソ惑星で、泥水すすって生きろだと!? 冗談じゃない!)」
カイの思考が、恐怖のあまり、あらぬ方向へと暴走を始める。
「(そうだ、こうなったら、俺は司令官の権限を最大限に利用して、この艦内に快適な引きこもり環境を構築する! 食料が尽きる? 問題ない! 栄養(ニュートリエント)・リサイクラーを改造して、永久機関を……いや、待てよ。それだと、あのクソまずい固形栄養食を未来永劫食い続けることに……? それは、死ぬより嫌だ!)」
この男、自分の命と食事の質を、平気で天秤にかけるタイプである。
『で? どうするのさ。君の言うところの「希望のパーツ」がなければ、ここから一歩も動けないわけだけど。まさか、自ら探しに行く、なんて英雄的な行動は、間違っても取らないだろうしねぇ』
「(……当たり前だろうが!)」
カイは、シロの挑発に、内心で即答した。
俺が、自ら危険を冒して、あの怪物がうろつく水晶の森を探索するだと? 天地がひっくり返っても、銀河がビッグクランチを迎えて無に帰そうとも、ありえない。
俺は、安全な司令室から一歩も出ずに、この問題を解決しなければならない。
「(……面倒だ。面倒だ。面倒だ! なぜ俺が、こんな面倒なことに頭を使わなければならんのだ! 俺はただ、怠惰に、傲慢に、誰にも迷惑をかけず(多大な迷惑をかけている)、静かに生きていたいだけなのに!)」
彼の思考が、面倒くさいという一点において、驚異的な集中力を発揮し始める。
そうだ。
俺が動かなければいい。
ならば。
「(……俺以外の、全員に探させればいい)」
カイの脳裏に、一つの、極めて悪魔的で、そして彼らしい下劣な計画が、稲妻のように閃いた。
「(そうだ! 囚人どもだ! あの、利用価値以外に存在理由のない、歩く資源ども! あいつらを互いに争わせ、競わせ、そして俺様のために、必死こいてユニットを探させるのだ! 俺はただ、この玉座(リクライニングチェア)の上で、高みの見物を決め込むだけ! どうだ、完璧な計画だろう!?)」
『うわぁ……。出たよ、君の十八番。人の心を弄んで、自分の手を汚さずに目的を達成しようとする、最低な手口』
「(人聞きが悪いことを言うな! これは、彼らに『生きる目標』を与えるという、慈悲深い行為だ! 俺という名の神が与えたもうた、ありがたい試練なのだ! 感謝しろ!)」
シロの的確すぎるツッコミを、カイはいつものように自己正当化の分厚い壁で弾き返すと、早速、その完璧な計画の実行準備に取り掛かった。
彼の指が、コンソールの上で、まるで邪悪な儀式を執り行う魔術師のように、高速で踊り始める。
彼の武器は、剣でも、銃でもない。
前世で、彼が寝食を忘れて磨き上げた、唯一の、そして最も陰湿なスキル。
――すなわち、ネット掲示板を荒らした経験である。
「(フフフ……見ていろよ、シロ。これから、この惑星の掲示板(ネットワーク)を、俺色に染め上げてやる。まずは、最大勢力の『坑夫(マイナーズ)』と、頭でっかちの『技術者(エンジニアズ)』。こいつらを潰し合わせるのが、最も手っ取り早い) 」
カイの口元に、誰にも見えない、下劣な笑みが浮かぶ。
彼は、囚人たちの内部ネットワークに、匿名で、しかし絶妙に信憑性のある偽の情報を、次々と投下し始めた。
【件名:【緊急速報】技術者(エンジ-ニアズ)の裏切り行為について】
『ソースは俺のダチのダチなんだが、どうやらビットの奴ら、墜落した軍艦から、とんでもないお宝パーツ(Z-ドライブ制御ユニット)を秘密裏に回収したらしい。あれがあれば、この惑星から脱出できるって噂だ。だが、奴らはその情報を独り占めして、自分たちだけで逃げるつもりらしいぜ。俺たち坑夫を見捨ててな!』
【件名:【警告】坑夫(マイナーズ)の破壊工作計画】
『ギデオンの連中の動きが怪しい。奴らは、我々技術者が希望と呼ぶ、あの軍艦の脱出ユニットを、破壊しようと企んでいる。「我々だけがこの星の地理を熟知している。外部の人間が来て、秩序が乱れるのはごめんだ」と、古参の連中が息巻いていた。奴らは、我々全員を、ここで朽ち果てさせたいのだ』
それは、あまりにも稚拙で、あまりにも悪意に満ちた、デマと扇動の嵐だった。
だが、極限の閉鎖空間で、誰もが疑心暗鬼に陥っているこの惑星において、その稚拙な悪意は、猛毒のように、人々の心を瞬く間に侵食していく。
『君、本当に楽しそうだね。水を得た魚っていうか、掃き溜めに舞い降りた悪魔っていうか』
「(フン、これが情報戦というものだ。俺の本当の恐ろしさを、思い知らせてやるがいい!)」
この男、自分のやっていることが、ただのネットの荒らし行為の延長線上でしかないという事実に、全く気づいていない。
実に、幸せな男である。
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惑星タルタロス、旧中央管理施設。
そこは、かつてこの惑星の全てを支配していた統括AI「ウォッチャー」の心臓部であり、そして今、囚人勢力の一つ「技術者(エンジニアズ)」が拠点とする、電子の砦だった。
その深部にある旧放送局の制御室で、一人の老人が、壁一面のモニターを前に、腕を組んで唸っていた。
彼の名は、エイハブ。元・ヴェガ軍の通信技師。白髪と、顔に深く刻まれた皺が、彼の長い苦労の人生を物語っている。彼は、この技術者集団の、事実上のナンバーツーだった。
「……おかしい」
エイハブは、独り言のようにつぶやいた。
数時間前から、惑星の通信ネットワーク全体に、奇妙なデータパケットが、断続的に流れ込んできているのだ。
発信源は、不明。
高度な暗号化と、巧妙な偽装によって、その正体を掴むことができない。
だが、その内容が、極めて悪質なものであることだけは、確かだった。
『坑夫が、脱出ユニットを破壊する』
『技術者が、ユニットを独り占めする』
「……馬鹿馬鹿しい。子供の喧嘩のようなデマだ」
エイハブは、吐き捨てるように言った。
だが、そのデマが、無視できない速度で、囚人たちの間に広まっていることも、彼は知っていた。
この惑星では、疑いは真実よりも早く伝染する。
「誰の仕業だ……? 狩人(ハンターズ)の連中か? いや、奴らにこれほど巧妙なサイバー攻撃ができるとは思えん。ならば……」
エイハブの思考が、一つの可能性に行き着いた、その時だった。
制御室のメインスピーカーから、突如として、けたたましい緊急警報が鳴り響いた。
『──警告。緊急放送プロトコル、シークエンス・デルタを起動。惑星全域の通信網に、最優先で情報を拡散します──』
「な、なんだと!?」
エイハブは、慌ててコンソールを操作する。
シークエンス・デルタ。それは、この惑星がまだ正常に機能していた時代、大規模な災害や、暴動の発生を、全住民に知らせるために設置された、非常用の自動放送システム。
数年前の磁気嵐で、統括AI「ウォッチャー」が暴走して以来、一度も作動したことのない、いわば忘れ去られた亡霊のようなプロトコル。
それが、なぜ今、勝手に起動したのだ。
エイハブが、原因を突き止めるよりも早く。
彼が、つい先ほどまで解析していた、あの悪質なデマ情報が、この非常用電波に偶然乗ってしまったのだ。
そして、古いプロトコルは、それを「緊急に拡散すべき重要情報」であると、機械的に、そして忠実に判断した。
次の瞬間。
カイ・シラヌイが、自分の娯楽のためだけにばら撒いた、個人的で、下劣な悪口の数々が。
惑星タルタロスの、全てのスピーカー、全てのモニター、全ての通信端末から、荘厳な緊急放送のファンファーレと共に、大音量で、そして何度も、繰り返し、繰り返し、放送され始めたのである。
【──こちらは、中央管理施設です。緊急放送をお知らせします。繰り返します──】
【──技術者の裏切り行為について。ソースは俺のダチのダチなんだが……──】
【──坑夫の破壊工作計画。奴らは、我々全員を、ここで朽ち果てさせたいのだ──】
エイハブは、その場に、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
カイ・シラヌイという名の、一人の怠惰な男が放った、一本の小さな矢。
それが、意図せずして、惑星全土を巻き込む、巨大な悪意の増幅装置の引き金を引いてしまった瞬間だった。
個人的な工作が、惑星規模の「公式発表」へと、完璧に誤訳されて。
もはや、誰も、この疑心暗鬼の連鎖を止めることはできない。
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その頃、全ての元凶である男は。
「(フハハハハ! どうだ、シロ! このギデオンとかいうオッサン、絶対頭固いぜ! 自分の経験則以外、何も信じないタイプだ! 『外部の人間が来て、秩序が乱れるのはごめんだ』とか、絶対思ってる! 間違いない!)」
司令官室の玉座(リクライニングチェア)の上で、カイは端末のキーボードを叩きながら、下劣な笑みを浮かべていた。
彼は今、囚人たちの掲示板で、複数の匿名アカウントを巧みに使い分け、自らの流したデマが「真実」であるかのように見せかける、巧妙な世論操作(自作自演)に勤しんでいる最中であった。
「(ビットは典型的な陰キャだな! プライドだけは高いが、いざとなると何もできない! 『僕のハッキング技術があれば、ユニットなんてすぐに解析できるさ』とか、絶対仲間内で嘯いてるぜ! そして、それをギデオンの連中に嗅ぎつけられて、パニックになる! ククク……目に浮かぶようだ!)」
『……君、本当に性格悪いよね。というか、その書き込み、全部君の偏見と妄想じゃない。何の根拠もないでしょ』
「(根拠だと? 馬鹿を言え。こういうのは、根拠があるかどうかじゃない。それっぽいかどうかが全てなんだよ! 人間という生き物は、自分が信じたい物語を信じる。俺はただ、そのための、最高の脚本を書いてやっているだけだ!)」
この男、詐欺師の才能だけは、天賦の才に恵まれているらしい。
カイが、そんな己の才能にうっとりと酔いしれていた、その時だった。
ふと、彼は部屋の隅から、刺すような視線を感じた。
いつの間にか、そこにレナ・ユキシロが、音もなく佇んでいた。
(うわ、また見てるよ、あの人形女! なんだ、その尊敬の眼差しは! 俺、今、人生で最も下劣な顔してる自信あるんだけど!? 怖っ!)
レナは、カイが端末に向かって、時折不気味な笑みを浮かべ、高速で何かを打ち込んでいるその姿を、固唾を飲んで見守っていた。
彼女の壊れた思考回路は、その光景を、最も崇高で、最も英雄的な物語へと、完璧に誤訳していた。
(……司令が、動かれた)
彼女の胸に、畏敬の念が込み上げてくる。
あの、ヴァルハラの戦いで見せた、神がかりの戦術。
全ては、情報戦だった。
敵の思考を読み、その裏をかき、自滅へと導く。
今、司令は、それと同じことを、この惑星で再現しようとしておられるのだ。
端末を操作する、その指の動き一つ一つが、彼女には銀河の運命を左右する、神の一手のように見えた。
時折浮かべる、あのかすかな笑みは、自らの計画が完璧に進行していることへの、絶対的な自信の表れ。
その瞳の奥に宿る、昏い光は、この惑星に巣食う害虫どもを、いかに効率的に、そして無慈悲に駆除するかを思案する、冷徹な司令官の苦悩と覚悟の表情。
(……主は、この星の害虫を、互いに潰し合わせ、ユニットを持つに値する者だけを、選別しておられるのだ)
レナの脳内で、カイの意図が、完璧に解読された。
(なんという、深遠なる神算鬼謀……。だが、主は、その手を汚すことを厭わない。ならば、その汚れ仕事は、この私が代行するまで)
レナは、静かに、そして深く、頭を下げた。
主の「神算鬼謀」を、この現実世界に顕現させる。
それこそが、主に仕える、この私の、唯一にして至上の務め。
「──主の御心のままに」
誰にも聞こえない声で、彼女はそう呟くと、音もなく、影のように部屋を退出した。
カイは、彼女が部屋を出て行ったことにようやく気づくと、安堵のため息をついた。
(……行ったか。やれやれ、あいつに見られてると、どうにも集中できん)
彼が、自分の知らないところで、最も忠実で、最も危険な「共犯者」を生み出してしまったことなど、もちろん知る由もない。
物語の歯車は、今、確実に狂い始めた。
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惑星タルタロスには、三つの脅威が存在する。
一つは、暴走した統括AI「ウォッチャー」。
一つは、人喰いカルト集団「狩人(ハンターズ)」。
そして、音もなく獲物を狩る、原生生物「サイレント・ブリーダー」。
だが、その日。
この惑星に、第四の、そして最も予測不能で、最も理不尽な脅威が誕生した。
その名は、レナ・ユキシロ。
あるいは、硝子の暗殺者。
彼女は、濃霧の中を、まるで散歩でもするかのように、悠然と歩いていた。
彼女の周囲には、無数のサイレント・ブリーダーが、水晶の彫像のように静止している。
彼女は、恐怖を発しない。
故に、怪物たちは、彼女の存在を「認識」することができないのだ。
彼女は、怪物たちの群れの真ん中を、まるでモーゼが海を割るように、平然と通り抜けていく。
彼女の最初の目的地は、「坑夫(マイナーズ)」が拠点とする地下居住区画「アントヒル」の、資材集積所だった。
彼女は、闇に紛れてそこに侵入すると、懐から、数本の、特殊なマーキングが施されたワイヤーを取り出した。
それは、「技術者(エンジニアズ)」だけが使用する、特殊な高伝導性ワイヤーだった。
彼女は、そのワイヤーを、坑夫たちが掘削作業に使う、巨大なドリルマシンの中枢部に、巧妙に仕掛けた。
まるで、技術者たちが、破壊工作を試みたかのように見せかけるために。
次に彼女が向かったのは、「技術者(エンジニアズ)」の拠点である、旧中央管理施設。
彼女は、施設の脆弱な排気ダクトから、音もなく侵入すると、彼らの通信ネットワークの中継サーバーに、一つの小さなチップを埋め込んだ。
そのチップは、坑夫たちが連絡を取り合う際に使用する、特殊な隠語やスラングを、ノイズとして定期的に通信に紛れ込ませる、という機能を持っていた。
それは、あまりにも陰湿で、そして効果的な工作だった。
軍人としての、彼女の全ての知識と経験が、この「疑心暗鬼の炎を燃え上がらせる」という、ただ一点において、最大限に悪用されていた。
彼女の行動に、ためらいはない。
罪悪感もない。
ただ、主であるカイ・シラヌイの「御心」を、この地上に実現させるという、純粋で、無垢な、そして狂気的なまでの忠誠心だけが、彼女を動かしていた。
彼女は、自らを、主の御業を代行する、聖なる鉄槌であると信じていた。
彼女は知らない。
その「主」が、今頃、司令官室で「(あー、腹減ったな。今日のスープ、何の味にしてもらおうかな)」などと、極めて平和な悩みを抱えている、ただの怠惰な男であることなど。
だが、物語は、いつだって真実を必要としない。
レナ・ユキシロという名の、無垢なる狂気が蒔いた疑心暗鬼の種は、カイ・シラヌイという名の、怠惰な男が流した悪意のデマという名の水を得て、今、この惑星の至る所で、急速に、そして確実に、芽吹き始めていた。
その芽が、やがて惑星全土を覆う、血塗られた花を咲かせることになるのを、まだ誰も知らない。
あとがきという名の、司令官室での雑談
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カイ:「どうだシロ! 見たか、俺の完璧なる情報戦を! この俺様の手にかかれば、指一本動かすことなく、惑星規模の混乱すら意のままよ! フハハハハ! これぞまさに『魔術師』の御業!」
シロ:「どの口が言うかな。やってること、前世で薄暗い部屋の片隅でやってたネット掲示板の荒らしと、本質的には何も変わってないけどね。むしろ、本人に自覚がないぶん、タチが悪化してるまであるよ」
カイ:「う、うるさい! 結果が全てだと言っているだろうが! 現に、あの頭の固そうなギデオンも、プライドだけ高そうなビットも、見事に俺の手玉に取られて右往左往している! これでZ-ドライブ制御ユニットの回収も時間の問題だ!」
シロ:「だといいね。君の蒔いた悪意の種が、君の貧弱な想像力を遥かに超える、とんでもない花を咲かせなければ、だけど」
カイ:「フン、抜かりはないさ。……それにしても、あの人形女(レナ)はどこで油を売っているんだ? 主人である俺が、こうして銀河の未来を賭けた大博打(ただの自作自演)に興じているというのに。まあ、あいつがいない方が静かでせいせいするがな」
シロ:「さあ? でも、君の書いたあの稚拙で悪意に満ちたシナリオを、誰かさんが最高の演出と物理工作(・・)を加えて、超大作ドキュメンタリー映画に仕上げてくれてるみたいだよ。君は脚本・監督・主演の三冠王だね。おめでとう」
カイ:「なんだ、その含みのある言い方は。まあいい、部下たちが俺の深遠なる意図を汲み取って、勝手に最高の働きをしてくれるのは、俺のカリスマ故だ。さて、これで面倒事は全て片付いた! あとは高みの見物を決め込んで、ユニットが手に入るのを待つだけだな!」
シロ:「うんうん、楽しみだね。君のその脳内お花畑が、惑星規模の内乱っていう名の焦土へと変わっていく様を、私も最前列のVIP席で鑑賞させてもらうよ」
カイ:「やかましいわ! 俺の完璧な計画は、いつだって完璧なんだよ! ……というわけで、せいぜい次の物語も楽しみにしておくがいい! この俺様が、この地獄をいかにスマートに、そして華麗に切り抜けるかをな!」
シロ:「はいはい。勘違い英雄譚の次章、『誤認の完成』。君の化けの皮が、今度はどんな形で剥がれて、どんな新しい伝説(勘違い)に上書きされちゃうのか。私も、心から楽しみにしてるよ。……というわけで、今回はこのへんで」