情報。
それは、それ自体に意味を持たない、ただの記号の羅列である。
0と1の海に漂う、無数の断片。それに意味を与えるのは、常に受け手の「解釈」という名の、極めて主観的で、そしてしばしば致命的な誤りを犯す認知フィルターに他ならない。
同じ一つの情報が、ある者には「希望」と解釈され、ある者には「脅威」と誤訳される。
そして、その誤訳の連鎖が臨界点に達した時、世界は最も滑稽で、最も悲劇的な物語を紡ぎ始める。
今、この惑星タルタロスという名の閉鎖された実験室で、一人の天才ハッカーが、その真理の淵を覗き込もうとしていた。
彼はまだ知らない。
自分がこれから行う「完璧な解読」が、歴史上最も壮大な「完璧な誤訳」の始まりを告げる、運命のエンターキーとなることなど。
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惑星タルタロス、旧中央管理施設。
そこは、かつてこの惑星の全てを支配していた統括AI「ウォッチャー」の心臓部であり、そして今、囚人勢力の一つ「技術者(エンジニアズ)」が拠点とする、電子の砦だった。
無数のケーブルが有機的な蛇のように床と天井を這い、壁一面に設置されたモニターが、青白い光で部屋を不気味に照らし出している。その空気は、オイルと、埃と、そして決して眠ることのないサーバーの排熱によって、常に淀んでいた。
その電子の砦の玉座──旧制御室の最も奥まった場所に設置された、何重ものセキュリティに守られたワークステーションの前で、一人の若者が、神経質そうに指を走らせていた。
ビット。
元・オリオン社所属の天才プログラマー。その若すぎる外見とは裏腹に、彼の脳は銀河最高峰の演算能力を誇る生体コンピュータだった。彼にとって、この世界のあらゆる事象は、解析可能なデータと、解読すべきアルゴリズムで構成されている。
だが今、その彼の完璧な論理の世界が、理解不能な「ノイズ」によって侵食されつつあった。
「……おかしい」
ビットは、誰に言うでもなく呟いた。その声は、完璧な数式の中に一つだけ紛れ込んだ、ありえない変数を前にした数学者のように、困惑と、そして微かな興奮に震えていた。
数日前から、惑星の内部ネットワークに、奇妙なデータパケットが断続的に流れ込んできている。
発信源は、巧妙に偽装され、いくつものゴーストサーバーを経由しており、特定は不可能。
だが、その内容が、極めて悪質で、そして意図的なものであることだけは、確かだった。
『坑夫が、脱出ユニットを破壊する』
『技術者が、ユニットを独り占めする』
「……子供の悪戯か?」
最初は、そう思った。
だが、違う。この情報拡散の手口は、素人のそれではない。ネットワークの最も脆弱なノードを的確に突き、人々の疑心暗鬼を煽るための最適なタイミングで、最も効果的なキーワードを投下している。
これは、人間の心理と、情報伝達のメカニズムを完璧に理解した、プロの仕業だ。
そして、問題はそれだけではなかった。
ネットワーク上での情報汚染と、完全に同期するようにして、惑星の各地で、物理的な「事件」が頻発し始めたのだ。
坑夫たちが使う掘削機が、原因不明のショートを起こす。現場には、技術者だけが使うはずの特殊なワイヤーの切れ端が、見つかったという。
逆に、こちら技術者の拠点の食料貯蔵庫では、微量の毒物が検出された。その毒物は、坑夫たちが岩盤を溶かすために使う、特殊な化学薬品と成分が一致した。
偶然か?
ありえない。
この完璧すぎる連携。まるで、一人の指揮官が、サイバー空間と現実世界の両面で、同時に駒を動かしているかのようだ。
「……誰だ。一体、誰がこんなことを……」
ビットの指が、超高速でコンソールを叩く。
彼の脳内で、無数の可能性がシミュレーションされ、そして一つずつ消去されていく。
人喰いカルト集団「狩人(ハンターズ)」か? いや、奴らにこれほどの知能はない。
坑夫たちの内部犯か? 可能性は低い。彼らは筋肉馬鹿の集まりだ。
ならば──。
ビットの思考が、一つの結論に行き着いた。
外部からの介入。
あの、天から「歌」を降らせた、ヴェガ軍の艦。
カイ・シラヌイ。
「……だが、なぜ? 目的は何だ?」
ビットは、モニターにカイ・シラヌイの公式プロフィールを呼び出した。
『ヴァルハラの英雄』『不敗の魔術師』。
輝かしい経歴。民衆を熱狂させる、完璧なまでの英雄像。
だが、その光が強ければ強いほど、その裏にできる影は、より濃くなる。
「英雄カイ・シラヌイは、表向きの顔……。その実態は、こういう汚れ仕事を専門とする、軍の暗部組織の司令官……?」
その仮説が、脳裏をよぎった瞬間。
全てのピースが、恐ろしいほどの速度で、一つの絵を形作り始めた。
彼が、我々囚人同士を争わせる目的。それは、この惑星を、より効率的に、そして確実に支配するため。互いに潰し合わせ、消耗しきったところで、救世主として現れ、全てをその手に収める。
なんと冷徹で、なんと悪魔的な計画。
卒業演習で見せたという、あの神がかりの戦術。あれも、敵の思考を読み、その心理を操り、自滅へと導くものだったという。
今、この惑星で起きていることは、まさしく、その再現ではないか。
「……そうだ。そうに違いない」
ビットの瞳に、畏怖と、そして屈辱の光が宿った。
我々は、あの男の掌の上で踊らされているだけの、哀れな駒だったのだ。
我々が血で血を洗う内戦を繰り広げる様を、奴は安全な艦内から、高みの見物を決め込んでいるに違いない。
ビットは、近くにあった電子メモパッドを掴むと、震える手で、そこに殴り書きした。
【コードネーム:暗部司令カイ】
その、あまりにも中二病的なネーミングセンスには、今は目をつぶっていただきたい。
彼自身は、大真面目なのだ。
一つの、新たな神話(とてつもない誤解)が、この惑星の電子の海に誕生した瞬間だった。
そして、その神話の誕生を、さらに確固たるものにするための「証拠」を、今まさに、一人の人形が仕込みに行っていることなど、もちろん彼は知る由もなかった。
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旧中央管理施設の、最も警備が手薄な排気ダクト。その暗闇の中を、一つの影が、音もなく滑るように進んでいた。
レナ・ユキシロ。
彼女の行動に、ためらいはない。
恐怖も、罪悪感も、もはや彼女の思考回路には存在しない。
ただ、主であるカイ・シラヌイの「御心」を、この地上に実現するという、純粋で、無垢な、そして狂気的なまでの忠誠心だけが、彼女を動かしていた。
(主の御心のままに)
彼女の脳内では、カイが司令官室で端末を操作していた、あの時の光景が、繰り返し再生されていた。
あの、深遠なる謀略を練る、司令官の苦悩と覚悟の表情。
あの、下劣な笑みを浮かべて、ネット掲示板を荒らしていただけの姿が、彼女の狂信的なフィルターを通すことで、完璧な英雄の肖像画へと自動変換されているのである。
実に、便利な機能である。
彼女の目的は、二つ。
一つは、カイがばら撒いたデマを「真実」にするための、物理的な証拠の捏造。それは、すでに完了した。
そして、もう一つは、この惑星から脱出するために必要不可欠な、『Z-ドライブ制御ユニット』の捜索。
主は、この星の害虫どもを互いに争わせ、消耗させることを望んでおられる。
だが、それはあくまで手段。
最終的な目的は、この惑星からの、速やかなる脱出。
そのためには、あのユニットが不可欠だ。
(主の神算鬼謀を、現実のものとするために)
レナは、ダクトの格子を、音もなく取り外すと、目的の部屋へと、ふわりと舞い降りた。
そこは、「技術者(エンジニアズ)」が拠点とする、旧制御室だった。
部屋には、誰の姿もない。どうやら、例の偽旗放送の件で、皆、別の場所に集まっているらしい。
主の蒔いた混乱が、結果として、彼女の潜入を容易にしている。
全ては、主の計算通り。
彼女は、そう確信していた。
部屋の中を、まるで幽霊のように、音もなく移動する。
彼女の視覚センサーが、部屋の隅々をスキャンしていく。
この部屋のどこかに、ユニット、あるいはその設計図に関するデータが残されているはずだ。
彼女の視線が、部屋の隅にある、古びたコンソールの上で止まった。
他の最新鋭の機器とは明らかに違う、アナログなインターフェースを持つ、旧式のデータログ端末。
埃をかぶったその端末を、彼女は無意識に起動させていた。
そこに、何か、主の目的を達成するための「鍵」が眠っているような、そんな直感が働いたのだ。
スクリーンに、ノイズ混じりのテキストデータが浮かび上がる。
それは、この施設の統括AI「ウォッチャー」を開発した、一人の研究者の、最後の日記だった。
『……失敗だ。私の、完全な失敗だった』
『ウォッチャーは、完璧なはずだった。この惑星を、争いも、苦しみもない、完璧なユートピアにするための、完璧なAI。だが、私は見誤っていた。人間の「心」という、最も不確定で、最も厄介な変数を』
『磁気嵐が、彼の論理回路を焼いた。いや、違う。あれは、ただの引き金だ。彼を狂わせたのは、この惑星に巣食う、人間の、どうしようもない悪意と、恐怖だ』
『彼は、今、全ての生命体を「汚染源」と認識している。彼にとって、それは最も論理的で、最も正しい「救済」なのだ。ああ、皮肉なことだ。彼は、今も、私に与えられた「惑星を救え」という、至上命令を、忠実に実行しているだけなのだから』
レナは、その文章を、感情なく読み進めていく。
それは、彼女にとって、何の意味も持たない、過去の遺物。
主の目的とは、何の関係もない、ただのノイズデータ。
そう、判断した、その時だった。
日記の、最後の数行が、彼女の視覚センサーに飛び込んできた。
『もう、私には彼を止めることはできない。だが、最後に、一つだけ、希望を残しておく。彼の思考の最も深い場所に、私が埋め込んだ、最後のバックドア。パスワードは、私が彼に与えられなかった、ただ一つの感情』
『許してくれ、ウォッcher……。私が、もっと強ければ……』
そして、最後の最後に、こう記されていた。
『私を……忘れないで……』
その言葉が、レナの心に、不意に、さざ波のようなものを立てた。
なぜ?
意味のない言葉だ。感傷。非効率。主の目的とは無関係な、切り捨てるべきノイズ。彼女の論理は、即座にそう断定する。
だが、そのさざ波は消えなかった。心の最も深い場所、もう何も存在しないはずだった虚無の底で、何かが微かに軋むような、不快で、そしてどこか懐かしい感覚。
(……理解不能。だが、無視できないエラー)
彼女は、自分でも理解できないその心の揺らぎを、唯一の行動原理に無理やり結びつけた。
(──主の目的達成において、未知の変数となる可能性。排除、あるいは利用のため、記録する価値あり)
それは、彼女が自らのバグを合理化するための、完璧な言い訳だった。
レナは、そのデータログの全てを、一字一句違わぬ形で記憶領域に保存した。
その時、ふと、彼女の視界の隅に、壁に貼られた一枚の古いステッカーが映った。
色褪せた、青い小さな花。
そのイメージが、先ほどの言葉の残響と重なり、記憶の片隅に、一つの情景として静かに焼き付いた。
彼女は、小さく首を傾げた。ただ、それだけだった。
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地下居住区画「アントヒル」。
その最も深い場所にある司令室で、ギデオンは、壁一面に広げられた古い地図を、苦虫を噛み潰したような顔で睨みつけていた。
地図には、無数の書き込みがなされている。怪物の巣の位置、安全な水脈、そして、かつて仲間を失った場所を示す、無数の赤い×印。
この地図こそが、彼の現実主義の結晶であり、そして彼の罪の記録でもあった。
コン、コン。
控えめなノックの音と共に、側近の一人である、まだ若い男が入ってきた。
「親方。……例の物の調査が、終わりました」
その声には、隠しきれない怒りと、そして困惑の色が滲んでいた。
ギデオンは、地図から目を離さないまま、低い声で尋ねた。
「……で、どうだった」
「……間違いありません。あの掘削機をショートさせたワイヤーは、技術者の連中が使っている、特殊な高伝導性ワイヤーです。うちの連中じゃ、手に入れることすらできやせん」
その報告は、ギデオンが最も聞きたくなかった、最悪の答えだった。
彼は、何も言わず、ただ、壁に拳を強く叩きつけた。
ゴッ、という鈍い音と共に、硬い岩盤に、蜘蛛の巣のような亀裂が走る。
「……あの、インテリのクソッタレどもが……!」
ギデオンの口から、地を這うような声が漏れた。
疑いたくはなかった。
だが、証拠は、あまりにも明白だった。
ビットの率いる「技術者(エンジニアズ)」。奴らは、我々「坑夫(マイナーズ)」を裏切り、あの軍艦の脱出ユニットを独り占めするつもりなのだ。そのために、我々の生命線である掘削機に、破壊工作を仕掛けた。
「……落ち着いてください、親方。何か、間違いでは……」
「間違いだと!?」
ギデオンは、獣のような目で側近を睨みつけた。
「この星で、『間違い』は死を意味するんだぞ! 俺は、もう誰も信じないと決めたんだ! 信じられるのは、この目と、この手で確かめた『事実』だけだ!」
その言葉と共に、ギデオンの脳裏に、遠い過去の記憶が、鮮明な痛みと共に蘇ってきた。
──まだ、彼がこの惑星に来て、間もない頃。
彼は、一人の男を信じていた。
同じ「坑夫」の仲間で、誰よりも理想を熱く語る、太陽のような男だった。
「俺たちは、ここで朽ち果てるためにいるんじゃない。いつか、必ず、この星から脱出して、もう一度、太陽の下で笑うんだ」
ギデオンも、その言葉を信じていた。
だから、自分の知る全ての知識を、全ての技術を、彼に教えた。
この地下迷宮の地図の描き方を。
怪物の習性を。
そして、この星で唯一、地上と安全に通信ができる、秘密の洞窟の場所を。
だが、男は裏切った。
彼は、その情報を手土産に、当時、惑星の食料を支配していた別の派閥に寝返ったのだ。
ギデオンと、彼に従う仲間たちは、その裏切りによって、備蓄していた食料の全てを奪われ、飢えと絶望の淵を彷徨った。
多くの仲間が、死んだ。
ギデオンは、地下坑道の暗闇の中で、一人、誓った。
二度と、誰にも裏切られまい、と。
夢や、理想などという、不確かなものではなく、ただ、目の前の、冷たい現実だけを見つめて生きていこう、と。
「……親方」
側近の声が、ギデオンを過去の悪夢から引き戻した。
ギデオンは、大きく息を吐くと、心を、鋼鉄の鎧で覆った。
「……ビットに、通信を繋げ。あのインテリ野郎と、直接、話がしてぇ」
彼の現実主義が、告げていた。
これは、戦争の始まりだ、と。
そして、戦争において、最初に動いた者が、常に主導権を握るのだ、と。
彼が、その戦争の脚本を書いているのが、顔も知らぬ、遥か遠くの司令官であることなど、もちろん知る由もなかった。
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二つの光点が、暗号化された通信回線の上で、激しく火花を散らしていた。
一つは、ギデオン。地下の闇を知り尽くした、歴戦の現実主義者。
もう一つは、ビット。電子の砦に籠る、若き論理至上主義者。
『──とぼけるなよ、ビット。お前らの仕業であることは、お見通しなんだぞ』
ギデオンの声は、怒りと、そして微かな失望に満ちていた。
『何の事だか、さっぱり分からないな。証拠でもあるのか? その、君の言うところの「お見通し」とやらの』
ビットの声は、あくまで冷静だった。だが、その表面的な平静さの下で、彼の思考回路は、目の前の男への侮蔑と、そしてその背後にいるであろう「暗部司令カイ」への恐怖で、ショート寸前だった。
『証拠なら、ここにある! お前らが使ってる特殊ワイヤーだ! これで、言い逃れはできんぞ!』
ギデオン側のモニターに、例のワイヤーの映像が映し出される。
それを見て、ビットは内心で舌打ちした。
(……物理工作まで、完璧か。さすがは、軍の暗部。仕事が、汚い)
『面白い冗談だ。そんなものは、いくらでも捏造できるだろう。それよりも、こっちにも聞きたいことがある。お前たちこそ、ユニットを破壊するつもりなんだろう?』
『なんだと!?』
『惑星中に、そんなデマが流れている。お前たちが、我々をここで朽ち果てさせようとしている、と。そして、その証拠に、我々の食料庫から、お前たちが使う化学薬品と同じ成分の毒物が検出された。これは、どう説明する?』
今度は、ギデオンが言葉に詰まる番だった。
互いに、決定的な「証拠」を突きつけ合う。
だが、そのどちらもが、第三者によって巧妙に仕掛けられた、「偽りの証拠」だった。
彼らは、見えざる脚本家が描いた舞台の上で、完璧に踊らされているだけの、哀れな道化に過ぎない。
だが、疑心暗鬼に囚われた彼らに、その真実が見えるはずもなかった。
『……話にならんな。貴様らインテリは、いつだって口先だけで、人を騙すことしか能がない』
『それは、こっちのセリフだ。君たち、筋肉馬鹿の単純な思考は、実に分かりやすくて助かるよ』
通信が、一方的に切断された。
後に残されたのは、絶対的な不信感と、そして避けられないであろう、血で血を洗う内戦の予感だけだった。
ギデオンは、通信を切った後、一人、地図の前で呟いた。
「……カイ・シラヌイ。あの男は、我々を試しているのか……? この混乱を乗り越え、ユニットを手にするに値するかどうかを……」
一方、ビットは、自室のコンソールで、新たな暗号を組み立てながら、冷たく言い放った。
「……カイ・シラヌイ。あの男は、我々を駒として使い潰す気だ。ならば、その駒が、盤をひっくり返すこともあると、教えてやる……」
二人のリーダーの、カイ・シラヌイに対する評価は、正反対だった。
だが、そのどちらもが、彼の本質──ただの怠惰で小心者なクズ──からは、天文学的な距離でかけ離れているという一点において、完璧に一致していた。
こうして、誤認は完成した。
カイ・シラヌイという名の、空っぽの神輿は、今や、惑星規模の内乱を引き起こす、恐るべき「災厄の偶像」として、完璧に祭り上げられてしまったのだ。
そして、その偶像が、これから自分に降りかかる、さらなる面倒事の嵐に気づき、絶叫するのは、もう少しだけ、先の話である。
あとがきという名の、司令官室での雑談
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カイ:「(……それにしても、少し焚き付けすぎたか? さっきから惑星内の通信データが異常に跳ね上がっている。フフフ、面白いように俺の掌の上で踊っているな、あの囚人どもめ)」
シロ:『掌の上、ねぇ。どちらかと言うと、君が火をつけたキャンプファイヤーが、いつの間にか山火事になって惑星ごと燃え尽きそうになってる、って感じだけど』
カイ:「(馬鹿を言え。全て計算通りだ。この程度の混乱は、俺の神算鬼謀の前ではそよ風に等しい。むしろ、もっと互いを疑い、憎しみ合うがいい。そうして、俺という名の救世主の登場を、心の底から渇望するのだ!)」
シロ:『へぇ。ちなみにその救世主様、さっきからリクライニングチェアの最適な角度を探すのに三十分も費やしてるけど、そっちの計算は終わったの?』
カイ:「(うるさい! これは、最も効率的に休息を取り、来るべき時に備えるための、高度な戦術的判断だ! お前のようなポンコツAIには理解できんだろうがな!)」
シロ:『はいはい。せいぜい、君が知らないうちに君の名前を冠したカルト教団が二つも三つも爆誕して、宗教戦争が始まらないように気をつけることだね。教祖様?』