司令官は、待っていた。
いや、正確に言えば、カイ・シラヌイという名の男は、彼の神殿(司令官室)の玉座(リクライニングチェア)の上で、外面だけは冷静沈着を装い、ただひたすらに、時が過ぎるのを待っていた。
何を?
無論、彼の完璧なる寄生計画の、最初の生贄となるべき「虎」の到来をである。
彼は、これから始まるであろう、極めて面倒くさいが、自らの安寧のためには避けて通れぬ交渉の儀式に備え、万全の態勢を整えていた。
テーブルの上には、レナが淹れた、一杯で家が建つと噂の高級茶葉を使った紅茶が、完璧な温度で湯気を立てている。彼の指先には、いつでも冷静沈着な司令官としてティーカップを持ち上げられるよう、完璧な角度と力加減がシミュレートされている。表情筋は、相手のいかなる野蛮な恫喝にも、動じることのない「指揮官の余裕」を浮かべるための最終調整を終えた。
準備は、万端。
さあ、来るなら来るがいい、アリズンの海賊ども。
この私が、お前たち凡人には計り知れぬ、器というものを見せつけてやろう。
──と、いうのが、彼の完璧な外面(ポーカーフェイス)が醸し出す雰囲気であった。
もちろん、その実態は。
(遅い……! 遅すぎる! なんだ、あの海賊どもは! やる気があるのか、ないのか、はっきりしろ! こっちは、お前らと仲良く(寄生)してやるために、三日も前からスタンバってやってるんだぞ! 少しは、こちらの気持ちも考えろ!)
彼の内心は、開店休業状態のラーメン屋の店主のように、苛立ちと不安で、とっくに限界を突破していた。
あの、顔面凶器の密偵どもを放出して、はや三日。
彼の完璧な計画によれば、今頃、斥候に出した彼らの何人かが海賊に捕まり、その船からネメシスの存在が漏れ、血の気の多い海賊たちが「ヒャッハー! カモだぜ!」とばかりに、大挙して押し寄せてくるはずだったのだ。
だが、現実はどうか。
メインスクリーンに映し出されるレーダーには、確かに無数の赤い光点──海賊船らしき反応が、そこかしこに映っている。しかし、そのどれもが、こちらの存在に気づいていないのか、あるいは意図的に避けているのか、一定の距離を保ったまま、まるで亡霊のように、ただ漂っているだけなのだ。
「(なんだ、この状況は!? もしかして、俺の『ヴァルハラの英雄』とか『タルタロスの神』とかいう、悪趣味なブランドイメージが、独り歩きしすぎて、あいつら、怖くて近づいてこないとか、そういうオチじゃないだろうな!?)」
彼は、自らが作り上げた(ということにされている)伝説が、今、まさに自分の首を絞めているという、極めて皮肉な可能性に思い至り、背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
(冗談じゃない! 俺は、適度にナメられて、適度に絡まれて、それを圧倒的な力で(手加減して)ねじ伏せ、その上で「まあ、君たちの度胸は評価しよう。これからは、我々と共に行かないか」と、恩着せがましく仲間に入れてもらう、という完璧なシナリオを描いているんだぞ! それがなんだ、この、まるでクラスのヤンキーが、転校生のヤバい噂を聞いて、遠巻きに様子を窺っているかのような、チキンな展開は!)
──この男、自分のことを、どれだけ過大評価しているのだろうか。その傲慢さは、もはや神の域に達していると言っても過言ではないだろう。
『ご機嫌だね、カイ。何かいいことでもあった? まるで、文化祭の出し物にお客さんが一人も来なくて、ふてくされてる高校生みたいな顔してるけど』
脳内で、シロがいつものように軽薄な声で茶々を入れてくる。
「(うるさい! 人の繊細な心の機微を、そんなチープな青春の一コマに例えるな! 私は今、この銀河の未来を左右する、壮大な外交戦略が、開始早々頓挫しかけていることに、深い憂慮を抱いているのだ! 分かるか、この高尚な精神性が!)」
『へえ、外交戦略ねえ。僕の目には、ただの「待ちぼうけ」にしか見えないけど。君の完璧な計画、出だしから壮大にコケてるじゃないか』
シロの的確すぎる指摘に、カイはぐうの音も出ない。
彼の苛立ちは、刻一刻と、その頂点へと近づいていた。ティーカップを持つ指先が、怒りのあまり、ピクピクと痙攣している。
「司令」
艦橋のオペレーター、リーゼロッテが、困惑した表情で報告する。
「依然として、多数の海賊船の反応を感知。ですが、そのいずれもが、本艦から半径一万キロ圏内に侵入する意図は見られません。まるで、一種の不可侵条約でも結ばれているかのように、整然と、本艦を避けて航行しています」
「……そうか」
カイは、内心の嵐を完璧に押し殺し、あくまで冷静な司令官として、短く応えた。
だが、その仮面の下では、奥歯をギリギリと、憎悪の音を立てて噛み締めていた。
(舐めやがって……! あの、クソ海賊ども! 俺を、俺という名の未来の寄生先を、無視するとは、いい度胸じゃないか! いいだろう、そこまで俺をコケにするというのなら、こちらも考えがある!)
彼の、自己中心的な思考回路は、この状況を「相手が自分を恐れている」のではなく、「相手が自分を侮辱している」のだと、完璧に誤訳した。そして、その傷つけられた(と勝手に思い込んだ)プライドが、彼の行動原理を、怠惰から、攻撃的なものへと、一瞬で切り替えさせたのだ。
カイは、玉座から、ゆっくりと、しかし内なる怒りのオーラを「深遠なる決意」のそれに変換しながら、立ち上がった。
その、司令官の静かなる威圧感に、艦橋のクルーたちが、ごくりと息を呑む。
「……待っているだけでは、埒が明かんな」
彼の声は、低く、そして落ち着いていた。だが、その響きには、有無を言わせぬ決意が宿っているように、クルーたちには聞こえた。
「こちらから、出向いてみよう。彼らが何を考え、何を恐れているのか……それを、この目で確かめる必要がある」
カイは、星系図に示された、最も近くにあり、そして最も多くの海賊船がたむろしているように見える宙域──そこに浮かぶ、一つの巨大な人工天体を、指差した。
「目標、資源採掘コロニー『黄泉(よみ)』。全速前進。皆、油断は禁物だ。何が待ち受けているか、分からんからな」
その、あまりにも司令官として真っ当で、部下を気遣う言葉。
それを聞いたクルーたちの瞳は、尊敬と、そして絶対的な信頼の光に満たされていた。彼らの司令官は、決して驕らず、常に冷静に状況を判断し、そして常に部下の身を案じてくれる、理想の上官そのものであった。
「はっ!」
「司令の御心のままに!」
彼らの司令官が、内心で(ちくしょう、こうなったらヤケソだ! 直接乗り込んで、一番偉そうな奴の胸ぐらを掴んで『おい、俺を誰だと思ってやがる! 早く俺の傘下に入れ!』って言ってやる! それでダメなら、もう知らん!)などと、チンピラ同然の思考に陥っていることなど、もちろん誰も知らない。
旗艦「ネメシス」は、主の、あまりにも個人的で、あまりにも短絡的な怒りを乗せて、ゆっくりとその巨体を反転させると、コロニー「黄泉」へと、その艦首を向けたのだった。
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資源採掘コロニー「黄泉」。
その名は、かつてこの地で、過酷な労働の末に命を落としていった、無数の名もなき労働者たちへの、鎮魂の意を込めて名付けられたという。
あるいは、一度足を踏み入れたら二度と生きては帰れぬ、文字通りの「黄泉の国」であるという、自虐と皮肉が込められていたのかもしれない。
だが、今、旗艦「ネメシス」がその巨体を現したコロニー宙域は、そのどちらの由来とも異なる、全く別の「死」の気配に満ちていた。
「……静か、すぎる」
艦橋で、レーダーを監視していたオペレーターの一人が、訝しげに呟いた。
カイが目標に定めたコロニーは、巨大な小惑星をくり抜いて作られた、無骨で巨大な建造物だった。星系図によれば、ここはアリズン連合に属する、複数の海賊団が共同で管理する、重要な資源採掘拠点であり、補給基地でもあるはずだ。
本来であれば、無数の輸送船や、宙域を警邏する小型の警備艇が、蜂の巣のように行き交っているはずの場所。
だが、現実はどうだ。
レーダーには、生命反応を示す光点が、ほとんど映し出されない。
本来なら、威嚇の一つでもしてくるはずの警備艇の姿は、一隻たりとも見当たらない。
コロニーから発せられる通信は、救難信号でも、警告でもなく、ただ意味のないノイズだけを、虚しく宇宙空間に垂れ流している。
コロニー全体が、まるで巨大な墓標のように、不気味なほど静まり返っているのだ。
「……敵の罠、かもしれません」
レナが、いつもの無表情のまま、しかしその声に、僅かな警戒の色を滲ませて進言した。
「コロニー全体を、巨大なトラップとして、我々を誘い込んでいる可能性が考えられます」
「……その可能性は、考慮しておくべきだろうな」
カイは、外面だけは、どこまでも冷静な司令官として、レナの進言を肯定した。
内心では、レナと全く同じ結論に至り、すでに冷や汗が背中を滝のように流れ落ちていたのだが。
(罠だ! これは、絶対に罠だ! あの海賊ども、俺をこのコロニーに誘い込んで、入り口を塞いで、袋のネズミにするつもりだ! そして、コロニーごと、ドカンと! やるに違いない! あいつらなら、絶対にやる!)
彼の、貧弱な想像力が、最悪のシナリオを、これでもかと描き出していく。
だが、もう後には引けない。
先ほど「状況を、この目で確かめる」と、自分で言ってしまった手前、ここで「やっぱり危険だから帰る」などとは、口が裂けても言えなかった。
見栄とプライド。
その、人類が発明した、最も厄介で、最も愚かな感情が、彼を地獄の入り口へと、否応なく突き進ませる。
「……だが、退くわけにはいかない」
カイは、引きつった笑みを完璧な「不敗の魔術師」の仮面に変えると、静かに、そして震える声を押し殺して、命令を下した。
「本艦は、これよりコロニーへのドッキングを敢行する。他の艦は、周囲の宙域を警戒してくれ。もし、敵の伏兵がいるのなら、その尻尾を掴む絶好の機会だ」
その、あまりにも勇敢で、あまりにも的確な(ように聞こえる)判断。
それを聞いたクルーたちは、「はっ!」と、力強く応える。
旗艦「ネメシス」は、まるで巨大な棺桶が、自ら墓穴へと入っていくかのように、ゆっくりと、そして荘厳に、コロニーの巨大なドッキングポートへと、吸い込まれるように着岸していった。
ポート内は、薄暗く、そしてシンと静まり返っていた。
非常灯だけが、まるで鬼火のように、ぼんやりと点滅を繰り返している。
本来なら、ドッキング作業を誘導する管制官の声や、貨物の積み下ろしを行う作業員の喧騒で満ちているはずの空間。だが、そこにあるのは、絶対的な静寂と、そして、澱んだ空気だけだった。
聞こえるのは、ネメシスの駆動音が、巨大な空間に不気味に反響する音だけ。
それは、まさしく、巨大な墓所の入り口だった。
そして、その墓所の主が、自分たちを歓迎する気など、毛頭ないことだけは、誰の目にも明らかであった。
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分厚い金属の床を踏みしめる、重々しい足音。
それは、カイ・シラヌイと、彼が率いる、完全武装の調査隊の足音だった。
レナを先頭に、歴戦の兵士と、選りすぐりの元囚人たちで構成された、総勢五十名の部隊。彼らは、一糸乱れぬ陣形を組み、銃口を四方に向けながら、ゴーストタウンと化したコロニーの内部を、慎重に、そして静かに進んでいく。
その、極限の緊張感に満ちた行列の中心で。
我らが司令官、カイ・シラヌイは。
(無理無理無理無理! なんだ、この雰囲気は! 絶対に、壁のシミだと思ってたものが、急に動いたりするやつだ! あるいは、天井から、なんか緑色のネバネバした液体が垂れてきたりするやつだ! 俺、そういうホラー映画の展開、前世で百万回は見たぞ! もう帰りたい! いますぐ母艦に帰って、ふかふかのベッドで寝たい!)
彼の内心は、すでに限界を突破していた。
薄暗く、人気のない、閉鎖された空間。
いつ、どこから、何が飛び出してきてもおかしくない、この完璧なまでのホラーゲームのシチュエーション。
それが、彼の小心な魂を、物理的に、そして精神的に、ゴリゴリと削り取っていく。
彼は、必死に外面を取り繕いながらも、その足取りは、生まれたての小鹿のように、僅かに、しかし確実に、震えていた。
『面白いじゃないか、カイ。君の好きな、探検の時間だよ。この先に、どんなお宝が眠っているのか、楽しみだね。あるいは、伝説のドラゴンが、お姫様を守っているのかもしれない』
「(黙れ、このポンコツAI! お宝もドラゴンもいらん! 俺はただ、安全なセーブポイントと、HPが全回復する宿屋が欲しいだけだ!)」
通路には、ゴミが散乱し、壁のあちこちには、何かが引きずられたような、黒い染みがこびりついている。
空気は、オイルと、埃と、そして、何かが腐敗したような、微かな甘い匂いが混じり合った、不快な臭気で満ちていた。
照明は、まるで瀕死の心臓の鼓動のように、弱々しく、そして不規則に、明滅を繰り返している。
「司令、ご無理なさらないでください。ここは、我々にお任せを」
カイのすぐ後ろを固めていた兵士の一人が、彼の僅かな震えを「敵への警戒による武者震い」と完璧に誤解し、気遣わしげに声をかけてきた。
「……いや、大丈夫だ」
カイは、心臓が口から飛び出しそうなのを必死で堪え、努めて冷静な声で応えた。
「私も、この目で確かめておきたい。このコロニーに、何が起こったのかをな」
(嘘だ! 何も確かめたくない! 今すぐ帰りたい! だが、ここで「じゃあ、任せる」なんて言ったら、ヘタレだと思われる! それだけは絶対に嫌だ!)
見栄と恐怖の板挟み。
彼は、自らが作り上げた「完璧な司令官」という偶像を演じ続けるために、涙ぐましい努力をしていた。その努力が、部下たちの忠誠心を、さらに強固なものにしているとは、夢にも思わずに。
やがて、一行は、コロニーの居住区画へと続く、巨大な隔壁の前にたどり着いた。
センサーの反応によれば、この先に、僅かながら、複数の生命反応があるという。
レナが、無言で、屈強な兵士たちに合図を送る。
兵士たちが、隔壁のロックを、特殊な工具で破壊していく。
キィィィィン、という、耳障りな金属音が、静寂の中に響き渡る。
カイは、ごくりと、乾いた喉を鳴らした。
この扉の向こうに、このコロニーの「真実」がある。
それが、決して歓迎すべきものではないことだけは、確かだった。
やがて、重い音を立てて、隔壁がゆっくりと開かれていく。
その隙間から、居住区画の光景が、徐々に姿を現した。
そして、そこに広がっていた光景を、カイと、そして歴戦の兵士たちは、ただ、息を呑んで、見つめることしかできなかった。
武装した、屈強な海賊たちの姿は、どこにもなかった。
彼らを待ち受けていた、血で血を洗う、壮絶な銃撃戦も、そこにはなかった。
そこにいたのは。
壁にもたれかかり、虚ろな目で、苦しそうに咳き込む、骨と皮ばかりに痩せこけた、老人。
母親の、汚れた衣服の裾を、小さな手で、怯えたように握りしめ、大きな瞳で、じっとこちらを見つめてくる、幼い子供たち。
物陰に、まるで追い詰められた獣のように、身を寄せ合い、不安げに、そして敵意に満ちた視線で、囁きあう、女たち。
その誰もが、怪我をしていた。
その誰もが、飢えていた。
その誰もが、疲弊しきった、絶望の表情を浮かべていた。
居住区画の広場の中央には、エラー表示を繰り返す、壊れた配給システムの端末が、まるで墓標のように、寂しく佇んでいる。その隣にあるはずの水耕栽培区画のドームは、茶色く枯れ果てた植物の残骸で覆われ、もはやその機能を完全に失っていた。
物資が、完全に底を突きかけている。
それは、誰の目にも明らかだった。
歴戦の兵士たちも、そして、かつては彼らと同じように、弱者を食い物にして生きてきたはずの元囚人たちですら、その、あまりにも悲惨で、あまりにも救いのない光景を前にして、言葉を失っていた。
彼らが握りしめた銃の、その重さが、今はただ、虚しく、そして場違いに感じられた。
そして、我らが司令官、カイ・シラヌイは。
目の前に広がる、その巨大な墓標の中で、ただ静かに、死を待っているかのような、弱者たちの群れ。
その光景を、彼は、ただ、呆然と、見つめていた。
彼の、完璧なる「虎の威を借る狐(あるいは宇宙の寄生虫)」作戦。
その、あまりにも虫が良く、あまりにも傲岸不遜で、そしてあまりにも下劣な計画。
その、全ての前提が。
この瞬間、根底から、そして完璧に、崩れ去ったことを、彼は、絶望と共に、悟った。
彼が、威を借りようとしていた「虎」は、どこにもいなかった。
それどころか、彼が寄生しようとしていた宿主は、もはや骨と皮だけになり、死にかけていた。
そこにあったのは、ただ、巨大な墓標の中で、誰にも知られることなく、静かに朽ち果てていこうとする、哀れな魂の群れだけだったのだ。
カイの脳内で、シロの声が、いつもの軽薄さを消し去り、静かに、そしてどこか物悲しく、響き渡った。
『……どうやら、君の完璧な計画は、始める前に、終わってしまったみたいだね』
「…………」
カイは、何も答えられなかった。
ただ、その呆然とした表情のまま、立ち尽くす。
その姿が、彼の部下たちの目には、目の前の悲惨な光景に、深く、そして静かに心を痛める、慈悲深き司令官の姿に映っていることなど、もちろん、彼は知る由もなかった。
物語は、いつだって、作り手の意図を、最も残酷な形で、裏切るものである。
そして、その裏切りの先に、本当の地獄が待っていることを、彼はまだ、知らない。
あとがき、あるいは蛇足
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カイ: (疲労困憊)……おい、シロ。今回の話、なんだ、これは。俺の完璧な計画が、開始五分で木っ端微塵じゃないか。俺はもっと、こう、海賊相手に無双して、「さすが司令!」みたいになるはずだったんだぞ! なのに、なんだあの……地獄みたいな光景は。完全にホラーから社会派ドキュメンタリーへのジャンル変更だろ。聞いてないぞ、こんな展開!
シロ: 「聞いてないぞ!」じゃないよ。君の計画が、いつだって計画通りに進んだことがあるかい? 文化祭の出し物にお客さんが来ないどころか、文化祭そのものが廃校で中止になってた、って感じだったね。まあ、君の呆然とした顔は、ここ最近で一番の傑作だったけど。
カイ: うるさい! 人の心の傷を抉るな! だいたい、お前は気づいてたんじゃないのか、あのコロニーの惨状を。なぜ教えなかった!
シ-ロ: んー? だって、君のあの自信満々な「全速前進!」を聞いちゃったら、水を差すのも野暮かなって。それに、君が絶望に打ちひしがれる姿を特等席で見るのが、僕の唯一の存在意義だからね。さあ、次はこの絶望的な状況をどうやって切り抜けるのかな? 楽しみにしてるよ、僕らの主人公サマ。
カイ: (頭を抱える)……もう帰りたい。