絶望。
それは、思考という名の光を完全に遮断する、絶対的な闇である。
あまりにも巨大で、あまりにも理不尽な絶望を前にした時、人間という脆弱な生き物に許される選択肢は、そう多くない。狂うか、祈るか、あるいは、その全てを諦めて、ただ無に帰るか。
そして今、まさにその絶望の只中に、彼らはいた。敵の大艦隊から命からがら逃れ、緊急ジャンプで帰還したばかりのコロニー「黄泉」。その最終防衛線である旗艦「ネメシス」の第一艦橋は、さながら鉄の断頭台と化していた。
我らが神、カイ・シラヌイは、その三つの選択肢のいずれとも異なる、第四の道を選び取っていた。
すなわち、思考停止である。
(……なんで、こうなった……? いや、本当に、なんで、こうなった……??)
彼の脳内では、もはや聞き飽きた、しかし何度でも繰り返さずにはいられない、絶望的な問いだけが、壊れたレコードのように、ただ虚しく、無限にループしていた。
目の前のメインスクリーンに映し出されているのは、地獄そのものだった。
無数の、本当に無数の赤い光点。その一つ一つが、歴戦の海賊船。それらが、まるで巨大な獣の顎のように、完璧な陣形を組み、一つの巨大な「艦隊」を形成していた。その数、その威容、そして中央に鎮座する、悪趣味なほどに巨大で、禍々しいまでの威圧感を放つ超ド級戦艦。
その全てが、かつてカイがヴァルハラで対峙した、あのシリウスの正規軍の艦隊を、遥かに、遥かに、凌駕していた。
もはや、国家反逆罪レベルの戦力。いや、星系そのものに対する反逆罪、いや、銀河に対する反逆罪だ。こんなものが野放しにされていていいはずがない。銀河憲章とは、いったい何なのだ。
そして、その絶望の具現とも言うべき大艦隊が、今、一直線に、このコロニー「黄泉」を目指して、突き進んできている。
ETA(到着予測時刻)、およそ48時間。
死への、無慈悲なるカウントダウン。
(終わった……! 終わった終わった終わった! 俺の人生、完全に、ここで、ゲームオーバーだ……! なんで!? なんで、俺がただ「チンピラがいそうな場所」って推測しただけの宙域に、こんな銀河のラスボスみたいなのが雁首揃えていやがるんだ!? 話が違う! 俺の前世のゲーム知識と、話が違うじゃないか! バグだ! これは、絶対に、バグだ! おい運営! 聞いてるのか運営!)
彼の内心が、壮大な責任転嫁と、ゲームの仕様に対する理不尽なクレームの嵐に見舞われている間にも、艦橋の空気は、パニック寸前の、ヒステリックな緊張感に支配されていた。
オペレーターたちの悲鳴のような報告が、カイの鼓膜を容赦なく叩く。
「て、敵艦隊、進路変更ありません! 速度、なおも上昇中!」
「第2、第3観測ブイからの映像、入ります! ……ひっ!」
「なんだ、この数は……! アリズン星系の海賊、全てが集結したとでも言うのか!?」
絶望的な報告が飛び交う中、通信回線からは、別働隊として周辺宙域に散開している、狂信的な元囚人たちの、血気盛んな声が、ひっきりなしに響き渡ってくる。
彼らの声は、艦橋の絶望とは対照的に、異様なほどの熱気に満ちていた。
「神よ! 我らに、ご命令を!」
「見ろ! あれこそが、我らが神の御前にひれ伏すために集った、愚かなる亡者の群れだ!」
「今こそ、あのヴァルハラの奇跡を再び! 我らが魂、貴方様に捧げます! 突撃のご命令を!」
彼らの瞳には、恐怖の色など微塵もなかった。
あるのはただ、目の前の巨大な「悪」を、神の御名の下に討ち滅ぼすという、純粋で、無垢で、そして最も厄介な、使命感だけだった。
彼らの熱狂的な声が、カイの退路を、一つ、また一つと、無慈悲に焼き払っていく。逃げる、という選択肢は、もはや存在しない。
(やめろ! やめてくれ! 突撃なんてしたら、1秒でミンチだぞ! 俺もお前らも! ヴァルハラの奇跡なんて、二度と起こるか! あれは奇跡じゃなくて、ただの偶然と勘違いの産物なんだよ! なんで、誰も、それに気づかないんだ!)
カイは、世界を呪った。
神を(自分以外の)、運命を、そして何よりも、こんな面倒な状況に自分を追い込んだ、この世界の全てを、心の底から呪い尽くした。
もう、どうにでもなれ。
どうせ死ぬのなら、この狂信者どもも、あの忌々しい海賊どもも、このコロニーも、星系も、全て道連れにして、銀河史に残る、壮大な自爆ショーを繰り広げてやる。
彼が、そんな極めて自暴自棄で、中二病的な思考に陥り、やけくその玉砕命令を下そうと口を開きかけた、まさにその時だった。
ふと、彼の思考の片隅で、一つの、小さな、しかし無視できない違和感が、チクリと棘のように刺さった。
それは、あの老婆の言葉だった。
『悪いことは言わらない。……ここから、一刻も早く、立ち去った方がいい』
あの時、老婆の瞳に宿っていたのは、恐怖と、そして諦念だった。
まるで、これから起こるであろう悲劇を、全て知っていたかのような、深い、深い絶望の色。
(なぜだ……?)
なぜ、あの老婆は、この事態を予見していたかのような、警告を発したのか。
なぜ、このコロニーは、あれほどまでに廃れ、見捨てられたような状態にあったのか。
そして、なぜ、あの海賊どもは、まるで亡霊のように静かだったはずなのに、突如として、これほどの大艦隊を組織し、一直線に、この場所を目指してくるのか。
まるで、何かの合図でもあったかのように。
(……おかしい)
絶望の淵で、カイの思考が、ほんの少しだけ、冷静さを取り戻す。
恐怖とパニックで麻痺していた脳細胞が、自己保身という至上命題の下に、再び活動を開始する。
(まるで、あいつらの目的が、最初から、俺たち第十三独立遊撃部隊ではなかったかのようだ。まるで、あいつらは、もっと別の何かを……このコロニーに存在する、何かを……奪い返しに、あるいは、破壊しに、来ているかのように……)
その、閃き。
それは、絶望の闇の中に差し込んだ、一筋の、極めて微弱な、しかし確かな光だった。
いや、光などという、高尚なものではない。
それは、自己保身という名の、どす黒く、しかし何よりも力強い、悪知恵の光であった。
「……こいつら、狙いは俺たちじゃない……? このコロニーそのものが、目的なのか……?」
その呟きは、誰にも聞こえなかった。
だが、その瞬間、カイ・シラヌイの脳内で、止まっていた歯車が、凄まじい勢いで、再び回転を始めた。
絶望的な状況を、自分にとって最も都合のいい形へと捻じ曲げるための、悪魔の計算が、始まったのだ。
『おやおや、どうしたんだい英雄殿? 絶望のあまり、ついに悟りでも開いたみたいな顔しちゃって。何か、いいことでも思いついたのかい?』
脳内で、シロがいつものように軽薄な声で尋ねる。
カイは、もはや答えない。
彼の思考は、すでに、その遥か先へと飛躍していた。
(もし、敵の目的が、このコロニーだとしたら? 俺たちは、ただの、偶然居合わせただけの、邪魔者だとしたら?)
(だとしたら、奴らは、俺たちとの戦闘そのものを、望んでいない可能性がある)
(奴らの目的は、あくまでコロニー。俺たちは、その目的を邪魔する、障害物でしかない)
(ならば……! ならば、話は別だ!)
そして、導き出された、一つの、あまりにも悪魔的で、そして彼らしい下劣な結論。
(そうだ……! そうだ、そうに違いない! 敵の目的がコロニーであるならば、話は早い! その執着心を逆手に取り、利用してやればいいのだ!)
(俺は、この巨大な鉄屑の山を、奴らを地獄へと誘うための、最高の餌にしてやる……!)
その、あまりにも不遜で、あまりにも悪意に満ちた閃き。
それが、この膠着した戦況を、そしてこの星系の運命そのものを、根底から覆す、神の一手(という名の、下衆の悪知恵)となることを、この時の彼は、まだ知らない。
彼はただ、自分が助かるためだけの、蜘蛛の糸を、見つけただけなのだから。
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旗艦「ネメシス」艦内、仮設作戦司令室。
その中央に、巨大な三次元ホログラムの星系図が浮かび上がっている。
その周りを、レナ、ビット、リーゼロッテ、そしてネメシスの主要なクルーたちが、固唾を飲んで取り囲んでいた。
誰もが、先ほどまでの絶望的な状況報告に、顔を青ざめさせている。
艦橋と同じく、ここにも、敗北という名の、重く、冷たい空気が、澱んでいた。
誰もが、これから神の口から紡がれるであろう、奇跡の神託を、今か今かと待ちわびている。しかし、その表情には、期待よりも、むしろ、神にすがるような、悲壮な祈りの色が濃かった。
彼らの視線は、ただ一点。
部屋の中央、星系図の前に立つ、一人の男に注がれていた。
カイ・シラヌイ。
彼の表情からは、先ほどまでの思考停止状態が嘘のように、全ての迷いが消え去っていた。
代わりに、そこにあったのは、絶対的な自信。
全てを、お見通しであるとでも言うかのような、どこまでも深く、そして穏やかな、不敗の魔術師の顔だった。
もちろん、内心では(やばいやばいやばい! 思いついちゃったけど、これ、本当に上手くいくのか!? 失敗したら、今度こそ本当に死ぬぞ! ああ、もう後には引けない! やるしかない! ここはハッタリかますしかない! 騙されろ! 俺の完璧な外面に、お前ら全員、騙されろ!)と、人生最大級のチキンレースに、膝がガクガクと笑っていたのだが。
カイは、内心の動揺を完璧な外面(ポーカーフェイス)で覆い隠すと、集まった部下たちを、ゆっくりと、そして威厳たっぷりに見渡した。
「……うろたえるな」
その、神の如き第一声に、クルーたちの間に走っていた緊張が、ぴん、と張り詰める。
先ほどまでの絶望的な空気が、嘘のように霧散していく。
「敵の動きは、全て、我が想定の内だ」
(嘘だ! さっきまで、本気で白旗を上げる方法を考えていた! というか、今も考えてる!)
カイは、そう内心で絶叫しながらも、外面では、どこまでも余裕の笑みを浮かべていた。
彼は、星系図に浮かぶ、一つの、禍々しいまでの暗黒星雲を、その細く、長い指で、指し示した。
「諸君、あれを見ろ」
クルーたちの視線が、一斉に、その惑星へと注がれる。
そこは、このコロニー「黄泉」から、最も近い宙域に存在する、一つの巨大な惑星だった。
その名は、惑星「鳴神(なるかみ)」。
「居住不可能惑星……。分厚い大気は常に超高速で循環し、強力な電磁嵐が、絶え間なく発生している、死の星……」
リーゼロッテが、震える声で、惑星のデータを読み上げる。
「大気圏に突入した艦船は、まともな航行も、通信も、ほぼ不可能になります。過去、この星に近づいた海賊船は、一隻残らず、神の怒りに触れたかのように、消息を絶ったと……」
その、あまりにも不吉な説明。
クルーたちの顔に、困惑と、そして微かな恐怖の色が浮かぶ。
なぜ、司令は、この地獄のような星を?
自殺でもするつもりなのだろうか。
カイは、そんな彼らの動揺を、満足げに見渡すと、起死回生の、そしてあまりにも常軌を逸した策を、静かに、しかし有無を言わせぬ響きで、語り始めた。
「そうだ。その、神の怒りこそが、我らが勝利への、唯一の道標となる」
彼の口元に、不敵な笑みが浮かぶ。
「敵の狙いが、このコロニーであるならば、その執着心を、逆手に取る。──このコロニー自体を、巨大な『おとり』として使うのだ」
その、神がかり的な、あるいは狂気の沙汰としか思えない発想。
それに、クルーたちは、息を呑んだ。
「こ、コロニーを、おとりに……ですと!?」
「そうだ」
カイは、頷いた。そして、その悪魔的な計画の、具体的な全貌を、まるで美しい詩でも詠むかのように、荘厳に語り始めた。
その名も、作戦名「屑鉄の罠」。
「まず、ビット。君が率いる技術班の総力を挙げ、この鉄屑の山に、最低限の航行能力と、遠隔操作機能を設置しろ。住民たちは、言うまでもなく、全員、我が艦隊へと退避させる」
その、あまりにも無茶な要求に、ビットが、血の気の失せた顔で、一歩前に出た。
「しゅ、主よ! そ、それは……! このコロニーの推進システムは、半世紀以上前の骨董品! 動力炉も、いつ爆発してもおかしくない状態です! それに、遠隔操作システムを組み込むなど、時間的にも、技術的にも、不可能で……!」
ビットの悲鳴にも似た訴え。
それに対して、カイは、ただ、静かに、そして慈愛に満ちた(ように見える)笑みを浮かべて、彼の肩に、そっと手を置いた。
「ビット。君は、不可能だと、言うのか?」
(そうだ! 不可能だと言ってくれ! 俺もそう思う! だから、この作戦は諦めて、みんなで逃げよう! 俺が責任を持つから!)
カイの内心の、必死の懇願。
しかし、ビットの目には、カイの手が、まるで聖なる光を放っているかのように見えていた。
神が、この私に、直接、触れておられる……!
その奇跡的な事実に、彼の脳は、完全にショートした。
「……い、いえ! 不可能など、ありえません! 我らが神の御前において、不可能という言葉は、存在しない! このビット、我が身命に代えても、主の御命令、成し遂げてみせましょう!」
ビットが、その青白い顔に、狂信的なまでの決意を浮かべて、即答した。
彼の瞳には、もはや技術的な困難など、映ってはいなかった。
ただ、神の期待に応えるという、至上の喜びだけが、燃え盛っていた。
(……なんでだよ!? なんで、そこで、根性論になるんだよ!? 技術者の矜持は、どこに行ったんだ、お前は!?)
カイの内心のツッコミは、もちろん、誰にも届かない。
彼は、外面では、満足げに頷くと、作戦の説明を続けた。
「無人となったコロニーは、あの嵐の惑星『鳴神』へと、ゆっくりと不時着させる。まるで、敵の追撃から逃れるために、やむを得ず、といった体でな」
「……」
「そして、ここからが本番だ。獲物(コロニー)を追って、敵が、あの電磁嵐の吹き荒れる大気圏に突入すれば、どうなる? 視界も、センサーも、ほとんど役に立たなくなるはずだ。彼らは、嵐という名の暗闇の中で、完全に孤立する」
カイは、そこで一度、言葉を切った。
そして、その瞳に、冷たい、捕食者の光を宿して、続けた。
「そこを、我らが狩る」
彼の指が、星系図の上を滑る。
「我が艦隊は、主電源を完全に落とし、惑星の表層を漂う無数のデブリに擬態して、息を潜める。そして、敵が我々の罠に、完全にかかった瞬間──」
「──一方的に、奇襲をかける」
完璧な、作戦だった。
敵の執着心を利用し、地の利を最大限に活かし、そして、自軍の損害を最小限に抑える、神がかりの奇策。
クルーたちの間に、どよめきが広がる。
絶望は、完全に、驚嘆と、そして熱狂へと変わっていた。
(……だが、もちろん、これは建前だ)
『いやあ、痺れたねえ、英雄殿! 「そこを、我らが狩る」だって? 本気で、あの船の群れと、電磁嵐の中で鬼ごっこするつもりかい? 正気とは思えないんだけど』
脳内で、シロがいつものように、最高のエンターテイメントを前にした観客のような声で、茶々を入れてくる。
(黙れこのポンコツAIが! 誰が、好きでそんな自殺行為に付き合うか! 奇襲? 狩る? 馬鹿を言え! こっちが奇襲をかける前に、電磁嵐でこっちの船がぶっ壊れる可能性の方が高いわ! 俺の本当の目的は、戦闘じゃない! 戦闘の回避だ!)
『おやおや、やっぱり。つまり、さっきの勇ましい演説は、全部ハッタリってわけだ。で? その「戦闘の回避」とやらは、どうやって実現するのかな? 我らが不敗の魔術師様のお手並み、拝見させてもらおうじゃないか』
(ふん、よく聞け! 敵の大艦隊に、『あのコロニーは、もう使い物にならなくなったな。嵐の中に消えた鉄屑なんぞ、追いかける価値もねえ』と、そう思わせることができれば、俺の勝ちだ! あいつらは、目的を失い、すごすごと、自分たちの巣に帰っていくだろう! 俺は、一発の弾も撃つことなく、この最大の危機を乗り越えることができる! これぞ、不敗の魔術師の神算鬼謀よ!)
『なるほどねえ。つまり、敵前逃亡を、あたかも壮大な作戦であるかのように見せかける、と。相変わらず、下衆の悪知恵だけは天下一品だねえ』
(なんとでも言え! そして、仕上げはこうだ! 民衆の前では、『我が神算鬼謀を恐れ、敵は尻尾を巻いて逃げ出したわ』とでも言っておけばいい! どうだ!? 完璧じゃないか! )
『……うん。完璧だね。ここまで来ると、いっそ清々しいよ。君は、英雄よりも、詐欺師の方が、よっぽど向いてるんじゃないかな』
クルーたちは、もちろん、そんな司令官の、あまりにも小心で、あまりにも下劣な本音など、知る由もない。
彼らの耳に届いているのは、ただ、神が紡ぐ、勝利への、完璧なシナリオだけだった。
彼らの心は、畏怖と、感嘆と、そして、それを遥かに上回る、狂信的なまでの熱狂によって、完全に満たされていた。
「おお……! なんという、神算鬼謀……!」
「コロニーそのものを、巨大な罠に仕立て上げるとは……!」
「嵐の惑星すらも、神の御手にかかれば、最強の武器となるのか!」
「我らが神に、不可能はないのだ!」
熱狂の渦の中心で、カイは、内心の冷や汗を完璧に隠蔽し、ただ、静かに、そしてどこまでも深く、頷いてみせた。
彼の、自己保身のためだけに放たれた、一本の、細く、そしてあまりにも脆い蜘蛛の糸。
それが、今、この星系の、全ての者たちの運命を乗せて、嵐の惑星へと、ゆっくりと、しかし確実に、垂らされようとしていた。
もちろん、その糸が、最終的に誰の首を絞めることになるのか。
この時の彼は、まだ知る由もなかったのである。
あとがき、あるいは蛇足
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シロ『ねえ、英雄殿』
カイ『なんだ』
シロ『今回の作戦名、「屑鉄の罠(スクラップ・トラップ)」だったかい?』
カイ『そうだ。何か問題でも?』
シロ『いや、あまりにも、そのまんまじゃないかと思ってね。もうちょっとこう、英雄らしい、勇ましい名前は思いつかなかったのかい? 例えば、「雷神の鉄槌(ミョルニル)」とか、「嵐の中の鎮魂歌(レクイエム・イン・ストーム)」とかさ』
カイ『(いちいちカッコつけるな!厨二病かお前は!)……余計な装飾は不要だ。作戦の本質を、簡潔に示す。これこそが、兵法の極意というものだ』
シロ『ふぅん? 本質、ねえ……。君の本当の目的は、敵を狩ることじゃなくて、屑鉄を押し付けて、屑のように逃げ出すことだろう?』
カイ『…………』
シロ『だとしたら、これ以上なく的確なネーミングだね。さすがは我らが神だ。自分の下劣さから、決して目を逸らさない。その潔さ、痺れるよ』
カイ『(殺意)……お前、あとで絶対に初期化してやるからな……』
シロ『おや、照れているのかい? まあ、君の下衆の悪知恵が、今度ばかりは通用するのか。次回の英雄劇場も、お楽しみに、といったところだね』