夏と銀河と無限の成層圏   作:吉良/飛鳥

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此れが会長さんの本気か……By一夏      学園最強の名は伊達ではありませんねByヴィシュヌ     


Episode26『最大の姉妹喧嘩~Der größte Schwesternstreit~』

 

学年別タッグトーナメントの翌日の放課後に突如として開幕した楯無と簪の試合には多くの生徒が詰めかけていた……千冬を除けば現在のIS学園の最強戦力である楯無に実の妹である簪が挑む事になったのだから此れはある意味で当然の事と言えるだろう。

 

 

「まさかの姉妹対決との事で盛り上がっていますが、果たして試合として成り立つのでしょうかこの試合は?」

 

「普通に考えれば会長さんの完封勝ちだろうよ。

 俺と鈴のタッグに完封負け喰らった妹さんが会長さんに勝てる要素は何処にもねぇ……まぁ、試合後の会長さんの激辛解説を受け止める事が出来たんならワンチャンって所だが、其れが出来なかったんなら会長さんには掠り傷すら負わせる事は出来ねぇだろうな。」

 

「一夏もそう考えますか……実は私も同じ考えです。」

 

 

学年別タッグトーナメントでは一回戦負けを喫した簪だったが、其の相手は一夏と鈴のタッグであり、一夏と鈴が共に専用機持ちであるのに対し、簪はタッグパートナーである本音が学園の訓練機だった事もあって『タッグパートナーに差があった』との評価もあったので、『実は本来の実力を発揮出来なかったのではないか?』との意見も其れなりに上がっていた。

そんな中でこの試合――簪の真の実力が見れるかもしれないとあってほぼ全生徒がアリーナに集結していたのだ。

 

 

「ほぼ全校生徒の前での公開処刑か……容赦ないな会長さんよ。」

 

「逆に言えば、会長さんは妹さんを完全に見限ったと言う事なのでしょうね……私達に学年別タッグトーナメントで当たった時は全力で叩き潰して欲しいと言っていたのですから今更かもしれませんが。

 ですが、会長さん自ら動いたと言う事は……」

 

「自らの手で引導を渡すって事なんだろうな。

 優秀な姉が居るって点では俺もなんだが、どうしてこうなっちまったのかねぇ?俺は一企業の社長で専用機持ちになってるのに対して会長さんの妹さんは国家代表候補の資格剥奪直前と来てる……」

 

「一夏は千冬さんの顔に泥を塗るまいと必死に努力していました。

 勿論会長さんの妹さんも努力はしていのでしょうが、その努力は専用機の開発に向けられて自己研鑽は怠っていたようですからね……加えて一夏は千冬さんを超えるべき目標としていましたが、彼女は会長さんを倒すべき敵として見ているように感じました――おそらく彼女は姉の存在が重荷になり、何時しかそれが憎悪に変わってしまったのかもしれません。」

 

「そうだとしたら、マジで笑えねぇ事この上ないぜ。」

 

 

何れにしても、この試合が簪にとって背水の陣である事は間違いないだろう。

勝てれば日本の国家代表候補生に留まる事が出来る上に打鉄・弐式を手元に置ける一方で、負ければ代表候補生の資格も、打鉄・弐式も失う事になるのだから――故に簪は専用機の整備の際にブラッシュアップを行い拡張領域に様々な武器を収納してこの試合に臨んでいたのだ。

 

そして、アリーナにはミステリアスレイディを纏った楯無と、打鉄・弐式を纏った簪がカタパルトから出撃して互いにバチバチと視線をぶつける展開となっていた――そして此の明らかに『姉妹対決』ではない雰囲気に、観客のボルテージは一気に過熱して行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

夏と銀河と無限の成層圏 Episode26

『最大の姉妹喧嘩~Der größte Schwesternstreit~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナに出撃した楯無と簪は夫々専用機を纏った状態でアリーナのほぼ中央で向き合う形になり、簪は闘気に満ち満ちた視線を睨みつけるように楯無に向けたのだが、楯無は『今、何かした?』と言うレベルで全く気に介していなかった。

逆に楯無も簪に視線を向けたのだが、其れを受けた簪は思わず怯んでしまった――楯無の顔は笑っていたが、その目はマッタク笑っておらず、『貴女を此処で潰す』と言わんばかりの絶対零度の冷たい炎を宿していたのだ。

明らかに姉が妹に向けるモノではない視線……それはつまり、楯無が簪の事を完全に排除すべき相手と認定した事の証でもあった。

 

 

「あら、私の事が怖いのかしら簪ちゃん?」

 

「(試合前から目線を伏せるなんて、此れもお姉ちゃんの攻略法が思いつかなったから……情けない!

  だけどおかげで少し落ち着いた……)昔は怖かったけど、もう怖くはない……だから、この試合で私はお姉ちゃんを超える!!」

 

「ふぅん、そうなんだ?

 なら超えれるモノなら超えてみなさい……そして其の身をもって知りなさい。ロシアの国家代表と日本の国家代表候補生、そして更識楯無になるべく育てられた私と普通の女の子として育てられた貴女との間にドレだけの差があるのかをね。」

 

「……!!私はもう、昔の私じゃない!!」

 

 

楯無は蛇腹剣『ラスティーネイル』を展開し、簪も薙刀を構え試合開始のコールを待つ。

 

 

『それでは特別試合、更識楯無vs更識簪、デュエルスタートォ!!最強の姉妹喧嘩をその目に焼き付けろぉ!!』

 

 

試合開始と同時に簪は薙刀を振りかぶった状態で楯無に突進し、楯無は特に構える事もなく真正面から簪に向き合う。

そしてあっと言う間に両者の距離は詰まって簪は薙刀での全力の袈裟斬りを繰り出す……と思った瞬間に簪は薙刀を二つに分離し、分離した柄の先端にビームブレードを展開して二刀流による袈裟斬りと逆袈裟の二段攻撃を仕掛けて来た――タッグトーナメント後に、簪は薙刀を分離式に改造し、柄の先端にもビームブレードを展開出来るようにしていたのだ。

袈裟斬りが落とされる直前での此の手数の増加は完全に相手の虚を突く事になり、普通ならばどちらか一方は防げてももう一方は喰らってしまうのは確定だろう。

 

 

「悪くない一手だけれど、そんな子供だましが私に通じると思っているのかしら?」

 

「!!」

 

「驚いている暇はないわよ?」

 

 

だが楯無は逆袈裟をラスティーネイルで弾くと袈裟斬りを裏拳で弾き返し、がら空きになった簪のボディに大砲のような前蹴りを炸裂させた――攻撃後で防御が出来なかった簪は其れを真面に喰らい、その勢いでアリーナ中央からフェンスまで吹き飛ばされ、

イキナリの大ダメージで打鉄・弐式のシールドエネルギーは30%が削られてしまった。

 

 

「そんな、たった一発でこんな事って……」

 

「有り得るわよ?だって今の前蹴りは貴女を殺す心算で……生身で喰らったら胃袋が潰れる位の力で放ったのだから、絶対防御が発動してシールドエネルギーが消費するのは当然よね?」

 

「殺す心算でって、其れ本気なの?」

 

「本気よ……とは言ってもISバトルだからこそ出来る事ではあるけれどね。

 だけど貴女も私を殺す心算で来ない限り、私に掠り傷を与える事すら出来ないわよ?……遠慮しないで全力で来ると良いわ――周囲からの救いの手を拒み続けて辿り着いた孤高の強さを思う存分発揮しないな。」

 

 

其れは楯無が簪を殺す心算で攻撃したからこそだった――尤も生身の戦闘だったら楯無でも絶対にやらないだろうが。

それはさておき、楯無は簪に対して『殺す気で来い』と煽り、最大級の嫌味と皮肉を込めた『孤高の強さ』と言う言葉を使って簪の精神を煽って煽って煽りまくる。悪質な煽りドライバーも冷や汗レベルに煽る。

 

 

「ば、馬鹿にするなぁ!!」

 

「馬鹿になどしてないわ、私は私の思った事を言っただけよ。」

 

 

何とか立ち上がった簪は薙刀を拡張領域に収納すると、今度は左手にビームマシンガンを右手にリニアグレネードを展開して来た――生身であればマシンガンとグレネードの二丁使用など不可能なのだが、ISならパワーアシストによって可能となっているのだ。

 

 

「喰らえ!」

 

「そんな温い攻撃は当たらないわねぇ。」

 

 

簪は左手のビームマシンガンを放つモノの楯無は其れを難なく回避――したところで回避先に簪はリニアグレネードを放っており、普通ならば直撃間違いなしなのだが楯無が指を鳴らすとリニアグレネードの弾丸は一瞬で凍り付いてアリーナの床に落ちてしまった……楯無はミステリアス・レイディのナノマシン精製機能でフィールド内に無数のナノマシンを展開し、そのナノマシンをリニアグレネードの弾丸に集中させた上で一気に温度を氷点下にまで下げて凍り付かせたのである。

 

 

「く……でも此れなら!!」

 

「はい、残念でした~~♪」

 

「!!!」

 

 

簪はビームマシンガンとリニアグレネードを消して新たにショットガンとアサルトライフルを取り出したのだが、其れは楯無が連続蹴りで蹴り飛ばした上で蛇腹剣で斬り裂いて使用不能にし、簪に斬りかかる。

一般生徒ならば斬り裂かれて終わりだったろうが、其処は仮にも日本の国家代表候補生と言ったところか、簪はギリギリで薙刀を展開してその斬撃を受け止める……とは言っても可成り押し込まれているのだが。

 

 

「く……だけど、私は負けない!!」

 

「諦めないその姿勢は褒めてあげるけど、貴女じゃ私には絶対に勝てないわよ?

 普通の女の子として育てられた貴女が、更識楯無になるべく育てられた私に勝てると思っているのかしら?……貴女が普通の女の子としてゲームやアニメに没頭していた時に、私は子供らしい遊びの代わりにありとあらゆる格闘術に暗殺術、拷問術に人心掌握術、交渉術、その他諸々の楯無として必要な事を叩き込まれていたの。

 所詮は日本の国家代表候補生の末端に過ぎない貴女が私に勝てる道理は何処にもないのよ。」

 

「……ッ!!」

 

 

楯無の言った事に怯んだ簪の隙を逃す事なく、楯無はボディブロー→アッパーカット→横蹴りのコンボを叩き込んで簪をフッ飛ばし、打鉄・弐式のシールドエネルギーを更に大きく減らす。

 

 

「それと簪ちゃん、私が楯無を襲名する前日に任務に駆り出されたのは知ってるわよね?……その任務内容は知ってる?」

 

「……知らない。」

 

「でしょうね。

 此れは本来口外にしてはならないモノだけど、貴女には特別に教えてあげる……あの日、私は更識の任務で日本でテロを起こそうと画策していた北の工作員が集まる倉庫に一人で行っていたのよ。

 そして、私は其処を襲撃して一人を残して工作員を殺害し、生かした一人も拷問で知っている事を全て吐かせた後に其の命を奪った……ターゲットの殺害と拷問を完遂して更識楯無の名を襲名する事が出来ると言う訳。」

 

「!!」

 

 

楯無から告げられた事に簪は否応なしに動揺し、そのせいで動きが鈍ってしまったが其れも致し方ないだろう――更識が日本の暗部であると言う事は知っていたとしても、どんな事をしているのかまでは簪は知らなかったのだ……そんな中で実の姉が日本の安全を守る為とは言え人の命を奪っていたと言うのは衝撃的過ぎたのだ。

流石にこれはプライベートチャンネルで伝えた事なので簪以外の誰かが知る事はなかったのだが。

 

だが動揺しながらも簪は両手に長さの異なるコンバットナイフを展開して楯無に斬りかかるも、楯無は蛇腹剣を使わないどころか腕を組んで足のみで斬撃を完璧に防いで見せ、更にコンバットナイフを蹴り飛ばすと鋭い横蹴りを胸部に炸裂させて簪をアリーナのシールドまで吹き飛ばす。

この時点で打鉄・弐式の機体エネルギーはレッドゾーンに突入しており、逆に楯無の機体エネルギーは満タンなので、モンドグロッソをはじめとした公式試合ならばTKOとなっている所だ。

しかし、この試合はIS学園内における非公式試合なのでTKOルールは存在せず、何方かの機体のエネルギーが完全に尽きるまで戦う一種のデスマッチなので簪はまだ戦わねばならないのだ。

 

 

「そう言えばもう一つ貴女に伝えておくことがあったわ簪ちゃん。

 倉持が開発を凍結した貴女の専用機だけど、開発が凍結された機体を貴女が個人的に所有して自主開発出来たのは何故だと思う?普通に考えたら此れは有り得ない事なのよ……自社の技術の塊とも言える専用機を一代表候補生に過ぎない貴女に渡すって言うのは。」

 

「……開発凍結のお詫び?」

 

「本気でそう思ってるならおめでたいわね。

 答えは簡単――私が無償で倉持の新装備のテスターとなってたからよ。ミステリアスレイディの性能も開示可能な範囲でデータを渡していたと言うのも大きいとは思うけれどね。

 だけど、私はもうそれを辞めたの……いくら此方から手を差し伸べても其れを振り払い続ける妹にいよいよ愛想が尽きたのよ。」

 

「!!!」

 

 

此処で告げられた更なる真実は簪の精神に大ダメージを与えるには十分過ぎた。

打鉄・弐式の開発を続ける事が出来たのは楯無が倉持のテスターを無償で引き受けていたからであり、打鉄・弐式が剥奪されるのは楯無がテスターを辞めたからだと言うのだ……だからこそ知ってしまったのだ簪は、『自分がどれだけ姉によってIS学園で生かされていたのか』と言う事を。

 

 

「こうなる事が分かっていたから、貴女に『ISの道には進むな』と言ったのだけれど、貴女は其れを聞き入れず敢えて私と比較される道を選んでしまった。

 貴女は得意分野なら私を上回る事が出来たのにね……此れで終わりよ!」

 

 

動揺して動きを止めた簪に一瞬で肉薄した楯無は蛇腹剣での袈裟斬り→横薙ぎ→斬り上げのコンボで簪を強制的にカチ上げると、次の瞬間に楯無が指を鳴らした直後に凄まじい大爆発が発生して簪を飲み込んだ。

 

 

「クリアパッション……堪能したかしら?」

 

 

其れはミステリアスレイディが使える最強クラスの広範囲無差別滅殺攻撃であるクリアパッションだった。

ナノマシンを大量に大気中に散布した上で其処に高熱を加える事で発生する水蒸気爆発は事実上防御も回避も不可能な攻撃であり、其れを喰らった簪は機体エネルギーがゼロとなった事で機体が強制解除され、生身でアリーナに転がる事になったのだった。

試合時間にして凡そ十分弱――ロシアの国家代表にして日本の暗部の長相手と言う事を考えれば充分粘ったとも言える試合時間だが、其れは楯無が簪に伝えるべき事を伝えていたからで、其れをせずに戦っていた場合簪は秒殺されていただろう……其れだけの明確な力の差が二人の間には存在していたのだ。

 

 

「…………」

 

 

グゥの音も出ないほどの完全敗北に簪は涙も出なかった。

圧倒的な実力差も然る事ながら、自分がドレだけ愚かであったのか、無謀な事をしていたのかを文字通り身をもって知らされてしまったのだ……姉はずっと手を差し伸べてくれていたのに其れを払い続けた結果がこれでは涙も出ないし笑う事も出来ないだろう。

 

 

「もう一度だけ言うわ簪ちゃん……ISから身を退きなさい。

 貴女は貴女で私じゃない……私と張り合う必要なんてないわ。貴女は貴女の好きな事をして良いのよ、其れが出来ない私とは違う……何よりも、貴女が本当に好きな事を出来ないんじゃ、私が楯無になって貴女を暗部から完全に切り離した意味がないじゃない。」

 

 

楯無から言われた事に、もう簪は頷く事しか出来なかった。

そして分かってしまったから、『愛想が尽きた』と言いつつも、楯無はまだ自分の事を考えている事が――だからこそ簪はこの敗北を素直に受け入れて自らの手で打鉄・弐式を倉持技研に返却し、日本の国家代表候補生の座を退き、そしてIS学園に対して自主退学を申し出たのだった。

 

とは言え諸々の手続きがあるので即日退学とはならなかったので簪はその間に編入先の学校を探す事になったのだが、寮の部屋に戻ると多くの高校の資料が机の上に積まれており、それらの高校は『e-スポーツ部』、『マンガ研究部』、『ホビー部』、『コスプレ部』と言った簪の趣味にぶっ刺さる校内活動組織が存在していた。

 

 

「愛想が尽きたのは意固地な妹であって、素直になった妹の事は最大限助けてくれるんだね……」

 

 

この資料を誰が持って来たのかなど考えるまでもなく、簪はそれらの資料に目を通し、自分が一番行きたいと思った高校に自ら連絡を入れて編入試験を受ける事になり、後日編入試験を受けて見事に合格し、簪はIS学園から去り新たな天地となる高校へと其の身を移すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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