ある日の放課後、トレーニングルームのリングではヴィシュヌとグリフィンがスパーリングを行っていた。
ヴィシュヌはタイのムエタイジュニア界において四階級制覇を達成した猛者だが、グリフィンもまたブラジルの総合格闘技のジュニア界では世界ジュニアトーナメント初出場から三連覇を達成した猛者であり、生身の戦闘に於いてはIS学園トップと言える二人のスパーリングには多くの生徒が詰めかけていた。
しかし此のスパーリングは互いに決定打を欠く展開となっていた。
グリフィンはヴィシュヌの打撃を防御、或いは捌いたうえでタックルを仕掛けてテイクダウンを取ろうとしたのだが、ヴィシュヌは徹底的にタックルをカットして寝技に持ち込ませないでいた。
そうしてある意味で膠着状態になっていたのだが……
「隙アリ!」
ヴィシュヌのハイキックをダッキングで避けたグリフィンは、其処から高速タックルを仕掛けてヴィシュヌをテイクダウンしようとしたのだが、ヴィシュヌは鍛えた腰の強さで其れを耐えると逆にタックルして来たグリフィンの首をホールドし、其処から一気にぶっこ抜いてグリフィンを真っ逆さまの逆立ち状態にする。
「ちょ、これって!!」
「破壊王の最終奥義、垂直落下式DDTです!!」
「其れは流石に喰らうとヤバいから!!」
その状態からグリフィンは身体を捻って強引に抜け出して着地と同時に再度タックルを狙うが、ヴィシュヌはローキックを繰り出しグリフィンはギリギリガードするもタックル途中だった事からバランスを崩しダウン。
ヴィシュヌは其の隙を見逃さずマウントポジションを取りに行くが、グリフィンはヴィシュヌの胴に足を絡めてガードを固め、パウンドの隙をついて下からの三角締めを狙う構図になった。
「はい、其処まで!」
グラウンドの攻防となったところで楯無が試合終了を告げてスパーリングは終了。
互いに礼をし、ヴィシュヌは『ありがとうございました』と言うとシャワールームへと向かって行った。
「それで、スパーリングをしてみてどうだったグリちゃん?」
「強いよあの子。すごく強い。
其れこそブラジルで戦った屈強な男よりも全然強いよ……ムエタイは立ち技主体だから寝技に持ち込めばと思ったんだけどタックルは徹底的にカットされたし、何とか関節技を極めても身体が柔らかいから全然効かないんだよね。
それに加えてこれを見てよ――咄嗟にローをガードした腕が腫れ上がっちゃった。ISバトルなら互角だと思うけど、生身の格闘だとアタシはあの子には勝てないと思う……ブラジリアン柔術の切り札の投げと関節技がほぼ封殺状態になる訳だからさ。」
「そこまでかぁ……一夏君も私とタメ張るレベルで強かったし、あの二人を生徒会に誘ったのは正解だったわね。」
楯無はグリフィンにヴィシュヌの印象を聞いたのだが、グリフィンの評価は高く、更にタックルへのカウンターとして放たれたローキックをガードしたグリフィンの腕は真っ赤に腫れ上がっていた……たった一発ガードしただけでこうなるとはヴィシュヌの蹴りの破壊力は推して知るべきだろう。
そして其れを聞いた楯無は口元を扇子で隠しながら、しかしその下では笑みを浮かべていた――一夏とヴィシュヌに生徒会の特権とも言える『無申請でのIS展開権利』を与えるに値すると確信したのだった。
夏と銀河と無限の成層圏 Episode27
『休日の一幕~Eine Szene aus dem Urlaub~』
学年別タッグトーナメントから一週間ほどの時間がたったある日の土曜日、一夏は私服で学園島のモノレールの駅にいた。
本日のファッションはブラックジーンズに黒いTシャツでTシャツにはプロレス界で一大ブームを巻き起こしたヒール軍団『nWo』のロゴマークが銀で印刷されていた。
「お待たせしました一夏。」
「いや、そんなに待ってないぜ……はい、御馳走様でした。」
其処にヴィシュヌがやって来たのだが、一夏は思わず柏手を打ってお祈りしていた――と言うのもヴィシュヌのファッションは露出過多とは言わないが、白いホットパンツに赤いスポーツブラと白い半袖のGジャンと言う刺激的なモノだったのだから仕方あるまいて。
「何故柏手?」
「ヴィシュヌのファッションが素晴らしかったから。
ぶっちゃけて言うと万札お賽銭としてぶち込んでもいいレベルだからな?俺の彼女は世界一ってね。」
「そう言って頂けるのは嬉しい事ですね♪」
軽いやり取りをした後にモノレールに乗って本土に移動し、やって来たのは駅前最大のショッピング施設『レゾナンス』だ。
十階建てのビルで構成されているレゾナンスは一階にはパチンコ屋やゲームセンター、ホビーショップやアニメイトが入っている娯楽エリアとなっているのだが、二階より上は様々なジャンルの店が鎬を削る商業激戦区となっていた。
そんなレゾナンスにて一夏とヴィシュヌがやって来たのは五階のファッションエリアにて展開されている『夏の水着フェア』だった――夏限定の水着フェアは各店とも気合が入っており、商品内容は充実していた。
「俺は此れにするか。武藤さんの若手時代とお揃いだし。」
そんな中で一夏はショートタイツタイプの赤い水着を選んでいた――決め手がプロレス界屈指の天才と言われている『武藤敬司』が若手時代に使っていたショートタイツと同じ色だったと言うのが少々突っ込みどころはあるかもしれないが。
「一夏、これとこれ、何方が良いと思いますか?」
此処でヴィシュヌが二つの水着をもって一夏にどちらが良いかを聞いて来た。
ヴィシュヌが持ってきた水着は水色のスポーティータイプと、渋いシルバーのビキニタイプだった――どちらもヴィシュヌにはバッチリ似合うので普通ならば悩むところなのだが……
「シルバーのビキニで。」
「即決ですね?」
「俺にとっては一択だからな。」
一夏は即決してヴィシュヌは渋いシルバーのビキニを購入するのだった。
――――――
同じ頃、箒とロランもレゾナンスを訪れ、一夏達とは異なるブティックに入店し、其処での水着フェアにぶち当たっていた。
其処でロランは箒に様々な水着を着せて箒の魅力を引き出そうとしたのだが、悲しい事に箒のスリーサイズはウェストとヒップは兎も角、バストが98㎝とぶっ飛んでおり、此処までの胸のサイズに合う水着は限られており、白いビキニ一択となってしまっていた……尤も、その白ビキニが箒の魅力を引き出す事になったのだが。
「白いビキニ一択になってしまったが、ビキニの大胆さと清楚な白は君にピッタリだよ箒。」
「誉め言葉と受け取っておくが、私で此れだと山田先生や姉さんが着れる水着など相当限られてくるのではなかろうか?そもそも存在しているかがそもそも怪しいレベルだ。」
「私は直接お会いした事はないが、篠ノ之博士は君よりも凄いのかい?」
「姉さんが高校時代の話だが、制服のブラウスのボタンが胸の大きさで吹っ飛んだのを見た記憶がある。」
「其れはなんとも凄いね……それはさておき、私にはどっちの水着が似合うと思うかな箒?」
「赤いビキニと黒いビキニか……ならば黒一択だな。
お前は肌も白い上に銀髪で全体的に白いから、黒いビキニの方が赤よりもメリハリが強調されると思うからな。」
「ではそうしよう。」
「しかし話は変わるが、私はある意味でサイボーグになった訳だが、こんな私でも良いのかお前は?」
「右腕が機械義手になったとて君が君である事に変わりはないだろう?
寧ろ私は右腕を失って尚タッグパートナーだった彼女を救う為に動いた君の姿を見て更に惚れた……その機械義手は君の心の強さの象徴ではないかと感じているよ。」
「……そう言って貰えるのは嬉しいが、中々に物好きな変わり者だよお前は。」
「私の父親は芸術家だからね?
芸術家特有の変わり者の血が私の中には流れているのさ。」
「遺伝か……其れを踏まえると姉さんは冗談抜きで遺伝をぶち抜いた篠ノ之家に於ける突然変異体なのかもしれん――そもそも両親も私も黒髪なのに何故に姉さんだけ髪色が紫なのか……」
「それはきっと永遠の謎じゃないかな。」
こんな会話をしながら最終的に箒は白のビキニを、ロランは黒のビキニを購入していた。
因みに箒とロランが退店するタイミングで鈴と乱が来店して新作の水着を物色しまくり、最終的には鈴が背中が大胆に開いたワンネックタイプのスポーツ水着を、乱がセパレートタイプを購入するのだった。
ついでに言うとラウラはクラリッサから教わった間違いだらけの知識によって名札のついたスクール水着しか持っていなかったので、円夏が強制的に連れ出して似合う水着を購入し、制服と軍服しか持っていないラウラの私服も買う事になり、ラウラは複数のブティックで着せ替え人形になっていた。
尚、服の購入代金は全てラビット・カンパニーのツケにしていた事で、後日一夏は予想していなかった出費に驚き、詳細を聞いて円夏に一発かます事になるのだが――
――――――
一夏とヴィシュヌはショッピング後、レゾナンス内に出店している飲食店の中から古き良き時代を感じさせる洋食屋の『クレソン』にて昼食を摂った。
一夏は見せの一番人気である『ステーキ丼』に単品で『豚の生姜焼き』、『クリームコロッケ』を注文し、ヴィシュヌは『ハンバーグ定食』と単品で『鶏のから揚げ』を注文していた。
ランチタイムの後はアミューズメントコーナーでボウリングやらビリヤードを楽しみ、併設されているゲームセンターでも大いに楽しんだ。
ボウリングでは一夏もヴィシュヌもパーフェクトゲームを達成し、ビリヤードでは一夏がフォックストロット、ヴィシュヌがダイヤモンドカッターと言う超難易度ショットを見せてギャラリーを沸かせ、ゲームセンターでは共に格闘ゲームで対人戦50連勝を記録し、パンチングマシーンでは一夏が300㎏を記録し、キック力測定マシーンではヴィシュヌが『測定不能』を記録し――
「ハイパーDXぬいぐるみメンダコさん、ゲットだぜ。」
「お見事です。」
UFOキャッチャーでは一夏がフィギュアやらぬいぐるみやらお菓子やインスタントラーメンを大量ゲットしていた――そんな一夏をゲームセンターの店員が若干憎悪が籠った視線で見ていたのは致し方ないだろう。
そして夕方、一夏とヴィシュヌはレゾナンスの外で営業しているクレープのクッキングカーにやって来ていた。
此のクレープ屋は『ミックスベリー』を頼むと恋人との仲が深まるとの噂があったりするので、ヴィシュヌは迷う事無くミックスベリーを注文したのだが……
「すみません、ミックスベリーは売り切れで……」
ミックスベリーは売り切れだった。
「ならストロベリーとブルーベリーを一つずつ頼む。
ストロベリーはキャラメルクリーム、ブルーベリーはバニラクリームをトッピングで。」
「はいよ。」
其れを聞いた一夏はストロベリーとブルーベリーを一つずつ、夫々にトッピングを施して注文し、ストロベリーをヴィシュヌに渡し、近くのベンチで食べる事にした。
「美味しい!イチゴの甘酸っぱさとキャラメルクリームの濃厚な甘さがピッタリです!」
「そりゃ良かった。
ブルーベリーもバニラの香りがバッチリあってるな……一口食ってみるか?」
「良いんですか?」
「おうよ。」
「では失礼します……うん、美味しいですね。」
「だろ?」
「ではお返しに一夏も一口どうぞ。」
「んじゃ遠慮なく……今年の31アイスの夏の雪だるまフェアはストロベリーとキャラメルリボンの雪だるまにしようそうしよう。」
そしてお互いのクレープを食べさせ合うと言う非モテが見たら血涙爆流しながら『爆発しろ』と絶叫するレベルの甘い事をしていた。
「でも、ミックスベリーが売り切れだったのは残念でした。」
「……その事だけどな、そもそもあの店にミックスベリーはないぞ?メニューにも載ってなかったし。」
「え?そうだったんですか?」
「そう、そもそもメニューには無いんだが……食べられただろ、ミックスベリー?」
「あ……成程、そう言う事でしたか。」
そんな中で明かされたミックスベリーの真相。
そもそもミックスベリーのクレープは存在しないのだが、ストロベリーとブルーベリーのクレープを一つずつ頼んだカップルが、其れを食べさせ合う事でミックスベリーとなり、より仲が深まる事になると言うのが真相だったのだ。
――――――
IS学園が臨海学校を目前に控えた頃のアメリカ軍の極秘基地にて――
「こんなに簡単に開発中の機体に近付く事が出来るとか、アメリカ軍のセキュリティガバガバすぎっしょ……そのおかげでこっちは楽にお仕事出来る訳ですけどね~~。
福音の名を冠する機体が破壊神になるとか、この上ない皮肉だね。」
其処では亡国機業の潜入員がアメリカがイスラエルと共同開発した新型機に、何らかのプログラムをインストールし――インストールが完了すると同時にカメラアイが一瞬光った後に沈黙したのだが……
「上手く行った……あとはタイミングを見て遠隔操作するだけだね。」
プログラムをインストールされた機体は遠隔で操作する事が可能となっており、其れはつまり亡国機業が望むタイミングでそのプログラムを発動するだけとなったのである。
事実上乗っ取られてしまった試作ISの開発コードは『銀の福音』であった……
To Be Continued