暴走した銀の福音を止める為に出撃した一夏達は束が割り出したポイントに到着し福音を無力化させる為の準備を行っていた。
「束さんの予想だと、福音の軌道の振れ幅は上下左右で半径10mって事だったから、秋姐は半径10mの範囲に円形にアラクネの巣を配置してくれ。可能なら福音の注意を引いてくれると助かる。
そんでもってアラクネが張った蜘蛛の巣の結界の両端に鈴と乱を配置して結界の外に出ようとした福音を龍砲で攻撃して結界内に閉じ込めて、福音が巣に掛かったらラウラがAICで動きを止め、俺とヴィシュヌと円夏と箒とロランの波状攻撃で福音のシールドエネルギーをゼロにして機体とパイロットを回収する。
此れが一連の流れになるんだが他に意見はあるか?」
「……ありませんね。
と言うかそもそもにして他の意見を挟む余地がありません……寧ろこれ以外の方法があるのならば是非とも聞かせて頂きたいレベルです。」
「一見すると大胆な作戦だが、よく見りゃ相当に練り込まれてる作戦ってのが分かるぜ。
てか、取りようによってはオレですら最終的な切り札の為の捨て札にするとかやってくれるじゃねぇか?……普通なら捨て札にされた事にキレるところなんだろうが、オレを敢えて捨て札にしたって事は、捨て札にしてもオレは死なねぇって思ったからだろ旦那?」
「言うまでもないだろ?
亡霊のどんな過酷な任務であっても必ず生還した秋姐だからこそ任せられる事だからな……もっと言えば、この中で最も実戦経験があるのも秋姐だからさ。」
「ったくマジで良い男だぜお前。抱かれても良いと思った男は旦那が初めてだぜ。」
「……悪いが俺はヴィシュヌ一筋だから。」
「わーってるっての。」
一夏は考えた作戦をメンバーに伝え、全員が作戦ないように納得していた――オータムの負担が少々大きいが、実戦経験の差を考えれば此れも納得出来るというモノだろう。
「さてと、そろそろ福音のお出ましだ……そんじゃ景気づけに一発行っとくか!行くぞ~~!1!2!!3!!!」
「「「「「「「「「ダァーーーーー!!!」」」」」」」」」」
最後に盛大な気合を入れて、一夏達は福音との戦いに入って行くのであった。
夏と銀河と無限の成層圏 Episode31
『厄災となった福音を止めろ~Evangelium abgelehnt~』
一夏が作戦を決め、夫々が配置についてから三分後、福音が其の姿を現した。
『銀の福音』の名が示す通り、全身装甲の機体は銀色に輝き、広域殲滅兵器『銀の鐘』は機械的な翼となっており、その翼も非常に高い機動力を有したウィングスラスターとなっている洗練された其のフォルムは第三世代機の最新型と言うに相応しいだろう。
「よう、御機嫌に飛んでるところひっじょーに申し訳ないんだがこの先は通行止めだ。
迂回路もないんでな、引き返してくれ……まぁ、どうしても此処を通りたいってんなら一つだけ方法がない事もないけど、そいつは不可能に近いってモンだからお勧めは出来ねぇな。
どうしても此処を通りたいならオレを見事ぶっ倒して見せな。」
『…………』
その福音の進路上に現れたのはオータム。
専用機であるアラクネの特徴でもある八本の機械腕にはそれぞれ異なる銃火器が搭載され、オータム自身は通常のサバイバルナイフの三倍の刀身を持つ超ロングナイフと標準的なサバイバルナイフの二刀流――八種類の銃火器で敵を攻め立て、敵が銃火器の対応に悪戦苦闘してる隙を突いて間合いに飛び込んで近接戦闘で一気に決着をつけるのがオータムの戦闘スタイルの基本だ。
一方暴走した銀の福音は只暴走して破壊の限りを尽くすのではなく、あくまでも攻撃の対象となるのは自身に対して敵対行動をとった相手に限定されている――そうでなければ今頃進路上にある全てのモノは灰塵と帰していただろう。
だからこそ闘気バリバリで現れたオータムに対しては当然バトルモードになり、すれ違いざまに斬り捨てようと近接ブレードを展開して最大速度でオータムに突っ込んだ。
普通ならば驚異的なスピードを有している福音が最大速度を出したら反応する事が出来ないだろう……そう、普通ならば。
『……?』
「このオレにこの程度の攻撃が通じると思ってんのか?
確かにスピードがスゲェから少しばかり押し込まれちまったが、スピードは有っても重さがねぇ!この程度でオレを抜こうなんざ烏滸がましいにも程があるってもんじゃねぇか!!」
オータムは其れに見事に対応し、左手のサバイバルナイフで福音の攻撃を受け、其処から更にカウンターとなる横蹴りを繰り出す――その横蹴りはギリギリで回避されてヒットしなかったが、其れを見てオータムは口元に笑みを浮かべた。
「トラップ発動、ちょっと違うかもしれないが六芒星の呪縛!」
『La……!!』
福音が回避した先にはアラクネが張った目に見えない『巣』が存在していたのだ。
もしもパイロットであるナターシャの意識がある状態であれば福音のハイパーセンサーで巣の存在を感知出来ただろうが、暴走状態にある福音は自身に敵対行動を取る相手の排除が最優先となっているので巣の存在を感知できなかったのだ――とは言え、一度見せられた事で福音はハイパーセンサーで他の巣の存在を感知し、その範囲から逃れようとしたのだが……
「巣の外には出さないわ!」
「アタシと鈴は中華最強コンビとも言われてんのよね……台湾を中国と同一視されてるのはムカつくけどね。」
其れを許さないとばかりに鈴と乱による不可視の圧縮空気砲の乱れ撃ちが炸裂し、福音はその回避に一杯一杯になってしまっていた――其れでも巣に引っ掛からずにオータムとの交戦を続けているのは流石と言う所だが。
だが、実力的には国家代表レベルの鈴と乱の空気砲の波状攻撃を受けた福音は堪らず其の場から離脱したのだが――
「自分から来てくれてご苦労さん!!」
「ここから先には行かせません!」
「初陣の相手としては些か強力すぎる気がしなくもないが……やらせて貰うぞ!!」
「そして今がチャンスだラウラ!!」
「その動き封じさせてもらうぞ、貴様のシールドエネルギーが尽きるまでな!!」
「ククク……銀の福音を私の黒騎士が討つ!なんとも心が躍るなぁ!!」
其処に一夏、ヴィシュヌ、円夏、箒、ロランが強襲をかけ、更にラウラがAICを発動して福音の動きを停止させる。
如何にぶっ飛んだ性能を有している福音であっても動きを完全に封じられてはどうしようもない……其れでも福音は機体性能をフル活用してAICを力任せに抜けようとする。
AICは使用者の集中力に依存しているので、ラウラの集中力が切れればその時点でAICは解けてしまい、抵抗が大きければ大きいほどラウラの精神には負担が掛かるのだが……
「この程度で……AICを破れると思うなぁ!!
兄さんと姉さんによって何度も地獄を見せられたこの私が、この程度の抵抗で精神が削られてると思っているのかぁぁ!!」
「まぁ、ラウラに精神戦仕掛けるのは無謀だよなぁ……」
「逆にドイツに居た時に一夏と円夏はラウラに何をしたのですか?」
「意味分からん因縁付けて来たからフルボッコにした。」
「更に因縁付けてきたから半殺しにした。」
「……取り敢えず、貴方達だけは絶対に敵に回してはいけないという事だけは分かりました。」
一夏と円夏がドイツに居た頃にラウラはこの最強兄妹に喧嘩を売った果てに地獄を見た事で、大抵の事では動じない鋼の精神力を手に入れていた事で福音の抵抗など全く問題なかった。
「一気に決める!行くぜ蒼龍皇!」
『おぉ!』
「超力変身!剣王蒼龍皇!!」
此処で一夏は超力変身を使い、蒼龍皇の中でも最も攻撃力に特化した剣王へと変身し、身の丈を超える長大さとなった『剣王登龍剣』を両手で構え、そして福音に突撃するが……
「熱源反応?
此れは……IS?其れも所属不明機だって!?」
「コイツはまさか、亡国が研究してた無人機か!?
クラス対抗戦の時にも来やがったが、そん時よりも性能が上がってるだけじゃなく、数は150だと!?……スコール、お前はトコトンIS学園と遣り合う道を選んだってのかよ!!」
此処で150もの無人機が戦場に現れ一夏達を攻撃して来た。
とは言っても現れた機体は無人のISであり、クラス対抗戦の時に楯無とオータムによって滅殺された機体のアップグレード版なので脅威度は低い……と言いたいところなのだが、暴走状態の福音を無力化しようとしている中での此の増援は厄介な事この上なかった。
無人機を処理しながら暴走した福音を鎮圧しろとから、普通に考えたらムリゲーであり、一夏達も押し込まれてしまったのだが……
「亡霊が何時までも現世に留まるな……大人しく地獄に落ちろ。」
「本日限定で此の場所の湿度は300%となっておりま~す♪」
突如として降り注いだビームの嵐と破壊力抜群の水蒸気爆発が炸裂し、無人機はそ約半分が此の攻撃によって戦闘不能となっていた。
此の攻撃を行ったのはIS学園のトップ2――ビームは夏姫が放ち、水蒸気爆発は楯無が行ったモノだった。
「会長さんと副会長さん、何でここに!?」
「此の一件には亡国機業が関わっているからよ織斑君。
更識としてもIS学園としても亡国機業が関わっているとなったら君達だけに任せておく訳には行かないのよ……そして其れ以上に、IS学園の生徒会長として生徒が危険に晒されている状況を見過ごす事は出来ないって訳!」
「そして、かた……もとい楯無が出るならアタシも出るさ。恋人だけを死地に向かわせる事は出来ないからな。」
「戦場で惚気るとか余裕っすね……」
IS学園の実力トップ2の参戦は有り難く、更に此の無人機の反応を感知した束が事の次第を千冬に伝えた事で千冬は旅館に居る教師部隊に出撃を命じて、出撃した教師部隊も合流し、戦場は正に大混戦となって行った。
因みにIS学園に残った教師部隊は万が一に備えて太平洋上にて最終防衛ラインを自衛隊のIS部隊と共に敷いていた――現場に行って参戦するだけでなく、万が一を考えての部隊展開も立派な防衛と言えるだろう。
「く……此の無人機、なんか俺を集中的に狙ってきてないか!?」
件の戦場では新たに現れた亡国機業の無人機が一夏を徹底的に狙って来ていた。
無人機はプログラムされた行動しか出来ないので、一夏にとっては大した敵でもないのだが其の数が膨大となれば流石に対処するにも限界があると言うものだろう。
「亡国機業の無人機は敵としてインプットされた相手を徹底的に狙う……今回は全ての機体に旦那が敵としてインプットされてるって事か!」
「うわぁお、俺嫌われてるなぁ!秋姐の引き抜き以外に俺って亡国に何かしましたっけかねぇ?」
「オレを引き抜いた事がスコールの逆鱗に触れたんだろうなぁ……否、そうだとしたら流石に私怨が過ぎんだろ――恐らくは亡国にとって旦那は邪魔なんだろうさ。
世界的大企業の社長にして世界初の男性IS操縦者で、ISを兵器として使おうとしてる連中を潰しまくってる旦那はな!」
「有名人ってのは苦労するぜ!」
「無人機はアタシと楯無に任せろ!君達は福音に集中するんだ!」
「つっても数が数だから二人じゃ無理でしょうに!
こうなったら仕方ねぇ……円夏と箒とロランは無人機の対処に当たれ!福音は俺とヴィシュヌ、秋姐とラウラでなんとかする!鈴と乱は福音だけじゃなく無人機に対しても龍砲をぶっ放せ!細かい狙いはつけなくていい、兎に角撃って撃って撃ちまくれ!」
「待ちたまえ一夏、其れでは流石に福音に対応する戦力が半減……」
「分かった!私達は無人機を抑えれば良いのだな?其れでお前が全力で福音と遣り合えるというのならば是非もない!」
「箒、本気なのかい!?」
「本気だ……大丈夫だ一夏を信じろ!そして一夏を信じている私を信じろロラン!!」
「……其れは反則だ、惚れた相手にそう言われたらどうしようもないじゃないか……分かった、私達は無人機の排除に向かう!だが約束しろ一夏、必ず福音を止めると!」
「言われるまでねぇ!!」
此処で一夏は円夏、箒、ロランを無人機の排除に向かわせた……全ての無人機が一夏を狙っている事を考えれば、自分の所に向かって来る無人機は一機でも少ないに越した事はないので此の判断は妥当と言えるだろう――ロランが異を唱えかけたが、其れは箒がある種の力技で黙らせた形になったのではあるが。
だが此れで福音に対応する戦力が半減したのも事実だ――真耶をはじめとした教師部隊も突如現れた無人機の対応に当たる事になってしまったから。
だとしてもオータムが大量に張り巡らせたアラクネの巣は福音の武器の一つである機動力をある程度潰し、ラウラのAICを警戒してか福音はラウラには近寄ろうとはしなかった……そうなったらそうなったでラウラはレールガンでの支援が出来る訳だが。
「攻撃の手を緩めるな!このまま一気に攻め立てる!」
「はい!削り切りましょう!」
一夏は剣王登龍剣での連続攻撃、ヴィシュヌは拳脚一体のムエタイの激しい攻撃で福音を攻め立て、少しずつではあるが確実にシールドエネルギーを削って行く。
「っと、一夏あそこに船が!」
「ん?あぁ確かに船が居るな。
っと、束さんからの情報が来た……アレは民間の漁船じゃなく世界的麻薬組織『マッドカルテル』の麻薬密輸船だから無視して良いってさ。」
「麻薬密輸船なら無視ですね。タイだったら麻薬は所持しただけでも十年はムショ入りですよ。」
戦闘領域に入ってきた船があったが、其れは麻薬の密売組織の密輸船だったので完全に無視し、その密輸船はその後流れ弾が複数着弾して爆破炎上する事になったのだった。
「さて、其れじゃあそろそろ終わりにするぜ!超力変身、白虎蒼龍皇!」
此処で一夏は更なる超力変身を行い、蒼龍皇を剣王蒼龍皇から白虎蒼龍皇に変身させる。
白虎となった蒼龍皇は猫耳のような高感度センサーが頭に搭載され、白地に蒼い虎模様が入ったカラーリングとなり五指の爪も鋭くなっていた――其の姿は正に極寒の地に住む虎其の物だった。
「コイツで決まりだ!喰らえ、氷河雷龍拳!!」
『凍てつき、そして雷の裁きを受けるが良い!』
そして一夏はパワーを極限まで高めると、白虎蒼龍皇の最大の必殺技である『氷河雷龍拳』を放ち、其の攻撃の軌道上にある全てのモノを凍結させ、更に強烈な雷の電撃を与えるのだった。
――――――
一方の旅館では千冬と束が戦局を見守っていた――千冬は落ち着かない様子だったが。
「少し落ち着きなよちーちゃん。
イッ君がそう簡単にやられるわけないっしょ?信じてあげなよイッ君の事をさ。」
「信じているという事と心配しない事は別問題だぞ束?
私に言わせて貰えば妹を戦場に送り込んでおいてよく冷静でいられるなお前は?」
「慌てても何にもならないし、束さんは箒ちゃんの実力は良く分かってるからね……箒ちゃんなら必ず生きて帰って来るって確信してるのさ!……ちーちゃんは違うのかな?
イッ君もマドちゃんももうちーちゃんにっ持って貰うだけの存在じゃないんだから、任せてみても良いんじゃないかな?」
「其れは、確かにそうかもしれないな。」
一夏達ならば大丈夫だという束に対して千冬若干の不安があったようだが、其れでも最終的は束に押し切られる形で納得したのだが、其の直後に誰もが信じられない情報が齎される事になった。
其れは『織斑一夏が撃墜された』と言うモノだった……
To Be Continued