福音の暴走を止めた一夏達だったがこの事件は其れで終わりではない。
最大の問題は暴走を止めた銀の福音とそのパイロットであるナターシャ・ファイルスを如何するかだ……このまま彼女と福音をアメリカに帰還させたところで、アメリカが今回の一件を表沙汰にしない為に福音を凍結してナターシャを秘密裏に殺害する事はほぼ間違いない事を考えれば彼女と福音をアメリカに帰還させる事は出来ないだろう。
「さてと、如何する束?」
「福音は先の戦闘でコアごと大破した事にして、ナターシャ・ファイルスは暴走した福音の無茶な稼働に耐えられなくて死亡って事にしようか。
福音は私が改修して、ナターシャ・ファイルスは日本に帰化したアメリカ人の『ナタル・ラミアス』にして学園に教師として放りこめは問題ない!束さんの手に掛かれば戸籍の偽造位は朝飯前の昼飯なのだよ!」
「若干意味が分からん部分もあったが大体理解した。
だが其れで終わらせる気はないのだろう束?……止めはしないがやり過ぎるなよ?」
「あは、其処は安心してよちーちゃん。
今の束さんはめっちゃブチ切れてるけど冷静な思考は保ってるからさ。」
「ガチ切れ状態でも冷静な思考を保っている天災とはなんとも厄介な事この上ないな……最後にもう一つ、やり過ぎるなとは別に殺すなよ?」
「それに関しても安心してよちーちゃん。
この私が殺して終わりなんてそんな安易な罰を与える筈がねーじゃん……流石に大統領が殺されたとなったらとんでもない事になるからアメリカとイスラエルのトップは生かしといてやるけど、其れ以外にはキッツい罰を与えてやるよ。」
「殺したら其処で終わりだが、敢えて殺さずに生きて罪を償わせるか……そちらの方が死刑よりも辛いかもしれんな。」
こうして福音のパイロットである『ナターシャ・ファイルス』は束の手によって公的には死亡扱いとなった上で、『ナタル・ラミアス』の名を得てIS学園の教師となり、アメリカとイスラエルの大統領には束が夫々の銀行口座をハッキングして資産の99%を吸い上げるという厳しすぎる制裁を下したのだった。
ゼロまで吸い上げられたら諦めがつくというモノだが、1だけ残す事で残った希望に縋らせようとしている所が悪辣極まりない――束の手に掛かれば金融市場すら操る事が出来るので、やろうと思えば束は株で一財産どころか篠ノ之家が百年安泰の資産を残す事が可能なのである。
去らに追撃としてサナエ首相が束が動いた直後にアメリカとイスラエルとの首脳会談を行い、今回の不祥事を盾に、アメリカとイスラエルへの輸出入の関税を撤廃させ、貿易支出を大幅に黒字に転化させさたのであった。
そして帰りのバスでは行きと同様にカラオケ大会が開催され……
「「夜が来て(眠れずに) 深い闇が(震えながら) 街や人を包んでも(一人闇に震える時)
そう、思い出して(思えば良い) 夜空に揺れる月を。」」
『夕陽と月』を見事に歌い上げた一夏とヴィシュヌが優勝をかっさらったのだった。
夏と銀河と無限の成層圏 Episode35
『夏休み前の一幕~Eine Szene vor den Sommerferien~』
臨海学校での一件も無事に解決し(学園に戻った楯無は忙殺状態だったが)、一学期も期末テストを経て無事に終了し、夏休みに突入!
因みに期末テスト一年生の結果は――
・1位:織斑一夏 ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー
・3位:織斑円夏 篠ノ之箒 ロランツィーネ・ローランディフィルネィ ラウラ・ボーデヴィッヒ 凰鈴音 凰乱音 鷹月静寐
となっていた。
トップ10内に一年一組の生徒が七人とか明らかにオカシイ……中でも専用機持ちでもなければ国家代表候補生ですらない静寐がランクインしてるのが凄過ぎる。
「そんでいよいよ夏休みな訳だが海外組はどうするんだ?」
「アタシと乱は取り敢えず実家に帰省ね。」
「アタシも鈴も日本国籍持ちの台湾人と中国人だから態々自国に帰る事もないし、報告その他はリモートで出来るからさ。」
「私も一度ドイツに戻るがすぐに日本にも出ってくる事になるとは思う……日本に戻ってきた後は、日本のアニメの聖地巡礼をするのも良いかもしれん。
とは言え、日本の地理には明るくないのでガイドが必要になるだろうが。」
「其処は私に任せろラウラ。
要人保護プログラムのせいで私は中学時代に日本全国をほぼ飛び回ったから地理に関しては知識が嫌でも身についたからな……そして転校先でも話題が出来るようにと当時のアニメは可能な限りチェックしていたからな。」
「では少しテストと行こうか箒……涼宮ハルヒの憂鬱。」
「神戸だな。」
「黄金カムイ。」
「北海道だな。」
「ガールズ&パンツァー。」
「安定の茨城県だな。」
「ふむ、中々に出来ると見た……では頼んだぞ箒。」
「日本のアニメは世界的に支持を得ているし、声優陣の演技力もワールドレベルだからね……そのアニメツアー、私も参加して良いかな?」
「私は構わん。好きにしろ。」
「素っ気ないね……だが、そんなところも素敵だよ箒。」
鈴と乱は日本にある実家に帰る予定だった。
鈴も乱も日本国籍を取得しており、親も日本に移住しているので態々本国に帰るメリットはなく、必要な報告はリモートでもOKなので夏休み中は日本に居る事になった。
ラウラは一度ドイツに戻ってから日本に戻ってアニメの聖地巡礼をする心算だったのだが地理が良く分かっておらず、其処で箒がラウラのガイドを自ら買って出ていた。
その結果、それに乗じる形でロランもアニメの聖地巡礼に参加する事になったのだが其れもまたありだろう。
「そんでヴィシュヌは?」
「私も一度タイに戻ろうと思っているのですが、その時は一緒に来てくれますか一夏?」
「何故に?」
「母に夏休みになったら一度帰る事を伝えたのですが、其れを聞いた母は『その時は必ず一夏君を連れておいで』って言ってましたので……お義姉さんは私と会っていますが母は一夏の事を殆ど知らないので。」
「成程ね……ま、断る理由もないからOKだ。」
そして一夏はヴィシュヌと共にタイに行く事になったのであった。
――――――
「ふぃ~~、やっと夏休みですね先輩。少しはゆっくりできそうです。」
「教師陣にとっては待ちに待った長期休暇だからな……とは言っても帰省しない生徒も居るし、他の学校のご多分に漏れずIS学園でも夏休み中の部活動は行われているから常時誰かが学園島には居なくてはならないから正直長期休暇と言われても実感はないがな。」
「……それが教師の辛い所なんですよねぇ。
時に先輩はお休みの予定は?」
「特にないが、一夏がヴィシュヌと共にタイに行くらしいから円夏と姉妹二人で過ごすのも良いかと思っている……最近円夏は私に『姉さんはソロソロ彼氏を見付けるべきだ』と言って来るのが中々にアレだが。」
「織斑君にヴィシュヌさんが居るので兎も角として、先輩は良い人居ないんですか?」
「婚活サイトやマッチングアプリを使っているのだが、中々にな。
私は世界最強と称されているが其れが婚活やマッチングにはマイナスに働いていると言ったところだ……最新のAIであっても私の結婚相手を探すのは困難な事であるのかもな。
とは言っても相手候補が居ない訳ではないのだがな。」
「其れって誰なんですか?」
「天羽組の永瀬と青山だな。
永瀬はガスバーナーの使い手で兎に角相手の長所を潰す事に長けていて、青山単純に強い……青山よりも強い奴は小林やら阿部やら居るんだが、搦め手や細かい駆け引き無しの勝負に限れば青山が最強だろうな。
一夏と円夏が懐いてたのが小峠の次に青山と永瀬というのもあるがな。」
「何だが凄そうな人達ですが……」
「実際に凄い。
天羽組の連中とは全員一度は戦ったが、下っ端は瞬殺できたモノの幹部クラスとなると中々にそうはいかなくてな……中堅クラスだった小峠でも私と引き分けに持ち込んだし、上級幹部ともなれば正に次元が違った。
特にアサシン育成組織で育った小林は別格だった……まさか私がタイマンで後ろを取られるとは思ってなかったよ。」
「先輩の背後を取るって本当に人間なんですかその人は!?」
「私をなんだと思ってるんだ山田君。
単純なパワーだけなら青山、正面からのぶつかり合いなら矢部に分が上がるだろうが、小林は兎に角全てのステータスが隙なく高い……最早全てのステータスが100をマックス値とした場合に99になっていると言えば分り易いか?
背後を取られたあの時はつくづく私はスポーツの世界における世界最強なのだと実感させられたよ。」
「その小林さんは相手候補にはならないんですか?」
「山田君、君は常時目がガンギマリしてる相手と交際したいと思うか?」
「あ、無理です。」
「つまりそう言う事だ……そう言えば一夏とヴィシュヌは夏休み中に無人島でサバイバルキャンプをするとか言っていた気がするが……まぁ、大丈夫か。」
「サバイバルキャンプって、大丈夫なんですか?」
「一夏は小学生の頃の夏休みに小林に『夏休みの思い出にキャンプするぞー』と言われて無人島でのサバイバルキャンプをさせられた経験があってな。
飲み水の確保のしかたから魚の取り方、食べられる植物と食べられない植物の見分け方、火の起こし方等々一通りのサバイバル術を徹底的に仕込まれたんだ……小学校を卒業するまで続いたな其のサバイバルキャンプは。
そのおかげで、一夏は最早日本でどんな災害が起きても生き延びれるだけのサバイバル術が身についたよ。」
「一夏君は私が考えてる以上に凄い日々を送っていたんですねぇ……」
以上、夏休み前の職員室における一年一組の担任と副担任のちょっとした雑談の一部でした。
――――――
夏休みに入ったその日、一夏はラビットカンパニーの社長室であるデータを整理し、其れを自身のスマホに転送していた――ヴィシュヌと共にタイに行く前に片付けられる仕事は片付けておこうと思ったのだろう。
「よう、入るぜ旦那。態々オレを呼び出すってのは、つまりその手の仕事って事か?」
「あぁ、コイツ等全部俺とヴィシュヌがタイから戻るまでぶっ潰しといてくれるか秋姐?」
社長室に入って来たオータムにのスマホに、一夏はパソコンから転送したデータを送り、自分とヴィシュヌがタイから戻る前に潰しておけとオータムに言って来た。
一夏がオータムに渡したデータは、所謂裏社会でも忌み嫌われている麻薬の密売販売組織、人体実験を行っている製薬会社、人身売買を行っているマフィア、果ては違法な複製ISコアを作っている組織等々、存在其の物が害悪と言えるモノだった。
普通ならばこれ等を全て潰せと言われたらムリゲーと感じるところだが、此のデータを見たオータムは口元に獰猛な笑みを浮かべていた……オータムは元々亡国機業内でも最強と呼ばれていたエージェントであり、根っからの戦闘狂なので、この手の任務は寧ろ大好物なのだ。
「コイツは中々に刺激的なサマーバカンスになりそうじゃねぇか旦那よぉ?
亡国時代に見た連中もいるが……このうち何人かはいずれ拷問ソムリエが出てくるんじゃねぇかって思った奴もいるんだよなぁ……現場で拷問ソムリエと出くわしちまった場合はどうすんだ?
拷問ソムリエは絶対に獲物はこっちに渡さねぇぞ?」
「拷問ソムリエ……伊集院先生と出会ったその時は獲物は渡して良い。あの人と敵対するのはリスクしかないからな。
つっても大人しく渡したんじゃ秋姐の気が済まねぇだろうから、野郎の急所を蹴り潰したり片眼を潰したり爪を剥ぐくらいならして良いぜ?拷問に通じるモノなら伊集院先生は是としてくれるらしいからな。」
「了解だ旦那。
任務に行く時にはサインペンも持ってくか……拷問ソムリエにナイフか銃にサインして貰おう。」
「伊集院先生のサイン入りナイフとか裏社会でトンデモナイ値段が付きそうだな……そんじゃ、よろしく頼んだぜ秋姐?」
「おうよ、任せときな旦那!
アンタは安心してヴィシュヌとタイに行ってきな!!」
夏休み前の一仕事を終えた一夏はロビーで待っていたヴィシュヌと合流し、羽田空港へと向かい、其処からタイへと出発して行ったのだった。
そしてこの日から、裏社会で『黒い死神毒蜘蛛』の蹂躙劇が始まるのだった。
To Be Continued