アドマイヤグルーヴと、相性度65%のトレーナー 作:君のネクパイになりたい
とある土曜日の午後。
“彼”は、座面の広いソファに浅く腰掛け、洋間の室内を観察していた。
質素ながら落ち着きのある内装。しっかりと手入れが行き届き、所々に見える可愛らしいアニメキャラのグッズが、二人の生活感を感じさせている。
スティルインラブと再会してから、数日が経過した。
そして今日、ちびっ子達への指導が一段落した週末を利用して、彼女の自宅へとやって来ている。
「どうぞ」
テーブルに置かれる、来客用のコーヒーカップ。
芳しいその香りは、いつの日かトレーナー室で楽しんだ、あの香りだった。
はす向かいに座るのはもちろん、それを入れてくれたスティルである。
「あの時も言ったけど、元気そうで安心したよ」
「……はい。そちらも、御壮健でなによりです。
まさか、学園から来るトレーナーが、“貴方”だとは思いませんでしたけれど。
すっかり、たくましくなられて。見違えました」
「ドゥラメンテの担当トレーナーとして恥ずかしくないよう、鍛え直したからね。でも、驚いたのはこっちもだ。……まさか君が、子供を産んでいたなんて、な」
当たり障りのない無難な会話は、双方の緊張の表れか。
当然だ。六年間も会っていなかった、憎からず思っていた相手なのだ。
どう接していいか分からず、手探りにもなってしまう。
“彼”はその緊張を紛らわせるため、湯気を立てるコーヒーを一口啜った。
「……美味い。懐かしい味だ」
途端、口に広がる爽やかな苦味と酸味。あの頃と同じ味に、自然と心が和らいだ。
この味は、スティルとジューダにとっても、お気に入りのブレンドであった。
「結婚は、いつ?」
「いいえ。独り身です。これは……自衛のため、なので」
「……そう、なのか」
スティルの左手には、質素な銀の指輪があった。
“彼”がそうであったように、結婚指輪と思うのが当然だが、どうやら違ったようだ。
これも当然だが、スティルはまだ若く、そして美しい。……いや。あの頃よりも、ずっと美しくなった。
既婚を装わなければ、男達が放って置かないのだろう。
「あの子は……ジューダは、俺の子、なんだな」
「っ、ち、違い、ます。そもそも、私と“貴方”は、そんな関係では──」
「思い出したんだ。あの、夏祭りの夜のこと」
「──あ」
「あれが夢じゃなく現実なら、あの子が産まれた時期から逆算しても、齟齬はない」
前置きもそこそこに、話は本題へと入る。
焦点となるのはジューダ。間違いなく、スティルと“彼”の間に産まれたウマ娘である。
しかし“彼”は、その原因に思い当たる節がなかった。だから、ジューダが存在することすら、思いつかなかった。
それが一変したのは、やはりスティルと再会したから。
再会したその日の夜。“彼”は夢の中で、あの夏の夜を思い出したのだ。
「あの時の君は、君らしくなかった。いや、君とは思えなかった。あれが……?」
「……私の、“本能”。もう一人の私、です。……ごめんなさい……」
朧げながら記憶に浮かぶ、狂おしいほどに温もりを求める少女の姿。
苦々しく頭を下げるスティルの、“本能”。
トリプルティアラを獲得せしめた要因は、いわば第二の人格にも近い。
同じ年の、ホワイトデー。
思わぬ贈り物を受け取り、心を乱したスティルは、送り主である“彼”と向き合うことから……逃げた。
抱いてはならない恋心が抑えきれなくなったのを自覚し、思考を放棄してしまった。
それから肉体の主導権を“本能”に奪われたのだという。
「どうして君が謝る。謝るのは俺の方だ。全て、忘れていたんだから」
また、その“本能”には特異な力があった。
それは、概念的なものを喰らう、“力”。
激しい感情などを味わい、自らの活力に変え、時には……記憶すら喰らう。
“彼”とスティルの記憶に一部欠損があったのは、これのためだろう。
「ジューダの走り。君にそっくりだった。まさか、あの子にも……」
「正確なことは分かりません。けれど……あの子を宿してから、私の中から本能的な衝動は、ほとんど消え去りました」
そんな“本能”が見せた走りと、ジューダが見せた走りは、瓜二つ。
もしや……という不安がよぎるのも当然だった。
この一週間の指導で、ジューダは“彼”によく懐いてくれた。
あの走りを秘密兵器にしようという提案を受け入れ、使いこなすためと称した基礎トレーニングにも、頑張って取り組んでくれる。
それに影響されてか、他のちびっ子達からも指導を頼まれるようになって。
ジューダの向けてくれる笑顔に、胸が締め付けられるのは……。
思い切り抱きしめ、褒めてやりたいと思ってしまうのは……ある種の父性本能、なのかもしれない。
「なんで、言ってくれなかった。あの時の君が、身重だったなんて……。知っていたら放ってなんか……!」
「……だから、ですよ。
もし、私がそんな体だと知ったら。“貴方”は私を選んでくれる。……選んでしまうから。
あの子の命を盾にして、振り向かせたくありませんでした。女の意地、です」
時期的に考えて、スティルと“彼”が決別したあの日には、すでにジューダを身籠っていた事になる。
普通なら教えて然るべき事実を、しかしスティルは隠したまま、学園まで去ってしまった。
そして今また、笑顔で意地だと言い張って。
「アルヴがテンバを……最初の子を妊娠した時は、とても大変だった。
何もかもが初めてで、手探りで。不安で眠れないアルヴの、側に居ることしか出来なかった。
無事に産まれた後だって、大騒ぎの日々が続いた。
……俺は、そんな大変な時に、何も知らないまま、君を独りきりに……っ」
“彼”が思い返すのは、アルヴとの結婚生活。
今でこそ出張に送り出してくれるほど落ち着いているが、初産の時などは、精神的に参ってしまっていた。
出産への不安。
悪阻などの、未経験の体調変化への不安。
孤児という経験からくる、母親になる事への不安。
これらが重なり、“彼”が側に居ても、精神に不安定な時期があったのだ。
なら、そんな時に独りきりだったら?
不安を零す相手もおらず、体の不調を気遣っても貰えず、それはこの先も……。
考えるだけで、想像するだけで胸が苦しくなる、恐ろしさだった。
「御自分を、責めないで下さい」
ふと、手に温かさを感じる。
知らず知らず、固く握り締めていた拳に、スティルの手が添えられていた。
「私が選んだことです。それに、独りきりではありませんでしたよ? 両親が手伝ってくれましたから。……最初は、怒られましたけれど」
伸ばしていた手を戻し、胸へと当てて、苦笑いを。
今度はスティルが、ジューダを産むまでを思い返していた。
学園から去り、まず始めなければならなかったのは、一人での生活と、出産の準備だ。
最初は誰の助けも借りずに産むつもりだったけれど、お腹が大きくなるにつれ、甘い考えだと実感させられた。
体調の変化はもちろん、一番辛かったのは好奇の視線。うら若き少女が、大きなお腹を抱えて生活していれば当たり前であろう。
たづなの説得もあり、結局、スティルは両親の元に身を寄せた。
当然、二人は娘を心配し、怒った。子供の父親は誰かを問い質しもした。
けれど、頑として語らないスティルに、両親は折れる事を選ぶ。
両親の助けを得てからは、悪阻と戦いながら資格の勉強を進める。
そしてジューダが無事に産まれてからは、両親もいわゆる孫フィーバー状態となり、初めての子育てが始まった。
もちろん、一筋縄ではいかなかったが……。
「……ええ。大変でした。大変でしたけれど。
あの子が笑って、『お母さん』と呼んでくれる。ワガママを言って、甘えてくれる……。
それだけで、全て報われた気持ちになるんです。“貴方”も……そうでは、ありませんか?」
夜泣きで何度も起こされた。
突然、熱を出す事もしょっちゅうで、他にも困らせられた事は枚挙にいとまがない。
……でも。
初めて立ち上がって歩いた時は、歓声を上げて喜んだ。
今ではお母さんと呼ばれているが、初めて「ママ」と呼んでくれた時は、涙が出るほど嬉しかった。
ジューダにあの走りが……“本能”が引き継がれていると知った時は、流石に動揺したけれど。
子が親の特徴を受け継ぐのは、考えれば自然なこと。
笑顔が可愛らしく、嘘をつくのが苦手なジューダも。“本能”のままに速さを求めるジューダも、同じく愛おしい娘なのだから。
あの子の笑顔を見るためならば、なんだって出来る。出来る気がする。
こんな形の愛もあるのだと、スティルはジューダに教えてもらった。
こんな風に愛されていたのだと、確かめられたのだ。
そして、それは“彼”もまた同じで。
「何か、出来ないか」
「え……?」
「君と、ジューダのために。今からでも何か、埋め合わせをしたい。今さら、父親を名乗る資格なんて無いだろうけど、それでも……」
血の繋がりがあると分かった今、ジューダの笑顔が見たい、喜んでもらいたいという気持ちは、より強くなっていた。
……例え、倫理的に問題があっても。その名の通り、思いがけない“裏切り”の結果に産まれた子でも。力になってあげたかった。
「でしたら、来週も。あの子の走りを見てあげて下さい。
あの子ったら、帰って来ても、ずっと“貴方”の話をするんですよ?
今日はこんな事を教えてもらった、明日はまた別の事を教えてもらうんだ……と」
“彼”の申し出に、スティルは思わず思い出し笑いをしてしまった。
最初は、“彼”と母親が知り合いである事に驚いていたけれど、それを翌日には忘れるほど、ジューダはトレーニングに夢中になっていた。
うでのふり方とか、しせいとかを変えるだけで、すっごく走りやすくなるんだよ?
歩はばを一定にするのってむずかしいよ……。お母さんはどうやってたの?
おじさんがね、上達するのが早いってほめてくれたんだ。えっへん!
楽しそうに笑う娘と、その隣に立つ
夢想する光景に、本当は自分も加えたかったけれど……。
それは、許されない。
「後は……あの子が成長して、もし必要になったら。その時に、認知さえして頂ければ、それだけで……」
「……そう、か」
「それと、アルヴさんにも、いつか謝罪をしなければと、思います。……結局、裏切ってしまいましたから」
スティルの言葉に、“彼”は少し落胆した。これは、やんわりとした拒絶だ。
必要最低限の事だけでいい。
これ以上、私たちは関わってはいけない。
彼女はそう言っているのである。
至極もっともな話だ。
“彼”は妻子を持つ身であり、今も妻は妊娠中。
そばを離れ、こうして女性と二人きりで会っている事自体、浮気を疑われても仕方ない状況。
本当ならば、再会などしない方が、良かったのだ。
「この出張が終わったら、二度と会わない方がいいんだろうな」
「……はい。その方が良いかと。でないと、きっと……」
寂しげに笑い合う二人は、それをよく理解していた。
だから、スティルは言葉を濁し、“彼”も続きを催促したりしない。
形にしてしまえば、止まれなくなってしまうから。
「そろそろ、失礼するよ。最後に君のコーヒーが飲めて良かった」
「あ……っ」
すっかり冷めてしまったコーヒーを呷り、“彼”は席を立つ。
思わず、その背中に手を伸ばしてしまうスティルだったが、寸手のところで握り締め、踏み留まる。
家を出る“彼”を見送って、それでこの逢瀬は終わり。
……そう。夢はいつか、醒めるものなのだから。
しかし。
ここで部屋に異変が生じた。
「……ん? …………んん? あ、あれ……?」
「どうか、なさいましたか」
「ドアが開かない……」
「えっ」
リビングを出ようとした“彼”が、困惑した顔でスティルを振り返る。
もしや、帰りたくなくて嘘を……と一瞬考えてしまうけれど、どうやら本当のようで。
「何か倒れて引っ掛かってるのか?」
「倒れるような物は置いていないはずですが……ん、んんんっ……!」
“彼”に代わり、ドアを開けようとするスティル。
だが、開かない。ウマ娘が全力を出しているのに、そもそもドアノブ自体が回っていない。
まるで、ドアノブが自分自身を、その機能を忘れてしまったかのような、強烈な……違和感。
次の瞬間。
世界が揺れ出した。
「な、なんだっ!?」
地震……とは違う。
地面は揺れていないのに、リビングの家具がガタガタと震えているのだ。
しかも、誰も触れていないはずなのに、前庭へ続く大窓のカーテンが閉まったり、花瓶が倒れたり。
どう考えてもポルターガイスト現象だった。
「すす、す、スティル!? この家って事故物件だったり!?」
「そんなはずありません! もう二年も住んで、こんな事は一度も……っ」
訳も分からず、スティルを背に庇う“彼”と、その背中に縋るスティル。
記憶が戻ったおかげで、この世界には超常的な“力”が存在すると理解したが、理解したからこそ、恐怖は一段と増していた。
ところが、この怪現象は程なく収まった。
最初から何も起きてなどいなかったように。
「お、収まった……?」
「……なんだったのでしょう」
困惑は深まるばかりだが、ひとまず、暗くなった部屋を明るくしたくて、“彼”はカーテンを開けようとした。
……途端、再び震え出す家具。
カーテンが「触れるな」と言わんばかりに波打つ。
「って、またかっ、なんなんだこれ!?」
慌てて窓から離れ、またスティルを庇う。
すると、収まり始める揺れ。
…………。
なんとなく、スティルから離れてみる。
また揺れ出す。
「まさか……。スティル、手を」
「え? は、はい」
思うところがあり、スティルに手を取ってもらう。
ピタリ、と揺れが止んだ。
そうしているのが正しいとでも、言うかのように。
思わず顔を見合わせる二人。
念のため、その状態でドアを開けようと試みるが、残念ながら開かない。
「揺れは、止まりましたね。でもドアは開かない……?」
「嘘だろ……。これじゃあまるで、うまぴょいしないと出られない部屋じゃ──」
《ドンッ》
「おわぁっ!?」
「きゃっ」
突然、“彼”は凄まじい力で追いやられた。宙を舞っていた気もする。
あわや大怪我……するはずが、上手い具合いにソファへと、うつ伏せに落ちる。
形としては、スティルを押し倒すような状態に。
「す、すまない。いきなり“何か”に……押さ……れ……て……」
間近で視線が絡み、言葉を失う。
脳裏によぎるのは、あの真夏の夜。
魂さえ凍えそうな冷たい雨に降られ、温もりを求められた、あの夜のこと。
スティルに、抵抗する素振りは……見られない。
乱れ髪の隠す頬が、朱に染まっている。
熱を孕む瞳で“彼”を見上げて、そして。
そして……。
『全ク、世話ガ焼ケル』
怪奇現象の原因である漆黒の影は、ドアの向こうで二人に背を向ける。
ここまでお膳立てすれば、後は勝手に盛り上がるだろう。
男と女が居て、心の奥底では求め合っている。ならば難しく考えず、番ってしまえば良いのだ。
今のこの男なら、それだけの度量もあるのだから。
『励メ。オ前ハモウ、縛ラレテハ、イナイノダカラ』
黄金の双眸を細め、影は虚空に消えていく。
その思惑は、やはり人の倫理と範疇を逸脱していたが。
その瞳には、親が子を想う慈しみのようなものが、確かに宿っていた。
ところがどっこい。
これで話が綺麗に終わるはずもなく。
「スティルさんと、会ったんですってね」
「……はい」
出張から帰った“彼”を待っていたのは、死刑宣告であった。
「したの?」
「へっ」
「したのね……」
「そ、それは……っ」
「 う ま ぴ ょ い し た ん で し ょ う 」
「……………………はい」
真昼のリビング。
いつぞやのように、腕組みをして仁王立ちする、お腹の大きなアルヴ。
その前で正座し、項垂れる“彼”。
もう罪状は出揃っていた。
今回の一件、同行していたドゥラメンテによって、逐一報告がされていたのである。
なお、うまぴょいとはもちろん、うまぴょい伝説を踊ってもらう事である(要出典)。
決して何かの隠語ではなく、アルヴが普段からしていたように、勝負服や体操服やチアコスや危ない水着でうまぴょい伝説を踊ってもらい、元気出ろ出せしてもらっただけなのである(個人研究に基づく見解)。
なのでコンプライアンス違反は発生していない。発生するはずがないのである(by民明書房)。
「とりあえず椅子に座って。ちゃんと話を聞かせてちょうだい」
「はい。分かりました……」
閑話休題。
ひとまず、大人しく罪を認めた事でアルヴの溜飲は下がったようで、テーブルにつく事を許される。
“彼”の口から語られたのは、スティルに宿った“本能”と、その“力”による記憶の虫喰い、そして腹違いの娘の存在であった。
怪奇現象に関しては無理がありそうだったので省略された。
「なるほどね……。ようやく合点がいったわ」
「……信じて、くれるのか?」
「だって、これ以上に納得できる説明なんて無いでしょう。テンちゃんを妊娠してから、ずっと気掛かりだったのよ」
あの頃のアルヴはまだ純粋で、スティルが身を引いた程度にしか考えていなかった。
が、後の行動を含めて考えると、少々不自然な部分も出てくる。
その最たる部分は、唐突な退学だ。
今思うと、あれは本格的にお腹が大きくなる前に、事前に姿を消したと考えられるだろう。
そして、相手は……。
「正直に言って、テンちゃん達が産まれるまでは怖かったの。スティルさんがいつか『こんなに大きくなりました♪』って、“貴方”に似た子を連れてくるんじゃないかと」
“彼”には隠していたが、当時は本気で悩んでいたものだ。
いつ、どうやって身籠ったのか。
何も知らない顔をして、“彼”は自分を裏切り続けているのではないか、と。
まぁ、テンバが産まれ、セプターが産まれ。今も三人目を宿している身となっては、妻として、母としての自信もついている。今までの“彼”の二心を疑うことはない。
これからは別だが。
「俺は、考えもしなかった。自分にアルヴ以外との子供が居るなんて。再会したのだって偶然だろうし……」
「……仕方ない部分もあるわ。あんな風に隠されてしまったら、ね」
“彼”は未だに項垂れていて、今回の一件が相当に堪えているのが伺える。
記憶を奪われた状態で決別したとなれば、その後のスティルが気になりはしても、決別したからこそ追いはしなかった。
その間に彼女は、支えてくれる伴侶も無しに、子供を育てていた。
アルヴ自身が相当な苦労をかけたのだし、同じ苦労を一人で乗り切ったと知って、気に病むなという方が酷だろう。
というか、“彼”が来るって絶対に知ってたでしょ。偶然の再会なんかじゃないわ。
清純そうな顔して、毎度毎度あの女ぁ……! 今の顔知らないけども……!
「で、スティルさんはなんて?」
「……もし必要になった時は、認知だけしてくれれば良い、それ以外は何も望まない……と。後は、いつか謝罪を、とも……」
「ふぅん……」
絶対聞かせられない本音を胸に秘め、アルヴは話を続ける。
妥当な要求。一応、謝罪をするつもりなのも理解した。
業腹だが、ここでこれ以上、“彼”を糾弾しても始まらない。
とりあえず、知りたいことは知れたので、良しとしよう。
「まぁ、当事者抜きで、これ以上話を進めるのも無理ね。近いうちに顔合わせしましょう。予定を合わせるわ」
「はい……」
「もう、そんなに怯えないで? “貴方”にもスティルさんにも、酷い事をするつもりなんて無いから」
「……どうして。君はもっと怒っていいはずだ。俺は君を、裏切って……」
「怒ってるわ。怒ってるに決まってるじゃない。……でも、それ以上に安心してるのよ。自分でも不思議なくらい。おかしな話よね」
おかしな話。そう、おかしな話だ。
夫が昔の女とうまぴょいしたというのに、怒りや憎しみよりも、やっぱりそうなったか、という安堵の方が大きいなんて。
だって、考えれば考えるほど、思ってしまうのだ。
スティルインラブは、“彼”の隣でしか幸せになれない……と。
そして、ティアラを奪われ、一時は“彼”すらも取られかけた相手なのに、そんな彼女も幸せであって欲しいと、本気で願っていたのだ。
憎くて、でも信頼していて。
とても怒らせられているのに、悲しい顔は見たくなくて。
同じ男に惚れてしまった、友人で、恋敵。……永遠の、ライバル。
実に、奇妙な関係だった。
「さて、と。じゃあベッドに行きましょうか」
「は? ベッド……? なんで……?」
「うふふふふ」
話が終わり、アルヴはお腹を支えながら席を立つ。
己を見下ろすハイライトの消えたオッドアイに、“彼”は顔面蒼白となった。
やべぇ、搾られる……!
「う、うまぴょい、するのか……? 今から!?」
「ええ。うまぴょいよ。怒ってるって言ったじゃない」
「で、でも酷いことはしないって!」
「酷いことじゃないでしょう? 元気になってもらうだけなんだし」
「いや、あの、お、お腹の子に障るんじゃないかなぁーと」
「あら。“貴方”が教えてくれたのよ。男に元気を出させる方法は沢山あるって」
「…………テンバ! 今日は日曜だから家にテンバ達が!」
「もうドゥラちゃんが連れて行ってるわ。明日まで預かってくれるから」
「ずいぶん手回しが良いっすね」
「手の早い夫が居るもので」
「うっ」
「ふふふ。いーっぱい、元気出して貰うから。頑張ってね、“貴方”?」
「はい……頑張ります……」
見た目は優しく、その実はガッチリと腕を組まれ、寝室へと引っ張られていく。
この日、“彼”は本気で、うまぴょい死を覚悟したという。
どっとはらい。
完結したはずなのにアルヴさんやスティルさんのことが頭から離れずtntnがまたirirしてきたのでオマケが出来ました。
あれです、本編であえて説明しなかったことの補足などです。アルヴさんに射……元気管理されてぇなぁ俺もなぁ。
さぁて、次回のオマケはー?
同棲時代編。アルヴさん、恋人が急にモテ始めて危機感を煽られる。
未来編。アルヴさん一家の四女のボージェストちゃんと五女のブリュスクマンちゃん、アドマイヤ冠が欲しくて逸走。(ちなみに三女はアドマイヤトライちゃん)
……の、どっちか! 見たい光景なんかを呟かれたら拾うかも?
あんまり期待せずにお待ち下さい。