アドマイヤグルーヴと、相性度65%のトレーナー   作:君のネクパイになりたい

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幕間劇 女の戦い

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 

 沈黙。

 蝉の声が聞こえ始めるはずの初夏のトレーナー室は、まるで真冬のような冷たい沈黙が広がっていた。

 

 対するは二人。

 腕を組んで仁王立ちする、アドマイヤグルーヴ。

 正座して、いつでも土下座可能な“彼”。

 

 絶対的な力関係が、立ち位置に現れていた。

 

 

 

「……勉強会」

 

 

 

 ジト目で見下ろすアルヴの一声に、ビクゥッと“彼”の肩が震える。

 

 

 

「勉強会を、しているそうね」

「……は、はい。しています……」

 

 

 

 それは、さながら尋問であった。

 すでに起きた出来事を確認し、罪深さを思い知らせる為の、尋問。

 

 

 

「放課後。私とのトレーニング後に」

「はい……」

「スティルさんと」

「……っ」

「 二 人 っ き り で 」

 

 

 

 クワッと目を見開き、眉間にマリアナ海溝を刻むアルヴ。

 苛立ちを紛らわせたいのか、爪先がタン、タン、と一定のリズムを刻んでいる。

 

 

 

「ほ、本当に勉強してるだけで、別にやましい事は──」

 

 

 

 タンッ!

 

 言い訳しようとした“彼”の言葉は、爪先一つで封じられた。

 きっかけは至極単純。

 門限近くに、“彼”のトレーナー室から出てくるスティルを目撃したウマ娘(モブ)が、アルヴに密告したのである。

 それを聞いた瞬間のアルヴの表情は、面白半分だったそのウマ娘が、思わず「ごめんなさいごめんなさい本当です嘘じゃないんです信じて下さいぃ!」と涙目になるほどであったとか。

 

 

 

「不謹慎だと思わないの。夜遅くに、女の子と二人きりだなんて」

「それを言ったら、この学園のそこかしこで、不謹慎な光景が見られるんですが」

「言い訳しない!」

「すみません」

 

 

 

 少々理不尽な気もするが、これ以上アルヴを怒らせないためにも、“彼”は甘んじて叱責を受け入れた。

 男は辛いよ……。

 

 

 

「私も同席するわ」

「へ? ……構わないけど、でも、あくまでサポーター向けの情報交換だから、あまりアルヴの役には……」

「 同 席 す る わ 」

「はい」

 

 

 

 ただ迫力だけで、有無を言わせずに頷かせる。

 さながら浮気がバレた夫と、怒髪天を突く妻の構図である。

 実際はもっと程度の軽い……いや、浮気未遂という点では変わらないだろうか?

 ともあれ、“彼”が針のむしろを味わいつつ時間は過ぎ、放課後。

 

 

 

「そんな訳で、今日からアルヴが同席します……」

「なるほど。そういう事情だったのですね」

 

 

 

 浮気男の弁明に、けれどスティルは納得顔だった。

 少しは落ち着き、不機嫌さを無表情に隠すアルヴへと、彼女が頭を下げる。

 

 

 

「アルヴさん。申し訳ありませんでした。

 まずはアルヴさんに話を通すべきでしたね……。

 私ったら、あの方のお役に立とうと、気ばかりが逸ってしまって……」

「……別に、構わないわ。私としても、いい機会だったし」

 

 

 

 理由自体は共感できるものだし、素直に謝られては、これ以上責める訳にもいかない。アルヴも自分を納得させる。

 こうして、三人での勉強会が始まった。

 予想外な事に、会は実にスムーズに進んだ。

 二人とも、そもそもが真面目な性格である事も手伝い、時折、トレーニング内容に対するディベートなども挟んで、有意義な内容だったと言える。

 

 

 

「っと、もうこんな時間か。一服したら、今日はお開きにしようか」

「はい。本日もありがとうございました。“先輩”」

「……先輩? どうして、そんな呼び方……」

「どうして、と言われましても、事実、私にとってはサポートの先輩ですから。お茶、淹れますね」

 

 

 

 勉強会の後は、いつもお礼としてスティルがお茶を淹れていた。

 今回もそのルーティンが繰り返されるのだが、しかし待っている間、アルヴはまたジト目で“彼”をねめつける。

 

 

 

「先輩、ねぇ……。ふぅん……。そういうのが好き、なのね」

「い、いやいや、それは流石に曲解だと思うぞ? そう呼ばれてもおかしくはないんだし」

「そうね。おかしくはないわよね。せ、ん、ぱ、い」

「く……っ。可愛い後輩だよ全く……!」

「ふん」

「うふふ。お二人とも、お茶が入りましたよ」

 

 

 

 傍から見ると、痴話喧嘩をしているようにしか見えない二人へ、手早く淹れたお茶をスティルが配する。

 とりあえず、今日のところはお茶という名の水に流す事に。

 

 

 

「ところで、スティルさん」

「なんでしょう?」

「その万年筆……。素敵ね」

 

 

 

 んぐっふ。

 

 変に鳴った喉の音に気付かれず、“彼”がお茶を噴き出さずに済んだのは、全くの偶然であろう。

 アルヴは純粋に、その万年筆が良い物だと思っただけ。

 それを受けてスティルは、妖艶にも見える微笑みを浮かべ、クリップのハート飾りに 唇を押し当てる(キスをする)

 

 

 

「はい。“ワタシ”のお気に入り、なんですよ? 大切な、プレゼントです……」

「へぇ……。いいわね、そういうの」

(……なんでこんなに冷や汗が出てるんだろう)

 

 

 

 微笑み合う、二人の美しい少女。

 大変絵になる光景だというのに、何故、どうして、“彼”の心臓は暴れ牛が如く跳ね回るのか。

 おめぇが担当でもないウマ娘に粉掛けてっからだよバカタレが。

 ……と、正論パンチしてくれるような友人は、しかし悲しいかな、“彼”には存在しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間が経ち、トレーナー室から寮へ向かう帰り道。

 なんとなく同道するスティルに、アルヴは意を決して話しかける。

 

 

 

「……す、スティル、さん」

「はい……? どうかなさいましたか、アルヴさん」

 

 

 

 アルヴが脚を止め、少し先でスティルが振り返る。

 まだ夜というには浅く、夕暮れの残滓に長い栗毛が揺らめて、美しい。

 

 

 

「もうすぐ、夏合宿、よね」

「……そう、ですね」

「……夏、なのよね」

「…………そ、そうですね」

「…………」

「あ、アルヴさん……?」

 

 

 

 押し黙ってしまうアルヴを心配して、スティルが顔を覗き込もうとする。

 アルヴには確信があった。

 スティルインラブは──“彼”に想いを寄せている、と。

 以前はなんとも思わなかった行動の端々から、“彼”に向けた矢印が伸びているのを、肌で感じるのだ。

 でなければ、担当を持つ他のトレーナーと、わざわざ二人きりになるはずがない。普通は警戒する。

 なんだったら、あの万年筆だって怪しい気がしていた。

 

 そんな相手に、これからある相談をするつもりなのだが、踏ん切りがつかない。

 “敵”に塩を送る事にならないか。

 出し抜かれたりしないか。

 不安ばかりが、先走る。

 

 

 

(……いいえ。どんなものでも利用するのよ。例えそれが、“敵”であっても)

 

 

 

 全ては、“彼”の隣を譲らないために。

 ようやく得た温もりを、手放さないために。

 

 

 

「じ、実は……っ……」

「ふむふむ……まぁ……ええ……それは、良い考えですねっ」

「それで……その……私は、あまり……そういうのに、慣れていない、から……」

 

 

 

 やっと覚悟を決めたアルヴが、口を開く。

 妙に自信無さげなそれを聞いたスティルは、意外なほど乗り気だった。

 

 

 

「私でよければ、協力させてください。……と言っても、私自身、自慢できるような経験はありませんが」

「……いいえ、助かるわ。……ぁ、ありがとう……」

「ふふふっ。予定を合わせないといけませんね。楽しみです」

 

 

 

 たった二人でも姦しく、少女達は帰路を辿る。

 ライバルで、敵で、恐らくは恋敵な……級友。長く同じ道を歩んだ、戦友。

 複雑怪奇な二人の夏は、まだ始まったばかり。

 

 






 Q:担当なら粉掛けても良いって言うんですか?
 A:キチンと卒業を見込めるなら良いんじゃないかな(ブルボンのパパ並感)

 確か現実に則すると、誰かの母親が現役で産んでるんでしたっけ? だからきっとダイジョブダイジョブ。
 それはさておき対抗心むき出しのアルヴさんが可愛くてtntnがirirするので続きます。
 次回、合宿ときどき夏祭り。

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