怪談廿物語 作:tagari
私と弟が子どもの頃、田舎の祖父母の家で体験した話です。
私たち姉弟は夏休みになると、親に連れられて毎年のように田舎へ来ていました。その年も快く迎え入れられたことを覚えています。弟は小学校に上がったばかりくらいの年齢でした。
おやつにと、ハイチュウをもらいました。1ダースくらいの粒がバーのように1本にまとまったタイプのやつ。それを私と弟が一本ずつもらいました。
いつもお菓子はよくいただいていたのですが、そのハイチュウのことは特別に覚えています。私はイチゴ味、弟はブドウ味でした。
私は自分の分を少し食べてから、弟のブドウ味のキャンディといくつか交換しようと考えました。姿の見えなくなった弟を探して家の中を見て回りました。
弟は縁側にいました。縁側の床の上に座って、おはじきでもするかのようにもらったキャンディを一粒ずつバラして置いていました。その数は半分ほどなくなっていました。
さっきもらったばかりなのに、もうそんなに食べてしまったのかと聞くと、「あげた」と言うのです。
誰にあげたのかと聞くと、縁側の奥の方を指さしました。そこは雨戸をしまう戸袋がある場所で、行き止まりになっていました。奥まっていて、少し暗い場所でした。
その時点で何だか嫌な予感はしたのですが、誰にあげたの?ともう一度聞いてみると、弟は私の手を引いて行き止まりの方へと連れていき、床の一点を指さしました。
そこには小さな穴が空いていました。
“節”の部分が抜けているようでした。祖父母の家はかなり古く、山から切ってきた大きな松を使って大工さんに建ててもらったのだそうで、このような自然のままの節が柱や天井のあちこちに見られました。
それも一つの趣なのでしょうが、子どもの頃の私は少しだけ怖いと感じることがありました。節が集まっている場所を見ると、それが顔のように見える気がしたのです(シミュラクラ現象と言うそうです)。
弟が指さす、その小さな穴の向こうに何があるのか。怖さを感じつつも、覗き込んでみました。すると縁側の床下に、キャンディの銀色の包み紙が5枚ほど散らばっているのが見えました。
最初は意味がわからなかったのですが、合理的に考えるなら弟がキャンディを食べて、その包み紙を穴の中へと捨てたということになるのでしょう。そう結論付けた私は、こんなところにゴミを捨てたらダメと弟に言いました。
しかし、弟は捨てていないと言い張りました。縁側に来たところで「菓子くれ」と誰かに言われ、持っていたキャンディを穴の中に入れてあげたと言うのです。理解が及ぶにつれて、私はだんだんと恐ろしく思えてきました。
質の悪いイタズラだと思いたかったのですが、弟はまだそんな悪知恵が働くような歳ではありませんでした。疑いの目を向ける私に、食べていない、あげたのだと必死に訴えかけてくる様子を見てそれが嘘とはとても思えませんでした。
信じられなかったのですが、それ以上にこの話を切り上げたい気持ちの方が勝り、弟の主張を認めたふりをしました。ついでに私が持っていたキャンディをあげて黙らせました。
弟が聞いた声の主は誰だったのでしょうか。それは本当に床下にいて、器用に包み紙の中身を食べてどこかへ去って行ったのでしょうか。
それから何年も経ってから弟にあの日のことを聞いてみました。弟もそのことはよく覚えているようでした。私に対するイタズラでも何でもなく、本当に声が聞こえたのだそうです。そんなハロウィンのお化けみたいな奴がいるんだなと言って笑っていました。