怪談廿物語 作:tagari
お盆の時期になると思い出す話が一つある。いわゆる怪談、と呼べるほど大層な話ではないのだが、私にとっては不思議な体験だった。
ある夏の盛りのこと、実家に帰省した私は掃除道具を積んだ車を走らせて墓地へと向かっていた。故郷から離れて暮らしている身としては、盆の時くらい墓掃除でもして孝行するかと毎年やっていることだった。
我が家の墓は少し離れた山中にある。山道を車で走っていると眼下には裾野の先に海が広がっていた。見慣れた故郷の光景だと気にもしていなかった。
その途中、森へと入るカーブに差し掛かった時のことだ。ちらりと視界の端に白い何かが見えた。
遠くの海に何か見える。それは入り江に設置された消波ブロックだった。テトラポッドと言った方がわかりやすいだろうか。やけに新しく白い構造物が、夏の日差しを受けて輝いているように見えた。
特に気にするようなものではない。その時はスピードを緩めることもなく目的地へ向かって走った。しかし、次第に疑問が沸々とわいてくる。
去年はあんな場所に消波ブロックなんてあっただろうか。そのあたりの海岸沿いは道路が通っているくらいで他に何もなかったはずだ。
もちろん、新しく設置された可能性はあるし、そもそも私が気づいていなかっただけで昔からあったのかもしれない。だからどうしたという程度のことである。墓に到着した私は予定通り掃除を始めた。
掃除と言っても普段から家の人間が管理しているので荒れてはいない。落ち葉などを片付けて、供花の水を換え、線香を焚いてお参りするくらいのものだ。少し雑草が生えていたところがあったので藪蚊と格闘しながらむしったりもした。
だが、私はその最中もどこか上の空だった。自分でもわからないが、どうしてか気になるのだ。墓参りの帰り道、私はそのことばかり考えていた。
森を抜けてカーブに差し掛かる。とろとろと車の速度を落とした。人通りのない農道である。誰に迷惑をかけるわけでもない。やがて車を徐行させ、静かに路肩に停めた。
クーラーの効いた車内から出る。私はガードレールから身を乗り出すようにして海岸を眺めた。どこを探しても消波ブロックなんてものは見当たらなかった。
船か何かと見間違えたのだろうか。しかし、そんな大きな船が通りかかるような場所ではない。見間違いなのだとしたら他に何があるというのか。
確かに白く巨大な何かの集合体が海中に長く横たわっていた。いくら考えてもその正体に思い当たることはない。
それは霊感とはまるっきり縁のない人生を送ってきた私にとって新鮮な体験だった。それを見たからと言って何か悪いことが起きたということもなく、特に怖い話でもないのだが。
案外、そうした体験というものは気づかないだけで身近に転がっているのかもしれない。