怪談廿物語 作:tagari
五年ほど前の話になります。当時、私には五歳になる娘がいました。日中は保育園に預けて、私はスーパーでパートとして働いていました。
その日は午前中しかシフトが入っていなかったのですが、同僚が来られなくなったらしく穴埋めのために呼び止められました。そんな日に限って体調がすぐれない。
朝から首や肩にかけて筋肉が強張る感じが続き、それが仕事中ずっと取れずにいました。前日まで何の異常もなく、不養生をした心当たりもありません。
何とか仕事を終えて帰宅した頃にはもうくたくたで。しばらく横になって寝てしまいました。
気がつけば夕方。娘を迎えに行く時間が迫っており、慌てて保育園に向かいました。幸いにして保育園は歩いて十分ほどの近場にあり、いつも徒歩で送迎していました。
季節は秋。日が暮れる時間も速く、夕日は背中側から照り付けてきます。娘と手を繋いで歩いていると、前の地面に長い影ができていました。
「おかあさん、寝ぐせー!」
娘が影を指さしながら言いました。目をやると、確かに私の影の頭の部分から、ぴょこんと髪が飛び跳ねていました。
起き抜けに家を出たものですから身だしなみをしっかり整えたか記憶がなくて、こんな状態で外を出歩いていたのかと思うと恥ずかしくなりました。
最悪な一日だと思いましたが、娘の前で落ち込むわけにもいかず、笑ってごまかしながら寝癖を直そうとしました。
しかし、急いで髪を撫でつけたのですが、なかなか元に戻らない。というか、おかしいんです。髪が跳ねた部分に手を押し当てても、影の形が変わらない。擦り抜けるというか、当たっていないというか。手のひらから伝わる感触も、別に寝癖がついているようには感じない。
この頭から出ているものは何なのか。髪の毛ではないのだとしたら、何が映り込んでいるのか。
その影はまるで生きているかのように動き始めました。ひょろひょろと細長く、私の頭頂部から真上に向かって一直線に伸びていきました。傍にあった電柱の影よりも高く伸びあがる。その形を見た時、私の中にぞっとするようなイメージが走って。
恐ろしくてそれ以上、見続けることはできませんでした。道を変えましたよ。なるべく影を見ないように、太陽に背を向けないように。娘がいたからその場は何とか冷静でいられましたが、一人だったらもっと取り乱していたでしょう。
それからしばらくして、私がシフトをカバーした職場の同僚がその日、亡くなっていたことがわかりました。
首吊り自殺だったそうです。