『死喰い人』? 名前からしてどう考えても喰種だろ   作:kkk

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杖を振るだけで化学反応の結果が変わるわけないだろ

ホグワーツでの初日を終え、俺、有馬 蒼はスリザリンの談話室――という名の、エリート部隊(非正規の可能性あり)の作戦司令室――の自室で目を覚ました。ベッドのスプリングがやけに軋むが、CCGの施設だと思えばどうということはない。過酷な環境への適応能力も、捜査官には必須のスキルだ。

 

本日から、いよいよ本格的な座学と実技訓練が始まる。時間割によると、最初の授業は「魔法薬学」。グリフィンドールとの合同授業らしい。

 

(魔法薬学……。おそらく、クインケの素材となる赫包の分析や、対喰種用の毒物・薬品の調合に関する学問だろう。合同授業ということは、実戦部隊とエリート部隊の連携訓練も兼ねているのかもしれない。合理的だ)

 

俺は寸分の隙なく制服を着こなし、クインケ(傘)を片手に地下牢へと向かった。教室が地下にあると聞いた時、俺は深く頷いた。赫包などの生体サンプルは、温度と湿度が管理された低温環境で保管するのが鉄則だ。このアカデミーは、施設の立地からして基本がしっかりしている。

 

地下牢の廊下は、ひんやりと湿った空気が漂い、壁からは水滴が滴り落ちていた。他の生徒たちは寒そうに身を縮めているが、俺にとっては慣れたものだ。CCGの解剖室や、喰種の捕獲施設も、大体こんな感じである。

教室に入ると、壁際に無数のガラス瓶が並んでいるのが目に入った。中には、動物の標本らしきものや、粘液質の何かが液体に浸かって浮かんでいる。

 

(ほう。貴重なサンプルが惜しげもなく展示されているな。あれは鱗赫(りんかく)の粘膜組織か?こっちは尾赫(びかく)の先端部……なるほど、教材は充実しているようだ)

 

俺が興味深くサンプルを観察していると、グリフィンドールの連中――ハリー、ロン、ハーマイオニー――が入ってきた。俺の姿を認めると、一瞬ぎこちない空気になる。特にロンは、昨日の汽車での「武装だ」発言がまだ尾を引いているのか、若干引いているように見えた。

 

俺は彼らを意に介さず、空いている席に座り、教科書とノート、そして羽根ペンを完璧な角度で机に配置した。もちろん、クインケ(傘)はいつでも手に取れるよう、椅子の横に立てかける。捜査官たるもの、いついかなる時でも武装を解いてはならない。

 

やがて、教室の扉が、バタン!と大きな音を立てて閉まった。

全員の視線が扉に集まる。そこに立っていたのは、油っこい黒髪を肩まで伸ばし、鷲鼻をした、顔色の悪い男だった。全身を黒いローブに包み、その様はまるで巨大なコウモリのようだ。

男は音もなく教室を横切り、教壇に立つと、ねっとりとした声で話し始めた。

 

「諸君は、魔法薬学――難解な科学にして厳密な芸術を、これから学ぶことになる」

 

男の声は、囁くように静かでありながら、教室の隅々まで響き渡った。

 

「ここでは、ふざけた杖の振り回しや、馬鹿げた呪文は一切ない。したがって、諸君の中の多くが、これが魔法であると信じることはあるまい」

 

(ほう、話のわかる男だ。この男も、杖や呪文といった非科学的なものを信用していないらしい。おそらく、俺と同じ実用主義者。CCGの研究部門にいそうなタイプだ)

 

男――セブルス・スネイプと名乗った――は、生徒たちを蛇のような目でねめつけながら続けた。

 

「だが、諸君の中から選ばれた者には――類稀なる素質を持つ者には、心を惑わし、感覚を欺く術を教えよう。名声を瓶に詰め、栄光を醸造し、死にさえ栓をすることができる……そんな術を」

 

(心を惑わし、感覚を欺く……尋問に使う自白剤か。名声を瓶に詰め、栄光を醸造……おそらく、身体能力を一時的に向上させるドーピング剤のことだろう。死にさえ栓をする……蘇生薬か?いや、それは非科学的だ。仮死状態にする薬と考えるのが妥当か。いずれにせよ、この男、CCGの中でもかなりきわどい研究に手を染めているな)

 

スネイプの演説は、他の生徒たちを恐怖させるには十分だったようだが、俺には「ちょっとクセの強いベテラン研究員による、新入生向けのオリエンテーション」にしか聞こえなかった。

 

一通り脅しが終わると、スネイプは生徒名簿を読み上げ始めた。そして、「ハリー・ポッター」の名前にたどり着くと、意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「ああ、ハリー・ポッター。我々の新しい有名人だ」

 

彼はハリーをじろりと睨みつけ、最初の質問を投げかけた。

 

「ポッター。水仙の根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると、何になる?」

 

ハリーは狼狽し、口ごもる。隣でハーマイオニーが必死に手を挙げているが、スネイプはそれを無視した。

 

(水仙の根とニガヨモギ……。どちらもアルカロイド系の毒性植物だ。組み合わせることで、強力な神経毒、おそらくは麻痺薬が生成される。喰種を生け捕りにする際に使用する、古典的な捕獲薬が何かだろうな)

 

俺が内心で即答していると、スネイプは次の質問を浴びせた。

 

「では聞こう。ベゾアール石は、どこで手に入る?」

 

(ベゾアール石。動物の消化器官内で生成される結石で、古くから解毒剤として知られている。常識だろう。こんなことを「有名人」のポッターに聞くとは、さては彼の知識レベルを試しているな。CCGは実力主義。有名だろうが何だろうが、使えなければ意味がないというわけか。厳しい世界だ)

 

ハリーが答えられないのを確認すると、スネイプは侮蔑するように鼻を鳴らし、ハーマイオニーの答えを聞くこともなく、グリフィンドールから一点を減点した。理不尽極まりないが、これもエリート部隊であるスリザリンを優遇し、実戦部隊のグリフィンドールにプレッシャーを与えるための、高度な心理的作戦なのだろう。

 

座学が終わると、実技訓練に移った。

 

「今日は、おできを治す薬を調合してもらう」

 

スネイプが黒板に指示を書き出す。

 

『一、乾燥イラクサを乳鉢ですり潰す』

『二、蛇の牙を二本、乳鉢で粉々にする』

『三、鍋にナメクジ四匹と牙の粉末を入れる』

『四、時計回りに七回かき混ぜる』

『五、杖をひと振りする』

 

……など、いくつかの工程が記されていた。

 

生徒たちは一斉に材料棚へ向かい、大鍋の準備を始める。教室は、材料を刻む音や、鍋が煮える音で騒がしくなった。特にグリフィンドールのネビルという少年は、開始早々、鍋を溶かして床を泡だらけにしていた。

 

(全く、どこの部隊にもああいうドジはいるものだ)

 

俺は冷静に彼らを観察しつつ、自分の作業台に向かった。

 

まず、指示をもう一度、じっくりと読み返す。

 

(乾燥イラクサは、皮膚の炎症を抑える効果がある。蛇の牙は、主成分が炭酸カルシウム。触媒として機能するのだろう。角ありナメクジは、タンパク質豊富な粘液が、全体の結合剤となる。理にかなった調合だ。……だが、なんだこの後半の指示は)

 

『時計回りに七回』『杖をひと振り』。

 

意味が分からない。全くもって非科学的だ。

 

(かき混ぜる方向や回数で、化学反応の結果が変わるはずがない。遠心力に多少の変化はあるかもしれんが、この程度の鍋では誤差の範囲だ。そして、『杖をひと振り』……?なんだそれは。気合注入か何かの儀式か?このアカデミーは時々、精神論やオカルトに傾倒する悪癖があるな)

 

俺は、CCGの捜査官として、この非効率的なレシピを最適化する必要があると感じた。 まず、乾燥イラクサと蛇の牙を乳鉢に入れる。ここまではいい。問題は、蛇の牙の粉砕方法だ。乳棒で叩き潰すなど、あまりにも原始的すぎる。粒子が不均一になり、反応ムラを引き起こす原因になる。

 

俺は、すっ、と椅子の横に立てかけていたクインケ(傘)を手に取った。

そして、その先端――石突きの部分で、乳鉢の中の蛇の牙を突いた。

 

カカカカッ!

 

常人には聞き取れないほどの、高速の連撃。傘の先端が、まるでミシンのように上下に動き、乳鉢の底で火花を散らす。

周囲で作業していたマルフォイが、その異様な光景に「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。

 

数秒後。 乳鉢の中には、もはや牙の原型はなかった。そこにあるのは、まるで埃のように細かく、完全に均一な、純白のパウダーだけだった。

 

「よし。完璧なマイクロ粉末化だ」

 

俺は満足げに頷くと、次にナメクジを鍋に入れ、先ほどの粉末を投入した。

 

次の問題は、攪拌(かくはん)だ。

『時計回りに七回』などという、おままごとのような指示は無視する。重要なのは、鍋の底で対流を発生させ、材料を均一に混合し、温度を一定に保つことだ。

俺は再びクインケ(傘)を手に取ると、その先端を鍋に差し込んだ。そして、手首のスナップを利かせ、傘を高速で回転させる。

 

ギュルルルルルン!

 

鍋の中身が、凄まじい勢いで渦を巻いた。遠心力で液体が鍋の壁に張り付き、中央には深い窪みができている。まるで小型の竜巻だ。

 

「この遠心攪拌なら、分子レベルでの混合が可能になる」

 

俺は真顔で呟きながら、鍋の火加減を絶妙に調節する。

 

そして、最後の工程『杖をひと振り』。

 

「不要だ」

 

俺はそう断じ、鍋を火から下ろした。

 

全ての工程を、指示された時間の半分以下で終えた。

俺の鍋の中では、美しいターコイズブルーの液体が、静かに湯気を立てていた。不純物は一切なく、表面は鏡のように滑らかだ。教科書に載っていた「完璧な調合例」の写真と寸分違わない、いや、それ以上の出来栄えだった。

 

その時だった。

 

「……有馬」

 

背後から、地を這うような低い声がした。スネイプだ。彼は教室中を練り歩き、生徒たちの失敗を罵倒していたが、いつの間にか俺の後ろに立っていた。

 

「貴様、指示に従っていなかったな。杖を振るのを怠ったのを、この目で確かに見たぞ」

 

スネイプは、獲物を見つけた蛇のように、俺の鍋を覗き込んだ。そして――固まった。

 

彼の黒い瞳が、信じられないものを見るかのように、わずかに見開かれる。完璧なターコイズブルー。均一な粘度。不純物のない輝き。

それは、教科書を編纂した大家でさえ、滅多に成功できないと言われるほどの、完璧な「おでき治し薬」だった。しかも、杖を一切使わずに、だ。

 

教室中の生徒たちが、固唾をのんで成り行きを見守っている。ハリーとロンは「あいつ、死んだな」という顔をしている。マルフォイでさえ、青ざめた顔でこちらを見ていた。

 

長い、長い沈黙の後。スネイプが、ようやく口を開いた。

 

「……説明しろ、有馬。なぜ、指示を無視した。なぜ、杖を使わなかった」

 

その声には、怒りよりも純粋な困惑の色が滲んでいた。

 

俺は椅子に座ったまま、ゆっくりと顔を上げて、目の前のベテラン研究員に答えた。

 

「指示が、非効率的だったからです」

 

「……なに?」

 

「記載されていた手順は、化学的見地から見て、あまりにも非論理的で、人的ミスの発生を誘発しやすいものでした。よって、私は化学反応の基本原則に基づき、工程を最適化したまでです」

 

俺は淡々と、事実だけを告げる。

 

「特に『杖をひと振り』という工程は、全くの無意味です。おそらく、火加減の調節ができない未熟な生徒に、攪拌を促すための気休め(プラシーボ)でしょう。不要な手順と判断し、省略しました」

 

教室が、死んだように静まり返った。

生徒全員が、この世の終わりでも見るような顔で俺とスネイプを交互に見ている。

スネイプは、口を半開きにしたまま、完全に絶句していた。これまで、彼の授業で、彼のやり方に、真正面から「非効率的だ」と言い放った生徒など、一人もいなかったのだろう。

しかも、その結果として、目の前には神業のような完璧な薬が存在している。反論のしようがない。

 

スネイプは、俺の顔と、鍋の中身を、二、三度見比べた。その顔には「信じられない」「ありえない」「だが事実はここにある」「こいつは何者だ」といった感情が、嵐のように渦巻いていた。

 

やがて、彼は震える声で、こう絞り出した。

 

「……グリフィンドール、呼吸がうるさい。マイナス五点」

 

理不尽の極みである。

 

「……そして、スリザリンに……完璧な結果を出したことに対し……十点を与える」

 

その言葉は、まるで砂でも噛むような、苦々しい響きだった。

 

スネイプはそれだけ言うと、コウモリのようにローブを翻し、足早に教壇へと戻っていった。

その背中は、明らかに動揺していた。

 

俺は、そんな教室の空気を全く意に介さず、完璧な手際で作業台の片付けを始めた。

 

(ふむ。このアカデミーの実技訓練は、旧態依然とした精神論が根強いようだ。俺が、CCGの最新科学に基づいた効率的な手法を、これから彼らに教えていかねばなるまい)

 

白髪の転生者は、自分が魔法界の常識を根底から覆す、とんでもない爆弾発言をしたことにも気づかず、静かにそう決意するのであった。

 

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