緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§1.さすがだな、アン (Towards 189)

駅舎跡は、カフェになっていた。

 

しかし二人が入ってみると、ひと気が無い。臨時休業のお知らせも見当たらず、男はがっかりしながらトイレへと向かう。

子供は外に出て、赤土の感触を確かめていた。

男は戻ってきて、手を洗うように言いつける。

子供、従う。

 

男、しばし観光案内板を眺める。子供がホールへ戻ってきたので、隅の丸テーブルに着座する。

子供は男の対面ではなく、同じように街道を見渡せる向きに椅子を動かし、座った。

 

男「不自然じゃないかね。いいよ、見張りは僕の役目だ」

 

子供「背中をさらしたくないんだよ。カスバートさんが来たら、こっち側に動かすから」

 

男「おい、初手から襲撃する構えなんかとっていると、商談は円滑に進まなくなるよ。

ずっとそんな目つきをしている気か?」

 

子供「まさか。警戒されちゃ元も子もないだろ。できるだけお上品にとりすまして、気に入られるように努めるって」

 

男「すぐボロが出るさ。

嘘をつくなら一点限りにしておけ。それ以外はなるべく自然体でいろ。信用のおけない者は、決して気に入られたりしないものだ」

 

子供「ヒュウ。さすがはプロだ。含蓄あるねえ。

ところでさ、外の赤土。血の匂いがしたよ。

この島、相当やばいんじゃないかい?」

 

男「鉄分が豊富なせいだ。血が赤いのも鉄のおかげだからな。

ところで、やばいってどういうつもりだ。

なにをたくらんだ?」

 

子供「ここに住み始めると、おれの赤毛がますます濃くなるんじゃないかって、それを心配したんだよ。

あんたこそ、何を想像したんだ」

 

男「そうか。失礼した。……悪かったよ。そう睨まないでくれ」

 

子供「ククッ。ああ、そうだ。車の中でしてた話、もう一度いいかな。

スコーシアとエイジャ、カトリックとプロ……なんとか。

どっちがどっちだっけ」

 

男「プレスビテリアン。スコーシアの国教だ。

この二つだけ、新教だと一括りにして覚えたまえ。

君がこれから行くアルバリーはスコーシアからの移民だけが何世代も暮らしてきた地域で、独特の生活習慣を根付かせている。連帯感も強いと思われる。

州都シャーロットの本部から牧師が派遣されているんだが、役場・学校・郵便局までが実質その支配下にあって、州警察や知事の権限が及ばないみたいだね。

電力不足に悩む過疎の村、というイメージでしか見ていなかったけど、そうなるに至った背景がこれで理解しやすくなるんじゃないかな」

 

子供「外野は説明すりゃ終わりだから他人事でいいねえ。

おれ、今からその村へ行って住むんだけど」

 

男「クリスマスまでは、おとなしくしていてほしいね。噂の真相をたしかめたい。

これから半年間生活した君が証言してくれるなら、とても価値のつくレポートを作ることができると思うよ」

 

子供「いま6月。7、8、9、10、11、12。……7ヶ月も先じゃん。長くね?

ま、ほとぼり冷ますにゃそのくらい必要か。

今の話が本当なら、州警察もドミニオンだって、ここまで追ってきそうにない。

村で一番いばってる牧師に気に入られさえすれば、安泰に過ごせるってことだ。

合ってる?」

 

男「言い草はひどいけれど、見事に正解していると思うよ。さすがだな、アン。

そこでだ、どうやら郵便局を経由して通信することが、アルバリーでは生命線でもあるが、プレスビテリアンの監視を免れない実態がわかったので、早々に安全な連絡体制を構築するよ。

このカフェでその手口が得られればと期待してたんだが、肩透かしだった。

やれやれ、田舎者は時間にも責任にもルーズで困る」

 

子供「この店を指定したのってカスバートさんだろ?

カスバートさんも田舎者だから、もう時間だけど、なかなか現れないね。

どうする?直接アルバリーまで乗り込むかい?」

 

男「あと10分だけ待とう。

もともとカスバート邸まで行くつもりだったんだが、村ぐるみで排外的だとわかった以上は、あまり目立つ車で走り回りたくない。

なにせ知ったのが今朝だからね。そこだけは計算ミスをしたな」

 

子供「宗教にゃ詳しくないから、あらためて訊くけどさ。

あんたも新教だって言ってたっけ。でもスコーシアとは違うんだよね。

仲はいいの?悪いの?」

 

男「僕はねえ……生まれたときからアングリカンなんだが、街に住んでいるから宗派意識は希薄だよ。どうでもいいとさえ思ってる。

アングリカンは、新教扱いにされることが多いけど、体質は古臭い。だいたいカトリックと喧嘩別れしたわけじゃないし、新旧どちらともすぐ妥協するんだ。新しさを謳うほど過激なこともやらないし、やれない。

孤高を貫くプレスビテリアンにとっては、味方でもなんでもないね。だから仲は悪い。相手にされてな

 

ここで、駅舎の外に泥だらけのトラックが停まった。

ひとりの老夫が降りてきて、おどおどしながら屋内をチラ見する。

奥に二人の姿を見て、目をそらした。

 

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