緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§100.ジョイスちょっぴり顔を出す (Towards 90)

たとえば蝶を飼育して、観察日記をつけるとする。

孵化して動き回り、もりもり食事して日毎に大きくなり、脱皮を繰り返して成長していく幼虫の時期は、書くことがいっぱいある。見ていて飽きない。

終齢期を経て、いよいよ蛹になる。

さて、ここだ。

表面上、動きが無くなる。日記は止まる。外から見てるだけであればね。

 

受験期を迎えた子供たちの姿に、ちょっと似ている。

こんなの人為的なシーズニングだし、文明社会で生きてたって受験とか就活など端から経験しない個体もいるよ。

でも。

この物語の主人公たちは、まるで蛹化したかのように動かなくなった。

 

観察者としては、さて今月は何を報告して原稿料をいただこうかと思案に暮れるところである。

この先どうなるかを知っている者ならば、幼虫から成虫へ、あんな似ても似つかない変身を遂げるのだから、繭の中で寸暇を惜しんでとんでもない化学変化が連続していることを理解し、たっぷりと想像をくゆらせることができよう。

そこに注目するならば、この年の春から夏にかけてを何百ページにもわたって描写することだって不可能ではないのだ。

そんな小説も存在する。

『フィネガンズ・ウェイク』

あらすじを書けば、これだけなのに。

だがしかし、あんなのこの世に一作あればじゅうぶんだろう。先輩は孤高のオンリーワンでいてください。

 

受験組はドビンズ先生の授業を必要としなかったし、そもそも両者間に対話が成立しなかったから、自然と距離が保たれた。

クイズの練習は学校でなくともできるけれど、自室で黙々と、というのは案外捗らないものだ。

図書館なども活用されたが、挑戦者たちが各自で掴んだノウハウを持ち寄り、集合知でより大きな力を得ていくには学校が最も手頃なフォーラムであった。だから割とみんなマメに登校して、日中は教室にいた。

表面上、何の変哲もない学園生活が粛々と続けられていたわけである。

だよなあ。

やっぱり、特に書くことが見つけられない。

アンとダイアナは家も近かったし、どこでもおしゃべりをした。

9月以降の州都生活について双方に様々な計画はあったが、一定以上の詳細を詰めるのは、やはり住み始めてからだろう。

ちなみにダイアナは合格ラインどころか満点で首席入学を狙っているレヴェルだから、落ちた場合を検討すらしなかった。

ギルバートも、メンタルさえ安定していれば満点を狙えるだろうという。

 

ダイアナ「合格発表までは、あたしが彼の面倒をみるけど。……アン、ギルのことをどう思ってる?」

 

アン「は?

どういう意味かな。はっきり言ってくれないか。

クイズのように、明瞭にだ」

 

ダイアナ「そうよね。

ギルは、アンのことを好きなのよ。本気でつきあいたいと言ってる。

だから、もらってくれる?」

 

アン「おいおいおい。

男の本気なんて信用できるか。どっちが先に飽きたんだよ。そこを訊いときたいな」

 

ダイアナ「ありのままを話すわ。

あたしたちがつきあう前から、というよりアンが小学校へ来始めたときから、ギルはずっとあなたに惚れていたの。

フィリップス先生を森でしばきあげた日のこと、覚えてる?」

 

アン「……2年前、みんなで詩篇34を合唱しながら汗を流した、あれか。覚えてるよ」

 

ダイアナ「あのときアンはギルに、フィリップスの頭を押さえつけておくように頼んだんだって。記憶にある?」

 

アン「あるような、ないような。……それで?」

 

ダイアナ「ギルはハリファクスから戻ってきて、1年間自宅でリハビリして、やっと復学したところだったの。家族からも、学校でも気を遣われどうしで、そっちの方がつらかったときに、アンはギルをまったく特別扱いせず、目的と適性だけを基準に命令した。あの衝撃が今も忘れられないんだって」

 

アン「へえ。いや、その程度で惚れたって言われてもな。チョロすぎないか」

 

ダイアナ「もちろんその前後含めてずっと見ていて、アンのブレなさに強く惹かれてやまない、ということよ。

ごめんね。今初めて言ったけど、あたしギルから何度聞かされたかしれない」

 

アン「なにやってんだ、おまえたち。……ああ、それで、別れることにしたから飼ってやってくれと。

断るに決まってんだろ。

舐めんな」

 

ダイアナ「そう言うだろうなって思ってた通りだわ。

ギルはあたしよりアンのことをよくわかってるかもしれない。忠実なしもべとして、ギルをただのペットとして扱うのだったらどう?

アンがこれからどんな仕事を始めるにしても、ギルほど使える男って、そうそう手に入らないと思うんだけど」

 

アン「そこにそんな面倒臭い感情持ちこんじまったら何もかも破綻する。聞いてて、ますますノーだ。

ダイは新しい恋を始めるんだろ?そっちは応援してやる。

ギルバートは勝手にしやがれ。

それでいいじゃないか。おれなんて巻きこむな」

 

ダイアナ「わかった。ここからはギルバート抜きであたしから訊いておきたいんだけど、アンってまだ処女だよね?

まったく恋愛に興味ないの?

もし好きなタイプがいるんだったら、どんな相手とならうまくやっていけそうだって思ってるのかしら」

 

アン「興味なくは、ないよ。真剣に答えるなら、普通に恋人は欲しいと思ってる。もちろん男でだ。

ただ惚れるほどの相手ってのが、まだ想像もつかない。

共通の話題があって、相手がやりたいことを邪魔しない。それだけ守れればいいんじゃないか、くらいしか望んでないかな。

いい男がいれば、紹介してくれ」

 

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