クイーンズ・カレッジは200年ほどの歴史を持つが、名門というほどではない。
ダイアナならば、プリンス・エドワード総合大学だって狙えただろう。もっと上を目指すべきだと助言してくれる大人は少なからずいたし、なぜクイーンズなのかという質問だって頻繁に受けた。
なぜクイーンズを受験しましたか、か。そんなクイズが入試で出てきたら、楽しいだろうな。
ついでに、大学が用意している模範解答も聞いてみたい。
せっかくだから考えてみよう。なぜ、よりランクの高い学校へ進むべきなのか?
ペリー牧師「そりゃあ、より良い職に就くためさ。
一流大学を卒業したなんて箔が付けば、大企業から引く手あまただ。実際、頭もいいんだろうから、その能力をぜひ社会のため存分に活かしてもらいたい。
経済的な理由で進学できないとか、移民なので住民票を持っていないのだとか言うならやむを得まいが、チャンスがあるならなぜわざわざ低い方に?そっちの根拠がわからないよ」
なるほど、烏合の衆はそう考えるか。
この人の意見のうち、主語が自分自身であったのは最後の「わからない」だけだ。他のすべても、具体的な誰かをイメージして語った言葉ではない。
説教するつもりだったにしても、もっと中身のあることを言え。
ドビンズ教師「オレには、あいつらの考えていることがさっぱりわからない。ただ、オレなんかよりずっと頭のいい連中だ。顔を合わせればクイズ合戦。勉強するのが心底楽しいみたいだな。
そんなやつらが、勉強するのが目的で、しかも楽しんで勉強するためにプリンスよりもクイーンズを選んだというのなら、世間のランキングとは違った基準で点数をつけているということなんじゃあないか。
それ以上は、オレにはわからんよ。本人たちに訊いてくれ」
ほう。こっちの人は、自分の目で観察した姿を根拠として考える試みをしている。あきらめたのも、いさぎよかろう。いいぞいいぞ。
では、ぼちぼち本人に尋ねてみるか。
ダイアナ「アンに言われたからだよ。ひっどいなあ。覚えてないの?」
アン「さっぱり。クイーンズにしろよなんて言ったか?おれ」
ダイアナ「苦学してプリンスに入っても、そこから先、トップはとれない。ついていくのでせいいっぱい。自己否定感ばかり募る。
そんなダウナーが卒業証書握りしめて職探しなんかしたら、汚い大人たちの餌食になるだけだぞ。
って言ったの。覚えてない?」
アン「やっぱり覚えてない。でも確かにおれなら言いそうだ。それで?」
ダイアナ「毎年大量生産される卒業生の誰でもいいから雇いたい、なんて企業がいたら、そこの製品買うのも御免だ。
大学へ行かせるほど実家が金持ちなら前科持ちの可能性は低いだろうくらいの判断材料にはなるとしても、うちの仕事をまかせられるかどうかの決め手にするのはそこじゃない。
とかさあ、いろいろ」
アン「なんか思いつくまま、だらだらそんなこと喋ってた気はするんだけど、いちいち覚えてるダイも凄いな。クイズに強いわけだよ」
ダイアナ「沿海州で入れそうな大学を、ひとつひとつ見て回ったのね。
その中で、クイーンズが、なんだかあたしの求めてる雰囲気にマッチしてたの」
アン「そこ一番重要じゃない?
ミシュランの星がいくつ付いてようが、入るのに緊張を強いられる店で食事が楽しめるわけもないし、有名になったせいで経営者やスタッフが調子に乗り始めたら客の品位だって落ちていくんだぜ」
ダイアナ「それも、今のまま、まったく同じことをアンはあたしに言ったよ」
アン「へえ?ああ、そう。
まあ思考回路は常におれなんでな。そりゃ、言ったかも」
ダイアナ「クイーンズなら、あたしは首席合格を狙えるかも。それは快挙だわ。2年間の学園生活がどれだけ楽しくなるでしょう。
仮に就職するとしても、プリンスのどんじりより、クイーンズのトップを欲しがる企業の方が健全だわ。
そんな風に考えるようになったのよ。それは、あたしが決めたことだけど」
アン「いま気になった点がある。卒業後はどうするつもりなんだ?
仮に就職するとしても、ってことはひとまず就職するつもりがないことを前提にしてるのか?」
ダイアナ「食いついてくれたわね。
アンだったら、あたしがどうしたいかなんてわかってるんじゃなくて?
答えてみてよ」
アン「そこまで考えてそうにも見えないんだけどな。
16歳で卒業する頃には男もさんざん食い飽きてることだろうし、まだ結婚もしないだろう。
起業でもしたいのか。
でも具体的なプランはこれから、てとこじゃないか?」
ダイアナ「アン次第かもしれなくてよ。
アンこそ、これからの2年間でいろんな経験値を稼ぐでしょう。あたしよりもずっとずっと濃い経験を。
共通の友達がたくさん増えていたら素敵ね。アイドル・ワイルドみたいなチームを新しくつくって、なにか大きなことをしましょうよ。
そんなたくらみを、抱いてます」
アン「そりゃ結構。今の時点で詳細を詰めておけるわけもないか。
わかった、心に留めておく。
せいぜい交友関係を広げておいてくれ。友達つくるのはなあ、おれにはどうも苦手なんでな」
ダイアナ「考えてみると不思議よね。あたしたち、性格も得意分野もぜんぜん不揃いなのに、同い齢で家が隣っていうだけで、ここまで仲良くなれちゃうんだから」