シャーロットでは、大学合格者の氏名が新聞にズラリと載る。
いまどき、こんなローカルメディアがあるだろうか。
そりゃ昔は部数を稼げる定期イヴェントだったろう。
新聞は、優秀な人たちが知恵をふりしぼって社会貢献のためにつくっている媒体だ。そう大勢の田舎者が漠然と信じて憧れていた、そんな時代の名残りである。
今は有象無象の商売人を惹きつける材料にされるだけだから迷惑がる人の方が多い。
新聞社側はもっと単純な理由で、購読者数の増加に結びつかないから載せなくなった。そんなスペースがあるなら広告入れなきゃだよな。
でもまだアビグウェイトでは続けられているのだ。
州都ですら、連邦内ではインナーシティ扱いだから、大企業は広告なんて出してくれない。
記者は取材費ももらえないのに原稿を書かなきゃならない。
こうして無味乾燥な人名の羅列が紙面を埋める。
文才も求められないから、定期的にありつけるボーナスだと思おう。
伝統が廃れないわけだ。
名実共に田舎者ばかりが暮らすアルバリーでは、たいへん珍しいできごとだったから、郵便局長のマクニール氏がその日の新聞を大量に買ってきた。
よく売れた。村の小学校から、高校をすっとばしていきなりクイーンズ・カレッジへ進学する生徒が7名も誕生したのだから、そりゃ驚きだ。
筆頭はダイアナ・バーリー14歳。
幼いときから才色兼備で人気者だった。一時期、今は亡きトーマス・ソーヤーの許婚者だったこともある。
歴代の先生たちからかわいがられたが、今も讃否両論わかれるミス・ステイシーの影響で受験と恋に目覚めたらしい。
ダイアナは両方を手に入れた。
ちなみにボーイフレンドは村有数のりんご農園で知られるブライス家の息子。見た目はハンサムなのだが精神に闇を抱えていて、実の両親や弟妹たちでさえ近寄りがたい憂いを漂わせていた。
ダイアナとつきあい始めてから一年半ほど経つ。回復は順調なようで、このカップルを祝福する村人はけっこう多い。
とうとうこの秋から、二人揃って大学生だ。
そりゃ格好の話題にもなるさ。
ダイアナ「あーあ、トップとりたかったなあ。あんたたちのせいだからね」
アン「見苦しいぞ。とはいえ200人中5位だろ?さすがだよ。
上には上がいるんだなあ、って新たな挑戦ができるじゃないか」
クラリス「そうですよ。チャンピオンなんかになってしまうと、常に下を見て追い落とされる恐怖と戦わなくちゃならないの。いいことないわよ、ひとつも」
ダイアナ「おばあさまに言われると、ぐうの音も出ないわ。
でもねえ、一度きりなんだし、トップを味わってみたかったわよ。末永く語り草にできたでしょうに。
ほんとにくやしいんだから!」
アン「こんなやつほっといて。マダム、なにやら曰くありげですね。
トップを獲ったときの話、聞きたいです」
クラリス「あら、話したことなかった?
とはいってもねえ、今言ったまんまよ。トップは倒されるために立っているの。
ダイアナ。よく考えてみて。
今年の首席はクリスティーン・スチュアートという娘だけど、あなた入学後、彼女とお友達になれる?」
ダイアナ「え?」
クラリス「アン、クリスティーンを演じてみて。普段どおりのあなたでいいから」
アン「はあ。クイーンズへトップ入学したクリスティーンです。よろしくね。あんた、きれいだね。うらやましいよ、ポリポリ」
ダイアナ「うわ、めっちゃムカつく」
クラリス「アンがクイーンズを受験していたら、ダイアナより上位で合格していたはずよ。
そんな形でファーストコンタクトを迎えた二人が、はたして親友になれるかしら?
なれるとしたら、壮絶な殴り合いを経験した先にでしょうね。そこまでしたい?」
アン「おれ、ヘレンと壮絶な殴り合いをしましたけど、親友……には至ってないな。ダイアナとでは、どうだろう」
ダイアナ「うーん。たしかにクリスティーンが学内で友達つくるのは、なかなか大変でしょうね。必ず、トップの称号がついて回るんだから」
クラリス「学外とのコネクションは作りやすいと思うわ。お友達ではなく、出世につなげるための味方なら。
むしろ人格をそんな風に形成していかないと精神が不安定にならないかしら。
もちろん大いに突き進めばよいと思います。でも、ダイアナ。あなたがクイーンズに求めていた学園生活は、そうじゃなかったはずよね?」
ダイアナ「ええ……その通りです、おばあさま」
クラリス「だったら5位でよかったじゃない。あたしたちにあれだけ妨害されながらこんな成績をのこせたのよ。胸を張りなさい」
ダイアナ「おっしゃることは理解しました。でも、お二人が私の前で繰り広げた悪ふざけの数々には今も怒りが渦巻いてます。それは撤回しませんからね」
アン「おれは学外者だからクリスティーンと友達になってみたいな。ダイアナはクラスメイトと楽しくやったらいい。それぞれの道を突き進もうぜ、親友」
クラリス「トップになるとね、常にマイナスで評価されるの。誰ひとり褒めちゃくれないわ。孤独なものよ。
それでも、落ちるわけにはいきませんからね。性格だって歪むし尖ります。
覚悟も無しにこんな道へ踏みこんじゃいけないわよ」