月曜日、午前10時すぎ。
サラ・クルー、玄関を出る。
郵便局と雑貨店その他を回り、最後にもう一度郵便局を経由して、ミンチン・スクールへ戻る。
火曜日は午後2時過ぎに出発した。
ほぼ同じように所用をすませ、最後に郵便局へ。局留めの小包や書留類はこのときに受け取るのだ。
出るとき、道端に、いかにも不良そうな少年たちが屯しているのを見た。
一瞬目が合った。
すぐ反らす。
焦りがちにミンチン・スクールへと戻る。
水曜日。午前中は雨だった。
午後、やむ。でも夜また降り出すとの予報。
サラ・クルーは傘を持って出かけた。
走って転んだりしないようにと言いつけられているのか、足取りはしっかりとしている。
郵便局を出て帰りの方角へ歩き始めると、昨日の少年たちに道を塞がれた。4人いる。
サラは冷静を装い道を譲って身を縮めるが、かれらが明らかに自分を狙っているように思え、ますます縮こまる。
一番のチビに、バスケットを奪われた。
路地へ入っていくあとを、追いかける。
あとの3人、悠々と彼女を追ってついてくる。
遠雷が低くうなり続けていた。
サラ・クルーはひとけの無い路地裏で取り囲まれる。
返して、と叫びたそうだが声が出てこない。
男たちも無言だ。
腕を掴まれ、口を塞がれた。
もがく。
渾身の力で足を振り回そうとするが、別の男にその自由を奪われた。
さらにもう一人が胸を揉んできて、ヒュウと唇を鳴らす。
「間近で見るとイケてるな。楽しめそうだ」そんな声も聞こえてきた。
サラ、怒りにまかせて身をよじる。
バサッ。
紙袋が落ちた。毎日着ている黒ベルベットの内側に縫いつけられたポケットから、さっき受け取ったばかりの封筒が出てしまったのだ。
手の空いた男がそれを拾う。
濡れて滲んだ紙の中にあるものを想像しながら匂いを嗅ぐ。
「……現ナマぽいんだがな」
ビリビリと破る。
まさしく札束が出てきた。
男ども一同、感嘆を漏らす。
やがて視線がサラ・クルーに集中する。
「思わぬ収穫祭だぞ。どうする。ここからならリンバロストが近いか」
「でも人目に触れるぜ」
「おい。クスリをとってきな。わかるか?」
最初にサラからバスケットを奪ったチビが、すぐ駆けていった。
サラは、最悪を想像する。
待つ間、男どもは交代でサラの胸や髪をまさぐった。
涙がにじんでくる。
そこへ背後から、異質な声が聞こえてきた。
声「おい。そいつ、ミンチンとこの娘だぞ」
男「は?……ほんとかよ」
声「誘拐するつもりだったか?
やめとけ。あの婆さん、警察に顔が利く。
よほどうまくやらないとすぐ捕まっちまうぞ」
男ども「………」
サラ・クルーはいきなり突き飛ばされた。
ゴミだらけの地面に膝をつく。
男3人が反対側へ走り去っていく音。すぐ聞こえなくなる。
サラ、おそるおそる振り向く。
少年がひとり、路地の先へ目を向けていた。男たちの姿が消えたのを見届け、サラの方へ視線を回す。その顔は、女の子のようでもあった。
「未遂ですんだかな。立てるかい?」
サラ「あ、ありがとう。そのお金……」
彼または彼女の手には、さっき男たちに奪われた札束が握られていた。
「返してくれたよ。こいつを持ったままだとミンチンが追いかけてくるだろうからな。その程度の計算はできるやつらだったようだ」
サラ「ほんとに、ほんとにありがとう。お礼をしたいところなんだけど、ごめんなさい……」
「それよりバスケットが散らかってるぞ。見張っててやるから拾えよ。
今日はとっとと帰るんだな。
襲われました、ってちゃんと言うんだぞ」
サラ、揉みしだかれていたときよりも大粒の涙を浮かべながら荷物を拾い集める。
サラ「あなたのお名前をうかがってもいいかしら?」
「警察に届けないでくれるとありがたいんだが。
事情聴取でも御免だ。名前は、そばかす」
サラ「そばかす。ありがとう。あたしは、サラ・クルー」
そばかす「サラっていうのか。上品な名前だな。ミンチン・スクールの使用人かい?」
サラ「ううん、生徒よ。でも使用人みたいなものね。しかたないの。学費、払えなくなっちゃったから」
そばかす「親が死んだとか?」
サラ「パパが事業に失敗して、行方不明なの。あたしがこれから一生かけて働いても返しきれないほどの借金が、ミンチン・スクールにも残ってるの。
……ごめんね、ほんとにお礼したいんだけど、このお金に一枚でも手をつけたら、あたし、あたし……」
そばかす「それだけひどい目に遭って、でも1ドルも奪われずに取り返しましたって言やあ校長だって褒めてくれんじゃないか。
それより、しっかり教訓にしてこれからは用心棒を雇うなりチームで行動させるとか考えろって言ってやれ。
ミンチンから出入りする娘は大金を持っているぞって噂はすぐに広まる。やつら、次はもっとうまくやるからな」
サラ「わかった。ありがとう。本当にありがとう、そばかす!」