木曜日。午前10時過ぎ。
サラ・クルー、玄関を出る。
ポストに封筒を投函はしたが、郵便局へは寄らずに商店街へ向かって歩いていく。
人影が背後から音もなく近付いてきた。サラに追いつく。
「なにやってんだよ。また襲われるぞ」
サラ「ヒッ!
……そばかす?
ああ、びっくりした」
そばかす「ちゃんと報告したのか?レイプされましたって」
サラ「未遂だけどね。言ったわよ。
だから今日からは、書留の受け取りはあたしの仕事じゃなくなったの。ただの買い物回りだけ。降格ね」
そばかす「わかってんのかよ。次は連中、アテにしてた金が手に入らず、おまえを陵辱するだけしてポイだぜ。より危険になった」
サラ「心配してくれてるの?あたしを?ありがとう、そばかす。
たしかにそうかもしれないけど……これが、囮の役目だから」
そばかす「まったく、いらつくぜ」
サラ「そばかすも、あたしを見張ってるの?昨日の男たちとは知り合いなの?」
そばかす「知り合っちゃいねえ。
ストリート・チルドレンはお互いの動きを監視してるんだ。儲け話にゃ便乗するし、警察は共通の敵なんだよ。
昨日あんなの見ちまったから、女同士、放っておけねえじゃないか。だから忠告しにきた。それだけだ」
サラ「そっかあ……ごめんね、世間知らずで。
実は、校長先生からあなたのことを根掘り葉掘り訊かれたの。
それで、あたしまで、ちょっとあなたのことを怪しいなって思い始めちゃってたの。ほんとにごめんなさい」
そばかす「そのくらい用心深い方がいいんだよ。校長先生ってミスターだかミセスだかミンチンか?さすがに裏街道を心得てるな」
サラ「ミスターはいないわ。ミスだし。レイディ・ミンチンと呼ぶのが適切ね。
ねえ、そばかすって、あたしたちのスクールを知ってるの?」
そばかす「知ってる、とは?」
サラ「昨日あたしを助けてくれたとき、ミンチンの生徒だぞって言ってくれて、それで男たちがひるんだのよね。
あれ、いつ知ったのかなあって思って」
そばかす「おまえ、いつも同じ格好であの家から出てくるじゃないか。それを何度か見てたから、ってだけだ。邸の中のことまでは知らねえ」
サラ「ああ……そうか。なんだ、単純なことだったのね」
そばかす「でも、ちょっとだけ訊いていいか。おれ、人を捜してるんだ。
9歳の女の子で、マチルダという。今年の初めにシャーロットの寄宿学校へ預けられた。それ以来連絡をとれなくなって。
親友なんだ。ミンチンに、そんな子いないかな」
サラ「マチルダ……姓は?」
そばかす「長たらしい名前だった。おれ、いつもマチルダとしか呼ばなかったからな。
特徴は……本が大好きだ。とても物知りなんだ。
そんな新入生、いるかい?」
サラ「捜してみるわ。あたしも、全員を知っているわけじゃないから。
あなたのことを何と呼べば通じるかしら?」
そばかす「そばかす。赤毛のそばかすでわかってくれると思う。
住所不定だ。今はここらへんに棲みついているが」
サラ「マチルダもストリート・チルドレンだったの?そんな子は……うちには入ってこないか」
そばかす「良家のお嬢様なはずだよ。厳しい両親だと聞いたこともある。
しあわせでいてくれると、いいんだけどな」
サラ「もし見つけられたら、そばかすへ恩返しができるわね。女子学園はミンチンだけじゃないから、出入り業者のおじさんおばさんたちにもそれとなく訊いておくわ。少し時間をちょうだい」
そばかす「たすかるぜ。サラをまた見かけたら声かける。油断はするなよ」
数時間後、コッパー・ビーチズ。
アンがクラリスに報告をしている。
アン「もしかしてあの子かも、までは勘づいてくれたように思います。うまくパイプ役をつとめてくれるといいんですが」
クラリス「上首尾じゃないかしら。
ところでシャーロットにもストリート・チルドレンているものなの?見たことないんだけど」
アン「いませんよ。ハリファクスになら、いました。ファミリー同士の抗争も絶え間なかったですけどね」
クラリス「そばかすはマチルダとどこでどんな風に友情を育んだのか。設定はしっかりできているの?」
アン「マライア・ミンチンはファージングに細かく質問してきます。ファージングは嘘をつくのが下手で、洗脳にも耐性が無さすぎる。グリン・ゲイブルズのアンなんてフレーズを記憶させちゃったら、たちまち調べられてしまうでしょう。
マチルダは3年前に出会ったときだって用心深かった。赤毛のそばかす。これだけで通じると確信しています。マチルダの口からおれの素性が漏れることもないでしょう。
それ以外のプロフィールというかイメージは、メアリ・ヴァンスから拝借しました。マチルダはヴァンスと面識ほとんど無いけど、おれ、よく彼女のことも喋ってましたから。
風来坊で、しばらくアルバリーで暮らしてた行動派の上級生。今はシャーロットに来てマチルダの行方を気にしている。ウォームウッドの実家についてはあんまり知らない。もちろんマチルダの家族に尋ねるツテは無い。
ひとまずこんな設定ですね」
クラリス「いいのじゃない?
メアリ・ヴァンス。とても魅力的なキャラクターだし、便利な存在だわ。小説に出せば、都合よくなんでもさせられちゃいそうね」