女子のいじめは陰湿を極める。
健康であれば毎月コップ一杯ほどの出血をして、気分が悪くなる。来なければ来ないで不安だし、この場合健康ではないのだから遊ぶ予定も立てにくい。
そんな彼女たちの日常を想像すらしない男どもがすぐ傍で群れている環境というのは案外、平和といえるのだ。
女同士は容赦なく、限界をたしかめあう。他人の体で。
女は顔を攻撃しない。
手足や首筋など見つけられやすい表面は徹底的に、いたわる。
一般的には水着が隠す僅かな隙間に、屈辱的なしるしを刻みつける。だから陰惨になりやすいのだ。
心も、数値化できない秘部だから攻撃対象にされやすい。
とにかく証拠をのこさない。これが女のたたかいかたよ。
男は遠くで群れていろ。所詮きみたちには、想像すらできまい。
アンも、そこまでは考え及ばなかった。名門の女子専門学校になんて縁が無かったから仕方もあるまい。
ちなみにトイレから拾ってきたタンポンを皿に載せ、ナイフとフォークで上品に切り分けさせて完食、のち笑顔でレポートさせるなんて儀式は初級クエストの王道だそうだ。少なくともミンチン・スクールでは。
生徒の最上位に君臨しているラヴィニア・ハーバートという娘が、先輩に敬意を示さない相手に対してありとあらゆる教育指導を任されていた。
サラ・クルーは3年前に入学したとき、父親の寄付額が大きかったこともあって大層ちやほやされた。自信家で、新参者のうちからラヴィニア先輩によく口論を挑んだ。
伝統的に閉鎖的だった校風を改革しようともしたのだけれど、その頃幾度もやりこめられた怨みをラヴィニアは決して忘れない。
ミンチン校長も、正論で大人を言い負かす癖をつけたサラをずっと苦々しく思っていたので、父親のラルフ・クルー大尉が没落したときに娘から全財産と権利を剥奪した。
ここまでする女だから、社交界に顔も利くのだ。
そんな境遇であったため、サラ・クルーはそばかすからマチルダの名前を聞いた際も、ひどく躊躇した。
マチルダ・ウォームウッドは利発な少女で、決して目立つことをしない。
つつましく先輩を立てることに慎重で、嫌味にならない程度の驚きと称讃をわかりやすく態度であらわす。それができる子だった。
サラは今でもつい軽率に、愚か者へ反抗的なまなざしを向けてしまう。そんな癖の治らない自分が、マチルダと話なんてしていたら、何をされるかわからない。
沈黙を貫くべきかもしれないとさえ考える。
ああ、自分にもっと演技力があったなら。
そばかすは時々不意に現れて、サラのボディガードをしてくれた。
常に周囲への注意を怠らない。それでいて軽妙な箴言を毎回つぶやいて去っていく。
不思議でたまらない。
マチルダとは親友だと言っていた。ふたりきりだとどんなおしゃべりをするのだろう。
私もそこに混ざりたい。できるものなら三人で、小さな家でも構えたい。
炊事洗濯掃除に買い物、なんでもするから置いてもらえないかな。いつしかそんな夢が芽生えた。
しかし、どうすれば叶うのだろう。
自分はあまりにも無力だ。ミンチンやラヴィニアに目をつけられたが最後、愛するふたりに危害が及ぶ。それだけは避けねばならぬ。
でもしかし、どうすれば?
サラ「そばかす。あなた、働いてるの?食事はどんなものを摂っているの?」
そばかす「雇われ仕事はしていないかな。パンを買う程度の小銭なら、歩き回ってりゃ拾えるもんだよ。
ほら、あった」
そばかす、コインを拾い上げる。25セント硬貨だ。
サラは不審に思った。
いまどきコインで買い物する人なんてほとんどいないのに。なぜ、こう都合よく拾えたのだろう。
でも口にはできなかった。
そばかす「知ってる?ここのパン、うまいんだぜ」
目の前の小さなベーカリーショップを指さしてみせる。芳ばしい香りが漂っている。
サラが呆けていると、すばかす、ガラス越しに中の店員へ手を振ってみせる。
店員、出てくる。
自分たちと同い齢くらいの女の子だ。この家の、娘さんかしら。
そばかす「パン売ってくれ。今日の全財産だ」
店員、25セント玉を受け取り、店内へ戻っていく。
サラ、ぽかんとする。
25セントでは食パンの耳ひときれだって買えやしないわ。どういうこと?
店員、紙袋を手に出てくる。
そばかすに手渡す。
そばかす、礼を言う。
袋を開けてサラの前に突き出す。
かぐわしく、たちまち食欲を刺激する。ロールパンが6つも入っていた。焼きたてだ。おいしそう。
そばかす「食えよ。ありがたく味わうんだぞ。なんたって25セントも払ったんだ」
え……?いやいや、それはちょっと、ありえない。どういうこと?
サラは困惑するが、芳香には抗えず、歩きながら頬張った。
たまらなく、おいしかった。
何ヶ月ぶりだろう。温かいパンを口に入れるのなんて。
そばかす「逃げるにも戦うにも、頭を働かせるのにだって、体力無けりゃ話にならない。
いいかサラ、おれはマチルダを捜してみせる。そのためには人手がいるんだ。
おれに尽くせるだけの力をつけとけ。いいな?
ほら、残りは全部やる」