サリーとジュディはダイアナの報告に仰天した。
けれども説明を拝聴して、自分たちも精一杯の応援をするよと誓ってくれた。
実はサリー、大手芸能事務所で歌と演技のレッスンを始めようかと心を決めていたところだったのだ。それがどれほどバカらしい投資であるかとダイアナに喝破されて動揺しつつも安堵した。
まだお会いする機会が叶わないけど、ダイアナの祖母がお金持ちで裏社会の歩き方に通じているという噂も聞き及んでいる。そんな後ろ盾を持つダイアナに、たかだか数年早く生まれただけの平民が何を説教できるというのか。
しかも、誓った途端にダイアナから求められた応援手段があまりに具体的だったので、喜んで従うしかなかった。
ギズ一味の事務所や店はダウンタウンに固まっている。
ダイアナは明日の夜からここに通うのだけど、行き帰りの護衛が欲しいという。
祖母からエージェントを借りることもできるのだが、一日単位でかかる費用を出世払いで貸しておくと言われたので保留した。身内相手でもここまでするからこそお金持ちになれるのだわと言われれば、なるほどそうかと頷くしかなかった。
その日のうちにまずジュディの役どころが決まり、雑談混じりのコーディネートが進む。
ありあわせの布地で特製ジャケットのできあがり。
あわてて寝床に入り、翌日は適度に居眠りしながら授業を聴く。
夕方のお昼寝タイムで充電のち、3人は戦場へと歩み出した。
ダイアナが雑居ビルへ入っていったあと、2人は近くのカフェで参考書を広げ、課題に読書、疲れたら交代で体をほぐしながら近辺を散策というメニューを消化。
当分こんな生活が続くことだろう。
悪くない。
サリーは自分に似合うボディガード・スタイルを考えるのにも懸命だった。筋肉つけておきたいなあ。ジムへ通う余裕はとれなさそうだから、スキマ時間でこまめに走ってタイムつけてみるか。タオルやデオドラント、水分やミネラルを補給するサプリメントも一式、常備する必要があるぞ。フム、楽しそうじゃないか。
ダイアナはパブの厨房で仕込みから始め、掃除や、スタッフの子守りなど求められる雑務を次々と手際よくこなした。
店が始まればホールからも時々呼ばれて、お客のコートを預かったり、空いた皿を回収しに行ったりなど命じられる。
なんでもテキパキとやった。
上品な言葉遣いと笑顔にたちまちファンがつくが、まだホステスには早いのよと先輩たちがやんわり守ってくれる。幸先よかった。
実働2時間。規定の給与を日当で支払われ、チップと合わせて上機嫌で仲間の待つカフェへ向かう。
お酒臭いわよ、とたしなめられる。
30分ほど閑談タイムを設け、一緒に歩いて寮まで戻る。
215号室では本音トークが炸裂だ。
ダイアナは2人のアドヴァイスを参考に自分の課題を要領よく片付け、眠くなったら即就寝。
なんて活き活きしてるんでしょう、私たち。
こんな調子で2日目以降も楽しく過ごした。
サリーは早朝ランニングを始め、その時間が徐々に長くなっていった。
道具も少しずつ揃え、やがて、夕方出発する際のコスチュームがアスリート・スタイル一択となる。
カフェでもスイーツは注文しなくなった。
筋肉は最高のプロテクターだとつくづく思う。ヤワな男は寄ってすらこない。お姫様たちはこの俺様が守るんだ、と誇りを持てることも嬉しいじゃないか。
自信が漲ってくる。
なんて活き活きしているんだ、今日のアタシ。
ジュディのスタイルは最初から完成されていて変化をほとんど見せなかった。
彼女は調理用具を扱い慣れているのでナイフ捌きが得意なのだ。
そのとき部屋にあったのは果物ナイフとカッターナイフくらいだったが、ジャケットの裏側にポケットを作り、右手でも左手でも瞬時に取り出せるようにした。
あとは静かに相手を睨みつける演技力。
当初ジュディ自身が戦闘なんてできるわけないと思いこんでいたので、威嚇する程度の想定しかしなかったが、サリーとダイアナが日に日にスキルを磨いていくので対抗心に火がついてしまった。ナイフのコレクションが増えてゆく。
3人で大笑いしたのは刀身を射出できるスペツナズ・ナイフだったが、さすがに女子が携帯するには不向きなので、常備アイテムとしては小振りのマチェーテに落ちついた。
補助的に外科手術用メスを何種類か収納しておく。アタッチメント式の刃先がたくさんあって、眺めているだけでも恍惚となる。一回ごと使い捨てなのも衛生的でよろしい。
ジュディに言わせると、見た目で敵を警戒させるサリーの筋肉こそがむしろ威嚇で、真に陰湿な男はおそらく無抵抗ぽく映る自分を狙ってくる。その首筋を正確に、この切っ先で舐めてやるのよ。
不味そうだから口には入れないけど、鑑賞するのが目的の料理だってあるわけだし。ウェディングケーキとか。
実演してみる機会、やってこないかしら。
無表情にそう呟くジュディ。
実に活き活きしてるよ、君たちは。今日も。