緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§124.相棒

ダイアナと違って、アンはジェイムズ・シェパードと会うとき、常に人目をはばかる。

 

アン「やりたい放題にも限度があるだろ、あいつ。

いいからとっととつまんで食っちまえ」

 

シェパード「君こそ、もう少し交友関係を広げたらどうだ。昔は異性の友達だって多かったろう」

 

アン「子供だったからね。わきまえてさえいりゃ、かわいがってもらえたものさ。

ところが10歳くらいになると、美しいか醜いかで扱われ方が露骨に変わるんだもの。残酷だよね。

そんなの気にしないよなんて言う奴は、首から下しか見てないしさ。

こっちも、せいぜい財布をふくらましておいてくれよ以上のことは求めなくなるね」

 

シェパード「やれやれ、ひどいね。

ところでレイディ・マローワンとはうまくやれているかい」

 

アン「癪だけど、常人とは見てる世界がまったく違うんだなあって日々驚いてる。でもそのぶん一般常識を知らなかったりするんだ。東半球にはインドという国ひとつしか無いなんて思っていたりとかさ」

 

シェパード「ふうん。他にどんな国があるんだろう」

 

アン「チャイナとかロシアとか。オーストラリアだってあるじゃないか」

 

シェパード「聞いたことはあるが、行ったことはないし、これからも行く気ないからね。むしろ無駄な知識を脳に溜めておくよりは、積極的に忘れて風通しを良くしたほうが健やかな日々を送れそうに思う」

 

アン「あんたはマダムといい友達になれそうだよ」

 

シェパード「ひとつお願いがあるんだ。

レイディ・マローワンの前では今後、僕の話をなるべくしないでもらいたい」

 

アン「へえ。いまさら遅いと思うけど。ヤバいネタでも握られてるの?」

 

シェパード「彼女の作品で、僕が完全犯罪だと自信を持っていた事件が詳細に語られているのを見つけてね。

ひと晩うなされたよ」

 

アン「そりゃ凄い。当ててみたくなる」

 

シェパード「ヒントはここまでだ。君なら、うまくはぐらかしてくれるだろうと期待している」

 

アン「そんなことアテにされてもな。

あれ、じゃあ今後はあんたとの取引もやりづらくなるか。その副収入はどこからだって詮索されたら、答えないわけにいかなくなるからさ」

 

シェパード「僕を信じてもらえるなら、君用の口座をつくって振り込んでおく。自由の身になったあとで引き出したまえ」

 

アン「そりゃどうも。てことは、仕事くれんの?」

 

シェパード「レイディ・アガサ・マローワンのエージェントに関する情報が欲しい。

何人もいるだろうし、外国籍者も多そうだ。可能な範囲で探ってくれ。期限は設定しない。

有益な情報ほど高額を支払うが、その明細を渡すのは全てが終わったあとだ」

 

アン「あは、は、は。ずいぶん恐れてるんだね、あの婆さんを。

そうかあ。おれにしか、できなさそうだ。責任重大じゃない?

困ったことになっちまったねえ」

 

シェパード「誤解はしてくれるな。人気作家を抹殺したいわけじゃない。

むしろお近付きになりたいんだよ。

ただ、相手が相手だからね。どの程度の手札を揃えているのかくらい知っておかねば、対等な立場で交渉なんてできるわけがない」

 

アン「対等な関係を結びたがってるようには聞こえない態度だぜ」

 

シェパード「納得してもらえそうなところまで話そうか。

その小説には、探偵が登場する。そいつは僕を相棒にして事件現場を何度もうろつき回り、僕が真犯人であることを最後に暴く。僕はエピローグで、犯行を自供する手記を遺して命を絶つ。

邸の間取りまで正確に再現された、完璧なノンフィクションに思えた。事実と異なる点は二つだけ。僕は死んでないし、ヘラクレスなんて探偵はあの村にやってこなかったんだ」

 

アン「わかった。ロジャー殺しだろ。傑作だよね」

 

シェパード「な。今のヒントだけで特定したのか?」

 

アン「おれ、アガサ・マローワン全作読んでるんだぜ。その概要にあてはまるヘラクレス譚はひとつだけだ」

 

シェパード「名探偵よりおそろしいな、マニアは」

 

アン「で、つまりマダムは実在の殺人事件現場へ架空の探偵ヘラクレスを登場させて、一本のミステリに仕上げた。

それはいいけど、そもそも真犯人しか知り得ない事件の一部始終をいったいどこから聞き及んだのか、ということだね?」

 

シェパード「作者に訊いてみたいと思うのは、当然の感情だろう?」

 

アン「もっともだね」

 

シェパード「でも絶対に教えてくれるわけ、ないじゃないか」

 

アン「まともなマジシャンは種をバラしたりしないよ。あったりまえだ」

 

シェパード「だから君に依頼するんだ。引き受けてもらえるか?」

 

アン「おれは今、マダムのアシスタントをしているけど、外回りの連中についてはまったく知らされていないんだよ。そのくらい情報統制が徹底されてるんだ。時間をもらいたいな」

 

シェパード「言っただろ?期限は設定しない」

 

アン「それならわかった。やってみる」

 

シェパード「それじゃ僕は先に出るから。君はもう一杯飲んでいけ」

 

アン「うん。ああ、最後に。

ダイとはどこまで進める気?」

 

シェパード「インターコースのことか?

しないよ。

彼女とビジネスパートナーになる可能性のあるうちは、危ない橋なんて絶対に渡らない」

 

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