緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§126.パルプ・フィクション

イザベラ・スワン。14歳。

先天性の虚弱体質で、エレメンタリー時代はほとんど通学していない。

半年前、夢の中で素敵な恋に落ち、初めてのボーイフレンドを受け入れた。目覚めると自室の窓が開いていた。少し元気が出たので登校した。

不思議と調子よく、その日以降は休まず通って、卒業。

読書家だったし、自宅で勉強はしていたから地域ではレヴェルの高い公立校メイヤー・ハイスクールへ無事合格。9月から新入生となる。

物語はここからスタート。

 

陽射しを浴びると激しい眩暈を覚えるが、他は概して平均以上の身体能力を示した。

これまであきらめていた様々なことにチャレンジしてみたいと、むしろ同年齢のクラスメイトよりも積極的な行動力をアピールする。

人並みに性徴期であるのは自覚しているけれど、とにかく異性が気になってしょうがない。カッコイイ男の子を見ると、心臓の鼓動が速くなる。

そして、

なぜか、

無性に、

その首筋へ噛みつきたくなるのだ……

 

アン「まさかマダムが、こんなエロティックな青春ファンタジーを書けるなんて思わなかったですよ」

 

クラリス「同年齢の現役少女から見てどうなの?セリフとか、違和感ないかしら」

 

アン「ダイの声で脳内再生すると蹴ってやりたくなる場面がいくつかありましたけど、この小説の中でベラという少女のキャラクターには一貫性がありますから、これでいいと思います。

強いてディスるなら、現実に14歳のオトコでこんなイケメンはいねーよ、ですかね」

 

クラリス「そこは私の理想を詰めすぎちゃったかしらね。でも、まずは近場から攻略ということでゆるして」

 

アン「第2部では、上級生や教職員まで毒牙にかけてゆくわけですか」

 

クラリス「イケメンならひとり残らずよ。ライヴァルより先に噛み跡をつけておかねば、ね」

 

アン「なるほど。最終的には女同士の覇権争いになっていくわけだ。

もとから一冊で収める気なかったんじゃありません?」

 

クラリス「ダイアナならここでこう言うわ、というセリフが次々浮かんできちゃってね。勢いで執筆してる時って、そういうものよ。

従来式の出版なら、書くだけ書いたあとで8万語まで間引いていくの」

 

アン「もったいないなあ。長いままの方が、読み応えだってあるだろうに」

 

クラリス「パルプ・フィクションには、知的を気取りたいインテリくずれが通勤時間を使って一週間で読み切れる長さという原則があるの。ついでに、間引くのであって圧縮はしちゃダメという不文律もあるわね」

 

アン「圧縮はしちゃダメ?」

 

クラリス「書いてある内容を損ねずに量だけ減らすのが圧縮。これをミステリでやると、読者が離れていくのよ」

 

アン「なんででしょう?」

 

クラリス「何度も読み返す必要のある、密度の高い文章だと、ページをめくるスピードが落ちるから。

読者はストレスを嫌うの」

 

アン「つまり、適度に薄めておくべきだと?

でも……アガサ・マローワンのミステリは、そんなこともないですよね」

 

クラリス「ふふ、ありがとう。

今言った原則を、小説家講座では生徒にしっかりと教えこむ。

だからプロは、その水準より少しだけハードルを上げておく。

それによって、もう少し歯応えのある作品を読みたいものだと気取りたがる批評家から、得点をいただけるわけね」

 

アン「また打算かよ。ストレスたまりません?」

 

クラリス「たまるどころか、年中噴き出してるわ。

だからこんな痛快娯楽をこっそり書いてバランスをとるわけ」

 

アン「ミステリこそ娯楽のはずでは。本末転倒してませんか。

おれが間違ってるんですかね」

 

クラリス「プロが提供する以上は、安全が最優先。

リアルな犯罪者が読んでも面白いわけがないわ。その水準に届かない客層しか相手にしてないんだもの。

だからアマチュアの熱量に勝てる作品なんて絶対につくれっこないという図式よ」

 

アン「アマチュアといっても、プロをめざしててプロになれないでいるアマチュアは、論外なわけですよね」

 

クラリス「もちろん。そんなのは、ただのゴミ」

 

アン「マダムは、思いついたから書かずにゃおれないっていう純粋なアマチュアリズムで、このヴァンパイア・ストーリーを愉しんで書いた。だから面白いんだ。

だったらこれを出版社通すまで薄めて、法的に許可された場所まで落として売るなんて、バカげてませんか最初から」

 

クラリス「あらあら、そこまで言っちゃう?

さすがに私でもそこまでは言いきらなかったわよ。

でもやっぱり、そう思っちゃう?」

 

アン「正々堂々とアンダーグラウンドで売りましょう。そこまで潜ってこれる読者しか相手にしなくていいです。

他人を批評したいだけのインテリは近寄ってすらこないんじゃないかな。それより、鬱屈していて独りで毒薬とか爆弾とか作っちゃうような子供が惹きつけられてきてほしい。

そこでこんな刺激あふれるエロスに接触しちゃったら、発動せずにはおれないでしょう。

なにかが覚醒する。

よし、そんなサイトを構築します。こりゃあ忙しくなっちゃうぞ」

 

クラリス「あらら、なにかを勃ち上がらせちゃったみたい。任せるけど、休むときはちゃんと休みなさいよ。

ねえ聞いてるの?アン」

 

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