ダイアナ「情報解禁。見よ」
ヒントはこれだけ。
アンは5分もかけて見つけた。
『パメラ・アンドリュウズと七人の侍女』4月より放送開始。シャーロットでも見られる。
解禁するほどの内容じゃないだろ、こんなの。
アン「かわいく映ってんじゃん。これでベストショットか」
ダイアナ「そうね。一番清純そうな疑似餌かも。
せいいっぱい恥ずかしがってみせてるから、期待しといて」
アン「やれやれ、あんまり親を泣かせるなよ」
ダイアナは侍女のひとり、フライデイ。
体力自慢から策士然としているのまで、わかりやすいヴィジュアルで7人並んでいるうちの最年少。しっかりしてそうに見える。
こんなドラマうらぶれた醜男しか見やしないと思うが、かわいくも美人でもないヒロインよりも、人気は出そうだ。
パメラは18歳という設定。演じる女優の実年齢はもう少し上。
一見どこの町にでも普通にいそうな雰囲気を漂わせており、同年代の男どもには親近感を抱かせるかもしれないが……
この時点でアンは疑問を抱く。
モテないイジケ虫に、リアルくさい女あてがっちゃダメだろ。
やつらにとって生身の女ほど怖いものはないのだ。
女たちは、冴えない映えない野暮なギークを、なるべく近寄らせずに支払い役だけ押し付けたい対象物としか見てないんだぜ。そんなこと骨身に沁みてわかってるよな。
醜男はどんなアクトレスに対しても、リアルっぽいほど「この女どうせ金持ちとヤリまくってるさ」と心理的防衛機能を働かせて、興味を捨てる。
だから液晶の向こう側にいる住民に限り、ヴァーチャル寄りで、トッピング程度のエロスをまぶした女が、いちばん安心できるんだ。
そんなこともわかってないのかい、映像屋のくせして。
そしてダイアナ演じるフライデイは、つくづく、野郎どもが欲望を集中させやすいポイントを押さえていた。
清楚な第一印象。
女優陣の中でもひときわ小柄。
表情からは控えめな明るさを連想させる。
パフォーマーネームは DYANA のみ。本人が指定したのだろうが、神秘的で、鏡の国の工房でつくられたばかりのような新鮮さを伴う。
まるでお人形のような彼女が、どんな声で恥ずかしがり、どこまで危険な目に遭ってくれるだろうか。
このキーヴィジュアルだけで抜きまくってる男がすでに星の数ほど、いるんじゃないか。
やれやれ。かれらの親こそ泣いてるだろうぜ。
ダイアナは2月に、アンは3月で、15歳になった。
普段は気にしていないが、未成年であることを軽く意識する。
たとえば二人とも来年すぐ自動車運転免許をとるつもりでいるが、それまでは事故現場に遭遇して警官から免許証提示を求められることすら、あってはならぬのだ。持っていないのだから。
とくにアンは早いとこ大っぴらに車を運転できる資格を手に入れたくてたまらなかった。それがあれば、できる仕事の幅が格段に広がるのに。ああ、もどかしいったらない。
そんなことも考えながら、タクシーを予約する。
ギズ・エージェンシーのパブでは、撮影現場の裏話も聞けた。
ハリファクスのスタジオに出入りしている役者やスタッフは何人もいるし、ダイアナを担当しているマネージャーからも詳細な定期連絡がくる。
契約上の守秘義務は当然尊重するが、解禁された情報から一般視聴者があれこれ推論をめぐらせるのは自由だから、「噂によると」さえ付けておけば咎められる筋合いもない。
とくにマダム・クラリスはダイアナの祖母であることをこの店で堂々と公言しているので、むしろ常連たちが気を遣う。「お孫さんは楽しくやっているみたいですよ」と安心させる必要もあって、しゃべりすぎても大目に見られた。
男F「ミス・ダイアナはムードメーカーですよ。
現場を明るくさせてくれるので、皆から愛されてます。あんな子どこでスカウトしたんだと、マネージャーが毎日のように詰問されているという噂です」
クラリス「それを貴重なスキルだと認めているのなら、養成所で覚えさせていくべきじゃないかしら。良い漁場から天然モノを捕獲するだけの発想しかしないのは間違っているわよね」
男G「芸の世界のみならず、有能で社交的な人材の育成をプロセス化することは有史以来、全人類の見果てぬ夢なんですから。
大人になるほど悲惨な失敗例ばかり見るから、養殖なんて難しすぎると、スカウトに望みを託すんですねえ」
クラリス「愚かなこと。ところで最新のコンプライアンス事情を教えてもらいたいわ。たとえばいわゆる枕営業なんて、今でもやってるの?」
男H「ピロー・ビジネスは昔より限度知らずですよ。ばれたところでスキャンダルにもなりませんし、だからメディアもいちいち公開しなくなった。
動画は手に入れた者だけでこっそり愉しむのがマナーだという噂です」
クラリス「秘められているからこそ価値がつくというのに。
いまどき、女の裸に値なんてつかないものねえ」
男I「あ、あくまで噂なんですけども、昔はアブノーマルだと批難されていた行為が、今では片端から市民権を得て、さらに新ジャンルを次々と生み出しています。その最先端には稀少価値がつくんですよ。よろしければこんな動画をご覧ください」
クラリス「あらあら、いいの?さすがにこれは、私でも鬼畜だと思っちゃうんだけど……
でも、たしかに、そそるわね。
もう満腹だわ。ごちそうさま」