クラリスは、ホステスにも人気がある。
だがホステスは男より前に出てはならぬものであるし、芸能業界の関係者がよく来る店ともなれば、おしゃべり好きで声もでかい男性客が常に作家を取り囲むから、なかなか話すチャンスは巡ってこない。
なにせ最初から最後まで低姿勢であらゆる他人を尊敬することだけポリシーにしている幇間営業士ふぜいですら、声も顔も態度だって、でかいのだ。そんな技能を持っていないとすぐに食われて消えていくからなんだろうけど。
ところが上客であるマダム・クラリスからのリクエストであれば、話は別だ。
ひとしきり情報蒐集がすめば、マダムは店内の女の子を指名する。
店の側とて異存は無い。
クラリスは金払いよく通ううち、バプで女を味方につける旨味をおぼえた。男と話しているのより何倍も楽しく過ごせる。得られるウィットだって、ずっと濃くてまろやかだ。
「ダメだわ、くせになっちゃいそう」
アンは御主人を介抱しながら、何度もこの呟きを聞くようになる。
M「マダム、御指名ありがとうございます。ずっとお話、してみたかったんです」
N「ダイアナの、実の御祖母様でいらっしゃるんですよね?感激です、何から話せばいいのかしら」
クラリス「ダイアナに興味がおありなのね?私より、この子に聞くといいわ。ダイアナと同い齢で、親友なのよ」
アン「アンといいます。よろしく」
M「えっ、びっくり。あなたも大学生?」
アン「……」
クラリス「……」
N「すいません。あの、実は私たちクイーンズで、ダイアナとはルームメイトなんです。他の人には言ってません。
でも、あら、どうしましょう。だめじゃないM、順序を間違えたわ」
M「すすすすすまない、つい。ああ、しくじった」
クラリス「いいわ。念のため訊くけど、この個室に盗聴マイクは仕掛けられてない?」
N「ありません、マダム。ギズでは盗聴器を仕掛けにくる同業者も多いから、毎日徹底的にチェックするんです。
見つけられれば噂になるので、オーナーも使ったりしません」
クラリス「じゃあ大いに語らいましょう。
あなたたちクイーンズの女子寮住まいなの?それでホステスもやっているの?」
N「ダイアナがギズと契約して、ここで働いていたでしょう。私たち毎日送り迎えして、近くのカフェで時間をつぶしてたんですよ。
それでほら、彼女ハリファクスへ行っちゃって。
急にすることがなくなっちゃったし、情報も欲しかったから、そんな流れで……まあ」
M「証拠をお見せします。ダイアナとは毎日チャットしてるんです。あたしたちだけのグループです」
アン「……」
クラリス「嫉妬しちゃうわね。あの子、あたしたちの前でこんな嬌態晒さないわ。
ねえ、あたしたちを撮って、送ってやって。ほれ」
M「送りました。……速ッ!絶句してますね。なんて返しますか?」
クラリス「はい、あとは無視。
さあ、ダイアナについて洗いざらい教えて。入学してから4ヶ月の間、どんな男とつきあっていたのかしら?」
M「え……と……あ……」
N「おばあさま。さしでがましいようですが、今日いきなりでそこまで明かしては、ダイアナと私たちの友情にヒビが入ります。どうか、どうか御容赦ください。なにとぞ、なにとぞ」
クラリス「すばらしい絆ね。免じてあげましょう。
ところでもちろんドラマは見ているわよね?学内での評判を聞かせて」
M「は……はい。そのう、ダイアナからは言いふらさないよう強く求められています。
男子学生の一部は見て、その中のごく一部は、休学中のあのモテモテ娘だと勘づいているかもしれません。でも、これからどんどんエロいことやっていくんでしょう?
しらばっくれるしかありませんよ。変な噂が立てば、このまま退学あるいは除名といった展開だってありえるんですから」
クラリス「そうね。ネットで個人特定につながりそうな情報が出てこないかは私たちも注意深くさぐっているわ。
もし発信源がカレッジだったら、あなたたちに潜入捜査と始末をお願いしたいのだけど、やってもらえる?」
N「潜入するまでもなく、私たち学生ですし、ダイアナの味方なので。たっぷりお仕置きしてやんなきゃ。なので、新しいグループつくらせてもらってもいいですか?」
M「ダイアナも招くのか?」
N「ばかね。そんな大所帯にしたら迂闊な発言できなくなるし、せっかく今日仲良くなったマダムとの絆が弱まるじゃない」
クラリス「よくわかっているわね。じゃあダイアナのいないところで、これからいっぱいおしゃべりしましょう」
帰宅後、アンはクラリスに尋ねられ、MとNのプロファイリングを披露してみせる。
アン「Mは引き締まったボディしててわかりやすいですね。
Nはスターラーの扱い方にクセがありました。ニードル使いかもしれません。実戦経験は無さそうですが、これから鍛えてやればモノになるでしょう。引き抜いちゃいますか?」