緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§133.なんておそろしい子

ダイアナから、番組が延長決定したとの連絡がきた。

4月スタート、6月で終了する予定が9月まで継続されるとのことで、そのぶん休学期間も延ばすからヨロシクとのことだ。

あいかわらず、ちょっと帰ってくるほどの時間的余裕も無いらしい。

 

誰のブラウザにも表示されるほどの話題になっているわけではないけれど、着実に視聴者層は拡がっているようだ。SNSのレヴューからは、女性がダイアナに注目して口伝えに見始め、応援している流れが窺える。

そしてついに、公式の動画コンテンツが登場した。

『ダイアナのハウスキーピング・マネジメント』

掃除に洗濯、調理や育児まで、一回2~3分程度でメイド姿のダイアナが優しくワンポイントアドヴァイスをしてみせる。

あどけない笑顔と、熟練者でも目をみはる手捌きとのギャップがたまらない。

検索しなくとも、ほとんど同一内容で別人演じる動画が次々とお薦め一覧に並ぶのだが、それらが悉くダイアナを惹き立てる噛ませ犬になってしまう残酷な現象。

毎日増えていくシリーズをあなたは全部見ていますか?と煽るチャンネルもちらほら目に入るが、口調も押しつけがましさもゲスいから、公式は関わっていないはずだ。

自然発生的に、ムーヴメントを盛り上げたがるやつらが湧いているのか。

なんておそろしい子、ダイアナ。

 

番組本編にも変化が顕れている。

もともと、深夜帯まで起きている孤独な男どもをターゲットにしたドラマだ。かわいこちゃんの胸や尻を時間いっぱい追い回していればいいだけの、簡単なお仕事だったのである。

第4話まではそのニーズに従って、メイドたちがゆっくり着替えしながら語らうシーンが必ず挿入されていた。

ダイアナだって、控え目ながら下着姿を晒している。

その部分だけを切り抜いた動画が高回転で再生され、コメント欄が炎上して、すぐ削除された。

翌週からは、音声そのままでキャストの顔だけや静物に挿し替えるなどの配慮が加えられ始める。

10話あたりになると、脚本段階から明確に女性視聴者を意識したつくりとなっていき、ヒロインもメイド達も、あからさまにおバカなセリフなど吐かなくなった。ゲスト男優たちも、キャストの変更は無理だったにせよ、デブで好色のイメージがつきまとうコメディアンですら精一杯りりしく撮ってもらえるような演出が施されたりして、このギャップも新たな話題を生む始末。

 

そして、なんといってもクラリスが予言したとおり、ダイアナ演じるフライデイの出番はどんどん増えていった。

先輩たちを押しのけて、といった不自然な目立ち方ではなく、カメラがついつい彼女の表情を追うという形でだ。

フライデイはどこででも周囲の会話に聴き耳を立て、内容に合わせて小刻みなリアクションを返すのである。

ハリファクスの造船所で働いている外国人から

「英語の微妙なニュアンスを学習するのに彼女の演技がとても助けになっている」

との丁寧なレヴューが寄せられてからは、ますますこの傾向が強まった。

眉の動きひとつで状況の急転換を観衆に察知させるダイアナ。

この子はいったい、なにものか。

様々な憶測や推理がネット上では錯綜した。

適度にミスディレクションを掻き混ぜておくのは、アンの仕事のうちだった。

 

同時期、アンはホステスのNと特に親交を深める。

Nは裕福なパトロンに学費を支払ってもらっており、彼に毎週手紙を書いて近況を知らせることが条件なのだという。

パブで働いていることは明かしていない。ダイアナが215号室で暮らしていた頃はよく話題をつくってもらっていたけれど、1月以来ネタを自分で考えなくてはならなくなり、困り果てているところだ。

 

N「その人の姿を見たことはないの。

ただ一度だけ、ホームから出ていく影を見たわ。直後にミセス・リペットからカレッジへ行かせてもらえる旨説明されたので、まちがいないと思うの。

西陽が真横から照りつけて、手足がすごく長かった。まるでアシナガグモみたいだと思って、こっそり蜘蛛おじいちゃんって呼んだわ。

その後、ミスター・ジョン・スミスと呼ぶようにって指示されたんだけどね」

 

アン「女子大生から直筆でお手紙を、か。いい趣味してんな。

秘書がたまに連絡伝えに来るって?事前に教えてもらえれば、そいつの跡をつけることだってできるぜ。

聞いてる感じでは、ジョン・グリアー・ホームって、そんなに厳しい孤児院でもないな。だって疲れ果てたあとにひとりで空想に耽る時間をもらえるんだろう?

ギタギタにしてやりたい大人たちを心ゆくまで叩きのめす想像だって、し放題なんだろう?

そんな自由を持てていたから17歳まで耐えてこれたってことじゃないのかねえ。

うらやましいとは思わないけど、もっと悲痛な生き方をガキに強いる施設ってのもあるんだよ」

 

N「アンはどこの孤児院にいたの?」

 

アン「その話はしたくない。今もまだ、つらいんでな。ダイアナにも肝腎な部分は語ったことないんだ。

それにしても、アシナガグモってのは傑作じゃないか。

蜘蛛爺の正体、つきとめてやりたいね。

釣ってやろうぜ。

しっかり握っておけよ、銛の柄を」

 

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