緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§142.ウィットクロス・ブラーウ

『ジェーン・エア』カラー・ベル作。

ひたすら主人公へ苦難を与え続けていく、感動大作の王道。

 

ヒロインのジェーンは、エア家の三女として生を享けた。

兄がひとりいて、ジェーンの下にも弟ひとり・妹ふたり生まれたので、7人きょうだいの真ん中ということになる。

思い出の詰まった生家はブリテン島のほぼ中央域を覆う広大な荒野の一角に佇んでいた。

人家もまばらで友人は少なかったが、知識人階級だった両親が大量に所蔵していた本に囲まれ、きょうだいたちと昼夜を問わず物語づくりに勤しむという、幸福な幼少期を過ごす。

 

時は19世紀初頭。

南の大陸で戦争狂の皇帝が登場し全ヨーロッパを蹂躙しまくっていた。

エア家では子供たちを軍国主義に染めさせることを望まず、学問の道へと進ませることにした。

ジェーンは8歳。

姉たちと一緒に西部の寄宿学校へ送られる。

これが不幸のはじまり。

 

娘たちを受け入れたローウッド女学校は大手軍需企業への投資で失敗し困窮を極めており、経営状態を挽回させるために、ありとあらゆることをやった。

エア家の長女と次女は相次いで亡くなる。その死を看取ることは叶わなかったが、どんなことをさせられていたかは噂に聞いた。

やがて年齢層が下がってきて、ジェーンと同い齢の娘たちも、売り物にさせられていく。

ジェーンと一番仲のよかった同級生ヘレン・バーンズは宿舎の中で息をひきとった。ジェーンは朝まで彼女の手を握りしめ、徐々に冷たく固くなっていく親友の変化から多くの学びを得た。

次は自分の番だ。

決死の覚悟で脱走する。

故郷へ逃げ帰るジェーン。

しかし生家も安泰ではなかった。

大陸との戦争で疲弊していた島南の王国を、北の王国がこの時とばかりに襲ったのだ。エア家は中継点に位置していたため双方から戦争協力を強いられ、双方から怨まれて攻撃される結果となった。

邸は無惨に焼け崩れ、両親と兄は殺されており、かろうじて弟と妹たちは疎開していて無事だったものの、ジェーンの必死の介護むなしく一人ずつ力尽きていく。

ジェーン・エアは、無一文の孤児となった。

 

当時、身寄りの無い女性が働いて自立することは国や地域に関わらず難しかったが、ジェーンには教養と気高さが備わっていた。

住み込み家庭教師として、新興成金の邸を転々とする。

雇ってくれるのは戦争で儲けた商人ばかり。

大人たちは皆ガメつく、ケチくさく、その子供たちもまた軍人風に乱暴で横柄。

かつ全員が心の底では騎士道を軽蔑し、自分だけは勝ち抜けてやるという哲学を骨身に刻みながら、のしあがってきたのだ。

ジェーンもまた、かれらから学ぶ。

危険を感じたらすぐ暇乞いをして、一箇所に居座り続けるより場数を踏むことで経験値を稼いだ。

 

気付けば18歳を迎え、10月からロチェスター邸で幼女アデール・ヴァランスの教育係を勤めることとなる。

ここでの生活が、ジェーンにとって大きな転機となった。

 

家主のムッシュ・エドゥアール・フェアファクス・ド・ロチェスターは40歳手前で富豪になった。アデールは7歳くらい。フェアファクスがフランスで踊り娘に産ませた子で、母親が死んだので引き取ることにしたらしい。邸内ではマドモワゼル・アデラとお呼びするよう命じられる。

ジェーンが当初フェアファクスの妻だと思っていた女性は、女中頭だった。

住み込むようになってから、家主が独身中年男だと気付いたわけだ。危険な家である。

 

第一印象どおり、フェアファクスは女に見境がなかった。

だがジェーンだってそんな男は見慣れていたから、なるべく地味に動いて目立たぬことを心掛ける。

マドモワゼル・アデラに癇癪を起こさせないこと。ただそれだけに専念するうち、少女は見違えるほど、おしとやかになってゆく。

これが却ってフェアファクスの興味を惹き、ジェーンはよく晩酌につきあわされるようになった。

冗談か本気かわからない口調で幾度も求婚されるが、彼には肉体関係をたのしんでいる娘が常に何人もいることを知っていたので「本命のブランシュ様に言いつけちゃいますよ」などと言い返して貞操は守り抜く。

フェアファクスもそんな風にやりこめられることを無邪気に喜んだから、雰囲気は悪くもなかった。

 

やがて彼は正式に、ジェーンへ求婚する。

他の女たちへはいずれも互いに納得のいく形で別れを告げ、良家の箱入り娘であったブランシュ・イングラムとも示談金で話をつけた。

どうやら本気と思われた。

しかしジェーンはなかなか信じることができず、フェアファクスの真意を執拗に試す。

ずいぶん戦った。

つかれた。

ここまでつきあってくれる男なんて、いないんじゃないかしら。

とうとう彼を受け入れる。

皆が祝福してくれた。

 

盛大な結婚式にしようと、初夏のあいだ、ずっと準備で忙しくなる。

いざ当日。

教会に、ジェーンの知らない男が闖入した。フェアファクスの顔色が変わる。

その男は声高らかに、告げる。

フェアファクスは既婚者で、妻失踪により離婚は成立しておらず、したがってこの婚姻は無効である。自分はその女性の兄であり、フェアファクスに問い質したいことがあって来たと。

 

迫真の推理ショーが終わる頃には、ひとつの殺人事件が立証されていた。

村じゅうが大騒ぎとなり、ジェーンは烈しい情緒不安定に苛まれながらロチェスター邸を去る。

 

気付くと荒野の真ん中に立っていた。

目の前には一本の道標。

ジェーンは矢印のひとつを選んで歩き始める。

またしても、ひとりぼっちになってしまったのだ。

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