緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§143.彼女は幸せをみつけた

アン「そこでやっと半分過ぎたあたりだ。疲れたから、サマリーは一旦〆た」

 

ダイアナ「暗い。重い。息苦しい。

こんなの映画化して、どういう人たちが観たがるのかしら」

 

アン「映画なんだな?

前後編にしたって3時間から4時間。おさまるかな」

 

ダイアナ「とりあえず少女編で一本つくるんじゃない?評判がよければ続編でロチェスター編をまるまる。

ヒロイン役の成長に合わせて撮っていくシリーズにすれば、そのたびにリヴァイヴァルできそうね」

 

アン「はっきり教えろよ。主演なのか?脇役か?」

 

ダイアナ「そこがねえ。はっきりわからないときたもんだ。どんな形であれ出たいなら、サインをしろと」

 

アン「じゃあサインしろ。ヒットしようがしまいが、撮影してる間はギャラが出るんだろ?確実にキャリアにもつながるなら、おいしい話じゃねえか」

 

ダイアナ「アンは、最後まで読みきったんだよね?

ジェーンはそのあと、どうなっちゃうの?」

 

アン「齢をとっていく。

これ以上は語らせるな。電話だと何十分もかかっちまう」

 

ダイアナ「幸せになるの?」

 

アン「それに答えるのは難しい。読者によって評価はまちまちだろう。

ただ、ジェーン自身はどうやらその結末を受け入れてるようだ。

本人が納得してるんだから、彼女は幸せをみつけたってことになるんじゃないのかな」

 

ダイアナ「アンの感想を聞きたいな」

 

アン「白黒つけられないね。15歳の小娘にゃあ共感を抱けない境地だ。

状況は理解できるし、イメージも浮かぶんだけど、その気持ちがわからないんだよ。読み終えたばかりでヘトヘトだってのもあるしな」

 

ダイアナ「少女時代には共感できた?」

 

アン「はっきり言わせてもらうと、おれも孤児だから、同族嫌悪を感じてる。客観視できないんだ。

原作ですら匂わさずに全部曝せよバカタレって思うのに、映画だとどうせカワイコチャンがばっちりメイクしてメソメソ泣いてみせるだけなんだろ?正視できないと思うな」

 

ダイアナ「私が演じたら、嗤うよね」

 

アン「それはそれで見てみたい。せいぜい鳴きじゃくってくれや」

 

ダイアナ「やっぱり断ろうかしら」

 

アン「参考になるかわからないけど、おれの気に入ってるシークエンスがある。聞くか?」

 

ダイアナ「聞かせて」

 

アン「ロチェスター編より後だ。ジェーンは辿りついた村でリヴァース家に居候するようになり、隣村で子供たち相手の私塾を始める。

リヴァース家の最年長ジョンはジェーンより20歳上。牧師で独身。

こいつから、言い寄られ始めるんだよ」

 

ダイアナ「ほほう」

 

アン「ある日ジョンから、ヒンドゥスタン語の勉強につきあってほしいと頼みこまれる。

ジェーンは頭がいいからすぐにマスターできるだろう、それで僕に教えてほしいと」

 

ダイ「バカなの?」

 

アン「バカだよ、文句無しの。

それはジェーンも見抜いてるんだが、断りきれずに個人授業を引き受けちゃうんだな。

当然、ジェーンの方がずっと早く上達する。

やがてジョンが東洋へ派遣される日が近付き、ここでプロポーズ。

一緒に来てほしい、僕の仕事を支えてほしいとさ」

 

ダイアナ「仕事の依頼なのね?いくら支払うつもりかしら」

 

アン「そう。まさにそこなんだ。

言わずもがな、ジョンはジェーンを妻にすることで、性欲処理・家庭の雑務一切・後継者を産むこと及び養育・それから業務のアシスタント全般と、通訳および交渉係、近所づきあいから情報蒐集まで、すべて無料でやってもらえると計算したんだ。

自分は教会から大役を与えられた身。ジェーンほどの才女ならきっとこの使命に共鳴してくれるだろう。なんて期待しながらな」

 

ダイアナ「そろそろパンチラインが聞きたいわ。そのバカどんな風にとっちめられるの?」

 

アン「ふたりは何度か口論をするんだが、言ってることが全然噛み合わない。おれは腹を抱えて笑いながら読んだ。

結局ジョンは一人で出立していくよ。

未練がましい手紙が時々送られてきたようだが、植民地の人間はもっと騙されやすかろうし正妻より現地妻の方が気も遣わなくてすむから、ま、威張り散らしながら楽しく過ごしたんじゃないかな」

 

ダイアナ「甘ったるい仕置ね。作者って男?」

 

アン「いま訊くか。

ベル一族の正体は当時から謎のままだ。カラー、エリス、アクトンなどの筆名で6つの長編その他を出しているが、男女混成の創作集団だったという解釈が定説だな」

 

ダイアナ「了解。

いずれにしても、これからつくられる映画は、今を生きている人間のためのものよ。原作は原作としてそれでいいけど、新作ではあらためるべきところをきちんとあらためていかないとね。

でなければ、つくる意味、無し」

 

アン「ほほう。決意が固まったみたいだな。

どうせまだまだ明かせないんだろうから、次の連絡くるまでは、おれは何もしない。それでいいな?」

 

ダイアナ「ありがと。それじゃ」

 

通話終了。

アンはどっと疲れたので、カモミールティーを飲んで寝ることにした。

まどろみながら考える。

ジェーンが幸福になれたかどうかは、おそらく作者たちにだって決められやしないのだ。

きっと書き続けて疲れたから、あそこで〆たんだよ。

ジェーンの人生はその先もずっと続いていったのだ。

しかし、もう、じゅうぶんだって。追い回すのは、やめてやれ。

 

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