緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§146.助けてあげたい

女子寮215号室に、やっと3人が揃った。

 

1月からずっと休学していたダイアナ・バーリーは外見も内面も別人のように変わり、夏休みから戻ってきた2人を大いに困惑させたが、尽きせぬ話題を交換するうち、より深まった友情を共有する関係となる。

 

サリー・マクブライドは郷里のサスカチュワン州でひと夏を過ごし、鍛えた肉体を更に磨き上げていた。休みに入る前から、殿方に酒を飲ませる仕事は自分に向いてないなと薄々気付いていたのでパブへは復職せず、その代わり本格的にスポーツを始めてみたいとの決意表明。ただ引き続き君たちのボディガードは引き受けよう、という申し出である。

 

ジュディ・アボットは夏季限定で住み込み家庭教師の仕事をしていた。

パトロンのミスター・ジョン・スミスへ予め知らせてはいたが、快く思われてはいなかったと秘書から遠回しに告げられ、かなり落ちこんでいる。

しかも寄宿していた依頼元の家族が互いにとても仲悪く、ジュディは暇さえあればその誰かから呼ばれて延々と愚痴を聞かされた。責め苦の如き毎日だった。

このストレスを散らしていくのには、対価を得ながらお酒も飲めるホステス業が向いていると本人は言う。

そんなわけでダイアナよりも積極的に、ジュディはパブの仕事を入れた。

コントロールができているなら、それもよかろう。

 

ジュディ「姉のパルテと、妹のフロー。一歳違い。この2人に勉強させてたの。

パルテは両親の言いつけを守ることを優先するタイプで、頭はいいんだけど常に控え目なのね。

フローは真逆。ドイツ語の哲学書にのめりこむとか頑なに突き進むところには才能を感じるんだけど、とにかく他者に合わせることができなくて、自分がこうと考えたら相手を徹底的に論破しようとするの」

 

ダイアナ「それはそれは、おつかれさまでした」

 

サリー「パルテは放っておけばいいんじゃないかな。うまく渡っていけるだろ。

フローは助けてあげたいね。

いったんその家から引き離してあげるのが最善に思うけど」

 

ジュディ「御両親ともに、そこまで進歩的な発想のできる人たちでは、ないのよ」

 

ダイアナ「もしかしてカトリック?」

 

ジュディ「いえ、プロテスタント。しかもユニテリアン派だから思弁より行動を重んじるはずなんだけど、末娘が勝手に行動したがることには、そりゃ反対するわよね」

 

サリー「ドイツ哲学ってよく知らないんだけど、具体的にはどういうものを?」

 

ジュディ「あたしのいた間には、ディアコネス、フリードナー、それからカイゼルスヴェルトを読んでいたわ」

 

サリー「さっぱりわからない」

 

ダイアナ「あたしも、そんな子を無理に抑えつけるのは反対に一票。

お姉さんと真逆だからこそ、苦手な分野を補い合えれば鉄壁の布陣を構築できると思うんだけどな」

 

サリー「そういう考え方ができない一家だってことなんだろ。むしろ親に教育が必要だな」

 

ダイアナ「ああ。そういえばあなたたち、アンとお友達になったんでしょ」

 

サリー「えっ。なんだいきなり」

 

ダイアナ「今のセリフ、アンも言ったことあるのよ。親を教育すべきだろって。

それはいいから、あの子とのチャットを見せなさい」

 

サリー「い、いいけど大した話はしてないよ。

マダムにいつも付いてくるけど、ほとんど喋らないし、酒だって飲まないし」

 

ダイアナ「ふーん。ジュディのも見せて」

 

ジュディ「どうしたの。あたしたち、ダイアナの悪口なんて話してないよ」

 

ダイアナ「あいつ、行く先々であたしのことビッチだのヤリマンだのって言いふらしてるんだもの。そこまで落ちぶれちゃいませんよっての。

ああもうまったく。殺意が滲むわ」

 

サリー「むしろ教えてよ。アンって、あの娘なにものなの?

あたしたちにとっても謎なんだ」

 

ジュディ「夏休み中に聞いた噂なんだけど、クイーンズを受験する高校生たちの間で、そばかすを見つけたら試験問題を教えてもらえる、なんて口コミが流行ってたらしいの。

都市伝説だと思うんだけど、そばかすって呼ばれてるコボルドの特徴が、なんだかアンそっくりなんだよね。

ちょっと、怖くなって」

 

ダイアナ「試験問題を盗み出したっての?アンが?

うーん、やりかねないし、できちゃうでしょうね。どんな手を使ったかは知らないけど」

 

サリー「はっ。ま、まさかダイアナも去年、そのおかげで……」

 

ダイアナ「バカ言わないでよ。あたしは自力で合格しました。

しかも、アンとおばあさまに妨害されなかったらトップとれてたわよ。

思い出すのも肚立たしいわ。キーッ」

 

ジュディ「フローみたいな子に、好きなことを好きなだけやらせると、アンみたいな怪物に育っちゃったりするのかしら。

もし、そうだとすると、歯止めのきかない軍拡競争みたいなものかも。

どこかで制限をかける必要だって、あるのかもしれないわね」

 

娘たちのおしゃべりは、果てしなく続いた。

ところで軍拡に制限をかける際は注意が必要だ。

軍拡したがっている大国自身にルールを策定させてはならない。そんなの抜け穴だらけになるから、小国ばかりがますます弱くなることによって安定化するのがオチだ。

行動するための力くらいは、保持しておきたまえよ。諸君。

 

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