緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§147.嫉妬深い神

サリー、ジュディ、ダイアナの3人は、だいたい毎晩揃って出かける。

 

ギズのパブで働くのは、ダイアナが週に1~2回、ジュディが週に3~4回。重なる日もあれば、ふたりともお休みという日だってある。

サリーを含むグループが、近くのカフェで勉強を始める。

9月以降、サリーは60分から80分、周辺を走ってくるという日課をここへ挟むようになった。

したがって、ジュディがカフェでしばらく一人きりになるというタイミングが、定期的に発生することとなる。

そこへアンがふらりと現れるっていう寸法だ。

 

別に疚しい目的があるわけじゃない。

芸能人がパパラッチにつきまとわれず付き合いたがるのとも違う。

単純に、ふたりだけでちょっとした秘密を共有することが、ドキドキとワクワクを増幅させてくれて気持ちよいから内緒にしているだけだ。

誰でもわかってくれるでしょ、このくらいのデリカシー。

 

アン「アシナガグモの爺さんが、家庭教師してたことを不満に思ってるってのは、いったいどうして?」

 

ジュディ「お金に困っているのなら、おこづかいを増額するから。ってニュアンスみたいなの。

あたしが無理してるように思われちゃってるのかなあ」

 

アン「外で悪い虫がつくことを心配しているんじゃないのか。おれ以外の男に恋心なんて抱いたら承知しないぞ、っていう」

 

ジュディ「ジョン・グリアーから拾い上げてくれたことは感謝しているけど、新たな支配者になりたいだけだったとしたら……ヤだなあ」

 

アン「ホステスをしてる、なんてますます打ち明けられないよな」

 

ジュディ「あたしにとっては、パブを辞めさせられる方がつらいんだけど。ストレスをどこへ逃せばいいっていうの」

 

アン「そこんとこ、おれにも理解不能なんだが。

ホステスすることでのストレスって、たまらないの?」

 

ジュディ「なくはないけど、勉強してると吹き飛ぶわ。失礼な客より、あたしの方がずっと知的よって簡単に実感できるから。

逆に、座学で煮詰まった頭をほぐすのには、ほどほどのお酒と与太話がサイコー。

バランスはとっているつもりよ」

 

アン「なるほど。

それに対して蜘蛛爺が支配するやりかたは、相手にストレスしか与えない。そろそろ別れちゃどうなんだ」

 

ジュディ「姿を見せない敵とどう別れるか、という問題がありまして」

 

アン「ジョン・グリアーの院長を絞めあげれば、すぐ吐くんじゃないか」

 

ジュディ「あたしのこと通報されちゃわない?」

 

アン「じゃあ口を塞いどこう。ついでに書類も全部焼いておく」

 

ジュディ「それはやめてあげて」

 

アン「わかった」

 

ジュディ「はあ。それにしても、絶大な力を持つ嫉妬深い神の機嫌を損ねないよう動かされるって、たしかに屈辱的なことよね」

 

アン「いっそ挑発してみるか。

手紙でさ、素敵な男性とお近付きになりました、なんてストーリーを始めちゃうのはどうだ?」

 

ジュディ「え?」

 

アン「蜘蛛爺に、行動を起こさせるきっかけを与えるんだ。

秘書を今より頻繁にやってこさせるだけでもいい。尻尾をつかんでやる」

 

ジュディ「なるほど……それは、挑発なのよね?

読者をハラハラドキドキさせるために演出を仕掛けるわけよね。

……できるかもしれない。もう、一年間毎週手紙を書いてきて、基礎体力もついていることだし。

いけそうな気がする」

 

アン「いい笑顔してるぜ。じゃ、今夜はそろそろ引き上げる」

 

ジュディ「その彼氏、アンをモデルにしてもいい?」

 

アン「あ?」

 

ジュディ「カフェで、不意に話しかけられました。ミステリアスな少年でした。どこの誰かもわからないけど、気になって勉強が手につきません。追いかけたいけど、ちょっと、怖い。

……そんなロマンスが今、頭の中に浮かんだの」

 

アン「はは……まあ、まるっきりのフィクションよりは、リアリティあるんじゃないか。

そのうち秘書がおれを尾行しはじめたら、ふんづかまえてやる。

じゃあ、よろしくやってくれ」

 

アンはカフェを出て、歩きながらコッパー・ビーチズを目指した。

9月の宵闇は涼しくて気持ちがいい。片道30分程度の散歩は、いい運動だ。

ふと、道路の反対側を走っているサリー・マクブライドを見つけた。カフェまで戻るところのようだ。

男と併走している。

ほお……そっちも気の合うツガイを見つけたか。

みんな、お盛んだなあ。

 

帰宅して、軽く書類整理の残りを片付け、休憩する。

ネットをブラウジングしていると、あるドラマを告知するバナーが目に留まった。

10月から始まる配信番組で、パメラよりずっと本格的だと期待される。

タイトルは『ヒドゥン』。ティーザーサイトのみ。

 

詳細はまだ伏せられており、キーヴィジュアルのインパクトだけが強烈に焼き付く。

アンは思いつくまま検索語句を入れてみたが、この主演俳優の名前すら、つきとめられなかった。

あせるな。来月になればドラマ本編を見られる。

こいつの正体もわかるだろう。

しかし……同一人物なのか?

それも疑問だ。どう見てもメーキャップを施してる顔だからな。

しかも、怪人役で。

 

だがアンには、あいつだとしか思えなかった。

8月にパレアナ・フィテアを撥ねて逃げ去った、運転手。

まちがいない。だが……同一人物なのか?

 

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