緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§148.ラム・ダス

ダイアナがハリファクスから連れてきた集団がいる。

 

精悍な男たち。肌の色は濃い目で、推定年齢は20代から50代まで様々。

正確には、ダイアナより数週間遅れでやって来て、シャーロットのダウンタウンへ住みつくようになった。徐々にだが数も増やしている気配。何人かのリーダー格は英語を話せる。

ギズの事務所およびパブもダウンタウンにあるので、ダイアナたちとの遭遇率は高い。

ダイアナはかれらと目が合うたび、さりげないスマイルを返す。注意して見ていると、肌黒の男たちも、なんらかのリアクションを返すことがある。

ある者は敬礼さえした。

これをダイアナは無視した。

おまえら、知り合いだろ。しかも、つきあってることを内緒にしてるだろ。

アンはそう結論する。

ゆえに正面から尋ねてみるのは野暮というものだ。探ってやろうじゃないの。

そう考えたのも、当然だ。

 

男たちが共同生活しているアパートメントの、登記上の所有者はギズ・エージェンシーだった。

なんだ、芸能つながりか。

アンは入口付近にICレコーダーを仕掛け、回収後インターネット音声通訳にかける。ヒンドゥスタン語らしい。東洋だ。実際に聞いたのは初めてだった。

現在、ヒンドゥスタン語が使用されている勢力圏にはバーラトという独立共和国が鎮座している。一国家としては世界最大の人口を誇り、西洋と新大陸勢の覇権を脅かしている。

アンは気の向くままに歴史も調べた。

15世紀後半あたりからヨーロッパ西側の大陸国家が遠洋航海術を発展させる。大西洋を渡りきって新大陸を発見したり、アフリカ大陸南端を回りきることで危険な砂漠地帯を経由せず東方へ行けるようになった。

だいたいどこの土地にも既に人類が住みついており、ヨソ者を見たら警戒するという行動原理も似通っていた。だから双方ともに、持てる限りの戦闘力を駆使する。

現代でもヨーロッパ勢の人口なんて相対的に微々たるものだけれど、保有する暴力の総和は他を圧倒している。当時はその比率がもっと高く、ゆえに世界中のありとあらゆる大地と海が、ほぼヨーロッパ人の思うがままだった。

もちろんヨーロッパ人同士でも戦争は日常茶飯事なので覇者はコロコロ移り替わっていくのだが、18世紀中葉以降から20世紀前半まではずっと、現在のバーラト共和国領土に等しい一帯を、ブリテン勢が支配してきた。

複雑なヒンドゥスタン語を母語とし、これをわざわざピジン・イングリッシュ化してブリテン人に教えてやれるバーラト人は非常に重宝される。一説によると、そのため現地で威張り散らす支配階級はどんどん怠惰となり、ついには戦争で勝つどころか治安を維持するだけの能力すら保てなくなり、撤退を重ねてバーラトの独立を認めざるを得なくなるに至ったという。

 

アンは男たちに興味を抱き、接触してみたくなった。

そう決めてから更に数日、観察に徹する。

ギズの建物に出入りする人物を、かれらの誰かが常に見張っている印象。スタッフでもゲストでも、初顔だと、手分けして跡を尾ける。

ジュディやその他のホステスと比較してダイアナだけを特別扱いしていることは察するが、監視というよりは見守っている風に感じられる。ルームメイトが2人もボディガードしていることだって承知していて、その上でだ。

フム。

それでは、罠をしかけよう。

 

アンは、まるでダイアナを盗撮したかのようなセンシティヴ画像を何枚も作成・印刷し、小汚いパスケースに詰めこんで、道端に捨てておいた。

バーラト人の一人がそれを拾い、驚いて共同住宅へ持ち帰る。

その日から、ダイアナへの見張りが強化された。昼夜問わず誰かが尾行するようになり、ダイアナ本人をというより、ダイアナを盗撮する者を見つけだそうとする視線の配り方をする。

まちがいなくかれらはダイアナを守ることを使命と心得ており、しかしダイアナには気付かれたくないのだ。

誰の指し金だろう。

 

そのうち尾行する担当が固定してきた。

なかなかハンサムで、俳優をやれば画面映えしそうだ。

身のこなしは優雅。

格闘技やってそうだな。

しっかりプロファイリングした上で、アンはコンタクトした。

 

アン「おにいさん。あの娘のストーカー?

条件次第では、おれ、味方にも敵にもなれるよ。目的は何?」

 

スペシャリスト同士の以心伝心が働き、ふたりとも殺気を封印した。

手近な外壁に背をよりかからせ、目を合わせずに対話する。

余談だが、映画ではよくベンチに座ってスパイ同士が情報を交換する。あれ、しらけるんだよな。大抵のベンチは、背中が丸見えになるので、死角ができて狙われちゃう。アマチュアでも絶対あんな場所選ばない。少しは考えて撮れと思う。ぶつぶつ。

 

アン「おれ、あの娘の親友なんでね。なぜ追ってるんだか説明してほしい。

納得すれば邪魔はしない」

 

男「彼女に危害は加えない。ボスからのお達しなので絶対だ。

ただ、どう証明すればいいものかな」

 

アン「英語、ペラペラだね。

クセが無いからネイティヴじゃないでしょ。どこの国の人?」

 

男「君たちよりずっと古い歴史を持つ国から来た。それ以上は勘弁してくれ」

 

アン「いじめる気は無いよ。おれの通り名は、そばかす。あんたは?」

 

男「ラム・ダス」

 

アン「ラム・ダス。わかった。じゃ、あの娘をこれからも守ってやってくれ。バイ」

 

アンは数時間後、カメラを回収に来た。

バッチリ男の顔が撮れている。

帰宅後、画像検索。

俳優ではないようだ。

 

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