緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§151.そろそろクライマックス

アンは番組を見る直前、もう一度手帳を開いた。

スケッチと、文字による記録。

パレアナを撥ねた車を目撃した、その場で肉筆したものだ。

 

運転手は老人に見えた。

額は広く、豊齢線もくっきり。顎は細く、唇の両端に深い皺。眉は白く、眼孔は落ち窪んでおり、左目の方が少し大きい。驚いた表情を見せたときも、左目だけが大きく動いた。

 

報道やドラマの映像は印象強く刻まれるから、一度でも見てしまうと、脳がそっちの形を正だと上書きしてしまう。人の記憶なんてアテにしちゃいけないものなのだよ、本質的に。騙す側は笑いが止まらんだろう。

さて、ではドラマを見よう。

 

『ヒドゥン』第1話。

1周目はストーリーを完全無視して、怪人登場の場面ばかりを注視する。

冒頭、子供を出会い頭に蹴りつけている。

うーん、別人の気がする。

タイトル出たあと、主人公ぽい弁護士が独自に犯人捜しをする展開が長々と続くので早送り。

30分目ほどで、怪人が隠れ家へ戻ってきたところを捕まえる。

やっと怪人の顔がアップに。

違うなあ。こいつじゃなかった。

ここで、番組ウェブサイトのキーヴィジュアルを確認。

こっちは、ナマで見たあのときの運転手に、細かな特徴までクリソツなのに。しかも……バストショットだけとはいえ服と、手袋までピッタリ一致というのは、できすぎじゃあないか。

 

ドラマの映像に戻る。

衣裳と手袋、同じに見える。

冒頭もここでも、街灯の少ない裏通りで、わざと照明も暗くして撮っているから断定しづらい。

古風なフロックコート様なので、偶然というにはあまりにも。

……ムウ。ハラハラさせる対面シーンは終わり、また昼に戻る。

弁護士はどうやら、知己もしくは依頼主がこの怪人から脅迫を受けていると推理していて、事態を未然に収束させようと奮闘しているみたいである。

しかしドラマだからなあ。

事件、起こしちゃうんでしょ?

 

60分を越えた。初回は80分強。そろそろクライマックスか。

……おお。怪人を追い詰めてる。仲間たち総出で。

邸宅の一室に籠城する怪人。

主人公一味はハンマーやらバールやら持ち寄って扉を叩き壊す。

床に横たわっている怪人……と同じ服を着ていた、おっさん。絶命寸前だ。

つまり、怪人の正体は、このおっさんだったのか。

何か言い遺して逝く。

弁護士と仲間たちは家捜しを始める。目の前で死んだのは共通の知己であり、怪人はどこかに隠れているぞ、というところか。天井裏まで覗くが、埃だらけ。

あれ?2話目以降どうなるの、これ。

……うわあ。

弁護士が最後の最後で、カメラに向かって不敵な笑みを浮かべた。

つづく。

 

2周目はじっくりストーリーを追う。

舞台は1886年のロンドンだった。弁護士ゲイブリエル・ジョン・アタスンは、下町に出没する無慈悲な怪人ハイドの噂を聞きつけ、思案顔になる。

帰宅後、旧友ヘンリー・ジーキルから預かっている遺言状を確認。「自分が失踪したら即ハイド氏に全財産を譲渡する」と明記されてあった。

あんな男になんの弱味を握られてるんだ、とジーキル邸を訪ね問詰するが、ジーキルは答えてくれない。

ハイドは子供が走ってぶつかってきたり、道を尋ねて相手がすぐ答えなかったりといった些細なことですぐ癇癪を起こして暴力を奮う。

警察も被害届をもとにハイドの捜索をしているが、アタスンは連携を試みることもせず、弁護士という職責を根拠として事件に迫っていく。

 

無謀に思われるが、夜の路上で怪人と遭遇したアタスン、堂々と彼に話しかける。ハイドは意外に知能が高く教養も深い人物であるとここで示唆される。ハイドはアタスンを攻撃せず、対話を通して高潔な人物だと評価したようだ。

それからほどなくジーキルが精神錯乱に至ったと噂が広まり、心配した友人たちがアタスンに掻き集められて邸へと見舞いに訪れる。

鍵のかかった書斎から、男2人の激しい口論が聞こえた。ハイドがジーキルと争っているのだ。

友人たちが扉を壊して押し入ると、断末魔のジーキルが横たわっていた。彼はアタスンに遺言状の無効を申し立てて息絶える。

そして葬儀の日。

喪服のアタスンが突如、勝ち誇ったかのように唇を歪めて見せた。

……おいおいおいおい。

 

2度見たせいもあるが、印象が強烈過ぎだ。

ハイドとは何者なんだ。

ジーキルと同一人物だったことはおそらく確実だろうが、ジーキルは死んでもハイドは死んでいないということか。

 

ハイドとは精神寄生体で、アタスンに乗り移ったというのが解釈1。

ジーキルは人格を分裂させてハイドを生み出したが、同じ向精神薬で他人をハイド化することも可能。アタスンは新たな商売道具を得た。これが解釈2。

あるいはもっととんでもない存在である悪魔ハイドが、あの夜アタスンを見初め、もともと偽善者だったアタスンに夢を叶えさせてやるぜと血の契約を持ちかけた。なんて解釈3。

これは来週も見なくてはだ。

 

そして最大の謎は、8月のシャーロットで盗難車を乗り回していたリアル・ハイドとの結びつき。

ドラマの関係者だという疑いは強まった。

あそこで、いったい何をしてやがったんだ?

 

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